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稲田防衛相がすべきは制服組トップの処罰(佐藤甲一)

安倍晋三首相が任命した閣僚の適格性が問われている。いわゆる「共謀罪」をめぐる金田勝年法相のお粗末な国会対応の問題、さらに南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣に関わる稲田朋美防衛相の一連の対応である。

両大臣の答弁をめぐってたびたび国会審議が中断する事態に及び、野党4党は2人の辞任を求めているが、今の国会の勢力図からみるとそこまで追い込むのは容易ではない。だが、ここに安倍政権にとっての構造的な問題が深層にあることに気がつかねばならない。

問題の本質は安倍政権という「一強多弱」政治が生み出した官僚機構の増長と、それを本来制御すべき「政治的抑止力」の劣化なのである。ならば単に担当大臣の資質が欠け、安倍首相の任命責任を問うという、俗人的な責任論を展開する民進党などの野党の追及は歴史的な視座からの問題意識に欠ける。

本稿ではより重大な自衛隊のPKO「日報」問題に絞りたい。この件では三つの問題が明らかになっている。(1)南スーダンでの活動を記録した「日報」の存在を隠していた、(2)「日報」に書かれていた「戦闘」という表現を憲法上の問題にかかわるとの判断から大臣答弁では「武力衝突」と言い換えた、(3)自衛隊当局が稲田氏に、「日報」に「戦闘」と書かれていたことを1カ月にわたり報告しなかった、の3点。いずれも極めて重大な問題である。

(1)は自衛隊組織の「隠蔽体質」が明らかになっており、(2)では、南スーダンへの派遣は憲法違反の疑いがあることを自ら語っているのに等しく、直ちに派遣を取りやめるかどうかの判断を下さなければならないはずである。そしてなにより不可解なのは(3)だろう。

稲田大臣は(1)が明らかになった段階で、自衛隊トップに公開を指示していた。調査に手間がかかるとの理由で自衛隊幹部が公開せず、大臣に1カ月も報告もしていなかったことは明らかに「抗命」といえまいか。自衛隊内部の「抗命罪」であれば、内規によって相応の処分で済ませることであろうが、事は文民の大臣と制服の自衛隊組織トップの間での「抗命」である。旧帝国陸海軍の暴走という戦前の反省に立ち、戦後日本が武力組織である自衛隊を創設するにあたって定めた根本原則である「文民統制=シビリアンコントロール」に明らかに抵触する。

そのことに気づかないのなら、稲田大臣はまさに資質に欠ける。本来なら制服組トップを処罰したうえで、統制力欠如の責任をとって辞任すべきだろう。国会での野党の追及を逃れれば済むという次元ではない。その点では、世論がこの問題に注ぐ関心の薄さもまた、深刻である。

安倍政権の下では菅義偉官房長官らが霞ヶ関の高級人事を動かすことで、官僚機構を把握しているともいわれている。だが水面下では、力不足の大臣の眼を掠め、官僚組織の勝手な「自己保全」が行なわれていると思わざるを得ない。文部科学省の「天下り問題」しかりである。圧倒的多数を占めているとはいえ自民党に量に見合った質の伴った政治家が揃っているか、といえば疑わしい限りである。盤石に見える安倍政権も一握りの練達な政治家に支えられているにすぎず、一歩誤れば、「砂上の楼閣」になりかねない。

(さとう こういち・ジャーナリスト、2月24日号)

「えん罪救済センター」副代表が米国の事例を紹介 「被害者は黒人が大半、弁護士は白人女性が多い」

講演する笹倉香奈甲南大学教授。2月18日、神戸市内にて。(撮影/粟野仁雄)

多方面の専門家の協力による冤罪被害者救済をめざし昨年4月に立ち上げられた「えん罪救済センター」(代表・稲葉光行立命館大学教授)の副代表を務める笹倉香奈甲南大学教授が2月18日、神戸市内で講演、米国事情を紹介し日本での運動の広がりを訴えた。

米国で次々に発覚した冤罪を研究していた笹倉教授は「全米科学アカデミー(NAS)が、2本の毛髪が一致したとされた毛髪鑑定について12%がDNA鑑定で不一致と判明した」としたことを紹介、「毛髪、指紋、筆跡、銃器などの鑑定はもはや科学性に欠ける、と衝撃的な結論を出しました。鑑定人の主観が入り、鑑定人のレベルの低さなどでエラー率も高い、とされました」と話した。

冤罪被害者について「黒人が大半。一方、冤罪を晴らそうとする弁護士は白人女性が多い」とし、狭山事件と同様、社会的に差別されている人が犠牲になることが多いことを紹介した。

「死刑囚の誤判も相次いだ米国ではここ20年で死刑判決も執行も約10分の1に激減したが今後、トランプ政権でどうなるのかわからない」と不安を口にした。

帰国後、学習科学・認知科学が専門の稲葉教授や心理学者の浜田寿美男氏らと立ち上げたプロジェクトについて「まだ取り上げられる事件が少ないですが無償で支援しています。司法関係者だけでなく多方面の専門家と連携していることが強みです。残念ながら法医学の専門家があまり協力してくれないですが、台湾など海外とも連携しているので海外の専門家を呼ぶようなことも考えたい」と話した。

満席の会場では活発な質疑が行なわれ、笹倉教授は「日本の司法について海外の人が一番驚くのは取り調べが20日間にも及び弁護士も立ち会えないこと。録音、録画などによる可視化も万能ではない。取り調べで真実がわかるという発想を変えなくては」と強調した。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、2月24日号)