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中国軍艦のレーダー照射への日本政府の対応は整合性を欠く――海上事故防止協定では禁止せず

2013年2月28日5:46PM

 小野寺五典防衛相は二月五日、東シナ海の公海上で護衛艦「ゆうだち」(満載六二〇〇t)が中国海軍のフリゲート「連雲港」(同二二五〇t)から火器管制(照準用)レーダーの照射を受けた事案が一月三〇日発生したことを発表、日本政府は五日中国に抗議した。一月一九日にも護衛艦「おおなみ」(同六三〇〇t)搭載の哨戒ヘリコプターSH60Kがフリゲート「温州」(同三九六三t)から同様のレーダー照射を受けた様子で、操縦席の警報が鳴った、という。

 水上艦は対空監視用や水上監視用レーダーのほか、砲・対艦ミサイル用、対空ミサイル用、対空機関砲用など各種のレーダーを装備している。監視用レーダーは遠方に届くよう、波長が比較的長い電波を、幅広のビームとして出すのに対し、砲やミサイルの照準用レーダーは目標の方位、距離の精密な測定のため、波長の短い電波を細いビームで出し、目標が移動してもアンテナが向きを変えて目標に照射を続けるから、「火器管制レーダーに捕捉されたな」とわかる。軍用機では警報が鳴り、電波がきている方向も表示される。速度違反取締り用レーダーに対する警報器はこれの応用だ。

 幸いすでに六七年も戦争や軍事的対決を経験していない日本では、照準用レーダーの照射を受けただけで、まるで武力紛争が始まったように一面トップで報じられたが、冷戦時代の米ソ海軍は格段に激しい嫌がらせや威嚇行動を日常的に続けていた。公海上で海軍が対峙すれば自ずと意地の張り合いになるものだ。米海軍は強力な空母群をウラジオストク前面などに出し、艦載機の大編隊による攻撃演習を行ない、ソ連海軍はそれに対抗して駆逐艦等に空母の前方を横切らせ艦載機の発着艦を妨害した。海上衝突予防法と同様、国際的規則でも二隻の艦船の針路が交差する場合、相手の左舷を見る船が舵を切って衝突を避ける義務がある。だが空母は風に向かって直進を続けないと発着艦は困難だから、護衛の米駆逐艦はソ連艦の前方に出て針路を変えさせようとする。空母の周囲で多数の艦がせり合ううち、一九六七年には日本海で米駆逐艦「ウォーカー」がソ連駆逐艦と衝突、七〇年には地中海で英空母「アーク・ロイヤル」がソ連駆逐艦と衝突した。

 まるで暴走族のような突っ張り合いはエスカレートし、夜間にサーチライトを相手の艦橋に向けて眩惑したり、失明しかねないレーザー光線を当てたり、砲を向けて脅すとか、はてはソ連爆撃機が機体下面の爆弾倉の扉を開けて米空母の直上を通過することも起きた。この状況下では双方の火器管制レーダーも警戒と威嚇のために相当働いたはずだが、武力行使には至らなかった。湾岸戦争後、米英が宣言したイラク上空の飛行禁止地帯で、イラク軍のレーダーによる照射を受けたとして、米軍機が攻撃した事件があり、「火器管制レーダーの照射は武力攻撃とみなし反撃できる例だ」との論も出るが、この場合、米軍機は攻撃の機会をうかがって、レーダー破壊用の空対地ミサイルを搭載してイラク領空に入っていたもので、公海上の突っ張り合いとは全く異なる。

 米ソの海上でのチキンゲームは一歩誤ると核戦争にもなりかねないため、両国は七二年に海上事故防止協定(INCSEA)を結び、英、仏、独、伊、加などもこれに続いた。日本も九三年にロシアと同様な内容の協定に調印した。この協定は互いの監視行動を認め、衝突防止の方法や事故の場合の情報交換、危険な行為の禁止を定めている。艦船が他方の艦船、航空機に「砲、ミサイル発射装置、魚雷発射管、その他の武器を指向することによる模擬攻撃」や艦橋などへの探照燈の照射、乗員、装備を害するレーザーの使用、意図的通信妨害などが禁じられたが、火器管制レーダーの照射は禁じていない。対決に慣れた米ソはさほど危険と認識しなかったのだろう。

 日中の間でも海上事故防止協定の締結が望ましいが、ロシアとの協定と同一では今回のような事案は防止できない。だがロシアとの協定で禁じていないことを、日中間では危険とするのは整合性を欠き、少々難しい議論になりそうだ。

(田岡俊次・ジャーナリスト、2月15日号)

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