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朝日新聞社阪神支局襲撃30年で追悼式典 支局前では攻撃街宣も

2017年6月2日5:41PM

『朝日新聞』攻撃の街宣に対し「ヘイトスピーチ反対」の看板を掲げる市民。朝日新聞社阪神支局前。(撮影/平野次郎)

朝日新聞社阪神支局(兵庫県西宮市)に男が侵入、小尻知博記者(当時29歳)が凶弾に倒れてから30年になる5月3日、最近、建て直された支局に次々と偲ぶ人が訪れ献花した。展示室では小尻記者が座っていたソファ、穴の開いた同記者のブルゾンや血染めの原稿、重傷を負った犬飼兵衛記者の命を救った穴だらけの金属製ボールペンなどに見入っていた。

午後からは事件翌年から恒例のシンポジウム「言論の自由を考える5・3集会」(朝日新聞労働組合主催)が神戸市中央区の神戸朝日ホールで開かれ、約500人が参加した。

テーマは「『不信』『萎縮』を乗り越えて」。事件当時のテレビ映像が流されて全員で黙した後、登壇者4人が活発に議論した。作家の高橋源一郎氏は「以前なら口に出せなかったような『反日』という言葉を著名人が平気で使い、あの人が言うなら仕方がないかのような雰囲気になるのは怖い」などと語った。東京工業大学の西田亮介准教授(政策・メディア)は「情報量が多すぎて何が正しいのか判断がつかないのがフェイク(偽)ニュース横行の背景」と懸念した。

『朝日新聞』政治部次長の高橋純子記者は「決して記者たちは萎縮していないと思うがネットなどと違い新聞は多くのチェックを経て記事が出る。複数ソースの確認をいつも上司に求められる」などと話した。ジャーナリストの池上彰氏は「米大統領選を日本のテレビで見れば全米が選挙一色に見えるが現地は違う。集会ばかり報じるから勘違いする」とテレビ報道の落とし穴を紹介。シンポは仏大統領選のさなか、池上氏は「フランス人はアメリカ人よりも新聞を読むからネット情報などもすぐ信じない」と分析した。池上氏は「憲法記念日に新聞社が攻撃されたことを忘れてはならない」と締めくくった。この日、演壇と満員の客席の間に警備員が配置されていたのが気になった。

(粟野仁雄・ジャーナリスト)

【テロ煽動とヘイト一体化】

当日、小尻知博記者追悼の拝礼所が設けられた阪神支局周辺は、日の丸を掲げて『朝日新聞』を攻撃する街頭宣伝の男性と、それに抗議する市民らが対峙し、警察官数十人が警備する物々しい空気に包まれた。

「30年前の赤報隊による『朝日新聞』襲撃は義挙だ」。こう切り出した男性は「慰安婦」問題などは『朝日新聞』の捏造によるものが多いとし、「言論によるテロは散弾銃による報復を受けた」と決めつけた。そのなかで在日韓国・朝鮮人に対する蔑称を繰り返し、市民から「ヘイトスピーチやめろ」の声が飛んだ。男性は「この日本を否定するものを許さない」「反日分子には極刑あるのみ」とする赤報隊の犯行声明で締めくくった。

赤報隊を名乗る犯行は、1987年1月の朝日新聞東京本社銃撃をはじめ阪神支局襲撃など朝日新聞社への4件の襲撃のあと、88年3月の中曽根康弘元首相への脅迫状など3件、90年5月の愛知韓国人会館放火事件の計8件で終わる。最後の犯行声明には「反日的な在日韓国人を、さいごの一人まで処刑していく」とあり、いまのヘイトスピーチを予感させる。

時代背景はどうか。当時、中曽根首相は「戦後政治の総決算」を掲げて靖国神社への公式参拝を実現するなどした。こうした動きに反対する論調を主導したのが『朝日新聞』だった。中曽根首相は「近隣諸国への配慮」から翌年に参拝を見送り、復古調と批判された日本史教科書の修正を指示するなどし、赤報隊から「靖国参拝や教科書問題で日本民族を裏切った」との脅迫状を突きつけられる。

そしていま、「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍晋三首相。「近隣諸国への敵視」から言論統制を強め排外主義をあおることで、言論へのテロ煽動とヘイトスピーチを一体化させ右翼を勢いづかせる。30年前、闇から発せられた「反日」攻撃が、いま街頭で公然と発せられることに恐怖を覚える人は多い。

(平野次郎・フリーライター、5月19日号)

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