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「報道の自由度72位」をつけた国境なき記者団に政権擁護派が質問攻撃

「国境なき記者団」(RSF、本部・パリ)のクリストフ・ドロワール事務局長は7月21日、東京・有楽町の外国特派員協会で会見し、日本政府に対し、「国連や国際法で、記者の安全を保証するメカニズム作りに参加すべきだ」と提言した。また、「『報道の自由度ランキング』で、日本は2011・12年は22位で第2次安倍政権以降に続落、今は72位。フリーや外国人記者を差別する『キシャクラブ』と大手メディアにおける自己検閲の拡大で、記者が民主主義の監視人としての任務を遂行できない」と指摘。さらに、「日本の大使が赴任地の外国報道機関に出向き、記者を名指しして圧力をかけている」と述べた。

挙手での質疑応答で、最初に三好範英『読売新聞』編集委員は「日本には報道の自由があるので心配は無用。メディアは連日安倍首相のスキャンダルを報じている」と非難。次に、「右翼」という男性は「反安倍の記事が溢れているが、記者は誰も逮捕されていない」と発言。「母はキューバからの亡命者」という男性は「キシャクラブなどを理由に挙げているが、日本の文化的な背景を見ていない。外国人記者としての活動で何の問題もない」と言い放った。

山下英次大阪市立大学名誉教授は「RSFは安倍氏に偏見を持っている。安倍氏はナショナリストではなく、フランスのマクロン大統領と同じ愛国者だ。日本の72位はエキセントリックで信頼できない」と罵り、「放送法遵守を求める視聴者の会」の茂木弘道氏が同会のチラシを掲げて、「日本のメディアは反政府の側の利益の為に活動している。安保法案の報道の89%は反対の立場だった」と強調した。

質問者10人中6人が政権擁護“文化人”。ドロワール氏は「指導者の資質が問題ではなく、法的に記者の活動を規制、妨害しているかが評価基準。日本では記者に最高10年の刑が科せられる。ランクの高い北欧諸国に出かけて実態を見て学んでほしい」と回答した。

(浅野健一・ジャーナリスト、8月4日号)

執行部の独走に不満爆発で連合「残業代ゼロ法案」容認を撤回

高収入の専門職の人を労働時間規制の対象から外す、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を盛り込んだ労働基準法改正案。労組の中央組織「連合」は、同法案の修正を巡る政府、経団連との合意方針を撤回し、反対の立場に回帰した。「残業代ゼロ法案」と批判してきた姿勢を一転、政府と手を握ろうとした執行部に内部から激しい不満が噴き出し、組織がもたないと判断したためだ。

「皆さんにご迷惑をおかけし、混乱を招いて申し訳なかった」

7月27日午前、札幌市であった連合の臨時中央執行委員会で、神津里季生会長と逢見直人事務局長は深々と頭を下げた。そして神津氏は政府や経団連との修正合意を見送る方針を示し、了承を得た。

神津氏は7月13日に安倍晋三首相と会い、法案への賛成を前提に「年間104日以上の休日確保の義務づけ」といった修正を求めた。だが「労働者保護につながる」との釈明は、傘下の労組や、反対で足並みをそろえてきた民進党に受け入れられず、「微修正で方針を変えるのか」と突き上げられた。高プロ容認の方針はわずか2週間で撤回に追い込まれた。

混乱の要因は、首相とのパイプを持つ連合のナンバー2、逢見氏が春から始めた秘密裏の対政府交渉を、組織にも黙したまま一手に握ってきたことだった。神津氏でさえ詳細を知ったのは5月という。「安倍一強」の下、連合の政策実現に向けて政権との協調路線に舵を切ろうとしたようだ。

しかし、執行部の「独走」が明るみに出た7月は、学校法人「加計学園」の問題などで内閣支持率が急落した時期と重なった。「高めの球でなく、ある程度合意を読んだ」。修正案に関するそんな逢見氏の説明も火に油を注ぎ、「下り坂の政権にすり寄る必要はない」との批判を招いた。内紛は10月の人事にも波及し、逢見氏が神津氏の後任に就く当初の構想は霧消した。神津氏の続投案にも「執行部総入れ替えが必要」(傘下労組幹部)との異論が出ている。

連合は、修正要請自体は取り下げないという。菅義偉官房長官は27日の記者会見で「要請は重く受け止める」と述べ、柔軟に対応する考えをにじませた。それでも政権に陰りが見えるなか、成立への道筋は不透明さを増している。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、8月4日号)

横浜市、「条件付き賛成」林市長3選で気になるカジノ誘致の行方

与野党激突選挙の構図が崩れた横浜市長選で民進党の牧山ひろえ参院議員(右)は林文子市長を応援。(撮影/横田一)

菅義偉官房長官(神奈川2区)が安倍晋三首相と一緒に推進するカジノ誘致が争点の「横浜市長選」が7月30日に投開票され、自公推薦の現職林文子氏が、カジノ反対を掲げた元民進党衆院議員の長島一由・前逗子市長と元民進党横浜市議の伊藤大貴氏を破って3選を決めた。都議選で歴史的敗北を喫し、仙台市長選(7月23日)でも野党統一候補に敗れた自民党は3連敗を回避。「横浜市長選 自民 現職勝利に安堵」(31日付『読売新聞』朝刊)となった。

一方、カジノに反対の民進党は自主投票を決定。去年10月の新潟県知事選でも同じく自主投票になったものの、原発再稼働反対の米山隆一知事の応援で蓮舫代表を含めた国会議員が現地入り、自公推薦候補の応援に回る議員は皆無で、実質的な与野党激突となった。

しかし横浜市長選では、民進党の牧山ひろえ参院議員(神奈川県選挙区)や山尾志桜里前政調会長(愛知7区)らが林氏を応援、江田憲司代表代行(神奈川8区)や真山勇一参院議員(神奈川県選挙区)らが共産や自由や社民と共に伊藤氏を応援する分裂状態となり、「カジノの是非を問う与野党激突」の構図が崩れてしまった。

しかも市長選終盤には蓮舫代表が辞任表明し、仙台市長選勝利の勢いを活かすどころか、存在感をほとんど示すことができなかった。

【林氏は曖昧な答えに終始】

野党第1党の迷走に救われたのが安倍自民党だ。林氏が万歳三唱と挨拶と記者会見を終えた後、選挙事務所に現れたのは菅官房長官。自公推薦候補の圧勝を「大変うれしく思い、ほっとしている」と切り出した後、カジノについては次のように語った。

「市長は出馬前の記者会見で『検討していきたい』ということでした。そういう方向で、市長として全体の流れを見ながら方向性を決めていくということだと思います」

しかし、林氏の公約にはカジノについて「依存症対策やIR実施法案など、国の状況を見ながら、市として調査・研究を進め、市民の皆様、市議会の皆様の意見を踏まえたうえで方向性決定」と明記、地元の民意の賛同を必要とする「条件付賛成」の立場といえる。

しかも様々なアンケート調査では「横浜市民の圧倒的多数が反対」という結果が出ていた。「全体の流れ」を見ていけば、「カジノ誘致はしない」という結論に至る可能性が高い。そこで菅官房長官に「横浜市民はカジノ反対の声が多いのですが、反対でもやるのですか」と聞くと、「そうですか」と言うだけでカジノ誘致が頓挫しそうな不安の表情を全く見せなかった。林氏からも否定的発言は出なかった。当確後の記者会見で「市民の声をどう聞くのか。住民投票かアンケート調査なのか」と聞くと、林氏は曖昧な答えに終始した。

「まだ、そういうところまで考えに至っていません」

「選挙戦を踏まえた状況を担当と話をしながら検討、決めていきたいと思っています」

不信感が芽生えてきた。年末のカジノ法案成立を評価しながら市長選が近づくと、白紙状態という立場に豹変していった林市長は当選した途端、民意の問い方すら答えない曖昧な姿勢を取り始めた。“菅傀儡市長”とも言われる林氏は結局、市長選向けに慎重派のように振る舞っただけの“隠れカジノ推進派”ではないのか。応援した牧山参院議員に聞いてみた。

「市長選で林さんを応援した仲間、『(民進党の)横浜市総支部協議会』で林市長と面談、カジノについて『市民の声を聞いて決める』と一筆取りました。横浜市民はカジノ反対が多いので、『カジノ誘致はできない』に等しいと思います。林市長は人の話を聞く人で、これまでも無視することはなかった。私は林市長を信じているので、みんなが嫌なこと(カジノ誘致)をやるわけないじゃないですか。(今回の林氏応援は)民進党のカジノ反対の方針と矛盾することはない。ちなみに私はカジノ反対です」

ただ、菅官房長官はカジノ誘致に不安感を全く見せていない。「市民の意見を聞く」と約束した林市長が公約違反をしないのかを、チェックしていくことが不可欠だ。

(横田一・ジャーナリスト、8月4日号)

安倍首相らの資産公開報告書は「破棄した」 官僚の隠蔽体質変わらず

開示を渋った内閣官房内閣総務官室が入る内閣府庁舎。東京・千代田区。(撮影/三宅勝久)

公開が義務づけられている大臣らの資産報告書のうち、総理大臣や官房長官らのものについて、担当部署である内閣官房内閣総務官室に筆者が問い合わせたところ、対応した係長が「すでに破棄した」「公文書ではない」などと“虚偽”の説明を行ない、開示を渋るという出来事があった。都知事選の告示前のことで、「安倍政治」への逆風が強まるなか、選挙への影響を考えて嘘をついた疑いが濃厚だ。

問題の文書は、2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」に基づくものだ。大臣、副大臣、官房長官、副長官、政務官は、自分と家族の資産状況について報告書を作成し、公開することが義務づけられている。閣議決定によれば、「公職にある者としての清廉さを保持・促進し、政治と行政への国民の信頼を確保し、もって行政の円滑な運営に資する」ための制度である。

筆者は6月15日、総理大臣らのものを管理している内閣官房内閣総務官室第一担当(山崎重孝内閣総務官=当時)に電話をかけ、安倍晋三総理大臣や菅義偉官房長官らの資産報告を見たい旨伝えた。防衛省や財務省、内閣府など他省庁は1~2日で開示していたので内閣官房も同様の対応だろうと思っていたところ、電話口で対応した男性職員は意外にもこう言った。

「国務大臣等の資産公開の報告書は官邸記者クラブに配布した後に破棄した。(各国会議員の)事務所が作成したものであって公文書ではない。クラブに聞いたらどうか、また事務所に問い合わせたらどうか」

【「探したら保有」の怪】

官邸記者クラブは筆者のようなフリー記者を事実上排除している。また閣議決定で公開を義務づけた報告書なのに、議員事務所に要求しろと行政が指示するのも筋違いだ。もとより、公文書ではないとはいったいどういうことか。納得がいかない筆者は念を押した。

「様式は省令で決まっている。やはり公文書だと思う。保管しているのではないか」

しかし職員は「破棄した」「公文書ではない」と自信ありげに繰り返した。「文書が存在しないのだから情報公開請求しても開示できない」とも言った。

嘘をついている可能性が高いと判断した筆者は、数日後、情報公開請求を行なった。結果が出たのは1カ月後、都議会議員選挙で自民党が惨敗した後の7月14日のことである。土生栄二内閣官房内閣総務官名で出された決定は、総理大臣らの資産報告書を「行政文書」――つまり公文書として特定し、すべて開示するという内容だった。対象の報告書は次の14人分。

・総理大臣=安倍晋三・配偶者昭恵

・官房長官=菅義偉・妻眞理子

・官房副長官=萩生田光一・妻潤子・長男一輝

・同副長官=野上浩太郎・配偶者真美子・子萌子・同温子・同周太郎

・同副長官=杉田和博・配偶者彰子(敬称略、表記は記載通り)

「破棄した」「公文書ではない」という職員の説明が“嘘”であることが、これではっきりした。

内閣官房内閣総務官室に事情を質すと、電話でこう回答してきた。

「電話で対応した職員は特別職担当のアメミヤ係長である。資産公開文書は公文書である。私どもの確認不足だった。申し訳ない」

「破棄した」については、「当方に文書がなかった。今すぐに出せないという意味で申し上げた。情報公開請求を受けて探したら、保有している事実がわかった」と意味不明の説明に終始した。

加計学園問題や防衛省情報隠蔽疑惑に通じる今回の“虚言”騒動の原因が、当の国務大臣らからの“助言”にあるのか、職員レベルの忖度なのかは不明だが、安倍政権の法令無視体質が行政組織を激しく蝕んでいるのは間違いない。

なお、開示された資産報告によれば、安倍晋三首相は森永製菓の株を4万9000株(株式併合により現在は9800株相当)保有。12年の首相就任時と比べて6倍に値上がりしており、約5000万円の含み益が生じた計算だ。

(三宅勝久 ジャーナリスト、8月4日号)

茨城県龍ケ崎市で弾道ミサイル避難訓練 住民からは厳しい意見も

弾道ミサイル避難訓練に抗議する市民団体メンバー。茨城県龍ケ崎市。(撮影/崎山勝功)

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の弾道ミサイル発射を想定した「X国からの弾道ミサイル避難訓練」が7月29日、茨城県龍ケ崎市の市立川原代小学校周辺で行なわれ、住民ら約150人が参加した。

訓練では、防災行政無線(屋外スピーカー)での住民の避難情報伝達や、住民が同小体育館などに避難する手順などを訓練した。

訓練前日の7月28日深夜に「北朝鮮が弾道ミサイル発射」報道を受け、訓練終了後の振り返りでは、参加住民から「車に乗っているとほとんど聞こえない」「小学校体育館に放送受信設備がないと身を守れない」など、防災無線が聞こえないことへの厳しい意見が相次いだ。別の住民からは「『頑丈な建物に避難』とあるけど、私の自宅近くにはコンクリートでできた建物がない。ミサイルは普通の火薬を積んだものなのか原爆(核弾頭)を積んだものなのか」との質問が出た。内閣官房の伊藤敬内閣参事官は「屋外よりは屋内と、一番ベターなところに避難する。必ず決まった基準がなく難しいけど(自分の)身を守るようお願いしている。ミサイルにどんな弾頭が積んでいるか分からない中で訓練している」と説明。その上で「外交努力、防衛努力も100%ではない。我々も努力するが、皆さんもきちっと(訓練の趣旨を)理解することが大事」と理解を求めた。

訓練中には市民団体「戦時下の現在を考える講座」メンバー6人が同小前で「政府による朝鮮敵視、戦争動員政策に同調するな」と抗議行動を実施。伊藤参事官は会見で「こういったこと(訓練)に対していろんな意見をお持ちの方がいる。国民の皆さんには(訓練は)必要と思っている」と答えた。

訓練に参加した同市の関野勉さん(79歳)は戦争体験者で「(小学生の頃に)何回も防空壕に逃げ込んだ。小学生の時は訓練じゃなく『実践訓練』だった。小さい頃を思い出した」と感想を語った。

(崎山勝功・『常陽新聞』元記者、8月4日号)

「外国人家事労働者」を推進する戦略特区に欠けている視点とは

移住労働者問題を研究する巣内尚子さん。今後も調査を続ける予定だ。(写真/山村清二)

7月17日~23日、東京・新宿のギャラリーで、ジャーナリストの巣内尚子さんの写真展「『彼女を探して』 現代ベトナムと女性移住家事労働者」が開催された。

巣内さんによれば、ベトナムは移住労働者の送り出し国だが、女性は、台湾などで家事労働に従事することが多く、虐待やハラスメントに遭うこともしばしばとのこと。展示された女性たちはみな、明るい笑顔を向けているが、「話をじっくり聞くと、家事と介護の両方を長時間労働で強いられるなど、休みはまったくとれていない」女性ばかりとのこと。そんな一人ひとりのライフ・ヒストリーを丹念に追いかけたので標題を「彼女を探して」としたという。

日本においては、加計学園問題などでクローズアップされている国家戦略特区の一つ、「家事支援外国人受入事業」として、東京都・神奈川県・大阪市などで、移住家事労働者の受け入れが進むが、「(家事労働者を)使う側の視点ばかりで、雇用される側の視点がない」と批判。

しかも日本は、家事労働者の基本的な権利を守るILO(国際労働機関)第189号条約を批准していない。巣内さんは「既に技能実習生などの外国人労働者が搾取やハラスメントに直面する事例がある。特区の家事労働者受け入れは現在は大手企業中心だが、裾野が広がれば課題が生じる可能性がある」と懸念する。

(山村清二・編集部、7月28日号)

たばこ議連に所属する自民党国会議員の「禁煙」審議は条約違反か

日本禁煙学会(作田学・理事長)は7月17日、屋内禁煙強化のため、厚生労働省案通りの健康増進法改正案を閣議決定し、次期国会に提出するよう求める要望書を安倍晋三首相に提出した。

要望書によると、小規模店を除き「屋内禁煙を原則とする」厚労省案は、内閣官房に設置された関係省庁による検討チームの議論を経て策定されたもので、政府案にするのにふさわしい(本誌4月21日号)。

ところが、先の国会では法案の提出が見送られた。自民党内に「たばこ議員連盟」(会長=野田毅、前党税制調査会長)に所属する強硬な反対派がいて、まとまらず、政調会長代理が「150平方メートル以下の飲食店は、店頭に『喫煙』か『分煙』かを表示すれば喫煙を認める」との修正案を作成して、厚労省案に対置したためだ。

こうした党内での議論は非公開で行なわれており、首相は事態を静観するだけだった。

自民党内の審議機関の構成をみると、政務調査会の厚労部会は16人中4人、政調役員は16人中10人、総務会は25人中11人、幹事長組織は27人中6人(いずれも、少なくとも)がたばこ議連所属だ。これらの議員はタバコ業界から献金・パーティ券購入などの便益を受けている。

日本も批准している「タバコ規制枠組み条約」は、タバコ産業の利益のために働く団体は、タバコ規制を立案・実施する政府機関・協議会・諮問委員会の構成員として認めるべきではない、と定めており、自民党内の審議はこの条項に違反している可能性が大きい。

こうした実態を踏まえて要望書は、(1)健康増進法改正案の審議には利益相反のある議員の出席を認めない、(2)部会や政調では密室審議をやめる、(3)政府提出法案は政調の部会→政調会→総務会での合意を経た後に閣議決定するという慣行は廃止することも求めている。

(岡田幹治・ライター、7月28日号)

和泉洋人・首相補佐官は「ポスト・ホント国」の住人か(浜矩子)

この人たち、ポスト・トルース(post truth)の国の住人なんだな。加計問題等々に関する国会閉会中審査の模様を観ながら、つくづくそう思った。ポスト・トルースの意味するところが、初めて実感的に解った気がした。

ポスト・トルースは、2016年を象徴する言葉だ。かのオックスフォード英語辞典によってそのように認定された。いわば世界版流行語大賞を授与された格好である。ポスト・トルースを日本語で言えば、「脱真実」あるいは「超真実」という感じか。筆者は「ポスト・ホント」という言い方をすることに決めている。

ポスト・ホント国とウソ・イツワリ国とは、どう違うか。端的に言えば、後者は確信犯の世界。前者は、ご都合主義犯の世界である。「そのウソ、ホント?」と聞かれた時に、「ウソなんてとんでもない。私はホントを言っています」と反論するのが、ウソ・イツワリ国の住人だ。それに対して、ポスト・ホント国の答えは「そんなのどうでもいいじゃん。私にとってはこれがホントなんだから」ということになる。

閉会中審査の中で、和泉洋人・首相補佐官なる人が「そうした記憶はまったく残っていない。したがって言っていない」と発言していた。おお。これぞ、ポスト・ホント的模範解答だ。自分が記憶していない。自分の記憶に残っていない。そのようなことは、ホントであろうがなかろうが、なかったことなのである。これが、僕のホントです――。

ことほど左様にポスト・ホント連にとっては、客観的にホントかどうかはそもそも本質的に問題ではない。自分がどう記憶しているか、自分にとってどうなのか。それですべてが決まる。イメージがすべてで、すべてがイメージなのだ。自分の都合に従って、選択的にホントを選ぶ。それが「ホントを超える」ということなのだろう。

思えば、だからこそ「印象操作」という言い方への執拗なこだわりが出てくるのだろう。ポスト・ホント国の人々にとっては、まさに印象がすべてなのである。「これホント」イメージが成り立てば、それが「ホントにホント」なことになる。どんなに客観性があっても、どんなにしっかり記録されていても、ポスト・ホント国においてそれは何の証明にもならない。すべては「だってそうなんだもん」基準、「やっぱりそうなんだもん」基準で判定されてゆく。

ところで「記憶はない。だから言っていない」と大見得を切った上記の御仁は、追及の中で「言った、言わない」のテーマとなっている件について、結局は「言わなかったと思う」という言い方をするにいたっていた。ふーん。この「思う」という表現、ポスト・ホント的にはどうなのだろう。まぁ、自分が思っていないことはホントじゃない。自分が思っていることはホント。そんな風に整理されるのだろうかと推察する。

ポスト・ホント国は、何とも怖い世界だ。その住人たちは、何ともかわいそうだと思う。結局は、印象操作合戦の中で共食いの末路をたどるのだろう。誰も彼らを信じられない。誰にも信じてもらえない者たちは、誰にも助けてもらえない。

(はま のりこ・エコノミスト。7月28日号)

ヒロちゃんのほんと(小室等)

近所でヒロちゃんのライブがあるよと言うので、娘夫妻とうちのかみさんと連れ立ち、7月17日、埼玉県・フォーシーズンズ志木ふれあいプラザに行ってきた。恒例の紀伊國屋ホールとは一味違って、志木おやこ劇場主宰の女性連に囲まれ、会場もヒロちゃんのパフォーマンスも手作り感漂うライブだった。近刊絵本『憲法くん』(絵・武田美穂)を紹介しながら、いつものように政治ネタで大いに笑わせ、会場は爆笑の渦。

圧巻は、三上智恵監督作品の記録映画『標的の村 風(かじ)かたか』の語り。高江で強行されるオスプレイのヘリパッド建設に抵抗する住民。若い機動隊員とデモに加わった若い女性が、互いに目をそらさずにらみ合いを続けるが、たまらず若い機動隊員が目をそらすシーンのヒロちゃんの表現が圧巻だ。

次にヒロちゃんの話は永六輔さんの一生を駆け抜ける。ヒロちゃんの話に笑わされ、泣かされ、ほとんど知っている話なのに、永さんの身に起きたことをヒロちゃん流につなげていくから、まるではじめて永さんに出会っている気がしてくる。ヒロちゃん、芸というのはすごいね。いや芸がすごいのは言うまでもないことだが、実際のところ、ヒロちゃんと僕が同じ出来事を、同じように見ているとは限らないものね。

それで思い出したけど、中津川・全日本フォークジャンボリーのステージジャック小室等犯人説というのがある。先だって亡くなられたフォークジャンボリーの仕掛け人のひとり笠木透氏は、長い間小室犯人説を信じていたようだ。

なんの犯人かというと、ジャンボリーの運営に不満を感じた一部の観客にステージジャックされ紛糾した1971年のフォークジャンボリーで、その観客を挑発煽動した犯人は小室だというのだ。

たしかに、サブステージでいまや伝説となっている吉田拓郎の「人間なんて」絶唱を収拾させるため、観客に向かって「そろそろみんなでメインステージに行こうぜ!」と叫んだのは僕だったかもしれない。だからと言って、煽動したのは小室だなんて。あれ、この話、前にもしたかな。

ヒロちゃんの話に戻ろう。ヒロちゃんが映画を語るのは、マルセ太郎さんの「スクリーンのない映画館」のヒロ版だね。ヒロちゃんの語りを聞き、僕は映画を観たいと思った。観た結果、違う感想になることもよくある。が、かまわないのだ。マルセ太郎さんの『生きる』はマルセさんの、黒澤明監督の『生きる』は黒澤監督の、それぞれのほんとがあるのだ。ヒロちゃんのほんとは観たから、三上監督のほんとも観に行かなくちゃ。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、7月28日号)

まともなり、亀井静香(佐高信)

拝啓 亀井静香様

ごぶさたしていますが、お元気のようですね。亀井さんの独特の声が聞こえてくるような岸川真著『亀井静香、天下御免!』(河出書房新社)を拝読しました。

社民党の福島みずほさんは、郵政民営化に反対して亀井さんが自民党を追われた時、
「亀井さんと私には共通点が三つしかない。つまり、郵政民営化反対、義理人情、死刑廃止だけですね」
と言い、亀井さんに、
「三つも一緒だったらいいじゃないか」
と返されたそうですね。

違いを挙げたがる革新と、何でも包み込む保守の特質を象徴しているような会話で、おもしろいと思いました。

学生時代に合気道に熱中する一方で椎名麟三や野間宏らの戦後派文学に傾倒していたというのはちょっと意外でしたが、警察に入った亀井さんは「あさま山荘事件」の後、いわゆる過激派のリーダーの森恒夫や永田洋子の取り調べを担当して、こう考えたとか。

「森は完全黙秘だったが物凄い迫力だった。なぜ、こういう自分を捨てることが出来る若者が極左活動に走っていくことになったのか。その疑問に沈みました。初めてそこで政治の責任を痛切に感じましたね」

自民党、社会党、新党さきがけの自社さ政権を支えた亀井さんは村山富市さんに惚れたとして、こう言っています。

「村山さんは俺が経験した首相の中で最高の人物だと思いますよ。これは閣内で支えた小里貞利や野中広務をはじめ関わった誰もが言うはずです。すまし屋の橋龍だってご多分に漏れないね」

別れた妻がホリエモンに野次

森友学園や加計学園の問題で官僚論が云々されている時、亀井さんの次の指摘にも頷かされます。

「役人の使い方は官僚本人を納得させること。官僚は威張りたくてなったのは少ない。公の仕事をしたい。だから自尊心を燃やしてやれば頑張りますよ。押し付けは逃げられる。納得させることが肝要なんです」

亀井さんは小泉(純一郎)首相がイラクへ自衛隊を派遣することに反対しました。加藤紘一、古賀誠両氏と共にです。アーミテージらネオコンにもこう言ったそうですね。

「軍事力を絶対に行使すべきではない、それはアメリカにとっても世界にとっても間違いなく不幸なことになる。私がお巡りさんをやっておったから言うわけじゃないけれど、たしかに市民は得手勝手でワガママである。しかし、その市民の支持と理解を得なければ、警察の仕事は成り立たんと思っています。アメリカが世界の警察官を自任して自らの犠牲においてそれをやろうとするのであれば、我々は感謝します。しかし、そのためには世界から支持されるということがなければ、人類にとってもプラスにもならないし、アメリカにとってもいいことにはならんと思う」

郵政選挙ではホリエモンこと堀江貴文を刺客に立てられたわけですが、別れた妻がわざわざ尾道まで来て、ホリエモンの演説に物凄い野次を飛ばしていたと聞いたそうですね。

「警察時代にあれだけ夫婦仲も悪かったのに、人生というもんは分からんもんですよ」

この述懐に私はウーンと唸りました。次の覚悟にも拍手を送りたいと思います。

「絶対、子たちには継がせない。妻も苦労して、ゼロから築き上げた支持地盤ですけど、継がせる気はさらさらねえな。どうしてもやりたいなら他所でやれ。選挙区は個人の持ち物ではありません」

山城新伍さんが『実録・自民党』で亀井さんを演じたいと言っていたというのも、なるほどと思いました。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、7月28日号)