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【中島岳志の風速計】 浅田真央のリアリティ

 東日本大震災から一年がたとうとしている。私が震災を思う時、いつも想起するのは死者の存在だ。私たちは、大切な人の死を喪失と捉える。確かに「その人」の姿は見えない。触れることもできない。しかし、喪失は同時に、死者となった他者との出会い直しなのではないか。

 私は、二年ほど前、大切な友人を亡くした。彼は編集者だった。いろいろなことを話し、掛け替えのない思い出を共有した。彼がいなければ、現在の私は存在しない。

 そんな友人が亡くなった。それからだ。私が原稿を書いているとき、斜め後ろに、彼の気配を感じる。私の主観として、死者となった彼が傍に実在しているのだ。

 特に彼のまなざしが気になるのが、原稿を書き飛ばしている時だ。締め切りに追われ、「まあ、このぐらいでいいだろう」と思いながら書いていると、彼の目線を感じる。一時の言葉にならない会話が始まる。

 私は、彼の存在を通じて、自己と対峙する。そして、原稿を書き直す。彼が生きているとき、こんなことはなかった。しかし、死者となった彼は、私の傍にいる。気づけばそこにいる。そして、私が誤魔化して生きないように、そっと声をかけてくる。

 私は、死んだ彼と出会い直したのだ。私の生を死者となった彼が後押しする。

 最近、とても共感する言葉を耳にした。浅田真央さんのインタビューだ。彼女は母を亡くした。その直後の全日本選手権で優勝した彼女は、「お母さんになんと報告しますか?」と問われ、「一番近くにいる感じがしたので、何も報告しなくても分かってくれると思います」と答えた。

 これは本当の実感が伴った言葉だと思う。彼女にとって、死者となった母はいつも近くに存在する。だから、あえて報告する意味がわからない。

 浅田さんは、予定していたエッセイ本の出版を中止した。〈「ママ、ほんとうにありがとう」何度、ありがとうと言っても足りません〉という宣伝コピーに反発したという。彼女にとって、これほど実感から遠い言葉はなかったに違いない。

 死者と共に生きる浅田さんの素朴な言葉と毅然とした姿は、被災地に届いているはずだ。見えない死者と生きる人々にとって、彼女のリアリティは自らのリアリティと直結する。

 3・11を傍らの死者と共に迎えたい。

(2月24日号)

セクハラと闘う労働組合――パープル・ユニオン結成

「女性であるだけで職場で繰り返される不当な扱いを許さない」とセクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメント、賃金差別などの問題に取り組む、働く女性のための労働組合「パープル・ユニオン」が二月二六日、東京都内で結成総会を行なった。

 執行委員長の佐藤香さんは、「私自身セクハラの被害者。これは個人の問題ではなく社会問題だと気付いた。セクハラが労災申請できることを知らないという声が多い。同じ思いをしている人のためにも組合を通して現状を変えていきたい」などと抱負を語った。

 佐藤さんは北海道の大手通信企業で派遣社員として働いていた二〇〇三年頃、上司からセクシュアル・ハラスメントを受けた。派遣切りを恐れて機嫌を損ねないよう遠回しに拒否すると「お前の代わりはいくらでもいる」と今度はパワー・ハラスメントが始まった。

 心療内科で精神疾患と診断されたが、労働基準監督署では「セクハラの判定は難しい」と労災は不認定。労働局への審査請求も東京の労働保険審査会への再審請求も棄却されたため、一〇年一月に労災不認定の取り消しを求め行政訴訟を提起。労災認定基準を変えるよう議員や厚労省へも働きかけた結果、同年一一月、判決を待たずに国は労災を認定し、一一年二月に休業補償の一部支給を認めた。

 このことがきっかけとなり厚労省はセクハラによる精神疾患を労災と認めるよう認定基準を見直した。これは前進だが、労災認定の判断対象を「発症前六カ月以内の出来事」とする点は変わっていない。発症は初診日とされることが多く、受診前の行為は判断されるが、その後の嫌がらせやフラッシュバックについての考慮がなされないことになる。

 佐藤さんは「まだ改善すべき点がたくさんある。労災の入り口は広がったけれども相談窓口での二次被害もあるし認定後のケアも十分ではない。潜在化していた声をひろいあげていくのがこれからの課題」などと話した。

 同ユニオンは職種や雇用形態を問わず、会社の組合に加盟していても加入できる。団体交渉や裁判などの支援や相談業務を行なう。電話相談は月・水・金の一四時~二〇時 TEL 03・5689・7040

(宮本有紀・編集部、3月2日号)

海側にのみ放射能汚染水遮水壁を建設――馬淵氏は「四方を囲め」

 福島第一原発に溜まっている放射能汚染水問題で、地下水を通じた海への流出を防ぐため、東京電力は昨年一〇月二八日から海側にのみ遮水壁(地下ダム)を造っている。これに対し、昨年六月二七日まで放射性物質の流出を止める遮蔽プロジェクト(後に中長期対策プロジェクト)の責任者だった馬淵澄夫・衆議院議員(当時、首相補佐官)は二月二一日の記者会見(自由報道協会主催)で、原発の四方を囲む必要性を指摘。「うるさく言う人がいなくなったので変わったのでしょう」と話した。

 馬淵氏によると、東京電力や原子力安全・保安院は当初、地下水を通じた流出の可能性はわからないと主張。馬淵氏の指示で「浸透流解析」を実施し、阿武隈山系から原発を洗い流すような地下水流が明確になった。それでも東京電力などは、海側だけの敷設で地下水との水位がなくなれば漏れないと主張したという。馬淵氏は「このときはさすがに声を荒げた。水の動的な流れがなくても、放射性物質が拡散していくことは誰でもわかる。四方を囲んでから地下水を吸い上げて乾燥させ、土地の表面を固めれば海に漏れることはない。補佐官を辞める直前まではそれで進んでいた」「(当時、建設をしぶった)最大の理由は工費だった」などと話している。

 一方、東京電力は昨年一〇月二六日、遮水壁の陸側への設置は「効果がない」として見送るとした。もしカネのために放射性物質の拡散防止に手を抜いているのであれば「体質」はまったく変わっていないと言わざるをえない。

 また会見で馬淵氏は「(五月一二日に)東京電力が発表するまでメルトダウンは知らなかった。このときは辞表を叩きつけようと思った」とも話しており、東京電力の隠蔽体質を具体的に批判した。

(伊田浩之・編集部、3月2日号)