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名護市長選、岸本洋平氏の政策を探る 
辺野古新基地に反対し給食と保育の無料化継続

渡瀬夏彦|2022年1月14日10:19PM

「選挙イヤー」の幕開けを飾る重要な選挙のひとつ、名護市長選が1月16日告示、23日投開票される。有力候補者の岸本洋平氏の政策を探った。

2021年12月16日、玉城デニー知事就任3周年の県政報告会後に知事(右)とグータッチする岸本洋平氏。(撮影/渡瀬夏彦)

 名護市長選挙はどんな戦いになるのか。前回選挙で辺野古新基地問題を争点にしない戦術を取り、官邸・自民党本部・創価学会本部の総力をあげてのテコ入れで当選し、実質的には安倍~菅~岸田官邸の言いなりになり、「辺野古新基地反対」の民意に反する姿勢を示す現職の渡具知武豊市長(60歳)と、辺野古新基地建設を許さぬ民意を重んじ、新基地と引き換えの米軍再建交付金に頼らない、誇りある豊かなまちづくりを目指す新人・岸本洋平名護市議会議員(49歳、後援会長は前市長の稲嶺進氏)の一騎打ちの可能性が大である。

 渡具知氏は昨年12月11日の政策発表会見でこう言ってのけた。

「名護市の抱える課題は基地問題だけではないのです。政府と対立してばかりいては駄目だ」

 これは、2018年の知事選で、辺野古問題を徹底的に争点から外そうとした自公維推薦の佐喜眞淳候補が掲げた「対立から対話へ」というキャッチコピーとまったく同じ発想だ。しかし、民意を踏みにじり、問答無用で新基地建設を強行する安倍自公政権こそが、沖縄に対立と分断を持ち込んだのであり、その事実は多くの心ある県民が知っている。

 渡具知市長は、4年前の選挙では辺野古に対する態度をはぐらかしておいて、事実上辺野古新基地建設工事を容認し、たとえば美謝川の水路切り替えなど防衛省沖縄防衛局による傍若無人な工事の便宜を図り、政府のあやつり人形状態が続いてきた。そうした行ないと引き換えに米軍再編交付金を落としてもらい、それで給食費や保育料を無料にしたと自慢しているのが現市政である。

【反故にされた容認条件】

 その渡具知市長を厳しく問いただしてきた市議会野党議員団を代表する存在が、岸本洋平氏だ。岸本氏が出馬を決意したのは1年余り前。地元の議員やさまざまな団体からなる候補者選考委員会からの出馬要請を真剣に受け止めて決意した。

「地域の先輩や、あるいは同世代の友人に相談しましたが、意見はさまざまでした。洋平が市長として頑張れば、お父さんもあの世で喜んでくれるだろう、と言ってくださる年配の方々も多かったですし、同世代の仲間からは逆に、出るからには絶対に勝たなくちゃいけないぞ、簡単なことではないぞ、政治生命を懸ける覚悟はできているか、と親身の厳しい意見をもらいました。しかし、わたしには迷いがありませんでした」

 筆者はこのところ頻繁に岸本氏と会い、どんな立場の相手とも誠実に優しく柔らかい物腰で接する姿を知っているので、出馬決意の過程で先輩や仲間の率直な声を真摯に受け止める氏の姿も、容易に目に浮かんでくる。

 一方、譲れない信念を守り通す強さも持ち合わせた政治家だ。特に、父の思いを語る時にはそれが顕著に表れる。

「辺野古の問題に関して、父は『沿岸埋め立て案は論外だ』と言い続けていました。15年使用期限とか、環境保全対策、基地使用協定などの7つの条件付きで容認した基地計画でしたが、父の死の直後に、政府によってすべて反故にされました。現在の辺野古工事の実態を知ったら、亡き父は、容認を撤回したに違いありません」

 1997年暮れ、名護市民は住民投票を実施し、過半数を超える辺野古新基地反対の民意を示したが、その3日後に、当時の保守系市長・比嘉鉄也氏が上京し、民意を裏切る新基地受け入れと辞任をセットで表明した。その後継者として翌98年2月の選挙に出馬したのが岸本建男氏だった。

「父は若い時に世界放浪の旅を経験してます。基本的に国境や民族でわけ隔てをしない、人との間に壁をつくらない平和主義者でした。基地強化でなく平和外交を重んじたい気持ちがあったと思います」

 そのような岸本建男氏であれぱ、市長に当選してからの政府との交渉でたまるストレスは、尋常ではなかったはずだ。

「はい。それで体を壊して市長を辞任して間もなく、がん闘病治療中に逝ってしまいました」

 2006年3月のことであった。

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