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ブラック企業大賞受賞の電通、書類送検へ

ブラック企業大賞を受賞した電通には賞状とトロフィーが贈られた。(写真/斉藤円華)

ブラック企業大賞を受賞した電通には賞状とトロフィーが贈られた。(写真/斉藤円華)

ブラック企業大賞2016(同実行委員会主催)の授賞式が昨年12月23日に都内で開かれ、大賞に広告代理店最大手の電通が選ばれた。授賞式に受賞各社の姿はなかった。

同社は2015年12月、入社わずか1年目の高橋まつりさんが過労自殺。ところが同社は1991年にも入社2年目の男性社員が過労自殺し、さらに13年6月には30代男性社員が過労死を遂げている。しかし「鬼十則」に代表的な社内風土、過酷で人権侵害的な労働環境を放置し続けたことが授賞理由とされた。

日本郵便は正規職員と非正規職員との著しい待遇格差に加え、職場に年賀はがきの自爆営業やパワハラなどが蔓延しているとして特別賞を受賞。同社は2位にダブルスコアを付ける5967票を獲得し、ウェブ投票賞も受賞した。

続くシンポジウムでジャーナリストの水島宏明氏は、「電通事件のテレビ報道ではNHKを除いて怯んでいるのでは」「ブラック企業が民放のスポンサーだったり、メディアも電通と似た労働環境だったりする」と指摘した。

電通の同大賞受賞はニュースサイトに加えて大手メディアではNHK、『産経新聞』も報道。12月28日になり東京労働局は電通と幹部社員を労基法違反で書類送検し、これらを受けて石井直社長は引責辞任する意向を表明した。

(斉藤円華・ジャーナリスト、1月13日号)

パリ協定第1回会議報告――日本への批判高まる

今年、北極の氷が過去最少となり、地球温暖化の進行は明らかだ。史上初すべての国が参加する地球温暖化に対する国際的枠組みを決めるパリ協定の第1回会議が11月モロッコで行なわれた。日本は先進国で唯一のオブザーバー参加。一体現地ではどんな話がされていたのか。日本の外交、企業の経営活動にどんな影響をもたらすのか。ワールドウォッチ研究所と市民団体との共催で、パリ協定の意味を問う院内集会が、12月8日衆議院第2議員会館で行なわれ、福山哲郎(民進)、吉川はじめ(社民)議員のほか、現地を訪ねた武田良介(共産)秘書など超党派の議員やメディア関係者が集まった。

現地取材した井田徹治共同通信編集委員は、「ジャパンパッシング(無視)が深刻」として「私は90年代から環境の国際会議に参加していますが、今回は日本の代表団の発表を聞いていたのは数人。中国の発表団には黒山の人だかりですから、いかに日本への注目が下がっているかがわかります。日本に対しては環境NPO団体から化石燃料に依存する国という不名誉な賞をもらったぐらいしか話題がありませんでした」と語った。

パリ協定で決めた産業革命以降平均気温上昇2度未満を目標にする合意を実現するためには、石炭石油の8割は燃やせないが、日本は脱炭素化の流れに逆行。安倍政権は石炭火力発電所を原発20基分建設計画する。世界的に石炭事業に対する投融資の撤退(ダイベストメント)が進む中、丸紅が765億円で買収したカナダの石炭鉱山を110円で売却するなど、大手商社が損失を出している。

90年から環境問題に取り組み、欧米9都市を取材した環境ジャーナリストの村田佳壽子さんは「パリでは2020年までにすべてのディーゼル車を廃止し、イタリアのロンバルディア州では公共バスの4分の3が天然ガスにするなどの転換が行なわれている。地球温暖化は経済の問題でもある。日本社会も転換しなければ」と語った。

(増山麗奈・ジャーナリスト、12月23日号)

平和・協同ジャーナリスト基金賞大賞は『毎日』

第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者。(写真/斉藤円華)

第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者。(写真/斉藤円華)

第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞の贈呈式が12月10日、日本記者クラブ(東京)で行なわれた。大賞には、憲法や沖縄米軍基地、原発などの問題を精力的に取り上げたとして、『毎日新聞』夕刊編集部の「特集ワイド」が選ばれた。

同記事はジャンルを問わず「人だかりのしている話題」を扱うのが特徴。事件ネタや、SMAP解散報道に落胆したファンの「スマロス」克服法といった芸能ネタなども取り上げる。その一方で、昨年から今年にかけては安保法制や復古色の強い自民党改憲草案、原発再稼働といった硬派な話題にも紙面を割き、「政治の暴走」に物申す姿勢を貫いた。

受賞スピーチで、『毎日新聞』夕刊編集部の平野幸治部長は「私は戦闘的ジャーナリストではないが、最近の社会情勢には記事の量を傾斜せざるを得ない。夕刊離れが進む中、どう書けば読者に届くか、工夫を常に考えている」と述べた。

奨励賞に選ばれた7点の内、漫才コンビのおしどりマコ・ケンさんは、原発問題での情報発信が評価された。登壇したマコさんは、本番の漫才さながらに相方のケンさんの合いの手を交えて笑いを取りつつ「(市民の寄付で運営される本賞は)私たちに似ている所がある。私たちもご祝儀をいただいて5年、6年と取材しているが、一番ご祝儀を下さるのは(原発事故)被災地の方々だ」と話した。

(斉藤円華・ジャーナリスト、12月23日号)

貧困による子どもの健康格差、数字で明示

シンポの討論に臨む、左から和田、近藤、五十嵐の3医師。(写真/小宮純一)

シンポの討論に臨む、左から和田、近藤、五十嵐の3医師。(写真/小宮純一)

12月4日、第2回「貧困と子どもの健康シンポジウム」が東京・文京区の東京大学医学部で開かれ、医師、学生、市民ら約180人が参加した。健和会病院(長野県・飯田市)副院長で小児科医の和田浩さん(60歳)が中心となって企画している。

午後からのシンポジウム「小児科学は子どもの貧困にどう取り組むか」では、五十嵐隆さん(前小児科学会会長)、近藤克則さん(千葉大学予防医学センター教授)ら3氏が、貧困が子どもの健康に及ぼす影響や、それが数十年後の高齢期にも影響することをさまざまなデータで「根拠」として実証的に示した。

特に、今年9月にNHKスペシャル「健康格差」に出演、大きな反響を呼んだ近藤さんは、閉じこもり高齢者、男性の糖尿病罹患率、新生児の低出生時体重、妊婦の疾病率、うつ症状の発症相対リスクなどの指標と貧困状態には明らかな相関関係があることを数字で明示した。

その上で、近藤さんは、「疾患の研究と同様に、貧困と健康格差、社会的排除の研究も、症候学→病理診断→治療というプロセスで進む。さらに研究を進め、治療方法=解決・援助のための提言、施策につなげる戦略を、いわば“処方箋”として社会的に示す責任が医学にはある」と訴えた。

(小宮純一・ジャーナリスト、12月16日号)

中国「残留孤児」勝訴10周年――国の責任で真の救済策を

「戦後民主主義が問われている」と、神戸大学の浅野慎一教授。(撮影/たどころあきはる)

「戦後民主主義が問われている」と、神戸大学の浅野慎一教授。(撮影/たどころあきはる)

「日本人として、日本の地で、人間らしく生きる権利を」と、中国「残留孤児」たちによる国家賠償請求訴訟の神戸地裁勝利判決から10年。その記念集会が12月4日、神戸市内で行なわれ、全国から約260人が集い、「残された課題は多い。全国的な団結強化で国の責任を明確にし、真に帰国してよかった、と言える諸施策の拡充を」と、決意を新たにした。

同種の訴訟は当時、国を被告として全国15地裁、約2200名の原告で闘われたが、原告65名の関西訴訟(神戸地裁)が唯一の勝利判決。平和と民主主義、基本的人権の擁護を謳う憲法理念に照らして、国が事実上、様々な制限を設けて帰国を妨害した早期帰国実現義務違反、帰国後の日本語習得、就職あっせんなどの自立支援義務違反は明白として、国に損害賠償と責任ある救済策を命じている。

世論の高まりの中で、当時の第一次安倍政権は、大阪高裁に控訴する一方、全国の訴訟取り下げを条件に、老齢基礎年金の満額支給、支援給付金制度の創設などを提示して、幕引きを図った。兵庫の原告団、弁護団では、国の謝罪もなく、責任も不明確で、支援策の対象も呼び寄せ家族を除外するなど限定的と、拒否する声が圧倒的であったが、帰国者の高齢化と生活困窮度が高まる中で、全国からの要請を考慮して「苦渋の選択」として、この新支援策を受け入れた。

十数年にわたる旧満州(現中国東北部)での現地調査の成果を、書証として提出し、勝訴に貢献した神戸大学の浅野慎一教授夫妻は、「みんな同じ、誤った国策の犠牲者」として、「新憲法下での国の責任を明確にし、医療・介護や共同墓地の建設、帰国2世、3世なども含む総合的な問題解決を」と強調してやまない。

記念集会では帰国者による朗読劇『私たち“なに人”ですか』が上演され、感動を呼んだ。

(たどころあきはる・ジャーナリスト、12月16日号)

医療過誤問題でシンポジウム――不十分な医療事故調査制度

制度の改善点を述べた医療事故被害者の家族や遺族たち。(撮影/渋井哲也)

制度の改善点を述べた医療事故被害者の家族や遺族たち。(撮影/渋井哲也)

病院で患者が“医療事故”で死亡した場合、第三者機関に届け出る「医療事故調査制度」ができて1年が過ぎたが、遺族に十分な情報を開示していないなどが指摘されている。そんな中、医療事故被害者の遺族や家族たちは12月4日、東京都内でシンポジウムを開いた。主催は「医療過誤原告の会」(宮脇正和会長)。

同制度では医療事故の定義は「予期せぬ死亡または死産」だ。重度の後遺障害は含まれない。疑いがある場合、病院内では緊急会議が開かれる。「予期せぬ死」と判断されると、第三者の「医療事故調査・支援センター」(以下、センター)に報告する。

院内調査は外部委員が関わることが望ましく、調査結果はセンターと遺族に説明される。その内容に納得しない遺族は、センターに再調査を求めることができる。

1年間でセンターに報告されたのは388件。当初想定された2000件に満たない。医療機関の自主性に任されているためだ。

2010年から14年にかけて、腹腔鏡手術を受けた患者8人が死亡した群馬大学医学部附属病院の事故で調査委員会のメンバーだった隈本邦彦・江戸川大学教授は「医療界には、事故の原因分析をすると責任追及につながるのではないか、また分析をしても再発防止につながるのか疑問という考えがあるのではないか」と述べた。

6月に制度が改善され、遺族用にセンターの窓口ができた。遺族からの情報を病院に提供するが、報告を求める権限まではない。宮脇会長は「制度が本当に機能するかは、国民の監視にかかっている」と主張した。

1999年に東京都立広尾病院で、看護師が点滴時に血液凝固阻止剤と消毒液を取り違えたために妻が死亡した永井裕之さんは「センターの権限強化をしないとうまくいかない。みんなで育てていこう」と呼びかけた。

(渋井哲也・ジャーナリスト、12月16日号)

南京大虐殺の記憶語り継ぐ集会、全国11カ所で開催――来日中国人講演者に入管圧力

大阪集会で講演する南京大虐殺記念館の朱成山名誉館長。(撮影/平野次郎)

大阪集会で講演する南京大虐殺記念館の朱成山名誉館長。(撮影/平野次郎)

中国侵略の旧日本軍による南京大虐殺(1937年)の記憶を語り継ごうと、市民団体の「南京大虐殺60カ年全国連絡会」が南京大虐殺紀念館の朱成山名誉館長を招いて12月2日から15日まで全国11カ所で講演会を開いた。ところが朱さんが福岡空港に着いた2日、福岡入管で事情聴取され目的外の活動をしないとの誓約書を取られた。何回も来日しているが、こんな扱いは初めてという。昨年、「南京大虐殺の記録」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産に登録され、これに反発した日本政府がユネスコの分担金支払いを留保していることが背景にあるようだ。12日名古屋、15日東京の両集会では、右翼による妨害もあったが大きな混乱はなかった。

南京大虐殺の生存者を招いた証言集会は94年から開かれ、昨年までに延べ約60人が来日。だが証言者の高齢化で来訪が難しくなり、今年から証言者のビデオに切りかえた。紀念館から提供された17人のビデオに日本語の字幕を付け、現在の南京市の様子を撮影するなどして2人のビデオを編集した。こうした証言者の人選やビデオの提供について中国と日本の橋渡しをしてきたのが、昨年まで紀念館長を務めた朱さんだ。

10日の大阪市内の集会では、南京在住の夏瑞栄さん(94歳)がビデオで、祖父が日本兵に銃剣で刺殺され自身も頭に刺傷を負ったことを証言した。講演者の朱さんは、「01年に小泉純一郎首相(当時)が靖国神社を参拝したことから中国各地で抗日デモが起きたが、南京市民は日本人が紀念館を訪れて歴史を知ろうとする姿をテレビの報道で知っていたから南京ではデモが起きなかった」と述べ、民間の草の根運動の大切さを訴えた。一方、日本政府に対しては「ユネスコの分担金を払わないのは、お金で圧力をかけようとするもので世界の笑いものだ」と厳しく批判した。

(平野次郎・フリーライター、12月23日号)

池田名誉会長の容態など質問――元創価学会職員が会見

日本外国特派員協会で会見する元創価学会本部の職員たち。(撮影/本誌取材班)

日本外国特派員協会で会見する元創価学会本部の職員たち。(撮影/本誌取材班)

平和を掲げる公明党がなぜ、安保法制を容認しているのか。日本国内だけでなく、海外から見ても疑問を持たれる状態だ。

そんな中、元創価学会職員の小平秀一さん、滝川清志さん、野口裕介さんは、安保法制を容認する公明党を支援しつづける創価学会本部執行部に異を唱えている。彼らの『実名告発 創価学会』(金曜日)刊行を機に12月8日、東京・日本外国特派員協会で会見を行なった。

滝川さんは安保法制を「創価3代(初代会長・牧口常三郎、第2代会長・戸田城聖、第3代会長・池田大作)の師匠が命懸けで築いてきた平和闘争の歴史と絶対平和の思想を破壊」するものとし、創価学会本部の独裁化や池田名誉会長を利用する実態を批判。自身らの懲戒解雇、学会からの除名もその一つの表れであると説明した。

会場のマイケル・ペンさんからは、なぜ公明党の基本的な理念が変わってきたのかという質問がされた。これに対し、小平さんは「公明党が与党に14年あまりいることで既得権益のようなものが発生しているのではないか」と述べた。

日本外国特派員協会のアズハリ会長は池田名誉会長の容態について質問。野口さんは「2010年6月から公の会合には出ていない。今は重要な判断ができない状態なのだろうと思っている」と答えた。また、彼らが定期的に行なっている東京・創価学会本部前でのサイレントアピールが12月11日、開催された。参加者は約50名。前回は創価学会本部の主要施設は休館だったが、この日は広宣流布大誓堂で学会員向けの会合が開かれていた。このため、「安保法制に反対の声を上げる会員を処分するな!!」などの彼らのアピール文が、多くの学会員の目に触れた。

しかし、通常開かれている信濃町駅に近い南門は閉じられ、南門より小さい北門だけが出入り口として利用されていた。

(本誌取材班、12月23日号)

NHK経営委員会は全会一致で新会長を選出――「籾井再任」阻止した市民の声

NHK会長の選任機関である経営委員会は12月6日の会合で、続投に執着した籾井勝人現会長を再任せず、現経営委員兼監査委員の上田良一元三菱商事副社長を、全会一致で新会長に選出した。

今回、NHKの政治権力からの自立をまったく理解しない妄言を確信犯的に繰り返してきた籾井氏の再任など、常識的にはあり得なかった。

籾井氏が再任されなかった最大の要因を挙げるとすれば、それは視聴者、市民の良識だ。全国の21の市民団体は8月11日から連名で、(1)籾井現会長を絶対に再任しない(2)会長選考過程に視聴者・市民の意思を広く反映させるよう、会長候補の推薦・公募制を採用する――等を要望事項とした賛同署名を呼びかけ、12月6日までに6次にわたって累計3万5582筆の署名簿を経営委員会に提出した。

また、視聴者の「メッセージ」も、署名簿に添えて経営委員に届けた。そこには、「私たちは、ずっと正しい情報を伝えられてこなかったのではないか、いつも政府のフィルターを通しての情報しか得られていなかったのではないか。それにメディアは奉仕してきたのではないか」(兵庫県)、「報道の果たすべき役割はとてつもなく大きく、時代を変える力を持っています。それだけに、責任も重大です。報道機関としての誇りをどうかかなぐり捨てないでください。権力に自分を売り飛ばすな! 人間であり続けて!」(埼玉県)といった、NHKのみならず報道機関全般に対する期待と批判が熱く込められていた。

こうした市民の訴えが、「籾井不再任」をもたらした要因の一つであることは間違いないだろう。

一方、次期会長に上田氏が選任されたことについて、「4代続けて財界出身の会長」「経営委員から会長を選ぶのは異常」といった指摘がある。出身母体からして、財界人の資質と公共放送のトップに求められる資質には、利益相反があるとする見方も否定できない。

【上田新体制に突きつけられた課題】

この点は、会長就任会見で上田氏がどのような抱負を語るのか注視されよう。ただ、経営委員から会長への転任は先例のない「異例」の人事ではあるが、「異常」と断定するのは早計だ。

それよりも、上田氏がこの5月に函館市で開かれた視聴者と語る会で次のような発言をしたことに注目したい。

「受信料は、契約を締結する義務は法律で定められていますが、支払い義務は負っていません。支払いを義務化するということは、『支払いの義務を負わせて、支払わない人に対して罰則を設ける』ということであり、国の力で受信料を徴収するということになりますので、国の影響が及んでくるという懸念があります」

「放送、ジャーナリズムが国家権力に追随するような形というのは、必ずしも望ましい形ではありません」――

こうした姿勢が今後貫かれるかどうかを、引き続き視聴者、市民は監視する必要がある。さらに、籾井現会長が退場した後の、NHK職員の自立と矜持にも注視したい。

前出の「メッセージ」の中には、「NHKはジャーナリズムの目的『権力の監視』を怠っている。というか、自分たちが権力者になってしまっている。あんな会長になぜ内部から立ち向かわないのでしょうか。つまらないエリート集団になって堕落しています。自ら会長を追い払う気概を見せて下さい」(東京都)という一文がある。

NHKが本当に「国家権力に追随しない」「ジャーナリズム」になれるのかどうかが、今こそ問われている。これからは、もう「会長が籾井さんだから」という言い訳は通らない。NHK職員の一人ひとりが、予想される政府・与党の介入や圧力にどう対処するのか、そこで「人間であり続け」られるのかどうかという問いかけが、上田新体制の下でも視聴者、市民から厳しく突き付けられていくだろう。

(醍醐聰・東京大学名誉教授、本誌取材班、12月23日号)

“解散狙い”露呈で足元を見られた日露首脳会談――“食い逃げ”で得をするのは

杉浦敏広氏。北海道延伸ならシベリア鉄道の一部となるサハリンの鉄道で。(提供/横田一)

杉浦敏広氏。北海道延伸ならシベリア鉄道の一部となるサハリンの鉄道で。(提供/横田一)

日露首脳会談を終えた安倍晋三首相とプーチン大統領は12月16日、共同記者会見で「北方4島での共同経済活動の実現に向けた協議開始で合意」と発表したが、北方4島返還交渉の具体的進展はなかった。そのため、自民党の二階俊博幹事長が「国民の大半はがっかりしている」とコメントするなど、期待外れの結末となった。国益がぶつかり合う領土交渉を「プーチン大統領との信頼関係で乗り切れる」と高をくくった安倍首相の完全敗北といえるだろう。

元経産官僚の古賀茂明氏は、「ロシア側に『北方領土解散狙い』と手の内をばらした時点でダメです」と一刀両断。「安倍政権が北方領土返還を総選挙の目玉にするのなら、思いっきり要求レベルを上げて金を引き出そう」とロシア側に足元を見られたためで、これにトランプ米大統領誕生の誤算も重なった。「これまではG7によるロシア経済制裁の一角を切り崩すとして日本に譲歩しようとしていましたが、ロシアに好意的なトランプ大統領当選で状況が一変、急いで北方領土問題を決着させる必要がなくなった。日本側はさらに不利な状況に追い込まれ、当分は様子見をすべきです。そして『日本は急いでいないが、ロシアは急いでいる』という状況になるまで待つことが重要なのです」(古賀氏)。

元サハリン駐在の商社マンの杉浦敏広氏(環日本海経済研究所・共同研究員)も、同じ見方をしていた。「原油価格上昇と共にプーチン大統領の権力基盤は強化されましたが、原油安に転じたことからロシアの準備基金は激減、『2017年中頃にはゼロになる』のが確実視されていました。ロシアが財政危機に陥って日本に救いの手を求めてくる時まで待っていれば、良かったのです」。

しかし安倍首相は、「12月の日露首脳会談で北方領土交渉の目途をつけて解散に打って出る」と目論見、それがロシア側にも分かってしまったので、高いハードルを突きつけられてたというわけだ。

【自民党の利益誘導進む!?】

安倍首相に助言するなど北方領土問題で連携したのが、鈴木宗男・新党大地代表。メディアで頻繁に「2島先行返還+α」を現実的な落とし所と発信、官邸の広報宣伝役として尽力していた。その結果、「経済協力先行」というロシアに“食い逃げ”を許す片棒を担ぐことになった。経済協力先行に、ロシア極東発展省のシェラハエフ極東投資輸出局長が反応していた。ロシア側が要求していた「シベリア鉄道北海道延伸」(推計1兆円)と「天然ガスパイプライン敷設(サハリン~東京湾)」(推計7000億円)について、「『実現の可能性は大きい』と期待を込めて話した」(『読売新聞』12月17日付)というのだ。両事業で約2兆円にも及ぶ大型事業案件である。

しかし杉浦氏は、「サハリン島最南端のクリリオン岬から北海道最北端の稚内までトンネルを建設したり、架橋したりする構想ですが、物流がないのにトンネルや架橋をしても無意味」と採算性を疑問視、「もう少し冷静な議論が必要です」と釘を刺していた。

「天然ガスパイプライン」については、自民党国会議員がメンバーの「日露天然ガスパイプライン推進議員連盟」がロシア側と連携するかのように動き出していた。11月にまとめられた提言・要望書によるとサハリンから稚内(北海道)・むつ小川原(青森)・日立(茨城)を経て東京湾に至る1500キロに天然ガスパイプラインを設置する構想になっており、建設費は7000億円だった。しかし杉浦氏はこう指摘する。「日本では土地代が高い。『鉄道や高速道路の下に敷くといい』という人がいるが、設置工事は30メートル位の幅で、堀った穴に重機が入ってパイプを設置する大規模工事。想定より工事費が膨らむのは確実で、沿岸に海底パイプラインを建設する方が総工費は遥かに安いでしょう」。

結局、北方領土返還交渉が進展しないまま、日露経済協力事業だけが先行、ロシア側の“食い逃げ”と自民党の利益誘導が進む事態が想定されるのだ。国会審議などでの徹底的な検証が不可欠だ。

(横田一・ジャーナリスト、12月23日号)