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米国政界と「議論のテーブルに着けた」辺野古新基地の代替案

提言内容を説明するND評議員の元沖縄タイムス論説委員・屋良朝博氏。東京・千代田区。(写真/小宮純一)

沖縄・辺野古への新基地建設を止めようと、日本の民間シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」が米ワシントンを訪れ、米連邦議会関係者らに提言した海兵隊の運用を見直す代替案の報告会が8月29日、東京・千代田区内で開かれ、市民ら約90人が参加した。ND事務局長の猿田佐世弁護士は「米国務省職員や米議会上・下院補佐官などに接触でき、初めて軍事に関する議論のテーブルに着けた感触を得たのが最大の成果」と述べた。

「辺野古が唯一の選択肢ではない」として、NDが政策提言したのは(1)在沖米海兵隊の前方展開部隊「第31海兵遠征部隊(31MEU)」の拠点を沖縄以外に移転(2)アフガン攻撃、イラク戦争で、国際問題は武力では解決できない現実を受け止めた米政府が、米軍を使って貧困や格差の解消に取り組んでいることや、自衛隊も頻繁に国内外の災害救援に出動している現実から日米合同の任務部隊「日米JOINT MEU for HA(人道支援)/DR(災害支援)」を常設(3)同部隊のアジア全域をエリアとする連絡調整機能を沖縄に置く―など。

辺野古が唯一ではないことを、「米国発」の形で日本政府に逆提言させることを目指す新たな挑戦だ。普天間基地移設問題に対する代替案として、今後はコスト面でもND案の有利性を示していくことが課題だろう。

(小宮純一・ジャーナリスト、9月8日号)

大型風力発電による健康被害リスクを複数の団体や識者が警告

北海道石狩市では新港地区に46基もの大型風力発電所計画が集中し、低周波音によって小樽市や札幌市を含む広範囲で健康被害が発生するという予測もある。

市民団体「石狩湾岸の風力発電を考える石狩市民の会」の会員は、7月下旬、4基の着工を確認。8月20日には札幌からの参加者を含む市民約30人が参加して石狩市中心部でデモを行ない、風車による健康被害のリスクを訴えた。

北海道自然保護協会も、8月9日、札幌市長宛に要望書を提出。札幌市として独自に低周波音の調査を行なうほか、被害が出た場合の対応について事業者と事前に協議すること、協議会には市民代表を参加させることなどを求めた。

日本社会医学会は、8月19日、北海道医療大学で「北海道のエネルギー問題と健康」をテーマにシンポジウムを開催。北海道大学の研究者3名が講演を行なった。

環境創生工学部門教授の松井利仁氏は、日本では健康影響を考慮せずにエネルギー政策が決定され、公害事件後も経済的利益が判断根拠になっていると批判。有機水銀説を否定して対応が遅れた水俣病と、風力発電の低周波音問題の類似性を指摘した。

情報科学研究科教授の北裕幸氏は、家庭で利用されるエネルギーの用途は冷暖房や給湯、調理などの熱利用が過半数を占めているのに、それらを主に電力として供給している点を指摘した。

大気環境保全工学研究室助教の山形定氏は、発電時に発生する熱も無駄なく利用する小型の木質バイオマスガス化発電の例と、再生可能エネルギー固定価格買取制度によって大量の木質バイオマス発電所が稼働し、間伐材の価格が上昇している問題を報告。間伐材から作る家畜の敷料の価格高騰、過剰伐採による森林資源の枯渇も懸念されているという。

「経済ベースでエネルギー問題を考えるのではなく、地域住民が主体となって事業を行なう必要がある」と山形氏は考えている。

(加藤やすこ・ジャーナリスト、9月8日号)

“加計学園の認可は違法で無効” 法律家ネットワークが法的問題点を明示

「獣医学部新設の認定は違法」と指摘する梓澤弁護士(右)と中川弁護士=8月30日、衆院第一議員会館で。(撮影/片岡伸行)

「加計学園の獣医学部設置を国家戦略特区として認定したのは違法であり、無効である」――。

愛媛県今治市で来年4月開設に向けて建設工事が進む学校法人加計学園(本部・岡山市、加計孝太郎理事長)の獣医学部新設をめぐり、「加計学園問題追及法律家ネットワーク」の共同代表、梓澤和幸弁護士と中川重徳弁護士が法的な問題点を明らかにした。

同ネットワークは8月7日、安倍晋三内閣総理大臣と梶山弘志規制改革担当大臣宛に「質問状」を、林芳正文部科学大臣と大学設置・学校法人審議会に「要望書」をそれぞれ提出。約100人の弁護士、法律家がこれに賛同した。

梓澤、中川両弁護士は8月30日、東京・永田町の衆議院第一議員会館内で開かれた民進党「加計学園疑惑調査チーム」のヒアリングに招かれ、この「質問状」と「要望書」の内容に沿って法的な問題点を整理する形で説明した。

梓澤弁護士はまず、「獣医学部新設はあくまで例外であり、原則は設置しないということ」とし、「文科大臣の告示によって『医師養成、歯学部、船員養成学部』など国民の命に関わる大学は設置しないというのが原則」であり、そこに挙げられている職業は「いずれも国民の健康・安全に関わり、多額の公的援助(税金)が投じられ、やたら作られてしまっては質低下の弊害が大きいからだ」と指摘。「それを例外として認めるときは『石破4条件』を満たすかを審査することが閣議決定(2015年6月30日)された。ライフサイエンスなど新たに対応すべき需要があり、かつ既存の獣医学部ではできない人材養成でなければならないということである。既存の大学がライフサイエンスなど要求される質と数の人材養成ができるかできないかを判断するべきだ。そのためには、各大学にヒアリングが必要だが、一切行なわれていない。公表されている資料では4条件を満たしているかどうか検討し、審査した形跡もない」と述べ、国家戦略特区ワーキンググループでの浅野敦行文科省専門教育課長(当時)の発言(16年9月16日)などを示した。

その上で、梓澤弁護士は、「4条件を閣議決定した以上、総理大臣も文科大臣も規範的に拘束される。閣議決定の要件を検討せずになされた安倍首相による区域計画認定(2017年1月20日)は、閣議決定の方針に基づいて指揮監督することを定めた内閣法第6条および4条に違反するもので、最高裁判決(07年12月7日)によれば明らかに裁量権の逸脱・濫用で違法であり、無効ということになる」と述べた。

【4条件審査せずに認可したら違法】

中川弁護士は国家戦略特別区域基本方針(14年2月25日に閣議決定)に照らして「手続き上の瑕疵があり、違法だ」と指摘した。

同基本方針には「運営に係る基本的な事項」として、〈公平性・中立性を確保〉するために〈直接の利害関係を有する議員については、当該事項の審議及び議決に参加させないことができる〉とある。

それを踏まえ、中川弁護士は、「加計理事長ときわめて親しく飲食を共にする関係にありながら、安倍首相は16年10月4日(第24回)、同年11月9日(第25回)、17年1月20日(第27回)の諮問会議に参加し、『実現に向けた議論を加速』するよう指示したり(第24回)、『私と一緒にドリルの役割をお願いしたい』(第25回)などと発言し、最終的に加計学園の獣医学部新設の区域計画を認定した。これは基本方針に適合せず、違法なものだ」と述べた。

梓澤弁護士はまた、「このまま大学設置審や文科大臣が4条件を満たしているかどうかを審査せずに設置認可をしたとすれば、それも違法・無効となる」
とした。

民進党の山井和則国対委員長は「この間、安倍首相と加計理事長は14回の会食と4回のゴルフをやっているズブズブの利害関係者。首相がこの決定に参加していること自体が国家戦略特区法違反になる」と指摘。両弁護士も「公正さは担保されない」と応じた。

(片岡伸行・編集部、9月8日号)

福島原発事故刑事訴訟への「印象操作」払拭するパワポ公開

9月2日、東京・芝浦の田町交通ビルで「東電元幹部刑事裁判が始まった! 9・2東京集会」が開かれた。

福島原発刑事訴訟支援団と福島原発告訴団が共同で主催したこの日の集会の最大の目的は、報道やネットを通じて再三流される「津波は防げなかったのだから、罪には問えない」「検察が起訴できなかったのに、有罪にできるわけがない」といった類いの「印象操作」を否定・払拭することだった。

集会では、同告訴団の弁護団を務める海渡雄一弁護士がパワーポイントを使い、6月30日に開かれた初公判で明らかになった事実を解説。2006年以降、東電社内では10メートルを超える大津波への対策が検討され、09年6月までにその対策を完了させる計画があった事実や、その後、この計画が先送りされて葬られた事実。そして検察や政府事故調査委員会はこうした事実を把握していながら隠蔽し、不起訴処分としていた事実などが紹介され、海渡弁護士は「このパワポのデータは皆と共有する。これを使って誰でも説明できるようになってほしい」と訴えた(パワポのデータはURL https://shien-dan.org/20170902action-report/で公開中)。

同告訴団の刑事告訴が東京地検で不起訴処分とされた際、同告訴団側は担当検事から「防潮堤は南側だけに作る計画で、たとえ作っていたとしても事故は防げなかった」「防潮堤の完成予想図もなかった」などと説明されていた。だが初公判では、原発の敷地を取り囲む防潮堤の立体図が登場。検事の説明が虚偽だったことが判明している。ここにきて同原発事故は「捜査結果隠蔽事件」の様相を呈してきた(この隠蔽についての詳細は海渡氏らの共著『強制起訴 あばかれた東電元最高幹部の罪』〈Kindle版・金曜日〉参照のこと)。

(明石昇二郎・ルポライター、9月8日号)

「安倍9条改憲に反対」全国市民アクション結成 3000万人の署名目指す

9月4日の記者会見。左から福山真劫さん、渡辺治さん、菱山南帆子さん、清水雅彦さん、佐高信さん、高田健さん。(撮影/文聖姫)

安倍政権の改憲への動きを阻止するための行動、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」(以下、アクション)が9月8日のキック・オフ集会(東京・なかのゼロホール)を皮切りにスタートする。それを前に、アクションの取り組み趣旨と方針を説明する記者会見が4日、東京・千代田区の衆議院第一議員会館で行なわれた。

安倍晋三首相は5月3日、第19回公開憲法フォーラムにビデオメッセージを寄せ、「9条1項、2項は残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と提起した。戦争法や共謀罪の強行採決、森友・加計問題などで政権の基盤は揺らいでいるものの、「安倍首相の『9条明文改憲』への決意は変わっていない」と、平和フォーラム・原水爆禁止日本国民会議代表の福山真劫氏は述べる。

衆参両院で改憲派が3分の2を占める間に改憲日程が本格化することが想定される。その動きを食い止め、「改憲にノンと言い、それをストップさせよう」と、終戦記念日の8月15日、有馬頼底(臨済宗相国寺派管長)氏ら19人が発起人となって広く運動への参加を呼びかけた。会見で評論家の佐高信氏は、ジャーナリストの田原総一朗氏が、「憲法を破壊する『壊憲』は絶対に阻止しなければ」と発起人の1人を二つ返事で引き受けてくれた、と語った。

今回のアクションには、これまで呼びかけ団体への加盟を控えてきた「9条の会」も実行委員会に加わった。「改憲に立ち向かうため、方針を転換した」と一橋大学名誉教授の渡辺治氏。

主な取り組みは、「改憲」発議を阻止するための署名運動だ。来年6月の通常国会発議を予測し、そこに焦点を合わせる。全国で3000万筆の署名が目標で、キック・オフ集会から開始される。

8日のキック・オフ集会には多数の発起人も参加。松元ヒロさんのライブも。

(文聖姫・編集部、9月8日号)

渋谷・宮下公園の解体工事開始 市民無視で商業施設の屋上へ

8月1日、封鎖された宮下公園前で、工事中止を呼びかける市民ら(手前)。(撮影/渡部睦美)

デモの発着地点や集会場などとして知られる東京・渋谷の宮下公園。この敷地に3階建て商業施設を造り、公園を「新宮下公園」として屋上に整備するための工事が進められている。渋谷区から整備事業を請け負ったのは三井不動産で、同敷地に17階建てのホテルも併設する。三井不動産はこれらの施設を東京オリンピックのある2020年までに整備し、その後30年間、区に借地料6億300万円を毎年払う(工事期間中も借地料の3分の1を毎年払う)契約を結んでいる。区は、費用負担せずに新しく公園を整備できることなどを利点とするが、なぜ公園を屋上に造るのか。根本的な疑問が噴出し、解決しないまま、8月1日に宮下公園の解体工事が始まった。

「一番の問題は、宮下公園の耐震性に問題があるのを区は少なくとも08年に把握していたのに、耐震補強の工事をしてこなかったことです。ところが急に今回の整備事業でそれを大きな理由の一つに挙げ始めた。耐震性を考えるなら、公園は地面の上に整備すべきです」。新宮下公園に反対する渋谷区民の渥美昌純さんは、こう疑問を呈した。

宮下公園は1953年に開園。66年に公園下に駐車場が整備され、以後、駐車場の躯体は建て替えられていない。2008年に駐車場の管理会社が行なった耐震診断調査では、「耐震性に疑問あり」という診断が出ていた。しかし区は、この後にも先にも区独自で耐震調査をしておらず、さらに翌09年にはナイキジャパン(以下、ナイキ)と公園の命名権契約を締結している。結局、ナイキは公園をリニューアル工事したものの、耐震補強工事は行なわなかった。これについて区の緑と水・公園課は、「(ナイキに)耐震工事の依頼はしておらず、『耐震性に課題がある』ということを情報共有しただけ」としている。

渥美さんは、「耐震性に問題があるところに、クライミングウォールやスケート場などの建造物を造った。区もナイキもデタラメすぎる」と指摘する。工事に際しては、区が野宿者らを公園から強制排除する事態も起き、後の裁判で区には賠償金支払い命令が出たほか、ナイキとの契約も地方自治法違反だとの判決が下された。

この裁判中の14年、ナイキが行なったリニューアル工事から数年しか経っていないにもかかわらず、区は新宮下公園を整備する事業者を募集し、翌15年に三井不動産を事業者に決定した。しかし、これにナイキが激怒。今年3月31日付で命名権契約は解除となった。契約解除に至る交渉過程の文書によれば、ナイキは、商業施設の上に公園を造るのは耐震補強に「必要な限度を著しく超えて」いると区を批判している。

【市民を無視する区と三井】

ナイキでさえ度を超していると非難した新宮下公園の整備計画は、04年の都市公園法改正によって創設された「立体都市公園制度」に基づくものだ。同制度は、建物の上部に公園を建設することを可能にした。ただ、同法の運用指針には、「用地取得に膨大な事業費を要する」都市部において新たに公園を造る際に、この制度が活用されることが望ましいと記されていて、基本的には新規公園が想定されていることがわかる。

同法の運用指針はこのほか、「緑地空間の確保」も重要な点に挙げている。しかし、新宮下公園を整備するに当たっては、現在宮下公園にあるケヤキの大木30本などはすべて伐採される予定だ。区は、この代わりとして天蓋にツタをからませ、ダイナミックなグリーンチューブを形成するとしている。

さらに、新宮下公園は、災害時の一時避難場所に指定もされている。それにもかかわらず商業施設の上というアクセスに不便な位置に公園が整備されることには、複数の住民や区議から何度も懸念が出た。災害時の一時避難場所にするのであれば24時間誰でもアクセスできる環境にすべきだが、商業施設が閉店してしまえば屋上の公園にアクセスできなくなるのではないかなどといった疑問も出ている。だが、区は「容易に利用できるアクセスを確保」すると述べるばかりで、具体的な設計図はいまだ出来上がっていない。

こうした懸念や疑問が解消されないまま、整備事業が区議会で審議中の3月27日、区は突然宮下公園を封鎖し、再び野宿者らを強制排除した。「ダイバーシティ(多様性)」を掲げる渋谷区の長谷部健区長は野宿者らに対して、「平穏な話し合いの場を持つことは非常に困難」と排他的な態度だ。三井不動産に至っては、公園閉鎖の説明や工事中止などを求める市民からの申入書を受け取らずに、破棄するという姿勢を見せている。6月22日に区と三井不動産が定期借地権契約を結んだ際、宮下公園は行政財産から一般財産に変更もされており、企業による公園の私物化が懸念される。

(渡部睦美・編集部、9月1日号)

アスベスト(石綿)被害防ごうと9月16日に兵庫・西宮でシンポ開催

アスベスト(石綿)が大量に使われた建物の多くが解体時期に入り、いい加減な解体業者などが危険な石綿を飛散させて問題化する中、さいたま市、大阪府堺市、兵庫県西宮市の市民が連携し、行政に頼らず被害を防ごうと「アスベスト市民ネット」を立ち上げた。

防音、耐熱性などに優れた石綿は2006年に輸入や使用が禁止されたが、古いマンションなどには建材として多く残る。解体には、建物をすべて覆い気圧差で飛散を防ぐ規則などが設けられたが遵守しない業者が多い。災害時の建物の倒壊での飛散も指摘される。

西宮市では、13年に夙川学院短期大学の校舎が解体された際に石綿が大量に飛散していたとして昨年7月、周辺住民が同市、解体業者、開発業者に対して慰謝料を求める損害賠償請求を起こした。健康被害が出ていない段階からの「中皮腫や肺がんになるかもしれない」という将来不安をめぐる訴訟で注目される。

神戸地裁では8月22日にも口頭弁論があり、閉廷後に会見した原告団長の医師上田進久氏は、「建物の解体は作業員だけが危険にさらされると思っている人が多く、実は周辺の住民にも危険が及んでいるという認識が一般市民にまだ少ない」と懸念する。

市民ネットの代表は「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(東京都江東区)の永倉冬史事務局長が務める。永倉氏は「石綿のリスクを少しでも減らす取り組みを市民主体で進めていきたい」と話す。

シンポジウム(無料)は9月16日午後1時半から、西宮市羽衣町の夙川公民館で3市の代表などが現状を報告する。上田氏、永倉氏の他、12年に中皮腫で亡くなった直木賞作家、藤本義一氏の長女の中田有子さんや「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の古川和子代表らも登壇、石綿の危険を学び、飛散させないよう業者や行政にいかに促すかなどを議論する。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、9月1日号)

取っておいた2通の手紙(佐高信)

整理はきわめて苦手だから保存も得意ではないのだが、その2通の手紙は袋に入れて取ってあった。ちょうど50年前のことになる。教師1年生だった私は、組合の機関紙にこんな「感想文」を寄せた。

〈その昔、宗教改革のノロシを上げて焚殺に処されたヤン・フスは、十字架にかけられた自分の下に勤勉に火あぶりのための薪を運ぶ老婆を見て、「おお、神聖なる無知よ!」と叫んだと言われるが、わが国の戦前の教育は馬車馬的勤勉さをほめたたえる点において、この老婆の勤勉さと同じ性質のものであった。その勤勉さが何をもたらすかを見通さない目先だけの「誠実」、私は10・26闘争の過程で、授業カットはいやだというこの目先だけの勤勉さに何度も出くわした。彼らは「戦争」の体験に何も学ばなかったのか?〉

何へのマジメさかを問わず、マジメであること自体をよしとする誠実主義を“まじめナルシシズム”と名づけて批判したこの「感想」に、当時、奥行きのある手紙を2通もらった。1通は『死にがいの喪失』(筑摩書房)の著者で大阪大学教授となった井上俊からで、もう1通は教師時代に「魯迅を読む会」を一緒にやっていた共産党員の教師からである。まず、前者の要の部分を引こう。

〈マジメ主義批判というものは、私の考えでは、声高に語ってはいけないもので、常に声低く語るべきものだと思います。(中略)マジメ主義批判はそれ自体としては「正論」になりえない性格のもので、無理に「正論」化しようとすると、マジメ主義の単なる裏返しとなり、マジメ主義批判のマジメ主義化という奇妙なおとし穴に落ちこんでしまいます。それをチェックするものは何なのだろうかと時々考えます。もしかするとそれは、「マジメ」の価値を認め尊重しながら、しかもなお批判せざるをえない者の一種の「負い目」意識のようなものかもしれません〉

京都大学の作田啓一門下の兄弟子として上野千鶴子が一目も二目もおく俊秀の井上らしい行き届いた批判である。

「資本主義の走狗」と断罪された手紙

次の先輩教師からの批判は、私が『わが筆禍史』(河出書房新社)に収録した若き日の共産党批判に対する反発もあってか、かなり辛辣である。しかし、その苦みも含めて、私はこの手紙を捨てることができなかった。

「あなたのマジメ主義批判、感心しません。そういうあなたこそマジメ主義そのもので(マジメなくせにそうでないふりの文章を書くと、見えすいたいやらしさとなります)。世間ではこれを称して、目くそが鼻くそを笑うという。私からこう言われるのはあなたには不本意であるでしょうが、あなたの書くものなぞ、どれもこれもそういうトーンを帯びているではありませんか。

あなたはしきりに汚れたがっていますが、そのポーズが私にはますますストイックに見えます。ストイックな心をどこかに持っていたいとする点では私も似たようなものですが、ああ、私は汚れを洗い落したい。あなたのような大胆な行動ができぬ、汚れにどっぷりとひたっている自分を悲しく思う。ただ私はその汚れを他人様に見せびらかすことをしたくない、と思うだけです」

あえて名前は明かさないこの先輩は、私が教師をやめて経済誌の編集者となった時、「あなたは資本主義の走狗になった」と断罪する手紙もよこした。

私はすごく厭な気分になったが、しかし、あの手紙が、私が文字通り「資本主義の走狗」になることを食いとめたのかもしれない。亡くなってすでに久しいその先輩を思いながら、こう考えている。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、9月1日号)

『東京新聞』望月記者に強まる官邸の圧力(横田一)

〈官邸報道室、東京新聞を注意 「不適切質問で国民に誤解」〉と銘打った9月2日付『産経新聞』記事に、素朴な疑問が湧いてきた。「官邸と産経新聞が“共謀”をした言論弾圧に等しいのではないか」と。

官邸が問題視した社会部記者は、加計問題での厳しい再質問で注目された『東京新聞』望月衣塑子記者。8月25日(金)午前中の菅義偉官房長官会見で望月記者は、すでに報道関係者や国会議員の間で広まっていた「加計学園獣医学部設置の認可保留」に触れながら質問したが、官邸は文科省の正式発表(解禁)前であったことを問題視(注1)。

7日後の9月1日、『東京新聞』に「質問に不適切な点があった」「国民に誤解を生じさせる」として注意喚起と再発防止を求める文書を送り、翌2日に『産経』が次のように報じたのだ。

〈獣医学部の新設計画は大学設置・学校法人審議会が審査し、答申を受けた文部科学省が認可の判断を決めるが、この時点ではまだ公表されていなかった。/官邸報道室は東京新聞に宛てた書面で「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に誤解を生じさせるような事態は断じて許容できない」として、再発防止を強く求めた〉

ありもしない「被害」をでっちあげ

これに対して望月記者は、こう反論する。「文科省の正式発表(解禁)の前に質問しましたが、加計学園獣医学部設置の『認可保留』という事実関係自体が誤っていたわけではありません。うちの担当記者が取材で大学設置審議会の保留決定の方針を詰めて、記事も出ていたため、菅官房長官会見で触れたのです。ただし文科省の正式発表であるかのような印象を与えたとすれば、私の落ち度といえるでしょうが」。

加計問題を多少追っている大半の報道関係者や国会議員は、望月記者の反論に軍配を上げると同時に、官邸の抗議文に違和感を覚えるだろう。「認可保留」という公知の事実を、文科省が設定した正式発表よりも少し前に触れたところで、国民に誤解を生じさせるとは考えられないからだ。

ちなみに文科省の正式発表(報道機関への解禁)は8月25日午後で、望月記者の質問は同日の午前中。閣議終了後に菅官房長官会見が行なわれ、この日の閣議は「10時2分から11分」(首相動静)であったから、2時間足らずのフライングにすぎないのだ。

しかも保留を決定した設置審議会が開かれたのは8月9日で、テレビや新聞は保留の方針決定を報じていた。官邸の抗議文を報じた『産経新聞』でさえ、翌10日に「加計獣医学部の判断保留 設置審、文科相答申 延期へ」という記事を出していた(注2)。

官邸の抗議文を「事実関係に反する意図的な表現」と一刀両断にしたのが、民進党の小西ひろゆき参議院議員だ。ツイッタ―で官邸が送った書面を公開、こう書き込んだのだ。

〈「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に対して誤解を生じさせる」との下りは、「記者は、政府が事前提供した解禁期限付の確定情報に触れただけ」という事実関係に反する意図的な表現。まさに、不当な言論弾圧そのもの。東京新聞は断固抗議すべきだ〉 https://twitter.com/konishihiroyuki/status/904613951647891456/photo/1

こんな光景が目の前に浮かんでこないだろうか。「強面のオッサンがありもしない被害をでっちあげて騒ぎ立て、気に食わない人物を黙り込ませようとしている」と。

官邸の対応を解くカギ

官邸が常軌を逸した対応をしたのはなぜか。この“謎”を解くカギは、望月記者が質問した8月25日から抗議文が出る9月1日までの7日間のタイムラグ。この間の菅官房長官会見で、望月記者は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のミサイル発射前夜に安倍首相が公邸に宿泊したことなどについて問い質し、この質問を『産経』が批判的に紹介した記事が広まった結果、安倍首相は公邸に留まらざるを得なくなったのだ。「その逆恨みで官邸は1週間前の些細な出来事を引っ張り出して、望月記者に嫌がらせをしたのではないか」という見立て(推論)が有力のようにみえるのだ。

私邸通い中止の一因の可能性のある『産経』1日付の記事〈「北朝鮮に応じる調整しているか」…!? 東京新聞、官房長官に迷質問〉は、以下の通りだ。

〈菅義偉官房長官の31日の記者会見で、米韓合同演習を批判し、弾道ミサイルを相次いで発射する北朝鮮を擁護するような質問が飛びだした。

質問したのは、学校法人「加計学園」獣医学部新設計画をめぐって菅氏を質問攻めにした東京新聞の社会部記者。「米韓合同演習が金正恩朝鮮労働党委員長の弾道ミサイル発射を促しているともいえる。米韓との対話の中で、金委員長側の要求に応えるよう冷静に対応するように働きかけることをやっているか」と質問した。

菅氏は「北朝鮮の委員長に聞かれたらどうか」と返答。東京記者は「北朝鮮側の要望に応えて、冷静かつ慎重な対応をするよう米韓に求めていく理解でいいか」と改めて迫った。

東京記者はまた、北朝鮮が過去2回ミサイルを発射した前日にいずれも安倍晋三首相が公邸に宿泊したことを取り上げ、「前夜にある程度の状況を把握していたのなら、なぜ事前に国民に知らせないか」「Jアラートの発信から逃げる時間に余裕がない。首相動静を見て、(首相が)公邸に泊まると思ったら、次の日はミサイルが飛ぶのか」とも追及した〉

逆恨みの可能性も

一方、「迷質問」と『産経』が批判したこの日の質問について望月記者は、こんな補足解説をした。

「金委員長が米韓合同演習の中止を求めたのは『斬首作戦』が含まれていたからです。米国の攻撃で国家が崩壊したイラクやリビアの二の舞にならないように、自国防衛のために核武装をしようとしている。相手の立場に立って考えることが重要。北朝鮮に核ミサイルを連射されたら日本全土を守り切ることは難しい。悪の枢軸として圧力をかけるだけではなく、北朝鮮との対話を模索して欲しいとの考えから質問をしたのです」

官邸が恫喝的対応(言論弾圧)に走った心情が垣間見えてくる。北朝鮮を「悪の枢軸」として米国と一緒に圧力をかける一方、ミサイル防衛強化などに巨額の血税を投じようとする安倍政権に対し、望月記者は斬首作戦中止などで緊張を和らげて北朝鮮との対話を重視する“ハト派的対応”を提示したといえる。

この考えは、報道ステーションで「I am not ABE」のフリップを掲げた元経産官僚の古賀茂明氏と同じ立場だ。ちなみに両者は共著本出版や対談をする間柄だが、結局、官邸は古賀氏出演の報ステに抗議したのと同様、安倍政権に異論を唱えた形の望月記者の質問(言論)も針小棒大な抗議文で封じ込めようとしたようにみえる。

外交安保政策についての異論封殺に加えて、逆恨みのような感情が働いた可能性もある。これまで安倍首相は「公邸に常時泊まるべきだ」との批判が出ても、私邸からの通いを続けてきた。「体調管理や精神衛生の面で好ましいためか」といった推測が囁かれていたが、その理由はさておき、これまでの生活パターンが望月記者の質問後に変わったことは紛れもない事実。安倍首相と菅官房長官が激怒する姿が目に浮かんでくるのは私だけであろうか。

官邸の常軌を逸した恫喝的文書の謎解きには、この“逆恨み説”が有力なヒントになるのではないか。

北朝鮮情勢が緊迫する今、異なった立場から質疑応答をすることは極めて重要だ。官邸の抗議文に屈せずに望月記者が、菅官房長官会見でどんな質問を続けていくのか否かが注目される。

(横田一・ジャーナリスト。ネット独自記事)

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注1 官邸報道室の書面にも添付された質疑応答は以下の通り。

●望月記者 最近になって公開されています加計学園の設計図、今治市に出す獣医学部の設計図、52枚ほど公開されました。それを見ましても、バイオセキュリティの危機管理ができるような設計体制になっているかは極めて疑問だという声も出ております。また、単価自体も通常の倍くらいあるんじゃないかという指摘も専門家の方から出ています。こういう点、踏まえましても、今回、学校の認可の保留という決定が出ました。ほんとうに特区のワーキンググループ、そして政府の内閣府がしっかりとした学園の実態を調査していたのかどうか、これについて政府としてのご見解を教えて下さい。
●菅官房長官 まあ、いずれにしろ、学部の設置認可については、昨年11月および本年4月の文部科学大臣から大学設置・学校法人審議会に諮問により間もなく答申が得られる見込みであると聞いており、いまの段階で答えるべきじゃないというふうに思いますし、この審議会というのは専門的な観点から公平公正に審査している、こういうふうに思っています。
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注2 8月10日付『産経新聞」
〈加計獣医学部の判断保留 設置審、文科相答申 延期へ
政府の国家戦略特区制度を活用した学校法人加計(かけ)学園(岡山市)の獣医学部新設計画をめぐり、同学園が来年4月に愛媛県今治市で開学を目指す獣医学部設置の認可申請を審査する文部科学省の大学設置・学校法人審議会(設置審)の非公開会合が9日開かれ、獣医師養成に向けた教育環境に課題があるとして、認可の判断を保留する方針を決めた。設置審は今月下旬に林芳正文科相に答申する予定だったが、延期される見通しとなった〉
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厚労省、「残業代ゼロ」法案への批判を一括審議で封じる構え

厚生労働省は秋の臨時国会に提出する「働き方改革法案」に、格差是正や残業規制策とともに「残業代ゼロ」とも批判される、過労を助長しかねない相反する制度を盛り込もうとしている。趣旨の異なる法案をひとくくりにして審議時間の短縮を図る手法は同省のお家芸となりつつあるが、野党や労働組合は強く反発している。

「キメラ法案じゃないか」。働き方改革法案の概要を耳にし、連合幹部はそうつぶやいた。同じ体内に、異なる遺伝子情報を持つ生物になぞらえた批判だ。

厚労省が描く働き方改革法案は、(1)高収入の一部専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)の新設(2)残業時間の上限規制強化(3)正社員と非正規社員の待遇格差を縮める「同一労働・同一賃金」導入──の三つを柱とする7法案を一本化し、一括審議の対象とするもの。野党が「残業代ゼロ」と糾弾する高プロだけでなく、批判を受けにくい格差是正策も交える点がミソだ。

野党の攻勢を弱めつつ、多岐にわたる制度を短い期間で一気に実現させることを狙う首相官邸や自民党国対の意向をくんでいる。

一方、民進党は個別の法案ごとに審議を求める構え。高プロに対しては「成果が得られるまで際限なく働かされる」と酷評してきた。支持母体の連合と反対で足並みをそろえ、法案修正を前提に一時容認に傾いた連合執行部との間に生じた溝を埋める意図もある。

残業の上限規制で政府は、年間の残業時間を720時間とすることを打ち出した。が、過労死認定ラインに限りなく近い「月100時間未満」との例外規定も設けられ、民進党は「過労死レベルの残業を容認したと受け止められる」と詰問してきた。片や同一労働・同一賃金は旧民主党時代の“専売特許”でもあり、真っ向からの批判はしづらい。労働政策に詳しい弁護士は「高プロのような経済界が求める規制緩和策と、労働者の視点に立つ同一労働・同一賃金などの規制強化策を一括法案にするのは常軌を逸している。批判封じの狙いが露骨だ」と指摘している。

厚労省が一括法案に味をしめたのは、2014年6月の通常国会で成立した医療介護一括法にさかのぼる。同法は介護保険の利用者負担増、医療・介護の連携策から歯科技工士国家試験の全国統一化まで、相互に何の関連もないものも混じる19法案を一本化したものだった。与党は衆院での強行採決も含めてこの大型法案を一国会で成立させ、効果を実感した。

昨年12月の臨時国会で成立した年金制度改革法も、現役世代の賃金が下がれば必ず年金受給額も減らす仕組みから、保険料を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の組織改革まで、幅広い内容としていた。野党の反対で最後は撤回はしたものの、政府・与党はこの法案に、公的年金を受給するのに必要な保険料納付期間を25年から10年に短縮する「無年金者救済法案」まで含めようとしていた。

【「議論はかみ合わない」】

厚労省が一括法案への誘惑にかられる背景には、旧厚生、旧労働両省の合併による大規模省庁ゆえ、国会提出法案がきわめて多いことがある。14年から3年間の提出数でみると、同じ合併省庁の経済産業省の所管法案は17本で、国土交通省は24本。これに対し、厚労省は27本に及ぶ。厚労相の答弁回数は2934回と経産相の1243回を大きく引き離し、全省庁でも断トツの1位。厚労省分割案が浮上するゆえんだ。

「個別法案ごとに審議していたら、すべて成立させるには複数国会をまたぐ必要があっただろう。威力は絶大だ」。過去の一括法を厚労省幹部はこう評価する。

それでも、「項目が多すぎてほとんど審議されなかったものもあり、内部にも『奇をてらい過ぎた』との批判はある」とも漏らす。働き方改革法案の審議の行方についても、「規制の強化と緩和を同居させている矛盾を隠すため、政府は強弁せざるを得ない。議論はかみ合わないだろう」と認めている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、9月1日号)