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日本郵政の非正規労働者約1万4000人雇い止め――差別温存し定年だけ“平等”

東京地裁判決後の報告集会。(7月17日、東京・千代田区の弁護士会館。撮影/林克明)

東京地裁判決後の報告集会。(7月17日、東京・千代田区の弁護士会館。撮影/林克明)

「原告の請求をすべて棄却する」

7月17日、東京地裁第527号法廷に、佐々木宗啓裁判長の言葉が重く響き渡った。

日本郵政は、民営化にともない正社員と非正規社員の大きな格差を温存したまま、65歳定年制だけを“平等”にし、2011年9月、1万4000人近い非正規労働者を雇い止めした。そのうち9人が地位保全と未払い賃金などを請求して11年12月に提訴した訴訟の判決だった。原告らは、控訴する。

この裁判が社会に投げかける意義は、(1)非正規労働者に定年制を導入することの是非、(2)高齢者の雇用と生活確保、の2点である。原告のひとり、丹羽良子さん(70歳)は言う。

「給与・福利厚生・退職金その他の恵まれた条件を前提に正規社員には定年制があります。そういう条件を一緒にするなら非正規の定年制もわからなくはありません。でも、そのような差別はそのままで定年制だけ同じ条件にするなど、納得できません」

丹羽さんが04年に勤め始めたときは時給700円台。小包などの集荷と配送の両方をこなす業務だった。

非正規労働者は正社員と同等の業務を担いながら、賃金は3分の1、正社員には与えられるさまざまな手当はゼロだ。退職金もなく、厚生年金はごくわずかで定年後の生活保障はない。しかし、正社員と同様の責任だけは課せられる。実際、解雇された人たちの生活は困窮している。

労働条件に大きな格差があるのに定年制だけ同一にしたのが、今回の問題の根幹だ。その根拠は、07年の郵政民営化のときに導入された「期間雇用社員就業規則」。これ自体の妥当性も裁判の争点だったが、それ以前の初歩的な疑問もある。

【騙し討ちの就業規則改変】

前出の丹羽さんが言う。

「その就業規則の10条2項目が65歳定年制の条項です。ところがそれを渡されたとき、『2項目(略)』となっていて読めないようになっていたんです。だから私たちは65歳定年制を周知されていなかったんです」

これは、まさに騙し討ちではないのか。代理人の萩尾健太弁護士は、次のように言う。

「原告らの加齢による能力の低下などは認められず、解雇権の濫用であると、認められました。にもかかわらず、65歳定年を定めた就業規則があるのだから雇い止めは許されるとされたのは、解雇権の濫用を免れるための就業規則を認めてしまったことになります」

しかし前述のように、就業規則の正当性には疑問がぬぐえないのである。判決理由でも65歳定年は「一部は周知された」旨が書かれているが、これは大半の支社では周知されていないという事実の裏返しでもある。

さらに、ベテラン非正規労働者が大量に解雇されたことにより、各地で大混乱が起きてきたことも見逃せない。たとえば80人が解雇された千葉県船橋郵便局では、配達しきれなかった郵便物が廃棄されたことが問題になった。大量解雇のために人員不足が生じ、月の残業時間が100時間を超える者が続出するありさまだった。

【非正規全体に影響も】

非正規労働者の一律定年制導入は、格差を一層拡大させ、高齢者の貧困化を加速させる深刻な問題だ。控訴審に向け、丹羽さんは闘うという。

「この判決が確定すれば、日本の非正規労働者にものすごい悪影響を与えてしまいます。私たちだけの問題ではないのです。控訴審では絶対勝ちたい」

小泉政権時代、改革の“一丁目一番地”とされた郵政民営化。そのために解雇された大量の人びとは、いわば小泉・竹中改革の直接の犠牲者ともいえるだろう。“改革される側”にとっても、「日本郵政65歳定年裁判」は“一丁目一番地”なのである。

非正規社員への定年制導入は、すべての非正規労働者に影響を及ぼすため、控訴審は見逃せない。

(林克明・ジャーナリスト、7月31日号)