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米国政界と「議論のテーブルに着けた」辺野古新基地の代替案

提言内容を説明するND評議員の元沖縄タイムス論説委員・屋良朝博氏。東京・千代田区。(写真/小宮純一)

沖縄・辺野古への新基地建設を止めようと、日本の民間シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」が米ワシントンを訪れ、米連邦議会関係者らに提言した海兵隊の運用を見直す代替案の報告会が8月29日、東京・千代田区内で開かれ、市民ら約90人が参加した。ND事務局長の猿田佐世弁護士は「米国務省職員や米議会上・下院補佐官などに接触でき、初めて軍事に関する議論のテーブルに着けた感触を得たのが最大の成果」と述べた。

「辺野古が唯一の選択肢ではない」として、NDが政策提言したのは(1)在沖米海兵隊の前方展開部隊「第31海兵遠征部隊(31MEU)」の拠点を沖縄以外に移転(2)アフガン攻撃、イラク戦争で、国際問題は武力では解決できない現実を受け止めた米政府が、米軍を使って貧困や格差の解消に取り組んでいることや、自衛隊も頻繁に国内外の災害救援に出動している現実から日米合同の任務部隊「日米JOINT MEU for HA(人道支援)/DR(災害支援)」を常設(3)同部隊のアジア全域をエリアとする連絡調整機能を沖縄に置く―など。

辺野古が唯一ではないことを、「米国発」の形で日本政府に逆提言させることを目指す新たな挑戦だ。普天間基地移設問題に対する代替案として、今後はコスト面でもND案の有利性を示していくことが課題だろう。

(小宮純一・ジャーナリスト、9月8日号)

大型風力発電による健康被害リスクを複数の団体や識者が警告

北海道石狩市では新港地区に46基もの大型風力発電所計画が集中し、低周波音によって小樽市や札幌市を含む広範囲で健康被害が発生するという予測もある。

市民団体「石狩湾岸の風力発電を考える石狩市民の会」の会員は、7月下旬、4基の着工を確認。8月20日には札幌からの参加者を含む市民約30人が参加して石狩市中心部でデモを行ない、風車による健康被害のリスクを訴えた。

北海道自然保護協会も、8月9日、札幌市長宛に要望書を提出。札幌市として独自に低周波音の調査を行なうほか、被害が出た場合の対応について事業者と事前に協議すること、協議会には市民代表を参加させることなどを求めた。

日本社会医学会は、8月19日、北海道医療大学で「北海道のエネルギー問題と健康」をテーマにシンポジウムを開催。北海道大学の研究者3名が講演を行なった。

環境創生工学部門教授の松井利仁氏は、日本では健康影響を考慮せずにエネルギー政策が決定され、公害事件後も経済的利益が判断根拠になっていると批判。有機水銀説を否定して対応が遅れた水俣病と、風力発電の低周波音問題の類似性を指摘した。

情報科学研究科教授の北裕幸氏は、家庭で利用されるエネルギーの用途は冷暖房や給湯、調理などの熱利用が過半数を占めているのに、それらを主に電力として供給している点を指摘した。

大気環境保全工学研究室助教の山形定氏は、発電時に発生する熱も無駄なく利用する小型の木質バイオマスガス化発電の例と、再生可能エネルギー固定価格買取制度によって大量の木質バイオマス発電所が稼働し、間伐材の価格が上昇している問題を報告。間伐材から作る家畜の敷料の価格高騰、過剰伐採による森林資源の枯渇も懸念されているという。

「経済ベースでエネルギー問題を考えるのではなく、地域住民が主体となって事業を行なう必要がある」と山形氏は考えている。

(加藤やすこ・ジャーナリスト、9月8日号)

“加計学園の認可は違法で無効” 法律家ネットワークが法的問題点を明示

「獣医学部新設の認定は違法」と指摘する梓澤弁護士(右)と中川弁護士=8月30日、衆院第一議員会館で。(撮影/片岡伸行)

「加計学園の獣医学部設置を国家戦略特区として認定したのは違法であり、無効である」――。

愛媛県今治市で来年4月開設に向けて建設工事が進む学校法人加計学園(本部・岡山市、加計孝太郎理事長)の獣医学部新設をめぐり、「加計学園問題追及法律家ネットワーク」の共同代表、梓澤和幸弁護士と中川重徳弁護士が法的な問題点を明らかにした。

同ネットワークは8月7日、安倍晋三内閣総理大臣と梶山弘志規制改革担当大臣宛に「質問状」を、林芳正文部科学大臣と大学設置・学校法人審議会に「要望書」をそれぞれ提出。約100人の弁護士、法律家がこれに賛同した。

梓澤、中川両弁護士は8月30日、東京・永田町の衆議院第一議員会館内で開かれた民進党「加計学園疑惑調査チーム」のヒアリングに招かれ、この「質問状」と「要望書」の内容に沿って法的な問題点を整理する形で説明した。

梓澤弁護士はまず、「獣医学部新設はあくまで例外であり、原則は設置しないということ」とし、「文科大臣の告示によって『医師養成、歯学部、船員養成学部』など国民の命に関わる大学は設置しないというのが原則」であり、そこに挙げられている職業は「いずれも国民の健康・安全に関わり、多額の公的援助(税金)が投じられ、やたら作られてしまっては質低下の弊害が大きいからだ」と指摘。「それを例外として認めるときは『石破4条件』を満たすかを審査することが閣議決定(2015年6月30日)された。ライフサイエンスなど新たに対応すべき需要があり、かつ既存の獣医学部ではできない人材養成でなければならないということである。既存の大学がライフサイエンスなど要求される質と数の人材養成ができるかできないかを判断するべきだ。そのためには、各大学にヒアリングが必要だが、一切行なわれていない。公表されている資料では4条件を満たしているかどうか検討し、審査した形跡もない」と述べ、国家戦略特区ワーキンググループでの浅野敦行文科省専門教育課長(当時)の発言(16年9月16日)などを示した。

その上で、梓澤弁護士は、「4条件を閣議決定した以上、総理大臣も文科大臣も規範的に拘束される。閣議決定の要件を検討せずになされた安倍首相による区域計画認定(2017年1月20日)は、閣議決定の方針に基づいて指揮監督することを定めた内閣法第6条および4条に違反するもので、最高裁判決(07年12月7日)によれば明らかに裁量権の逸脱・濫用で違法であり、無効ということになる」と述べた。

【4条件審査せずに認可したら違法】

中川弁護士は国家戦略特別区域基本方針(14年2月25日に閣議決定)に照らして「手続き上の瑕疵があり、違法だ」と指摘した。

同基本方針には「運営に係る基本的な事項」として、〈公平性・中立性を確保〉するために〈直接の利害関係を有する議員については、当該事項の審議及び議決に参加させないことができる〉とある。

それを踏まえ、中川弁護士は、「加計理事長ときわめて親しく飲食を共にする関係にありながら、安倍首相は16年10月4日(第24回)、同年11月9日(第25回)、17年1月20日(第27回)の諮問会議に参加し、『実現に向けた議論を加速』するよう指示したり(第24回)、『私と一緒にドリルの役割をお願いしたい』(第25回)などと発言し、最終的に加計学園の獣医学部新設の区域計画を認定した。これは基本方針に適合せず、違法なものだ」と述べた。

梓澤弁護士はまた、「このまま大学設置審や文科大臣が4条件を満たしているかどうかを審査せずに設置認可をしたとすれば、それも違法・無効となる」
とした。

民進党の山井和則国対委員長は「この間、安倍首相と加計理事長は14回の会食と4回のゴルフをやっているズブズブの利害関係者。首相がこの決定に参加していること自体が国家戦略特区法違反になる」と指摘。両弁護士も「公正さは担保されない」と応じた。

(片岡伸行・編集部、9月8日号)

福島原発事故刑事訴訟への「印象操作」払拭するパワポ公開

9月2日、東京・芝浦の田町交通ビルで「東電元幹部刑事裁判が始まった! 9・2東京集会」が開かれた。

福島原発刑事訴訟支援団と福島原発告訴団が共同で主催したこの日の集会の最大の目的は、報道やネットを通じて再三流される「津波は防げなかったのだから、罪には問えない」「検察が起訴できなかったのに、有罪にできるわけがない」といった類いの「印象操作」を否定・払拭することだった。

集会では、同告訴団の弁護団を務める海渡雄一弁護士がパワーポイントを使い、6月30日に開かれた初公判で明らかになった事実を解説。2006年以降、東電社内では10メートルを超える大津波への対策が検討され、09年6月までにその対策を完了させる計画があった事実や、その後、この計画が先送りされて葬られた事実。そして検察や政府事故調査委員会はこうした事実を把握していながら隠蔽し、不起訴処分としていた事実などが紹介され、海渡弁護士は「このパワポのデータは皆と共有する。これを使って誰でも説明できるようになってほしい」と訴えた(パワポのデータはURL https://shien-dan.org/20170902action-report/で公開中)。

同告訴団の刑事告訴が東京地検で不起訴処分とされた際、同告訴団側は担当検事から「防潮堤は南側だけに作る計画で、たとえ作っていたとしても事故は防げなかった」「防潮堤の完成予想図もなかった」などと説明されていた。だが初公判では、原発の敷地を取り囲む防潮堤の立体図が登場。検事の説明が虚偽だったことが判明している。ここにきて同原発事故は「捜査結果隠蔽事件」の様相を呈してきた(この隠蔽についての詳細は海渡氏らの共著『強制起訴 あばかれた東電元最高幹部の罪』〈Kindle版・金曜日〉参照のこと)。

(明石昇二郎・ルポライター、9月8日号)

「安倍9条改憲に反対」全国市民アクション結成 3000万人の署名目指す

9月4日の記者会見。左から福山真劫さん、渡辺治さん、菱山南帆子さん、清水雅彦さん、佐高信さん、高田健さん。(撮影/文聖姫)

安倍政権の改憲への動きを阻止するための行動、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」(以下、アクション)が9月8日のキック・オフ集会(東京・なかのゼロホール)を皮切りにスタートする。それを前に、アクションの取り組み趣旨と方針を説明する記者会見が4日、東京・千代田区の衆議院第一議員会館で行なわれた。

安倍晋三首相は5月3日、第19回公開憲法フォーラムにビデオメッセージを寄せ、「9条1項、2項は残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と提起した。戦争法や共謀罪の強行採決、森友・加計問題などで政権の基盤は揺らいでいるものの、「安倍首相の『9条明文改憲』への決意は変わっていない」と、平和フォーラム・原水爆禁止日本国民会議代表の福山真劫氏は述べる。

衆参両院で改憲派が3分の2を占める間に改憲日程が本格化することが想定される。その動きを食い止め、「改憲にノンと言い、それをストップさせよう」と、終戦記念日の8月15日、有馬頼底(臨済宗相国寺派管長)氏ら19人が発起人となって広く運動への参加を呼びかけた。会見で評論家の佐高信氏は、ジャーナリストの田原総一朗氏が、「憲法を破壊する『壊憲』は絶対に阻止しなければ」と発起人の1人を二つ返事で引き受けてくれた、と語った。

今回のアクションには、これまで呼びかけ団体への加盟を控えてきた「9条の会」も実行委員会に加わった。「改憲に立ち向かうため、方針を転換した」と一橋大学名誉教授の渡辺治氏。

主な取り組みは、「改憲」発議を阻止するための署名運動だ。来年6月の通常国会発議を予測し、そこに焦点を合わせる。全国で3000万筆の署名が目標で、キック・オフ集会から開始される。

8日のキック・オフ集会には多数の発起人も参加。松元ヒロさんのライブも。

(文聖姫・編集部、9月8日号)

小池知事特別秘書、年収1400万円だけでなく「運転手つき専用車」通勤まで明らかに

情報公開の推進を看板にしている小池百合子東京都知事だが、その看板も色あせはじめた。去る8月25日のこと、筆者は小池知事を質すべく定例記者会見に臨んだ。

「知事特別秘書(特別職の常勤職員)に年間1400万円もの給与・手当を支給することは妥当か。また運転手つきの専用車で通勤させていることに都民の理解が得られると考えるか」

そう質問しようと手を上げたが知事は一顧だにせず、ついに一方的に会見を打ち切った。「知事お願いします」と声をかけると小池知事はうなずいただけで立ち去った。ほかにもいくつか手が上がっていたが無視した。

記者クラブに加盟しているメディアなど気心の知れた記者だけの質問に答え、都合が悪そうな記者には質問自体をさせない。「情報公開」を装った情報操作ではないか。そんな印象を抱いた一幕だった。

月額70万6000円、地域手当と期末手当を入れて年間1400万円という特別秘書の支給額を都が公表したのは、この会見の2日前の23日のことだ。その公開に至る経緯も「情報公開」に積極的とはとてもいいがたい。

知事特別秘書として小池知事は昨年8月、都民ファーストの会代表(当時は幹事長)の野田数氏と元『読売新聞』記者の宮地美陽子氏を採用した。政党代表者を職員に雇うことに疑問を感じた筆者は、今年6月、給料や手当の額はいくらか、秘書課や人事課に問いあわせた。返ってきたのは次の言葉だ。

「個人情報だから明らかにできません」

都の条例では、特別秘書の給与額は「任命権者が知事と協議」して決めるとある。つまり給料額は知事に一任されている。その額がなぜ個人情報なのか。納得できない筆者は情報公開請求を行なった。出てきたのは真っ黒に塗られた「給与簿」だった。理由はやはり「個人情報」。

もはや裁判で争うしかないと、8月17日、給与簿情報の開示を求めて裁判を起こした。これがニュースになり、ようやく「1400万円」の開示に至ったのである。「秘書本人の同意を得て開示した」と小池知事はもったいぶった釈明を行なったが、世論の批判を恐れて出したというところだろう。

その証拠に、舛添要一前知事時代の特別秘書2人の給与額を教えてほしいと都に問い合わせたところ、「個人情報だから答えられない」と回答を拒否した。マスコミが取り上げるかどうかによって情報を出したり出さなかったりするのが小池流らしい。

【都議選中通勤は4日だけ?】

さて、特別秘書給与額の公開とともに、新たな疑問が浮上した。一つは、勤怠管理をいっさい行なっていないという事実。そしてもう一つが、秘書1人につき1台の運転手つき専用車をあてがい、通勤に使っているという事実だ。

参考までに、都議選のさなかの今年6月の野田氏専用車の運行日誌を情報公開請求で開示させてみると、わずか4日しか動いていないことがわかった。一方、専用車があるので通勤手当は払われていない。都庁への出勤をほとんどせず、税金から給料をもらいながら、都民ファースト幹事長として、都議選の選挙活動に没頭していた疑いが濃厚だ。

東京都特別秘書の異常さは、他府県と比べてもきわだっている。知事特別秘書をおいているのは、(1)岩手(小原和也氏)、(2)福島(小林大也氏)、(3)埼玉(伊地知伸久氏)、(4)千葉(中村充宏氏)、(5)神奈川(千田勝一郎氏)、(6)長野(園部文彦氏)、(7)沖縄(岸本義一郎氏)――の7県。特別秘書を2人も置いているところは東京だけだ。また政党の代表者を特別秘書にした例も東京以外にない。まして、専用車をつけているところもない。

なお条例上知事が事実上自由に給与額を決められる仕組みになっているのは、東京のほか、福島、千葉、埼玉の各県。

知事特別秘書の異常な好待遇について小池知事は都民にどう説明するのか。筆者としては引き続き記者会見で手を上げるしかない。

(三宅勝久・ジャーナリスト、9月8日号)

英国の野党が示す大人っぽさ(浜矩子)

日本の半歩先を行く英国。折りに触れてこのイメージが頭に浮かぶ。日本からほんの少し先行して、やってはいけないことをやらかしてくれる。だから、日本が賢ければ、英国の振りをみて我が振りを直せる。その意味で、英国は日本にとって格好の反面教師だ。ところが、せっかく目の前で英国がダメな例を示してくれているのに、日本はまっしぐらに進んで、同じ落とし穴に落ちる。こういうことが、どうも、よくある。

1990年代後半、労働党トニー・ブレア政権の下で、英国は規制緩和と民営化の道をひた走った。その結果が格差拡大と貧困の深化だった。何もかもが民営化されていく中で、労働環境の劣悪化と賃金への下押し圧力が人々を襲った。

ブレア政権に遅れること、まさに半歩という感じのタイミングで、日本では自民党小泉政権が誕生した。構造改革の看板を振りかざす彼らの下で、「民に出来ることは民へ」の方針が打ち出された。その実情は、官がやるべきことさえ民に丸投げするというやり方だった。まさしく、ブレア政権の民営化路線を半歩遅れて踏襲した観が濃厚だった。その結果、日本でもまた「下流社会」や「ブラック企業」や「失われた中間層」が問題になる展開となった。

半歩先の反面教師が犯してくれていた失敗を、もう少し真剣に注意深く見つめていればよかったものを。当時、つくづく、そう思ったものである。

ところが、このところ、少し肌合いの違うイメージが出現してきている。今この時、珍しく、英国が日本にとって反面ならぬ「正面」教師になってくれているかもしれない。そう思える動きが出ている。

目下、英国の保守党メイ政権が、EU離脱問題を巡ってなかなかの醜態をさらけ出している。現実的な離脱シナリオをなかなか提示できない。「潔い離脱」を振りかざすばかりで、離脱に向けての移行をどう切り盛りするつもりなのかが一向に見えてこない。離脱後の対EU関係についても、「特別で深い関係」を構築すると言いながら、そのために英国側がどのような対応をするつもりがあるのかを明示しない。EU側も、英国のこの煮え切らないというか、内容空疎で突っ張りばかりの態度に苛立ちを隠さない。

ここまでだけなら、英国の姿勢は、やっぱり反面教師的だ。だが、話はこれからである。

ここにきて、野党労働党から、独自のEU離脱シナリオが出た。彼らいわく、移行期間をゆっくりとらせてもらったらいい。その間は、従来通りEUとの単一市場関係を維持したらいい。今まで通りの日常を、とりあえず続けさせてもらう。そのために必要なコストは受け入れる。この状態で、時間をかけながら、双方納得できる離脱の形に辿り着けばいい。

これは、大人の提案だといえる。頭に血が上った感じがない。肩肘を張っていない。英国らしさがある。この提案で党内世論を結集させることができた点も、重要だ。 この良識ある雰囲気を保ち続けることができれば、労働党は次の総選挙に勝てる可能性が大きい。半歩先で英国の野党が示した大人っぽさ。これを日本の誰に学んでほしいか。それは言わずもがなだ。

(はま のりこ・エコノミスト。9月1日号)

渋谷・宮下公園の解体工事開始 市民無視で商業施設の屋上へ

8月1日、封鎖された宮下公園前で、工事中止を呼びかける市民ら(手前)。(撮影/渡部睦美)

デモの発着地点や集会場などとして知られる東京・渋谷の宮下公園。この敷地に3階建て商業施設を造り、公園を「新宮下公園」として屋上に整備するための工事が進められている。渋谷区から整備事業を請け負ったのは三井不動産で、同敷地に17階建てのホテルも併設する。三井不動産はこれらの施設を東京オリンピックのある2020年までに整備し、その後30年間、区に借地料6億300万円を毎年払う(工事期間中も借地料の3分の1を毎年払う)契約を結んでいる。区は、費用負担せずに新しく公園を整備できることなどを利点とするが、なぜ公園を屋上に造るのか。根本的な疑問が噴出し、解決しないまま、8月1日に宮下公園の解体工事が始まった。

「一番の問題は、宮下公園の耐震性に問題があるのを区は少なくとも08年に把握していたのに、耐震補強の工事をしてこなかったことです。ところが急に今回の整備事業でそれを大きな理由の一つに挙げ始めた。耐震性を考えるなら、公園は地面の上に整備すべきです」。新宮下公園に反対する渋谷区民の渥美昌純さんは、こう疑問を呈した。

宮下公園は1953年に開園。66年に公園下に駐車場が整備され、以後、駐車場の躯体は建て替えられていない。2008年に駐車場の管理会社が行なった耐震診断調査では、「耐震性に疑問あり」という診断が出ていた。しかし区は、この後にも先にも区独自で耐震調査をしておらず、さらに翌09年にはナイキジャパン(以下、ナイキ)と公園の命名権契約を締結している。結局、ナイキは公園をリニューアル工事したものの、耐震補強工事は行なわなかった。これについて区の緑と水・公園課は、「(ナイキに)耐震工事の依頼はしておらず、『耐震性に課題がある』ということを情報共有しただけ」としている。

渥美さんは、「耐震性に問題があるところに、クライミングウォールやスケート場などの建造物を造った。区もナイキもデタラメすぎる」と指摘する。工事に際しては、区が野宿者らを公園から強制排除する事態も起き、後の裁判で区には賠償金支払い命令が出たほか、ナイキとの契約も地方自治法違反だとの判決が下された。

この裁判中の14年、ナイキが行なったリニューアル工事から数年しか経っていないにもかかわらず、区は新宮下公園を整備する事業者を募集し、翌15年に三井不動産を事業者に決定した。しかし、これにナイキが激怒。今年3月31日付で命名権契約は解除となった。契約解除に至る交渉過程の文書によれば、ナイキは、商業施設の上に公園を造るのは耐震補強に「必要な限度を著しく超えて」いると区を批判している。

【市民を無視する区と三井】

ナイキでさえ度を超していると非難した新宮下公園の整備計画は、04年の都市公園法改正によって創設された「立体都市公園制度」に基づくものだ。同制度は、建物の上部に公園を建設することを可能にした。ただ、同法の運用指針には、「用地取得に膨大な事業費を要する」都市部において新たに公園を造る際に、この制度が活用されることが望ましいと記されていて、基本的には新規公園が想定されていることがわかる。

同法の運用指針はこのほか、「緑地空間の確保」も重要な点に挙げている。しかし、新宮下公園を整備するに当たっては、現在宮下公園にあるケヤキの大木30本などはすべて伐採される予定だ。区は、この代わりとして天蓋にツタをからませ、ダイナミックなグリーンチューブを形成するとしている。

さらに、新宮下公園は、災害時の一時避難場所に指定もされている。それにもかかわらず商業施設の上というアクセスに不便な位置に公園が整備されることには、複数の住民や区議から何度も懸念が出た。災害時の一時避難場所にするのであれば24時間誰でもアクセスできる環境にすべきだが、商業施設が閉店してしまえば屋上の公園にアクセスできなくなるのではないかなどといった疑問も出ている。だが、区は「容易に利用できるアクセスを確保」すると述べるばかりで、具体的な設計図はいまだ出来上がっていない。

こうした懸念や疑問が解消されないまま、整備事業が区議会で審議中の3月27日、区は突然宮下公園を封鎖し、再び野宿者らを強制排除した。「ダイバーシティ(多様性)」を掲げる渋谷区の長谷部健区長は野宿者らに対して、「平穏な話し合いの場を持つことは非常に困難」と排他的な態度だ。三井不動産に至っては、公園閉鎖の説明や工事中止などを求める市民からの申入書を受け取らずに、破棄するという姿勢を見せている。6月22日に区と三井不動産が定期借地権契約を結んだ際、宮下公園は行政財産から一般財産に変更もされており、企業による公園の私物化が懸念される。

(渡部睦美・編集部、9月1日号)

アスベスト(石綿)被害防ごうと9月16日に兵庫・西宮でシンポ開催

アスベスト(石綿)が大量に使われた建物の多くが解体時期に入り、いい加減な解体業者などが危険な石綿を飛散させて問題化する中、さいたま市、大阪府堺市、兵庫県西宮市の市民が連携し、行政に頼らず被害を防ごうと「アスベスト市民ネット」を立ち上げた。

防音、耐熱性などに優れた石綿は2006年に輸入や使用が禁止されたが、古いマンションなどには建材として多く残る。解体には、建物をすべて覆い気圧差で飛散を防ぐ規則などが設けられたが遵守しない業者が多い。災害時の建物の倒壊での飛散も指摘される。

西宮市では、13年に夙川学院短期大学の校舎が解体された際に石綿が大量に飛散していたとして昨年7月、周辺住民が同市、解体業者、開発業者に対して慰謝料を求める損害賠償請求を起こした。健康被害が出ていない段階からの「中皮腫や肺がんになるかもしれない」という将来不安をめぐる訴訟で注目される。

神戸地裁では8月22日にも口頭弁論があり、閉廷後に会見した原告団長の医師上田進久氏は、「建物の解体は作業員だけが危険にさらされると思っている人が多く、実は周辺の住民にも危険が及んでいるという認識が一般市民にまだ少ない」と懸念する。

市民ネットの代表は「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(東京都江東区)の永倉冬史事務局長が務める。永倉氏は「石綿のリスクを少しでも減らす取り組みを市民主体で進めていきたい」と話す。

シンポジウム(無料)は9月16日午後1時半から、西宮市羽衣町の夙川公民館で3市の代表などが現状を報告する。上田氏、永倉氏の他、12年に中皮腫で亡くなった直木賞作家、藤本義一氏の長女の中田有子さんや「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の古川和子代表らも登壇、石綿の危険を学び、飛散させないよう業者や行政にいかに促すかなどを議論する。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、9月1日号)

取っておいた2通の手紙(佐高信)

整理はきわめて苦手だから保存も得意ではないのだが、その2通の手紙は袋に入れて取ってあった。ちょうど50年前のことになる。教師1年生だった私は、組合の機関紙にこんな「感想文」を寄せた。

〈その昔、宗教改革のノロシを上げて焚殺に処されたヤン・フスは、十字架にかけられた自分の下に勤勉に火あぶりのための薪を運ぶ老婆を見て、「おお、神聖なる無知よ!」と叫んだと言われるが、わが国の戦前の教育は馬車馬的勤勉さをほめたたえる点において、この老婆の勤勉さと同じ性質のものであった。その勤勉さが何をもたらすかを見通さない目先だけの「誠実」、私は10・26闘争の過程で、授業カットはいやだというこの目先だけの勤勉さに何度も出くわした。彼らは「戦争」の体験に何も学ばなかったのか?〉

何へのマジメさかを問わず、マジメであること自体をよしとする誠実主義を“まじめナルシシズム”と名づけて批判したこの「感想」に、当時、奥行きのある手紙を2通もらった。1通は『死にがいの喪失』(筑摩書房)の著者で大阪大学教授となった井上俊からで、もう1通は教師時代に「魯迅を読む会」を一緒にやっていた共産党員の教師からである。まず、前者の要の部分を引こう。

〈マジメ主義批判というものは、私の考えでは、声高に語ってはいけないもので、常に声低く語るべきものだと思います。(中略)マジメ主義批判はそれ自体としては「正論」になりえない性格のもので、無理に「正論」化しようとすると、マジメ主義の単なる裏返しとなり、マジメ主義批判のマジメ主義化という奇妙なおとし穴に落ちこんでしまいます。それをチェックするものは何なのだろうかと時々考えます。もしかするとそれは、「マジメ」の価値を認め尊重しながら、しかもなお批判せざるをえない者の一種の「負い目」意識のようなものかもしれません〉

京都大学の作田啓一門下の兄弟子として上野千鶴子が一目も二目もおく俊秀の井上らしい行き届いた批判である。

「資本主義の走狗」と断罪された手紙

次の先輩教師からの批判は、私が『わが筆禍史』(河出書房新社)に収録した若き日の共産党批判に対する反発もあってか、かなり辛辣である。しかし、その苦みも含めて、私はこの手紙を捨てることができなかった。

「あなたのマジメ主義批判、感心しません。そういうあなたこそマジメ主義そのもので(マジメなくせにそうでないふりの文章を書くと、見えすいたいやらしさとなります)。世間ではこれを称して、目くそが鼻くそを笑うという。私からこう言われるのはあなたには不本意であるでしょうが、あなたの書くものなぞ、どれもこれもそういうトーンを帯びているではありませんか。

あなたはしきりに汚れたがっていますが、そのポーズが私にはますますストイックに見えます。ストイックな心をどこかに持っていたいとする点では私も似たようなものですが、ああ、私は汚れを洗い落したい。あなたのような大胆な行動ができぬ、汚れにどっぷりとひたっている自分を悲しく思う。ただ私はその汚れを他人様に見せびらかすことをしたくない、と思うだけです」

あえて名前は明かさないこの先輩は、私が教師をやめて経済誌の編集者となった時、「あなたは資本主義の走狗になった」と断罪する手紙もよこした。

私はすごく厭な気分になったが、しかし、あの手紙が、私が文字通り「資本主義の走狗」になることを食いとめたのかもしれない。亡くなってすでに久しいその先輩を思いながら、こう考えている。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、9月1日号)