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失われた家計の利子所得は600兆円超(高橋伸彰)

2017年6月28日8:45PM

かつて日本の企業が経済のエンジンと評されたのは、家計の預金を銀行経由で借り入れ、自己資金(キャッシュフロー)を上回る投資をして得た収入を、賃金や利子の形で家計に還元し経済の好循環をリードしたからである。

しかし、バブル崩壊以降、日本の企業は賃金を抑制して人件費を削り、キャッシュフロー以下に投資を減らし銀行への借金返済に奔走するようになった。その結果、日本の企業部門は1998年度以降フローベースで貯蓄超過に転じ、日本政策投資銀行の中村純一氏(「無借金企業の謎」)によればストックベースでも実質無借金(有利子負債を上回る現預金を保有)を含めると、日本の上場企業主要5業種(製造業、建設業、不動産業、商業、サービス業)の40%強が今や無借金経営だという。

中村氏は無借金が日本では優良企業の証しとして語られることも多いと言うが、経済思想史家のハイルブローナーは無借金を誇る経営者は「現代の地主」にすぎないと喝破する。ケインズの言う「血気(アニマルスピリット)」をもって不確実な投資に挑むわけでも、シュンペーターの言う「企業家精神(アントレプレナーシップ)」を発揮して技術革新にチャレンジするわけでもなく、人件費を削減して利益を上げ内部留保の蓄積に努める経営者など、経営者として失格だというのだ。

企業が借金を減らしたことで銀行は預金の運用に苦しみ、やむを得ず低い利回りしか期待できない公債を購入するようになった。実際、銀行の総資金利回りは全国銀行ベースで2015年度には0.96%にまで低下し、人件費などの経費率0.87%を差し引くと、預金に利子を付けるのはほとんどむずかしい状況に陥っている。

借入金利以上の利益を目指して投資を行なう(かつての?)日本企業と異なり、最初から利益を目的としない政府に資金を回しても高い利回りは期待できない。この結果、家計が得る利子所得は「国民経済計算」によれば1991年度の37.5兆円をピークに15年度では5.4兆円に減少している。

家計が保有する現預金が同期間に511兆円から920兆円に増加していることを考えれば、家計の預金利回りはバブル崩壊後の長期停滞の中で7.3%から0.6%へと10分の1以下に低下した計算になる。しかも、この利回りはデフレ脱却を目的にした日銀の金利操作によってさらに低下しつつある。

企業が生みだす付加価値の中には、人件費や営業利益と並び借入に対する支払い利息が含まれている。お金を借りて投資を行ない、利益を上げて利息を払うことは付加価値の創造でもあるからだ。この支払い利息の推移を「法人企業統計」でみると、91年度の34.6兆円から2015年度には6.6兆円に減少している。

これこそ、既述した家計が得る利子所得減少の主因にほかならない。徒(いたずら)に無借金を目指す保守的な経営で失われた家計の利子所得を、ピーク時との差額として試算すると92年度から15年度までの累計で600兆円を超える。

失われた賃金に加え、失われた利子所得もまた家計の節約志向を強めて、長引く消費停滞を引き起こしていることを見落としてはならないのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。6月9日号)

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