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性的暴行の反省見えない『日本会議の研究』菅野完氏と弁護士による<セカンドレイプ>

2017年10月10日2:37PM

『日本会議の研究』著者の菅野完氏が起こした性的暴行事件について、東京地裁(天川博義裁判官)は8月8日、氏に慰謝料100万円を含む損害賠償110万円の支払いを命じた。被害を受けた女性は2015年末、220万円の損害賠償を求めて民事訴訟を提起していた。菅野氏は判決を不服として控訴。また菅野氏側の弁護士が不適切なブログを流布したことにより、被害者が誹謗中傷され、<セカンドレイプ>にさらされるという新たな問題が起きている。

判決について被害者側の青龍美和子弁護士は、「原告(被害者)が主張立証した事実をほぼ全面的に認め、苦しみが続いていることも考慮した画期的な判決」だと評価。お茶の水女子大学の戒能民江名誉教授(ジェンダー法学)は、「加害者である菅野氏自身が『比較的軽微』であると軽んじてきた性的暴行に対して、損害賠償命令が出たことは画期的であると言える。性的暴行を受けたせいで、被害者がカウンセリングに通うようになったことを判決が認めている点も評価できる」とした。ただ一方で戒能名誉教授は、「性的暴行後、反省していると思えない菅野氏の態度によって被害者のPTSD(心的外傷後ストレス障がい)が悪化したことについては『一要素として考慮』されたのみで、因果関係を認めていないことは問題。被害の連続性が無視されている」とも指摘した。

「損害額は、5万円」被害軽視の主張退けられる

判決文によると、裁判所が認定した性的暴行の事実はこうだ。被害者は12年初夏、菅野氏が主催していた新聞に意見広告を出す運動に賛同し、東京都内で初めて氏に会った。菅野氏がパソコン作業をする必要に迫られていたことから、初対面であるが被害者は氏を信じて自宅に招く形となった。だが菅野氏は性行為を求め、了承を得ずに被害者をベッドの上に仰向けに押し倒した。そのままキスをしようとするなどし、被害者が拒絶していることを認識した後もしばらくの間、押し倒したままの体勢を続けた。体を離した後も、菅野氏は性行為を求め続けた。被害者はこれを契機に治療、カウンセリングを受け始めた(現在も通院)。

菅野氏は、「原告が性行為に応じる意図がないと分かった時点で、直ちに性行為を断念し、原告から離れた」と、自らの行為は性的暴行ではないと主張していたが、「直ちに断念する」どころか、「しばらくの間」性的欲望を被害者に押し付けたことを裁判所が認めた形だ。菅野氏はまた、7月4日の結審において、事件を報じた小誌の記事が流布されたことで相当の社会的制裁を受けたなどとして、「本件で認定されるべき損害額は、5万円を超えることはない」と、被害を軽視する見解を示していたが、裁判所はこの主張を退けた。

しかし判決日の夜、菅野氏側の三浦義隆弁護士は「本人(菅野氏)から依頼を受けた」として裁判に関するブログ記事を公開し、さらにツイッターで記事を拡散した。被害者側の青龍弁護士は8月10日付で声明を出し、「事実でないことや被告の一方的な解釈によることがあたかも事実であるかのように多数記載されており、被告にとって都合の悪い事実には触れられておらず、非公開で行われている裁判所での和解協議の経緯が、不必要に詳細にしかも不正確に記述されている」と抗議した。青龍弁護士によると、三浦弁護士にブログを削除するよう直接抗議もしたが、回答はないという。三浦弁護士は小誌の取材に、「今まで(ブログ記事を)取り下げるつもりがないから、記事がまだ残っているわけです」とした。

菅野氏は「謝罪文」を紛失で、現在捜索中

実際にはどのような点が事実と異なるのか。三浦弁護士のブログによると、菅野氏から相談を受けて弁護を引き受けたのは15年7月のことで、菅野氏は相談時に被害者側の弁護士から送られてきた慰謝料200万円を請求する内容証明を持参してきており、それ以前に書いた被害者への「謝罪文」の写しも預けてきたとしている。

これについて双方の弁護士同士が当時やりとりした書面を辿ると、三浦弁護士は同年7月27日付の書面において、「(菅野氏が)承諾なく、抱き付くという性的意味のある行為に及んでしまったことは事実」としながらも、「押し倒してもいませんし、押さえ込んでもいません」として、「法的に相当な被害弁償の金額」は20万円程度だが「早期円満解決の観点から、解決金として30万円を一括でお支払いする」と被害者に示談を持ちかけている。だが、14年5月に被害者が友人らを介して菅野氏から受け取った「謝罪文」には、「押し倒すなどの性的な行為を働き」と加害行為について書かれており、三浦弁護士の説明とは矛盾する(※12年初夏の性的暴行事件直後に菅野氏が書いた「謝罪文」とは、別物である。この当時の「謝罪文」は、「首都圏反原発連合」(反原連)の当時コアメンバーであった野間易通氏が菅野氏に仲介を依頼されて預かったが、13年2月に野間氏主宰の「しばき隊」に菅野氏が入ったことで被害者と野間氏の関係が壊れ、渡されないままとなっている)。これを8月7日付の書面で被害者側の弁護士が指摘すると、三浦弁護士は8月18日付の書面で「『謝罪文』の控えは、通知人(菅野氏)において保管しているはずですが、現在捜索中です」とし、被害者に開示を求めた。

翌8月19日に被害者側が「謝罪文」を開示すると、三浦弁護士は解決金をつり上げていく。8月20日付の書面で三浦弁護士は、菅野氏が一定の勢いをもって抱き付いたことなどから、被害者に「のしかかるような体勢」になったと説明を変え、「抱きついた後、のしかかった行為」を「謝罪文」では「押し倒す」と表現したのだと強調。「性的行為については、確かに行っております」として、70万円の解決金を提示した。さらに9月3日には双方の弁護士同士が電話をし、三浦弁護士から解決金150万円との提案がなされた後、被害者側は、菅野氏が真摯に反省するのであれば、今回の事件は菅野氏がツイッターというツールを使って新聞への意見広告を呼びかける中で得た被害者からの信用を踏みつけたことであるので、(1)ツイッターをできればやめてほしい(2)やめることが難しい場合は、ツイッターで謝罪をし、そのツイートを固定する意味で最低3カ月間ツイッターをストップしてほしい――と頼んだ。三浦弁護士はこれを了承し、(1)は難しいと思うが(2)をさせる方向で検討し、ツイッターでの謝罪の内容については被害者とも相談するとした。だが、その後一転、ツイッターでの謝罪はできないがその代わりに200万円を支払うとの提案をしてきた。金額のみにこだわる菅野氏から真摯な反省や謝罪の意が感じられなかったことから、被害者は結局、15年12月、民事訴訟に踏み切った。

「言論弾圧」なのか

しかしながら三浦弁護士は、ブログで「菅野氏のtwitterアカウントを削除し、今後ともtwitterで発言しないこと」「女性の権利問題に関する言論活動を今後しないこと」を被害者が要求してきたとして、「菅野氏の言論活動への制約」であると明言した。さらに満額の200万円を提示したにもかかわらず被害者が訴訟に踏み切ったのは、「菅野氏に社会的制裁を加えること」自体が目的であるからではないかと推測を述べた。これによって、被害者はネット上で、言論弾圧をしようとしたなどと誹謗中傷を受けることとなった。

民事訴訟の判決前に和解が決裂していたことについても三浦弁護士は、「菅野氏の言論活動を制約するという要求を取り下げることがなかったので、和解は終局的に決裂してしまった」と被害者を断じている。しかし被害者が提示した和解案を見ると、被害者が主に求めたのは真摯な謝罪と、ツイッターで「フェミニズム」「フェミニスト」「慰安婦」「ミソジニー(女性蔑視)」という四つの言葉を使用しないことである。この理由について被害者は、「菅野氏は女性の人権を踏みにじるような行為をしながら、ツイッターでは『フェミニズム批判は彼ら(日本会議)にとって本命中の本命』『慰安婦の何が嘘なんですか?』『日本会議の連中は、ミソジニーで動いとる』などと女性の人権について繰り返し語っている。そうしたものを見聞きするのが耐えられない」と説明する。「これに対して前出の戒能名誉教授は、「嫌ならば被害者はネットを見なければいいという考えが菅野氏の根本にはあるのでしょうが、現代においてネットの世界と縁を切るのは非常に難しい。被害者が菅野氏に対して限定的な言葉の使用を避けてほしいと言ったことは理解できます。真摯な謝罪や反省が見えない加害者が展開する言論が、いかに被害者を傷つけるものになるのか」と訴えた。

三浦弁護士はこのほか、民事訴訟についての記事が小誌16年7月15日号に掲載された際に、事前に本誌取材班から取材を受けた菅野氏が反省文を書き、発売日前にこれをネット上に公開しようとしたところ、14日に被害者側弁護士が「反省文の掲載自体を中止するよう要求してきた」ともブログに記している。これに対して被害者は、「とても反省しているとは思えない、むしろ被害感情を逆なでする内容だったので『これを許可することはできない』と拒否の意は伝えましたが、掲載中止を強制などできません。被告側からはそれに対し何の回答もなく掲載されるものだと考えていた」と説明している。

被害者側の青龍弁護士は、「三浦弁護士のブログによって、被害者が言論弾圧のために裁判を起こしたというような誤解が広がってしまい、被害者に対する誹謗中傷など二次加害(セカンドレイプ)も起きている。非公開の和解内容に触れているのも、弁護士として常識的に考えられず弁護士倫理としてどうなのか」と疑問を呈した。被害者側は8月24日付で千葉県弁護士会に、三浦弁護士のブログが弁護士法第56条第1項および弁護士職務基本規程第6条の弁護士としての品位を失うべき非行に該当するとして、三浦弁護士の懲戒請求をした。また、ネット上で二次加害を行なっている者に対しても法的措置を検討しているという。

菅野氏側はさらに判決を不服として8月12日付で控訴。控訴審は11月初旬に始まる。菅野氏は小誌の取材に「ご取材であれば三浦弁護士にご連絡ください」としているが、当の三浦弁護士はブログで、「菅野氏について私に問い合わせなどをされることは、仕事に支障が出るので差し控えるようお願いしたい」としており、これでは回答を押し付け合う形だ。

「何度も死にたくなりました」――人の人生を壊すのが性暴力

戒能名誉教授は弁護士倫理の問題について、改正刑法の不備を指摘する。被害者の告訴が必要となる「親告罪」規定を削除するなどした改正刑法は7月13日に施行されたばかりで、その附帯決議には「司法警察職員、検察官及び裁判官に対して、性犯罪に直面した被害者の心理等についてこれらの知見を踏まえた研修を行うこと」と記されているが、研修の対象に弁護士は入っていない。戒能名誉教授は、「政府および最高裁が名宛て人なので、民間である弁護士は附帯決議に含まれなかったが、弁護士にも同様の研修が求められる」と指摘した上で、「弁護士は依頼者の利益のために動くという前提があったとしても、何でもやっていいわけではない。社会正義に反しないような弁護をしなければいけない」とした。

さらに、「日本社会には、逃げておらず大声を上げなかったから強かんされた、自宅にあげるなどの誘因的な行動を被害者が取ったとこに原因があるといった思い込みなどによる『レイプ神話』がはびこっていて、被害届を出しても受理すらされなかったり、そうした偏見から起訴に結びつかない例も多い。裁判が始まっても、被害者の話は軽視されたり、信用されないケースも多々ある。刑法が改正されたからと言っても、警察や裁判官が変わっていかなければ意味がない」ともした。実は被害者は、16年6月末に警察に被害届を出して受理されている。しかし、1年以上経過した現在でもいまだに警察は「捜査中」だ。法務省の『犯罪白書』によると、15年の強かん事件の起訴率は35.3%にとどまっている。

最後に、菅野氏から性的暴行を受けた被害者が裁判の結審で意見陳述した内容を一部抜粋する。「私は性的暴行を受け、5年の長きにわたる間カウンセリングに通い、今もまだ通院中です。私は今も、知らない男性と二人きりになったり、被告(菅野氏)に似た人を見かけると、体が硬直し、冷や汗をかき、呼吸が苦しくなります。私にとって、この被害は過去のことではなく、現在進行形です」「『性暴力事件を起こした人間がメディアに堂々と出る』などということは、あってはならないと思います。ましてや係争中の人間が。この点においても、私は(ジャーナリストの山口敬之氏からのレイプ被害を訴えた)詩織さんがどれほどつらかったかわかります。私がつらいのは、ただ被告がメディアに出ているからではありません。そのメディアの行動が『次の被害者を作る』ことに繋がるからです」「私は何度も、死にたくなりました。怒っても絶望しても悲しくても、私には反論できる場がありません。ただ安定剤を飲んで耐えるしかない。自分のことを『間違っていない』と言い聞かせるしかない」「私はよく思います。『もし、最初から被告がすべてを認めて誠意ある謝罪をしていたら?』ただそれだけで、私の人生はどれほど楽になったことか。彼が得意げに語る『慰安婦』問題と根源は同じです」「私は、あの日、被告が家を出たあと、気持ち悪くてすぐ(被告が使った)コップを捨てました。襲われた日に着ていたお気に入りの服を捨てました。『殺されるかもしれない』と怯え、空腹を訴える被告に出したレトルトのカレーを今は食べられません。被告に呼び出され初めて会った新宿の喫茶店のそばを通ると今も具合が悪くなります。トラウマは数え上げたらキリがありません。何一つ、私にとって過去ではなく、生活の中の一つ一つが苦しみの連続です」「二次被害の中で、『押し倒されたくらいで』と被害を矮小化したり、『強かんされたわけではないから大したことはない』と『勝手な被害の大小』で語られることがよくあります。その人たちに伝えたい。性暴力被害というのは、一人一人違う個別の案件であり、その一人ずつに計り知れない痛みがあって、『レイプ神話』を信じ込んで語ったとき、被害者がどう感じるのか考えてほしい。そしてそれがまた、被害者の口を封じることに繋がり、加害者を利することになるのだ、ということを知ってほしい。そして、今話したことすべてが『性暴力被害』であり、その日、その時起こったことだけが加害ではない、ということを知ってほしい」「人の人生を壊すのが性暴力です」――。

(『週刊金曜日』取材班、8月18日号の記事を加筆修正)

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