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優生保護法、被害者救済法の制定を

西川伸一|2019年1月1日7:00AM

「この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする」

1948年7月13日に公布された優生保護法の第1条である(施行は9月11日)。いま読むと身の毛がよだつ。この法律を根拠に障がい者など約2万5000人に強制不妊手術が施された。同法は96年に母体保護法に改められ、「母性の生命健康の保護」のみが規定された。つまり、20世紀末まで日本では優生断種が行なわれていたのだ。驚くとともに無知を恥じる。

ついに今年1月に宮城県の女性が国に謝罪と補償を求める国賠訴訟を起こし、各地で提訴が相次いだ。与野党の議員たちは救済法案の作成に着手し、来年の通常国会にこれを議員立法として提出する予定である。

己の無知を少しでもそそごうと、優生保護法の「出生」を調べてみた。48年7月27日付『読売新聞』の「読者法律相談」欄には、5人目を妊娠した母親が健康面から中絶したいという相談が載っている。回答者は、現行法(国民優生法)では「単に子供が多過ぎるとか健康が勝れないというだけの理由」による中絶は許されないが、9月施行の優生保護法では認められる可能性があるので、医師に相談するようにと助言している。

それに先立つ48年2月2日の衆議院本会議では、山崎道子議員が「一日も早く優生保護法の制定によつて、諸種の不幸な実情にある者の産児調節も考えるべきである」と訴えた。同年6月15日の衆議院予算委員会では、加藤シヅエ議員が同法案を「産児制限という意味が多分に盛られた法律」と紹介している。

そして、6月19日の参議院厚生委員会において、同法案の発議者の谷口弥三郎議員が提案理由を説明している。この法案は議員立法であった。強制断種の規定について谷口は「悪質の強度な遺伝因子を国民素質の上に残さないようにするためには是非必要である」と述べた。

質疑は6月22日の同委員会で行なわれた。しかし、強制断種をめぐる質疑は全くなされず同日中に法案は全会一致で可決された。翌日の参議院本会議でも可決され、衆議院へ送られた。6月28日の衆議院厚生委員会での質疑者は田中松月議員のみだった。彼は子だくさんを理由に人工妊娠中絶は可能になるのかと質した。答弁者の谷口は、各地に設置する「優生結婚相談所」で「受胎調節」を指導することで、かかる事態をできるだけ避けたいなどと応じた。ここでも起立総員で可決され、同日の衆議院本会議で可決・成立した。

このように当時の議員たちの関心は産児制限にあった。優生条項は当然で、人権侵害とは意識されなかった。したがって、衆参ともにわずかな質疑時間ですんなり成立した。しかしひとたび施行されると、条文が独り歩きし、国により不妊手術が強行されていく。

57年4月には厚生省から都道府県に「優生手術実施啓蒙について」とする文書が発せられた。手術件数が国の予算に達していないとして都道府県に手術増を求めたものだ。「予算消化」の論理に言葉を失う。今月4日には「優生手術被害者・家族の会」が設立された。法の「出生」の事情に目をつぶった、国の長年に及ぶ無作為の責任を明確にする救済法を、ぜひ制定しなければならない。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。2018年12月7日号)

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