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死してなお政権揺さぶる翁長雄志氏

阿部岳|2018年9月12日2:46PM

疑心に向き合う

翁長氏の就任当初、安倍政権は面談の要請を突っぱね続けた。沖縄予算も削減し、かつて大田氏にしたように冷遇することで揺さぶろうとした。それが翁長氏を「悲劇のヒーロー」にしてしまうと気付いて接点を探ると、今度は報道陣環視の中でやり込められた。

「移設を粛々と進めるという発言は問答無用という姿勢が感じられる。キャラウェー高等弁務官を思い出させる」。菅義偉官房長官との初会談で、翁長氏はあえて米軍占領時代の独裁者の名前を出した。土地強奪の歴史があり、今の反対がある。全国の世論調査で、新基地建設への反対が増えたのはこの頃だ。

訴えの舞台は、国連人権理事会にまで広がった。正当に選挙された沖縄の代表として、自己決定権の侵害を訴えた。慌てた政府は「経済振興に取り組んでいる」などと人権保障とは無縁の反論をして、かえって傷を広げた。

政府は翁長氏をいつか懐柔できる、と高をくくっていた。元は自民党の政治家だから。同じ理由で、沖縄の革新勢力の一部もいつか寝返るのではないかと疑っていた。妻樹子氏に「万策尽きたら夫婦で(工事現場に)座り込む」と伝えた翁長氏の覚悟を、多くの人が見誤っていた。政治家人生の集大成である知事職にあって、公約を破る選択肢はなかった。

攻めあぐねた政府は、奇策を使って新基地建設を進め、足元を掘り崩すことを選んだ。防衛省が私人になりすまして同じ国の機関である国土交通省に救済を求める。これまでの法解釈を塗り替え、ある日不可能が可能になる。常軌を逸した茶番劇が重なった。

ゲームが始まった後にルールが変わっていく。ルールの決定権が手中にない以上、翁長氏はその範囲で闘うしかなかった。基地建設は少しずつ進んだ。そんな中、孤高の人であり、自信家だった翁長氏は相談というものをほとんどしなかった。周囲や支持者はその胸中を知るすべもないまま疑心暗鬼にとらわれ、分断されていった。

最後に残された抵抗手段は、前任者が国に与えた埋め立て承認の撤回。記者会見でその行使を表明したのが、翁長氏が公の場に見せた最後の姿となった。沖縄県知事職の重圧を知る元職の稲嶺恵一氏は「見えない壁に体当たりし、体がむしばまれた」と表現した。翁長氏と共闘した前名護市長の稲嶺進氏はもっと率直に「政府に殺された」と言った。

翁長氏の遺体が病院を出た直後、その上空を、生前あれだけ反対したオスプレイが通過した。翁長氏は、沖縄は、どこまで屈辱を強いられなければならないのか。

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