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『東京新聞』望月記者に強まる官邸の圧力(横田一)

2017年9月15日9:51AM

〈官邸報道室、東京新聞を注意 「不適切質問で国民に誤解」〉と銘打った9月2日付『産経新聞』記事に、素朴な疑問が湧いてきた。「官邸と産経新聞が“共謀”をした言論弾圧に等しいのではないか」と。

官邸が問題視した社会部記者は、加計問題での厳しい再質問で注目された『東京新聞』望月衣塑子記者。8月25日(金)午前中の菅義偉官房長官会見で望月記者は、すでに報道関係者や国会議員の間で広まっていた「加計学園獣医学部設置の認可保留」に触れながら質問したが、官邸は文科省の正式発表(解禁)前であったことを問題視(注1)。

7日後の9月1日、『東京新聞』に「質問に不適切な点があった」「国民に誤解を生じさせる」として注意喚起と再発防止を求める文書を送り、翌2日に『産経』が次のように報じたのだ。

〈獣医学部の新設計画は大学設置・学校法人審議会が審査し、答申を受けた文部科学省が認可の判断を決めるが、この時点ではまだ公表されていなかった。/官邸報道室は東京新聞に宛てた書面で「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に誤解を生じさせるような事態は断じて許容できない」として、再発防止を強く求めた〉

ありもしない「被害」をでっちあげ

これに対して望月記者は、こう反論する。「文科省の正式発表(解禁)の前に質問しましたが、加計学園獣医学部設置の『認可保留』という事実関係自体が誤っていたわけではありません。うちの担当記者が取材で大学設置審議会の保留決定の方針を詰めて、記事も出ていたため、菅官房長官会見で触れたのです。ただし文科省の正式発表であるかのような印象を与えたとすれば、私の落ち度といえるでしょうが」。

加計問題を多少追っている大半の報道関係者や国会議員は、望月記者の反論に軍配を上げると同時に、官邸の抗議文に違和感を覚えるだろう。「認可保留」という公知の事実を、文科省が設定した正式発表よりも少し前に触れたところで、国民に誤解を生じさせるとは考えられないからだ。

ちなみに文科省の正式発表(報道機関への解禁)は8月25日午後で、望月記者の質問は同日の午前中。閣議終了後に菅官房長官会見が行なわれ、この日の閣議は「10時2分から11分」(首相動静)であったから、2時間足らずのフライングにすぎないのだ。

しかも保留を決定した設置審議会が開かれたのは8月9日で、テレビや新聞は保留の方針決定を報じていた。官邸の抗議文を報じた『産経新聞』でさえ、翌10日に「加計獣医学部の判断保留 設置審、文科相答申 延期へ」という記事を出していた(注2)。

官邸の抗議文を「事実関係に反する意図的な表現」と一刀両断にしたのが、民進党の小西ひろゆき参議院議員だ。ツイッタ―で官邸が送った書面を公開、こう書き込んだのだ。

〈「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に対して誤解を生じさせる」との下りは、「記者は、政府が事前提供した解禁期限付の確定情報に触れただけ」という事実関係に反する意図的な表現。まさに、不当な言論弾圧そのもの。東京新聞は断固抗議すべきだ〉 https://twitter.com/konishihiroyuki/status/904613951647891456/photo/1

こんな光景が目の前に浮かんでこないだろうか。「強面のオッサンがありもしない被害をでっちあげて騒ぎ立て、気に食わない人物を黙り込ませようとしている」と。

官邸の対応を解くカギ

官邸が常軌を逸した対応をしたのはなぜか。この“謎”を解くカギは、望月記者が質問した8月25日から抗議文が出る9月1日までの7日間のタイムラグ。この間の菅官房長官会見で、望月記者は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のミサイル発射前夜に安倍首相が公邸に宿泊したことなどについて問い質し、この質問を『産経』が批判的に紹介した記事が広まった結果、安倍首相は公邸に留まらざるを得なくなったのだ。「その逆恨みで官邸は1週間前の些細な出来事を引っ張り出して、望月記者に嫌がらせをしたのではないか」という見立て(推論)が有力のようにみえるのだ。

私邸通い中止の一因の可能性のある『産経』1日付の記事〈「北朝鮮に応じる調整しているか」…!? 東京新聞、官房長官に迷質問〉は、以下の通りだ。

〈菅義偉官房長官の31日の記者会見で、米韓合同演習を批判し、弾道ミサイルを相次いで発射する北朝鮮を擁護するような質問が飛びだした。

質問したのは、学校法人「加計学園」獣医学部新設計画をめぐって菅氏を質問攻めにした東京新聞の社会部記者。「米韓合同演習が金正恩朝鮮労働党委員長の弾道ミサイル発射を促しているともいえる。米韓との対話の中で、金委員長側の要求に応えるよう冷静に対応するように働きかけることをやっているか」と質問した。

菅氏は「北朝鮮の委員長に聞かれたらどうか」と返答。東京記者は「北朝鮮側の要望に応えて、冷静かつ慎重な対応をするよう米韓に求めていく理解でいいか」と改めて迫った。

東京記者はまた、北朝鮮が過去2回ミサイルを発射した前日にいずれも安倍晋三首相が公邸に宿泊したことを取り上げ、「前夜にある程度の状況を把握していたのなら、なぜ事前に国民に知らせないか」「Jアラートの発信から逃げる時間に余裕がない。首相動静を見て、(首相が)公邸に泊まると思ったら、次の日はミサイルが飛ぶのか」とも追及した〉

逆恨みの可能性も

一方、「迷質問」と『産経』が批判したこの日の質問について望月記者は、こんな補足解説をした。

「金委員長が米韓合同演習の中止を求めたのは『斬首作戦』が含まれていたからです。米国の攻撃で国家が崩壊したイラクやリビアの二の舞にならないように、自国防衛のために核武装をしようとしている。相手の立場に立って考えることが重要。北朝鮮に核ミサイルを連射されたら日本全土を守り切ることは難しい。悪の枢軸として圧力をかけるだけではなく、北朝鮮との対話を模索して欲しいとの考えから質問をしたのです」

官邸が恫喝的対応(言論弾圧)に走った心情が垣間見えてくる。北朝鮮を「悪の枢軸」として米国と一緒に圧力をかける一方、ミサイル防衛強化などに巨額の血税を投じようとする安倍政権に対し、望月記者は斬首作戦中止などで緊張を和らげて北朝鮮との対話を重視する“ハト派的対応”を提示したといえる。

この考えは、報道ステーションで「I am not ABE」のフリップを掲げた元経産官僚の古賀茂明氏と同じ立場だ。ちなみに両者は共著本出版や対談をする間柄だが、結局、官邸は古賀氏出演の報ステに抗議したのと同様、安倍政権に異論を唱えた形の望月記者の質問(言論)も針小棒大な抗議文で封じ込めようとしたようにみえる。

外交安保政策についての異論封殺に加えて、逆恨みのような感情が働いた可能性もある。これまで安倍首相は「公邸に常時泊まるべきだ」との批判が出ても、私邸からの通いを続けてきた。「体調管理や精神衛生の面で好ましいためか」といった推測が囁かれていたが、その理由はさておき、これまでの生活パターンが望月記者の質問後に変わったことは紛れもない事実。安倍首相と菅官房長官が激怒する姿が目に浮かんでくるのは私だけであろうか。

官邸の常軌を逸した恫喝的文書の謎解きには、この“逆恨み説”が有力なヒントになるのではないか。

北朝鮮情勢が緊迫する今、異なった立場から質疑応答をすることは極めて重要だ。官邸の抗議文に屈せずに望月記者が、菅官房長官会見でどんな質問を続けていくのか否かが注目される。

(横田一・ジャーナリスト。ネット独自記事)

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注1 官邸報道室の書面にも添付された質疑応答は以下の通り。

●望月記者 最近になって公開されています加計学園の設計図、今治市に出す獣医学部の設計図、52枚ほど公開されました。それを見ましても、バイオセキュリティの危機管理ができるような設計体制になっているかは極めて疑問だという声も出ております。また、単価自体も通常の倍くらいあるんじゃないかという指摘も専門家の方から出ています。こういう点、踏まえましても、今回、学校の認可の保留という決定が出ました。ほんとうに特区のワーキンググループ、そして政府の内閣府がしっかりとした学園の実態を調査していたのかどうか、これについて政府としてのご見解を教えて下さい。
●菅官房長官 まあ、いずれにしろ、学部の設置認可については、昨年11月および本年4月の文部科学大臣から大学設置・学校法人審議会に諮問により間もなく答申が得られる見込みであると聞いており、いまの段階で答えるべきじゃないというふうに思いますし、この審議会というのは専門的な観点から公平公正に審査している、こういうふうに思っています。
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注2 8月10日付『産経新聞」
〈加計獣医学部の判断保留 設置審、文科相答申 延期へ
政府の国家戦略特区制度を活用した学校法人加計(かけ)学園(岡山市)の獣医学部新設計画をめぐり、同学園が来年4月に愛媛県今治市で開学を目指す獣医学部設置の認可申請を審査する文部科学省の大学設置・学校法人審議会(設置審)の非公開会合が9日開かれ、獣医師養成に向けた教育環境に課題があるとして、認可の判断を保留する方針を決めた。設置審は今月下旬に林芳正文科相に答申する予定だったが、延期される見通しとなった〉
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