天皇制

 昨年の「御在位二〇年」、そして今年の「御成婚五〇年」と、マスメディア演出による「天皇キャンペーン」が続いている。そこでは常に天皇・皇室がこの国の民と「苦楽を共にし」、国家の存続にとっても欠かせないかのような一見「ナショナリズム」の装いを凝らした意識が流布されている。 だがそこでは、他国に比して「誇るべき歴史と伝統」を有しているはずの国家が、一方で「思いやり予算」や沖縄の基地問題に象徴されるように外国軍が意のままに振る舞える従属構造に甘んじている矛盾は、なぜか語られることはない。属国という本来最も「ナショナル」な価値から程遠いはずの境遇にありながら、それでも建国神話に権威を求める「万古不易」の天皇制が「誇るべき歴史と伝統」の核であるかのように今でも信じ込まれているこうした倒錯こそ、戦後における欺瞞の最たる現れだろう。そして天皇制条項が憲法の第一条から八条まで並びながら、この憲法が「国民主権」をうたっていると解釈するような別の倒錯も存在する。 こうした無自覚性が、結局は天皇を国家機構の中の一人の政治主体として検証する努力を妨げてきた。昭和天皇の戦争責任が問われ始めるまで、敗戦から一五年以上も待たねばならなかったのはその証明だろう。そして「平成」の代替わりから二〇年以上たっても、冷戦が深まっていく占領期に昭和天皇が演じた「二重外交」こそ安保条約に象徴される属国化の起源だったという事実は、あまり知られていない。今、戦後史の闇に潜む昭和天皇の歴史的責任と、改めて天皇という制度を問う。

  • 戦後史最大の空白・占領期の「二重外交」の帰結昭和天皇と安保条約 豊下 楢彦関西学院大学教授に聞く聞き手 成澤 宗男(編集部)戦前の戦争責任が曖昧にされたまま、昭和天皇は戦後も歴史的な「戦後責任」を記していた。冷戦の進行に伴う「共産化」の恐怖に駆られ、米軍をこの国に無条件的に駐留させる安保条約を締結することで、「国体護持」のための新たな切り札にしようとしたのだ。しかもそうした「外交」は、現憲法下で「象徴」になりながらも続けられた事実がどこまで知られているだろうか。
  • 憲法第一章はなぜ「天皇制」なのか「御聖断」神話と{第二の罪} 纐纈 厚戦争が終わったのは、天皇の「御聖断」のおかげとする神話が罷り通ってきた。国民の側にも天皇の「開戦責任」「戦争責任」を問おうとする意識は希薄だった。戦後教育でもアジア諸国にたいする戦争責任はことさら回避されてきた。そのことが歴史認識を枉げる{第二の罪}を生んだのだ。
  • 「国体護持を抱きしめた」戦後という時代昭和天皇と国民の無責任 小森 陽一東京国際軍事裁判で訴追されず、戦争責任を問われなかった昭和天皇。にもかかわらず、「責任はすべて私にある」とのフィクションを流しつづけた。原因と理由を曖昧にすることで、戦争責任・戦後責任は封印された。日米トップによる高度な戦略を読み解く。
  • 匿名記者・編集者座談会天皇・皇族報道について考える 天皇皇后「ご成婚」五〇年の四月一〇日、新聞・テレビ・雑誌の多くに「奉祝報道」があふれた。報道に携わっている記者や編集者たちは、どのような思いでいるのか。率直に話し合ってもらった。■「売らんかな」が自らの首を絞める 木村 三浩■オベンチャラまみれで気持ちが悪い 中嶋 啓明
  • 「ネット右翼」と天皇制若者に根付く「民族拝外主義」の牙が向かう先 能川 元一近年、インターネットを舞台とする若者中心の右翼的言論のエネルギーはすさまじい。排外主義や民族差別を煽る彼らは、社会の右傾化を促す牽引役を果たしている。だが、そこでは旧来の右翼思想の中心的価値観だった天皇制は影が薄い。その理由を追う。
  • お金があまりない人のためのマネー術1大事なお金は預金保険制度で守る 丸田 潔ビンボーだからこそお金を貯めたい、守りたい。ビンボー人のためのマネー術をお届けします。1回目は知っておきたい、預金保険制度について。
  • 中国・華南  三竈島知られざる「侵略」と「沖縄移民」の村  浦島 悦子中国・華南、三竈島。日本の伊豆大島ほどの小さなこの島は、かつて旧日本軍の侵略地だった。村を破壊し、飛行場を作り、住民を虐殺したと言われている。住民が追い払われ、耕す人のいなくなった農地に送りこまれたのは、沖縄からの移民たちだった。知られざる沖縄移民の歴史がここにはある。それから六五年の歳月が流れ、島は一大工場地帯としてめざましい変貌を遂げた。しかし、「慰安所」や「興亜国民学校」など、痕跡はいまも消えていない。

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