週刊金曜日公式ブログ 週刊金曜日ニュース

出生率目標値を含む安倍政権の人口政策は異例(佐々木実)

かつては人口減少ではなく、人口過剰が懸念されたという違いはあるものの、公権力が個人の選択権を侵す余地をはらむ人口問題は、古今東西で議論が戦わされてきた大テーマである。

ロバート・マルサスが匿名で『人口論』を発表したのは1798年だった。牧師でもあった経済学者マルサスは、「人口は等比級数的に増すが、食糧は等差級数的にしか増えない」という冷厳な人口法則を唱えた。貧民救済を否定して産児制限に論拠を与える経済学は「陰鬱な科学」と呼ばれた。

20世紀初頭にも人口論は経済学者たちの関心を集めた。この時期の特徴は、当時流行していた優生学との結びつきである。

優生学といえば、ハンセン病患者に断種を強いた優生保護法が想起されるが、意外なところでは、福祉国家を代表するスウェーデンが1934年に断種法を制定している。民族主義との関連が取り沙汰されることが多い優生学は、じつは、福祉国家とも縁が深い。

『ベヴァリッジの経済思想』(昭和堂)を著した小峯敦氏は、英国で福祉国家の土台づくりをしたふたりの著名な経済学者、ケインズとベヴァリッジがともに優生学に強い関心を持っていた事実を指摘している。

ジョン・メイナード・ケインズは『雇用、利子および貨幣の一般理論』(1936年)で福祉国家の理論的基礎を与えた。一方、ウィリアム・ベヴァリッジがまとめた『ベヴァリッジ報告』(1942年)は第二次世界大戦後、社会保障制度の雛形となった。協働作業で福祉経済制度を構想したふたりが、時代思潮ともいえる優生学の洗礼を受けていたのだった。

遺伝学という科学的装いをこらした優生学は、「優良な遺伝子を見つけ、交配して子作りを奨励する」(積極的優生学)、「不適応者の生殖を制限し、種の中の欠陥発生率を減らそうとする」(消極的優生学)という二つの軸があったという。強制断種に象徴されるように、優生学は極端なセレクティビズム(選別主義)に陥る傾向をもつ。

ケインズとベヴァリッジは「白人および中流階級の優位性を心に秘めていた」ものの、結果的にセレクティビズムには走らなかった。小峯氏は次のように解説している。

〈ケインズが有効需要論という経済学の内部から古い人口論を克服したのに対し、ベヴァリッジは家族手当に触発された社会保障論という経済学の外部から人口論を克服した〉

必ずしも優生学を否定したわけではないケインズとベヴァリッジは、ユニバーサリズム(普遍主義)にもとづく理論や政策の構築を通じて、人種差別や人権無視という優生学の陥穽から逃れ得た。裏返せば、福祉経済制度の基礎には本来、ユニバーサリズムがある。

人口問題は奥が深い。本誌先週号の記事「結婚・出産を“奨励”する危険な公的指標『企業子宝率』」(筆者は斉藤正美氏)で、出生率の目標値を含む安倍政権の人口政策が先進国では異例であり、日本でも戦中の出産奨励策以来だという専門家の警告が紹介されていた。ここでのべた文脈に照らせば、ユニバーサリズムからの離脱と捉えることができる。

(ささき みのる・ジャーナリスト。2017年12月15日号)

軍事基地も環境アセスの対象となる可能性浮上 沖縄の条例改正に“焦る”政府

宮古島の陸自配備予定地。看板は11月22日まで「仮設」も誤表記だった。(写真提供/宮古島市民)

米軍基地や自衛隊配備問題に揺れる沖縄県で、施設の建設や改修などに関する県環境影響評価(アセスメント)条例が改正される兆しだ。これまで基地は適用対象外だったが、改正後は対象になる可能性がある。しかし、政府がこれに“異議”を唱えるなど、不穏な空気がたちこめている。

現行条例は対象事業を21項目に分類。1~20項には道路や飛行場、農地などの事業が並び、21項には、このほかに「環境に影響を及ぼすおそれがある土地の形状の変更」で「規則」に定められているものが対象とある。だが、2017年11月24日に県の環境政策課と意見交換した宮古島の「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」によると、肝心の「規則」が定められておらず、21項自体が“無効”となっていることがわかった。

県は11月中旬、改正案についての意見公募(パブリックコメント募集)に際して、18年2月開会予定の県議会に条例の改正案を上程し、可決された場合は3月に告示、半年以内に施行する見通しであると示した。改正案は事業目的にかかわらず、施工区域20ヘクタール以上の土地造成にアセス手続きを求めるというものだ。

県はあくまでも、〈動植物や景観など環境に著しい影響が予想されるにもかかわらず、アセス手続きの対象とならない事業があること〉(『沖縄タイムス』17年11月17日付)を改正理由にしている。ただ、同紙は〈改正されれば米軍や自衛隊の基地建設でも3年以上のアセスが必要となり、政府が進める石垣島への陸上自衛隊駐屯地の整備に影響が出る可能性もある〉と指摘。宮古島で計画される弾薬庫などの施設や、辺野古新基地建設において未着手の陸上工事なども、この適用対象となる可能性がある。

この中、「産経ニュース」は11月29日付配信記事で、「政府、環境アセスで沖縄県に対抗措置」との見出しをつけ、政府は〈翁長雄志知事が条例改正で米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に加え、宮古島(宮古島市)での陸上自衛隊のミサイル弾薬庫の整備を妨害する意図があるとみて、恣意的な条例改正を阻止する構えだ〉と報じた。県は11月上旬、防衛省などに条例改正案を通知する文書を送付し、29日を期限に意見照会を求めたという。

だがその後、〈首相官邸を中心に対応策を協議し、防衛省を含め政府を挙げて詳細な質問状を県に提出することを決めた。28日に提出した質問に回答があるまで意見提出を留保し、条例改正案のとりまとめを遅らせる〉としている。特定の地方公共団体を“敵視”するかのような国の姿勢が露呈した形だが、国や『産経』はこの点に無自覚なのだろう。

国は「人権わからない」?

宮古島では、17年1月に陸自配備に前向きな下地敏彦氏が再選したことで、反対の声が抑圧され、駐屯地をおくための工事が元ゴルフ場の「千代田カントリークラブ」で始まっている。この半面、弾薬庫などは17年12月18日時点で候補地未定であり、有力視される地域から反対の声が上がっている。

最近では市内城辺の保良部落会(砂川春美会長)が12月10日、「陸上自衛隊の保良鉱山への弾薬庫配備に反対する決議案」を賛成多数で可決した(注)。このほか前出の元ゴルフ場周辺の2集落(千代田、野原)も、当初から「配備反対」を訴えている。だが国側は10月30日から工事を強行。ある住民は、「着工前に住民説明会を開くとしていたが、防衛省が開催したのは11月19日だった」と憤る。

野原集落の説明会では、「(ないがしろにされる)私たちの人権はどう考えるのか」という参加者の質問に対し、沖縄防衛局の久米由夫・企画部地方調整課地方協力確保室長が、「基本的人権とかそういうところはちょっと意味がわれわれには……」とはぐらかす場面もあった。防衛省は本誌の取材に、「人権侵害の意味がつかみかねます」と説明。配備計画を強引に進めてコミュニティや生態系を破壊し、住民に戦争のリスクを背負わせるという“人権侵害”について、考慮する気はないようだ。

(本誌取材班、2017年12月22日号)

(注)その後、防衛省は住民意思を無視する形で市内城辺の保良鉱山に弾薬庫などの施設をおく決定をした。18年1月12日までに複数メディアが明らかにした。