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「税額通知書」へのマイナンバー不記載の自治体が相次ぐワケ

準備書面の内容を原告らに説明する「マイナンバー違憲訴訟」の東京弁護団。(撮影/小石勝朗)

住民税を天引き(特別徴収)している企業・団体へ従業員の居住地の市区町村から送られる税額通知書に、全員の個人番号(マイナンバー)欄が新設された問題で、番号を記載せずに通知書を送付する自治体が相次いでいることがわかった。政令指定都市の愛知県名古屋市が不記載で発送しているほか、東京都内でも40近い自治体が不記載か一部不記載と決めている。番号漏洩への危惧が、国の圧力を跳ね返した形だ。

総務省が地方税法施行規則で定める税額通知書の様式を省令で変え、今年度から個人番号欄を設けた。しかし、勤務先に知らせていない従業員の番号まで自治体から勝手に通知されることになり、「プライバシー権を侵害し違憲」との批判が出ている。同省が普通郵便での送付を認めている上、番号の管理態勢が不十分な企業にも送られるため、漏洩の危険が増すなど弊害が指摘されてきた。

名古屋市は、5月15日に送付を始めた約8万8000通の税額通知書の個人番号(12桁)欄を、12個のアスタリスク(*)で埋めた。河村たかし市長は3月の市議会で対応を問われ、「個人のプライバシーを守るためしっかり相談したい」と答弁していた。

市は、個人番号を記載して簡易書留で送付することも検討したが、地方税法が義務づける5月末までに企業・団体に届けるには「5月上旬までに郵便局に持ち込まなければならないとわかり、事務処理上、無理だった」(市民税課)。

普通郵便での送付となり、「個人番号の漏洩防止のため慎重な対応が必要」として、今年度は記載を見送ることにした。通知書を入れる封筒に「開封前に宛名をお確かめ下さい」といった注意書きを何カ所か入れて効果を見るとい
う。

高知市は、個人番号欄を空欄にしたまま1万通余の通知書を発送した。「誤配達、盗難などの郵便事故や、個人番号の管理者ではない従業員が開封するといった『さまざまなリスク』を考慮し、今年度は記載を控えた」と説明する。

東京都内の税理士らでつくる研究グループ「東京税経新人会」が、発送時期の迫った4月後半以降、都内49区市を調べたところ、確認できた44区市のうち板橋区、新宿区、立川市、三鷹市など39区市(17区22市)が、個人番号を「記載しない」、または6~8桁をアスタリスクで表示するなど「一部不記載」の方針を決めていた。

記載する自治体は簡易書留を利用するケースが多く、新たな財政負担を強いる結果となっている。

【違憲訴訟でも取り上げる】

総務省は3月6日に「Q&A」と題する文書を出し、「個人番号を不記載や一部不記載(アスタリスク表示を含む)とすることは認められていません」と自治体に圧力をかけた。しかし、税額通知書に番号を記載する理由については「公平・公正な課税や事務の効率化につながる」とするだけで、具体的な説明をしてこなかった。不記載の自治体に地方税法上の罰則がないことは認めている。

同省の担当者は「マイナンバー制度の趣旨や、通知書に個人番号を記載する目的を引き続き自治体に説明し、来年度以降、記載してもらえるようにしたい」と話した。

すでに通知書の誤送付も明らかになっている。札幌市では、3通(8人分)の誤送付が判明。市の事務処理ミスや誤配達が原因で、いずれも回収したが開封された後だった。同市は個人番号を記載し、簡易書留で発送していた。

一方、個人番号の利用差し止めなどを求めている「マイナンバー違憲訴訟」の東京弁護団は、4月18日に東京地裁であった口頭弁論で、この問題を取り上げた準備書面を陳述した。

税額通知書への個人番号記載が許されるなら、マイナンバー法は「極めて抽象的かつ曖昧な目的で、漏洩などのリスクがあるにもかかわらず、個人番号を本人の同意なく送付することを可能とする法律ということになる」と指摘。「個人のプライバシー権などを制約するもので憲法13条に反し違憲」と主張した。番号制度の違憲性を立証していく大きな柱になりそうだ。

(小石勝朗・ジャーナリスト、5月26日号)

加計学園疑惑にみる安倍官邸の「恐怖政治」(佐藤甲一)

2018年春に愛媛県今治市で獣医学部の開設を目指す「加計学園」をめぐる問題が再浮上した。国家戦略特区の認定、新設学部の認可をめぐって内閣府職員が文部科学省の担当官に「総理の意向」をかざして手続きの加速化を求め、そのやりとりを記した文書が現れたのである。この問題は「森友学園」の「忖度」で済まされない問題をはらんでいる。

5月17日の衆議院文部科学委員会で文書の存在を明らかにした民進党の玉木雄一郎衆院議員の質問に、松野博一文部科学大臣は、学部新設について「設置時期をあらかじめ提示、書き込むようなことは審議会との関係においてどうなのかと話した記憶がある」と答弁した。

新設学部の認可は文科省の諮問機関である大学設置・学校法人審議会において厳正に審査される。委員は大学関係者などからなり、審査内容は施設や教員の配置、カリキュラムの内容まで多岐にわたる。にわかに提出したから通るものでは到底ありえない。松野大臣はそうした認可の手続きを念頭に、16年1月に戦略特区認定、3月末に学部新設の申請、8月末に認可の判断提示というスケジュールからみて準備不足に陥ることはないのかとの真っ当な疑問を示した、と受け止められる。

言い換えれば、国家戦略特区という安倍内閣の「三本の矢」の一つである目玉政策だからと言って厳正な認可基準を曲げることはあってはならないとの懸念を示したもので、そう指摘せざるを得ない状況認識が存在したことを物語っている。

52年間認められてこなかった獣医学部の新設が本当に必要かどうかは意見が分かれる。百歩譲って獣医師の増員は必要で、さらに今治市が国家戦略特区に認定するに相応しいとしても、そのことと開学を前提として日程を区切り、あたかも大学設置基準を「緩和」してでも間に合わせろというのは本末転倒である。

「総理の意向」の有無は別としても、内閣府が主導する日程ありきの進め方は、文部科学行政の公正な進め方とは相容れない。松野大臣の答弁から安倍政権の目玉政策という「大義」を掲げて、適正な行政の執行をねじ曲げることを強要するかのような振舞いが、霞ヶ関の内部にあることが明らかになったのである。

さらに重大なことがある。先の委員会で「文書が作成された可能性はある」と答弁した松野文科大臣に対し、菅義偉官房長官は5月17日の会見で「文書の作成日時や作成部局が明確になっていない」などと述べ、「怪文書の類い」と決めつけた。松野大臣が言及した「存在の可能性」についての調査は19日に行なわれたが、関係者7人から1人当たりわずか10分?30分の聞き取りで済まされ、「確認できなかった」との結論に終わっている。菅官房長官が「怪文書」と頭ごなしに決めつけたものに、松野大臣が異論を唱えられるはずもない。

懸念すべきは菅官房長官をはじめとする安倍官邸の霞ヶ関に対する「恐怖政治」ともいえる「統制」であり、安倍首相周辺が絡む事案によって、行政の公平性がねじ曲げられようとしている事実である。だが、そうした手法への反感も霞ヶ関内に燻っていることは、図らずも松野大臣の答弁から明らかになった。政党政治を否定するかのような安倍首相の改憲提案もあわせ、「安倍一強政治」の歪みが露わになりつつある。

(さとう こういち・ジャーナリスト。5月26日号)