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ブラックホール化する日本銀行(高橋伸彰)

日本銀行は7月20日の金融政策決定会合で、2%の物価目標達成時期を2019年度頃と、昨年10月に同会合で展望した2018年度頃から1年先送りした。見直しは今回で6度目。当初の2015年4月と比較すると4年以上も先送りされたことになる。それにもかかわらず、日銀の黒田東彦総裁は同日の記者会見で「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し(中略)安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します」と述べ、従来のスタンスに変更はないと言明した。

黒田総裁は、貨幣量さえ増やせば物価は必ず上がるという極端なリフレ派ではない。就任時の挨拶でも、デフレの原因は多様であり「あらゆる要素が物価上昇率に影響している」と述べてリフレ派とは一線を画していた。ただ、物価安定の責任論に話題が及ぶと一転して「どこの国でも中央銀行にある」と主張し「できることは何でもやるというスタンスで、2%の物価安定の目標に向かって最大限の努力をすること」が日銀の使命だと言い切った。

これに対しケインジアンの吉川洋氏(「物価と期待Ⅱ」日興リサーチセンター)は、4年以上マネーを増やし続けても2%の物価上昇を達成できない「実績」を見れば、リフレ派の理論は「否定」されたという。実際、この4年余りの間に日銀が供給する貨幣量(発行銀行券と当座預金の合計)は141兆円から460兆円に319兆円も増加したが、生鮮食品を除いた消費者物価指数(以下、物価指数という)の上昇率は昨年3月から12月まで10カ月連続で下落したうえ、今年に入ってからも0%台前半の上昇率で推移している。

日銀の展望通りに物価が上昇しないのは人々のデフレ期待が根強いからではない。吉川氏が指摘するようにリフレ派の物価理論が間違っているからだ。日銀が目標に掲げる物価指数とは、現実に存在し観察できる物価ではない。個々の財やサービスの価格を加重平均して計算される統計データである。

それでは物価指数の基になる個々の財やサービスの価格はどのように決まるのか。吉川氏によれば大多数の価格は生産費用をベースに生産者が決め、その価格を消費者が「公正」と認めれば、現実に価格は変動し物価指数も変わる。つまり、鍵を握っているのは賃金をはじめとする生産費用であり貨幣量ではないというのだ。

事実、日銀が貨幣量を増やしたからといって価格を上げる生産者はいないし、そう言われて値上げを受け入れる消費者もいない。生産者が価格に転嫁せざるを得ないほどに、また消費者が値上げを認めても良いと思うほどに、賃金や原材料価格が上がらなければ個々の物価も、その加重平均である物価指数も上昇しないのである。

改めて日銀法を繙けば物価の安定は手段であり、目的は国民経済の健全な発展にある。手段より目的を優先するなら、黒田総裁は「疑ったら飛べなくなる」とピーターパンを引き合いに出し自らの方針を正当化するのではなく、「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」の故事に倣い、日銀のスタンスを転換すべきだ。そうでなければ日銀は国債を際限なく飲み込むブラックホールと化してしまう。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。8月4日号)

「新専門医制度」に全国1560人の反対署名 地域医療の弱体化懸念

新専門医制度を批判する安藤哲朗代表(中央)ら=7月21日、厚生労働省。(撮影/片岡伸行)

一般社団法人日本専門医機構(吉村博邦理事長)が2018年度からの導入をめざす「新専門医制度」に対し「反対」の声が上がっている。「専門医制度の『質』を守る会」(代表・安藤哲朗安城更生病院副院長)は7月21日、東京・霞が関の厚生労働省を訪れ、全国1560人の反対署名を塩崎恭久厚生労働大臣と「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」遠藤久夫座長宛に提出した。

同制度については昨年、地域からの強い懸念の声を受けて塩崎厚労大臣が「立ち止まって考えるべき」と発言。今年4月からの導入予定が延期された経緯がある。

提出後の会見で安藤代表は「1年経っても根本的な問題は変わらず、専門医研修の質の担保はない。地域医療の弱体化につながる恐れがある新専門医制度をゴリ押しすべきではない」などと述べた。共同代表の坂根みち子医師(茨城県つくば市)は「女性医師にとって現状でも医療現場は過酷なのに、この制度では結婚・出産という時期に5年間も複数の研修施設を転々とすることになる。法的根拠のない第三者機関がこんなことを勝手に決めてしまっていいのか」と批判。福島県南相馬市の神経内科医・山本佳奈医師は「産科の専門医を取りたいと思ったが、この制度では南相馬から離れなければならず、私は南相馬に残ることを選んだ。医師の希望の芽を摘んでしまう制度だ」と指摘した。

また、仙台厚生病院の遠藤希之医師は「機構には1億4000万円の負債があり、そのうち8000万円を貸しているのは日本医師会。審査される側がカネを貸すという利益相反の関係だ。一任意団体のために日本の医療と若手の夢を潰してはいけない」と訴えた。

日本専門医機構は8月4日に理事会を開くが、“紛争の火種”を残しながら制度開始を宣言することになれば医療界の混乱を招きかねないと懸念する声も出ている。

(片岡伸行・編集部、8月4日号)