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福島医大で「放射線と健康リスク」国際会議――異説と市民を排除した「英知の結集」

2011年9月26日6:01PM

「放射線と健康リスク――世界の英知を結集して福島を考える」と題した国際専門家会議が九月一一、一二日の二日間にわたり、福島県立医科大学で開催された。会場には、世界一四カ国・二国際機関から放射線医学や放射線防護学の専門家が一堂に会し、研究者二九人が講演。医師や医学研究者など約四〇〇人が会場を埋めた。

 主催者の日本財団は、会議の目的が、福島第一原発事故による放射線の健康へのリスクを正しく評価し、福島県が実施している二〇〇万人対象の県民健康管理調査事業に役立てることにある、としている。また、同会議の組織委員会には、一〇〇ミリシーベルト以下の被曝は「安全である」と述べた福島県立医科大学副学長で、県民健康管理調査検討委員会座長の山下俊一氏が名を連ねている。

 パネリストとして講演した研究者の大半が、国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)、国際連合放射線影響調査科学委員会(UNSCEAR)の関係者で占められていた。

 一方、ICRP勧告よりも厳しい被曝限度を主張する欧州放射線リスク委員会(ECRR)や核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、フランス放射線専門家グループ(CRIIRAD)などの専門家は招かれていない。また、メディア関係者は入場が許可されたが、一般市民は不許可だった。

 講演では、放射線医学総合研究所理事の明石真言氏が、「市民は正しい情報がわからずに混乱している。研究者は科学的知見にもとづいて、同一の情報を発信すべき」と主張。米国国際疫学研究所のジョン・D・ボイス氏は、「チェルノブイリ原発事故と違い、福島の原発年数の放射線量では、小児甲状腺がんなどの健康被害のリスクはない」との推定を発表した。

 また、ストーニーブルック大学のエヴェリン・J・ブロメット氏は、原発事故による公衆衛生上の最大の問題は放射線障害ではなく心理的影響であり、「抑うつなどの疾病が心配される」などと話した。

 さらには「原子力発電は不可避な選択であるので、一般市民の認識を国際社会全体で変革してゆくことが不可欠である」(漢陽大学校ジャイ・キ・リー氏)という発言まで飛び出した(講演と質疑応答は、日本財団のホームページ http://www.nippon-foundation.or.jp/org/news/fukushima-sympo.htmlを参照)。

 会議前の九月九日には、市民放射能測定所(福島市)をはじめ一二九の市民団体が、国際会議の主催者である日本財団に公開質問状を提出。質問状は、「国際会議として、放射線被ばくによる健康への影響を検討するならば、異なる見解を持つ専門家、研究者同士が議論してこそ意味がある」と指摘した上で「市民の不安を取り除くはずの会議が、一般市民を排除して市民の声が届かない形で行われる」と批判した。

 異なる見解をもつ専門家を排除し、一般市民の入場も禁止する理由を問うたのだ。

 パネリストをICRP勧告の信奉者に限定し、意見対立をあらかじめ回避するのでは、科学的で公平な議論が保障されない。また、被曝者でもある市民に参加の機会さえ与えないのは、リスクコミュニケーションを行なう意思はないのでは、と疑われても仕方がない。

 原発事故から半年、福島県民は放射能被害との、終着点の見えない闘いの中を生きている。そして、政府や県の後手後手の放射能対応に憤り、放射線防御を優先せずに「安全」を説く専門家に不信と不満を募らせてきた。

 今、切に求められているのは、放射線リスクの正確な情報を専門家と市民が、意思疎通しながら共有してゆくことであろう。そうでなければ、将来県民健康管理調査の結果が出たとしても、内容を信頼することはできないだろう。

 会議場前では、子どもたちを放射能から守る福島ネットワークのメンバーらが、「福島医大を“第2のABCC(原爆傷害調査委員会)”にするな」「子どもたちを放射能から守れ」「山下副学長は辞任せよ」といったメッセージを掲げ、抗議行動を行なった。

(福島美子・ライター、9月16日号)

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