週刊金曜日 編集後記

1364号

▼東京では新型コロナウイルス感染拡大の収束の兆しはまだ見られない。一方、第6波においてもほかの地域に先行して感染拡大が起こった沖縄では、ようやく感染がピークをすぎたようだ。感染対策のネックとして露わになったのは在日米軍基地の問題だろう。沖縄の基地周辺で新型コロナ感染患者が急増した。検疫に関する地位協定が実質的に機能せずチェックが「ザル」状態だからだ。軍関係者の外出制限も実施されたが、根本的な問題が解決しなければ同じことを繰り返すだけだろう。
 今週号で在日米軍と有機フッ素化合物(PFAS)による汚染の問題を取りあげている。基地周辺での地下水などの汚染が明らかになり、長年にわたって基地で実施された消火訓練での泡消火剤使用などが疑われる。だが、日米地位協定が真相究明を阻む。この間、情報公開を駆使してこの問題に取り組んできたジャーナリスト、ジョン・ミッチェルさんの言葉が重い。「PFAS汚染は特別なことではありません。この約70年間、米軍は、化学兵器やアスベスト、燃料、そしていまは新型コロナウイルスですが、同じことを繰り返しているのです」(小林和子)


▼新型コロナ感染者数が日々拡大する中、私の周りにも感染者や濃厚接触者、濃厚接触者の濃厚接触者......が増えていて大変な状況だ。
 完全帰国を決めた韓国人の友人は、家を引き払い、出国間近の段階で感染が判明。初めは民間検査で「高リスク」との結果が出て、その後、東京都が指定するクリニックの検査で陽性となったが(検査は無料でも診察料は有料......)、数日たっても保健所と連絡が取れない。食料品支援や隔離施設の手配を受けるどころか、陽性のまま路頭に迷うことになるということで、さまざまな手配を手伝った。そもそも発熱外来の予約すら困難な状態だ。民間検査では感染の疑いがある人や濃厚接触者はお断り、というところもあるが、民間検査しか枠がなく、そこにいくしかない状況も出ているし、すでに民間検査も予約がパンク状態と聞く。民間検査では結局医療機関との提携がないと感染の判断はできず、「高リスク」「低リスク」としかならない。医師の判断による「みなし陽性」が批判を浴びているが、コロナ禍で2年たってもこれほど検査体制が乏しい日本の現状を浮き彫りにしている。(渡部睦美)


▼「くらしの泉」で何回となく取り上げているPFAS(ピーファス=有機フッ素化合物)ですが、今号でも「PFASとは何か」「どんなものに使われているのか」「どんな危険性があるのか」などをQ&Aで解説しました(植田武智氏が)。今回は拡大版ということでまとまったページ数を取って、細かい部分まで解説できたのではないかと思います。筆者の植田氏も力を入れて書いてくれました。
 ところが力作すぎて4ページには収まりきれず、何問かは割愛せざるを得ませんでした。この場を借りてお詫び申し上げます。カットした部分は、また回を改めて触れられたらと思っております。
 ところでテフロン加工のフライパンに代表される「焦げつかない加工」が、PFASの発生源の一つであるという解説は聞き捨てならないですよね。フライパンに限らずこの「焦げつかない加工」、非常に便利なのですが、その反面、危険性があるということは、台所仕事をやる人間にとっては大事なことです。使い込まれた鉄製のフライパンには憧れますが、一から始めるのも大変。悩みます。(渡辺妙子)


▼衣食住において何を優先するかというと、個人的には食だ。テレビのグルメ情報番組にはどちらかというと食傷気味なのだが(予算が少ないからか出演者が何かを食べて感動するバラエティー番組も多い)、本や雑誌で料理店の話を読むのは好きだ。知っている店が掲載されているとうれしくもあり、その影響で混まなければいいけど、などといらぬ心配をしてしまいもする。が、それもまたよし。
『味な店 完全版』平野紗季子=著(マガジンハウス)の前書きの最後に〈だって いつもは、いつまででもないんだから。〉と記されていてシビれた。コロナ禍という未曽有の非日常の中で、多くの店が厳しい状況にあることは誰が見ても明らかだし、「いつでも行ける」と思っていた店が閉店してしまったことも増えたとも聞く。
『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』都築響一=編(ケンエレブックス)は、100人による100軒の「もう、行くことのできない店」の記憶だ。文体も、段落の区切り方も、それぞれのスタイルですべてばらばらなところが、またいい。〈僕をつくったあの店は、もうない。〉キャッチコピーにやられた。(本田政昭)