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北朝鮮問題を政治利用する安倍首相 石坂浩一・立教大学准教授に聞く

2017年10月17日12:35PM

トランプ米国大統領が9月の国連総会で述べた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を壊滅させることもいとわないという発言は、衝撃的なものだった。これまで、ツイッターでは放言があったが、今回は公式に語られた。それも、平和を守るはずの国連の場で。

これに対し北朝鮮の金正恩国務委員長は9月21日、声明を通じてその意思を明らかにした。声明は、トランプ大統領の演説は「宣戦布告」であるとして、それに見合う「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するだろう」と主張した。金正恩国務委員長が個人名で声明を出すのは初めてで、いわば米朝の最高指導者が公式的に激烈な言葉の戦争を展開しているのだから、緊張と対立はこれ以上ないところまで来ているのである。

トランプ大統領は8月初めに、もし戦争が起こるなら「向こうでやる」と述べたことがあった。ともあれ、私たち日本に暮らす者たちは「向こう」にいるのだから、トランプ大統領に対して、冷静になって戦争は絶対に避けるよう働きかけなければいけない。ところが、安倍晋三首相は国連総会で、北朝鮮問題について「必要なのは対話ではない。圧力だ」などと述べた。この間、安倍政権が緊張緩和のために行なったことはひとつもない。

安倍首相の発言は、トランプ大統領に追従する発言だ。むしろ大統領の放言で一貫性のある朝鮮半島政策を示せない米国を利用して、北朝鮮の脅威を煽り立てているように見える。北朝鮮の脅威に対抗せよといいながら、みずからの政権のスキャンダルから国民の目をそらし、改憲や軍事力強化といった政治的狙いを実現しようとする術策なのではないだろうか。安倍氏は拉致問題を利用して首相になった人だと指摘されたことがあったが、いまは北朝鮮を利用してさらなる政治的野望をかなえようとしているのではないか。

【対話の糸口をつかみ平和定着への努力を】

この間、北朝鮮のミサイル発射を奇貨として安倍政権は、実効の疑わしいJアラートを作動させ、小学校の子どもたちにまで避難訓練を実施させている。国民に危機感を植え付け、「北朝鮮は危険だ」「敵だ」という観念を植え付けようと躍起になっている。

だが、いま必要なのはこうしたことではない。韓国の文在寅大統領は、8月15日の独立記念日における演説で、韓国政府は戦争だけは避けると強調した。日本政府も対話の糸口をつかみ、まずは現在の緊張を緩和させ、東北アジアの平和定着を導き出すためにこそ努力し、協力すべきではないか。韓国や米国と違い、日本は少なくとも朝鮮戦争の法的当事者ではないし、日朝平壌宣言という合意も破棄されてはいないのである。

朝鮮戦争の停戦協定が1953年に結ばれてから64年がたつ。いまだに平和協定には至っていない。日本ではマスコミを中心に、北朝鮮が戦争をしようとしているかのような構図を描き出している。しかし、これこそ印象操作というものであろう。

北朝鮮は戦争を継続する国力を備えていない。そのことは、最高指導者が一番よくわかっているはずだ。核とミサイルの開発をもって米国の武力攻撃を避けるとともに、米国を外交交渉の場に引き出そうとしているだけである。ただ、武力攻撃を受ければ、必死に反撃するので、東北アジアはトランプ大統領の言うように壊滅する。

北朝鮮はトランプ大統領の発言とは反対に、これまで米国の歴代政権と一定の合意をしては、次の政権にひっくり返されるという苦い裏切りを味わってきた。北朝鮮はほかならぬ米国との国交、不可逆的で安定した関係を望んでいる。しかし、交渉を求める北朝鮮をこれまで外交的に疎外してきたのも、米国にほかならなかった。

2018年は、韓国・北朝鮮が建国70周年を迎える。北朝鮮は米国との平和協定を実現しようとするだろうが、道のりは険しい。安倍政権は日朝の対話を再開し、韓国と協力して局面自体を転換させる努力をすべきなのである。(談)

(聞き手・成澤宗男〈編集部〉、10月6日号)

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