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国会より日米合意先行、本末転倒の政治日程――訪米ありきだった安保法制

2015年5月13日6:46PM

安倍晋三首相は妻の昭恵氏を伴い、4月26日から5月3日まで米国を公式訪問している。28日にはオバマ米大統領との首脳会談に臨み、29日に日本の首相として初めて上下両院合同会議で演説する。

首相に返り咲いた後の一昨年2月の訪米では集団的自衛権の行使検討を伝えたものの、オバマ氏に軽くいなされ、大統領と並んで行なう共同記者会見も用意されなかった。プライドの高い首相が傷ついたのは想像に難くない。名誉挽回は当然として、憲法改正へ向けたもくろみが今回の訪米から透けてみえる。

すべての政治日程は訪米へ向けて進められた。集団的自衛権の行使を認めた安全保障法制の与党協議、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定、環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る日米交渉。三つの懸案事項は一気に進んだ。

だが、日程ありきで物事を進めれば、拙速は否めない。憲法違反が強く疑われる安全保障法制の与党協議は見るに耐えなかった。他国の軍隊の戦闘を後方支援する新法(恒久法)は「国際平和支援法」となり、実際の「戦争支援」とは正反対の名前がつけられた。公明党の北側一雄副代表は、例外のない国会の事前承認が認められて「民主的統制は十分取れる」と胸を張った。

しかし、公明党は自衛隊の活動、期間を限定した特別措置法で対処すべきだと主張していたはずだ。しかも事前承認が必須となったのはこの一法案にすぎず、集団的自衛権の行使や後方支援でも日本の平和と安全に影響のある事態では「原則」国会の事前承認とされ、時の政権の判断次第では事後承認も認められることになった。

特定秘密保護法が施行されている現在、国会の判断に必要な情報が提供される保障はどこにもない。「国際平和支援法」の例だけ取り上げて、「歯止め」になったかのように説明するのは国民を欺く行為にほかならない。

首相訪米に合わせて27日、日米で合意するガイドラインは、安全保障法制を反映し、米軍に対する集団的自衛権の行使を認め、米軍への後方支援も約束した。朝鮮半島有事など日本周辺に限定された対米支援は地球規模へと拡大された。ガイドラインは国会の批准が必要な条約と違って、行政協定なので日米双方の外務、防衛担当大臣がサインするだけで発効する。安全保障法制の国会論議より先に日米で決めてしまい、それより後の5月に法制を国会上程する手順は本末転倒である。

ただ、米国は日本が米軍の世界戦略に積極的にかかわろうとすることを歓迎している。自衛隊が米軍の後方支援をする下働き役になるばかりか、戦闘にまで参加するようになれば、米国の負担は減るのだから当たり前の話だろう。

一方、安倍首相は戦争に巻き込まれる危険を指摘されても「あり得ない」と繰り返すばかりで、その根拠を示さない。自衛隊を戦場へ派遣することになるのに「隊員の安全確保」などできるはずがないのだが……。

【次は改憲に向けて動きだす】

安倍政権が訪米に合わせて政治案件の収束を急いだのは、来年7月の参院選挙後に憲法改正のための最初の国民投票を実施する計画があることと無関係ではない。太平洋戦争後の占領下、米軍の協力でつくられた日本国憲法を改正するには、米国から本格政権と認められる必要があると考えたのではないだろうか。

そして改憲の発議に必要な3分の2の議席を、衆院に続き参院でも与党だけで占めるには、統一地方選挙での与党勝利が欠かせなかった。参院選挙の運動の駒となる地方議員を確保する必要があったからだ。

安倍氏は国レベル、地方レベルでも政治的安定を手土産に万全の体制で訪米したといえる。これだけ条件が揃えば、米国で根強い「歴史修正主義者」との逆風をかわせると考えたのかもしれない。

5月半ばから始まる国会における安全保障法制の議論は、野党の結束と相当な頑張りがない限り、安倍政権のシナリオ通りとなる公算が大きい。そうなれば次は、いよいよ憲法改正の季節を迎える。

(半田滋・『東京新聞』論説兼編集委員、5月1日号)

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