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「知る権利」に目隠しするドローン法案

阿部岳|2019年5月16日5:18PM

米軍基地上空の飛行禁止盛り込む

基地内の撮影は、のぞき趣味でもスパイ活動でもない。軍事活動は隣り合わせの私たちの暮らしにとって脅威になり得るから、実態を知る必要がある。04年、実弾を使う米軍ゲリラ戦闘訓練施設が高速道路のすぐそばでひそかに建設されたことがあった。13年には住民の飲料水用ダムの隣に有害物質を積んだ米軍ヘリが墜落し、環境調査が7カ月間認められなかった。「知る権利」は命を守るためにも欠かせない。

改正案が成立すると、基地周辺約300メートルの範囲もドローン飛行が原則禁止になる。基地に囲まれた沖縄では、民間地なのに基地の隣というだけで産業利用もできなくなる。荷物配送や農作物管理など、日進月歩の技術革新から取り残されてしまう。

改正案はさらに、自衛官の権限を拡大する。現行法では、同意や通報がない違法ドローンは警察官や海上保安官が操縦者に移動を命じ、場合によっては破壊できる。この取り締まり権限を、自衛隊基地の周囲で自衛官に与える。

旧日本軍の憲兵は一般住民を監視し、弾圧した。その歴史を踏まえ、役割を受け継ぐ自衛隊の警務官は、隊内の事件を捜査するだけにとどまってきた。自衛隊の取り締まり対象に初めて一般市民が含まれることになる。

改正案は基地周辺の恒久的な規制と、ラグビーW杯や東京五輪会場周辺の時限的な規制がセットになっている。政府はテロ対策を前面に掲げるが、衆院内閣委員会の審議では現行法下で違反検挙の実績が1件もないことが分かった。

ドローンの脅威は迫っているのか。ドローン規制の方が脅威なのか。委員会審議は3時間足らず。議論が深まらないまま、改正案は可決された。今のところ、政府の作戦は的中しているようだ。

(あべ たかし・『沖縄タイムス』記者。2019年4月26日号)

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