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 戦後最大の経済事件イトマン事件で逮捕され、「日本財界のフィクサー」と呼ばれていた許永中氏(六五歳)が二〇一二年一二月中旬、服役していた栃木県黒羽刑務所を出て、韓国に移送されていたことがわかった。韓国への移送は、許受刑者の希望で、国際受刑者移送法により、祖国である韓国で刑に服することが認められたもの。同法は、滅多に適用されることがないため、軽犯罪者ならともかく日本を揺るがした大事件の受刑者に適用されたことは異例と言えよう。

 許受刑者は、大阪府の商社イトマンを舞台にした不正な絵画取引などで総額三〇〇〇億円が闇に消えたといわれるイトマン事件と、一七九億円の手形詐欺事件である石油卸商社・石橋産業事件で有罪となり黒羽刑務所に服役中だった。戦後の在日韓国人差別の中で次第に山口組と関係ができ、やがては代議士との親交まで囁かれる裏経済のフィクサーとして認識されるようになった人物だ。

 許受刑者には持病の心臓病があり、石橋産業事件の二審判決時(二〇〇六年一月)に、意識混濁に陥り、裁判が一時休止されるというハプニングがあった。病状を危ぶむ声がある一方で、本人はエコや環境問題に取り組み、ビジネスでもう一旗あげたいと周囲に述べたという。夢を熱く語るときは非常に意気軒昂であると日本国内で面会していた関係者は語る。

 この年末年始を、韓国・仁川の収容所に一時留め置かれた状態で過ごした許受刑者は、今後収監される韓国国内の刑務所が決定するのを待つ。

 日本では、二〇一四年九月に刑の満期を迎える予定だった。しかし、国際受刑者移送法には「裁判国と執行国の双方が特赦、大赦、減刑ができる」とする規定(二五条)がある。執行国となる許受刑者の祖国・韓国で、規定に基づいた早期釈放という目が出てくるかもしれない。

(編集部、1月11日号)

 第一一回日本軍戦時性奴隷(「慰安婦」)問題アジア連帯会議が一二月九・一〇日、台湾・台北市で開催された。一九九二年の韓国・ソウルでの初回以降、韓国や日本を主な開催国として市民が続けてきたもので、台湾での開催は初めて。同地で「慰安婦」問題に取り組む婦女救援基金会が開催団体となった。

 今回のテーマは「第二次大戦中の日本軍性奴隷についての歴史の継承と教育」。オープニングでは馬英九総統がスピーチして注目を集めた。総統は、サバイバー(生存者)や支援者の約二〇年間の闘いに敬意を表すとともに、この問題の本質的解決を避け続ける日本政府に遺憾の意と怒りを示し、日本が過去に直面する勇気を持つよう呼びかけた。

 あわせてサバイバーもマイクを握った。「工場で働ける」と騙され八年も、アジア各地で働かされた韓国の金福童さん。涙で声が詰まり、「思い出すと言葉がでなくなります」と途中で言葉を継げなくなった台湾の陳桃さん。正義の実現までは死ぬまで闘い続けると語ったフィリピンのエステリータ・ディさんである。続いて、サバイバー支援の現状と課題、国際的な活動を含む政治的行動、継承・教育の三つのセッションで、各国が報告・提言。参加国は台湾、韓国、中国、フィリピン、インドネシアなどと加害国である日本で、全参加者数の約八五人のうち半数ほどが日本からの参加者だった。

 二日目は、「日本政府の謝罪と補償」を求める決議文を採択。▼各国政府や国際機関を通し日本政府に外圧をかけること▼日本の公人が否定的・侮辱的発言をした際は国際的に連帯して抗議すること▼戦時性暴力問題を含む世界各地の女性運動との連携強化▼歴史教科書への再記述を求める――などのアクションプランが盛り込まれた。また、韓国の金学順さんが「慰安婦」被害者として初めて名乗り出た「八月一四日」を記念日とすることを決めた。

(福田美智子・岡まさはる記念長崎平和資料館、12月14日号)

殺人マシンを操作するのは今は人間だが……。(提供/ヒューマン・ライツ・ウォッチ)

 ハリウッド映画さながらのロボット代理戦争が実現する前に禁止しなくては――。

「殺人ロボット」とも呼ばれる未来兵器は、人間の指示なしに標的を選び発砲できる。国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(URL hrw.org/ja)は先月、「失われつつある人間性(Losing Humanity)」と題する全五〇ページの報告書を発表。「殺人ロボット」が実戦配備される前に禁止を、と警告を発した。NGO発表の初の本格的出版物だ。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチ武器局局長のスティーブ・グース氏は「マシンが戦場での人間の生死を決めるなど、テクノロジーの度を超えている。完全自律型兵器の開発・製造・使用を全面禁止する国際条約の制定が必要だ」と語る。

 マシンが人間の部隊に取って代わることで兵士の命は救えるが、戦争という選択が容易になり、結果として一般市民に紛争の重荷が転嫁される。完全自律型兵器は一般市民の殺害に関して、合法か違法かを判断する人間の能力を欠いている上に、市民が殺害されても、プログラマーなど人間の責任を問うのが困難であるがゆえに国際法違反行為を抑止する法の力を弱める危険があるからだ。

 戦場でのマシン自律化に向け先駆型の開発・配備が進む現代。技術開発の先頭に立つのは米国で、中国、イスラエル、韓国、ロシア、英国などが続く。完全自律稼働兵器はまだ実在せず実戦配備決定もされていないが、専門家は二〇~三〇年以内に実現すると見る。

 国家の武器庫に殺人ロボットが姿を現す前に、開発を止めることが肝要だ。さらなる巨額投資が行なわれた後では、あきらめるよう説得するのはより困難になる。

 また、日本を含む各国政府が、国内レベルでのこうした兵器の開発・製造・使用を防ぐ施策を早急に取ることも必要だ。

(土井香苗、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表/弁護士、12月14日号)

SYSTEM FUCKERのボーカル、YU-TAさん(左から2番目)。(撮影/竹内一晴)

 「最近、上の奴らがごちゃごちゃとうるさいことを言ってるけど、俺たちの仲は絶対に引き裂くことはできない。隣の奴を愛せ」

 九月八日、韓国・ソウル市内のライブハウスでソウル、プサン、名古屋を拠点とする国内外のハードコアパンクバンド一二組が出演する壮大なイベント「THE MORE I SEE Vol.1」が開催。愛知県豊田市出身のバンドであるSYSTEM FUCKERのボーカル、YU-TAさんがステージ上で冒頭のように言い放つと会場は歓声に沸いた。竹島(韓国名・独島)領有権問題で日韓関係が緊迫する最中の公演だったが、自分は「右でも左でもない」というYU-TAさんは韓国の友人たちとの関係は「何も変わっていない。それがいい」と語った。

 SYSTEM FUCKERは豊田市の駅前で約二〇年前から開催されてきたゲリラライブ「炎天下GIG」に魅了されたメンバー四人で構成。二〇一一年からは先輩バンドから引き継ぎ、近隣住民の苦情や警察の規制に抗し完全無許可の無料路上ライブを継続する。ギター担当のATSUMIさんは「ホールやライブハウスに当たり前にお金を支払ってライブをするSYSTEMへのアンチテーゼとしてやっている部分もある」と話す。トヨタ自動車の「企業城下町」として人口四〇万人を擁する豊田市だが、市内には「まともなライブハウスもない」有様。自らの手で文化を創り出す同バンドは九月九日に弘益大学前の公園での野外ライブにも出演。圧倒的なパフォーマンスをソウル市民の目に焼き付けた。

(竹内一晴・ライター、10月5日号)

 反原発、反消費税増税、反TPPなどを掲げ、七月二八日に結成が予定されている「緑の党」。準備を進めている「みどりの未来」(事務局・東京都杉並区)によると、六月末時点での入会者(サポーターを含む)および結成大会参加登録者数は九〇〇人近く、結成大会までには目標の一〇〇〇人に達する見込みだという。

「みどりの未来」は昨年の「3・11」直前には会員四〇〇人ほどだったが、その後、月数十人ペースで増加。「緑の党」結成に向けては今年二月に第一回準備委員会を開き、五月以降は各地で公開討論会を開いている。入会者のうち約七〇人が全国各地に散らばる現職議員だ。結党後「みどりの未来」は党に合流する形で解散。二〇一三年夏の参議院議員選挙に候補者を送り込む予定だ。そのための選挙資金「一億円カンパ」も呼びかけ、六月末で寄付金は当面の目標を上回る一〇〇〇万円超となっている。

「緑の党」はドイツをはじめ世界九〇カ国ほどに政党ないしグループがある。アジアでは韓国、モンゴル、フィリピン、台湾などで政党が活動。国情によって影響力は異なるが、フランスでは六月の総選挙で議席三倍増、閣僚を二人送り込んだ。みどりの未来はこれら各国の緑の党と連携している。

 副運営委員長の宮部彰さん(五九歳)は「七月二八日の結成大会、二九日の結成イベントにはドイツ、オーストラリア、台湾の緑の党が来てくれる。来年の参院選へ向けて船出したい」と話す。

 その参院選だが、全国比例区を中心に選挙区あわせて一〇人の男女同数の候補者を目標とし「東京などの大都市と、なんとしても福島から立候補させたい。民主党に裏切られ、新自由主義に批判的な人たちにアピールしたい」(宮部さん)としている。

「みどりの未来」事務局(電話番号03・6454・6068)。

(本誌編集部、7月6日号)

 韓国で四月一一日、四年に一度となる総選挙の投開票が行なわれ、三〇〇議席(小選挙区二四六、比例代表五四)のうち、保守与党セヌリ党が一五二議席を獲得。劣勢との事前の予想を覆し、単独過半数を確保した。一方、総人口の半数が集中するソウルなどの首都圏では革新系の野党候補が圧勝。無党派層の多くが保守陣営に批判的であることを示した。

「党を信じ支持してくれた国民に感謝します」。総選挙から一夜明けた一二日、セヌリ党のトップを務める朴槿恵選挙対策委員長は、記者会見で支持者への謝辞を述べた。現有の一六二議席よりは減らしたものの、過半数の確保にメディアは「大逆転勝利」(朝鮮日報)などと報じ、韓国初の女性大統領を目指す朴氏が、大統領選に向けた足場固めに成功したと記した。

 朴正熙元大統領の娘として高い知名度を誇る朴氏は、総選挙の公認選びで多選議員を引退させ、多くの新人を抜擢することで党改革をアピール。不正事件などで窮地に陥った党を立て直した「救世主」として党内をほぼ完全に掌握した形だ。

 最大野党の民主統合党は、李明博政権下で社会格差が拡大、雇用も悪化したと主に経済政策を批判し、政権への審判を争点に掲げた。だが、李大統領と距離を置き、社会福祉を充実する政策を打ち出したセヌリ党を前に、思った以上の支持が伸びず、議席を伸ばしたものの与野党逆転には至らず、韓明淑代表が辞任するに至った。

 だが、首都圏一一二議席のうち、セヌリ党が獲得したのは四三議席。首都圏の無党派層は反保守の傾向があり、インターネットを通じた情報発信にたけており、投票率が上がると野党側に有利に働くとの見方が一般的だ。

 大統領選は議員選挙より投票率が高くなるため朴氏にとっては脅威となる。また、セヌリ党地盤の南部釜山では、故盧武鉉前大統領の秘書室長だった文在寅氏が民主統合党から出馬して当選するなど、保守地盤に風穴をあけたのも注目だ。野党の大統領候補には、文在寅氏のほか、若者を中心に人気の高い安哲秀ソウル大教授への期待感が高く、一二月の大統領選を控え、各党の候補者選びなど、韓国政界は動きが一層慌ただしくなる季節を迎える。

(北方農夫人・ジャーナリスト、4月20日号)

議論を重ねる各国の論客ら。日本のTPP推進派への批判も鋭い。(2月19日、ソウル市内。撮影/横田一)

「橋下徹市長はTPP(環太平洋戦略経済連携協定)への交渉参加に賛成していますが、多分、内容をあまり知らないのではないか」

 こんな疑問を投げかけたのは、韓国の通商問題専門の弁護士で『韓米FTAハンドブック』の著者でもある宋基昊弁護士。二月一九日、「TPPのひな型」と米国通商代表部が強調する米韓FTA(自由貿易協定)の調査で訪韓した日本の国会議員との懇談会で、「石原慎太郎都知事と橋下市長の連携の可能性が注目を集めている」との発言が出た直後、宋氏はこう指摘したのだ。

「石原知事はTPP反対だが、橋下市長は賛成。韓国で都知事に相当するソウル市長は、給食への遺伝子組み換え食品の使用を禁止する条例をはじめ三〇の条例がFTAに抵触、変更を求められる恐れがあると懸念表明をしています」

 三月一二日と一三日、宋弁護士をはじめ関係各国の専門家や国会議員やNPOが参加した「TPPを考える国際シンポジウム」が都内で開催され、活発な議論をした。韓国からは、韓米FTA全面破棄を求める国会議員の急先鋒の権永吉氏も参加。三月に発効予定の韓米FTAだが、食の安全や医療分野などでの弊害が知れわたり、四月の総選挙や年末の大統領選挙で一大争点に浮上。野党連勝の場合は破棄の可能性が高い。

 米国の参加者は、ラルフ・ネーダー氏が創設したNPO「パブリック・シチズン」のロリ・ワラック課長(貿易担当)とピーター・メバードック課長(医薬品担当)。日本ではTPP推進一色のように報じられる米国だが、北米自由貿易協定(NAFTA)で失業率増加や賃金低下を招き、米国民には自由貿易協定への嫌悪感が根強く、一部の多国籍企業が中心となってTPPを推進しているのが実態だ。

 TPP交渉参加国であるニュージーランドからは、緑の党共同代表のラッセル・ノーマン国会議員と、『異常な契約 TPPの仮面を剥ぐ』(農山漁村文化協会)編著者のジェーン・ケルシー教授(オークランド大学)が参加。TPP交渉をめぐる最新情報について紹介していった。

 二日間の日程はかなり過密。初日は、午前中に永田町で「議員間意見交換会」、一二時からは有楽町駅前で街頭演説会、そして一三時半には日比谷公園からデモ行進に出発。終了後は一五時からの「TPPを考える国際シンポジウム」に集結するという具合だ。

 翌日も九時から、「専門家会議」で日本医師会や消費者団体などの関連団体と意見交換。「医療・医薬品」と「保険・知的財産・食の安全」と「米韓FTA」の三部構成で、第三部では宋氏と権氏らが全国建設労働組合の関係者と条例への影響などについて議論をした。

 一方、今回の国際シンポについて説明した七日の記者会見では、TPPの新聞広告案に関する黒塗りの文書も配布された。タイトルは「TPP交渉参加に向けた協議に関する広報 平成23年度最重要・重要広報テーマ(新規)に係る政府広報」。電通が作成して一月一三日に内閣府大臣官房政府広報室に提出したものだった。

 この新聞広告は二月に主要全国紙などに掲載予定だったが、TPP慎重派が問題視。掲載延期となった。そこで川内博史衆院議員が「『交渉に参加するのか否かは国民的議論を経て判断する』というのが政府の方針。それに沿った広報であったのかを検証しないといけない」として情報開示を求めた。

 しかし請求から一カ月ほど経った三月五日、ほとんど黒塗りにされた文書が届けられた。

 これに対し川内氏は「全面公開を求める国民の声を巻き起こしていく」と意気込みを見せた。「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦前農林水産大臣も「食の安全は守られるとか、国民健康保険制度には悪影響を与えないとか、TPPへの交渉参加を一方的に推進するような内容が盛り込まれていたのではないか。徹底的に追及していく」と強調。TPP慎重派と推進派のせめぎ合いは、今後さらに激しさを増しそうだ。

(横田一・フリージャーナリスト、3月16日号)

 韓国版「ツイッター」で北朝鮮当局のアカウントをリツイートした男性パク・ジョングン氏(二四歳、パク氏のアカウントは@seouldecadence)が一月一一日、国家保安法違反の容疑で逮捕された。

 国家保安法は「北韓(朝鮮民主主義人民共和国)の工作員活動を規制する」ことを主な目的として、大韓民国が成立した一九四八年に制定された。しかし、長年の軍事独裁政権下では学術活動や言論、民主化運動への弾圧に用いられた歴史もある。

 盧武鉉政権時代には廃棄すべきとの議論もあったが、結局見送られた。現在の李明博政権では再び摘発数が増加している。今回パク氏が嫌疑をかけられた理由はツイッターで「金正日萌え」「赤いシャツが好き」とつぶやき、また北朝鮮当局のアカウント@uriminzokのつぶやきをリツイートしていたことだ。

 二〇一一年九月、ソウル江東区で写真館を経営していたパク氏の職場に、押収令状を持った警察官数人が現れ、パソコン、携帯電話などを押収した。数カ月にわたる出頭調査の中でパク氏は「すべて冗談だった」と主張したが、警察は「あなたは従北主義者か」「北の体制に賛同する意味ではないか」などと追及したという。

 しかしパク氏が所属している韓国社会党は〇一年、「韓国の革新政党が北朝鮮に甘い」という批判から生まれ「反資本主義、反朝鮮労働党」のスローガンを掲げている、最も北朝鮮に批判的な政党だ。

 一二月にはソウル市内で北朝鮮の宣伝ポスターを真似たビラをまき、仲間たちと企画した路上イベントでは「金正日万歳!」も叫んだ。主催側によると「金正日」は中学時代の友人の名前のようで、こうした“遊び”が検察の癪に障り、逮捕に繋がったと見られる。

 今年、総選挙と大統領選挙を控えている韓国では、「事実上のネット検閲だ」と批判の声が上がっている。

(金成河・立教大学生、1月20日号)

 韓国で、辛口の政権批判が人気を集めているポッドキャスト(インターネットを使った音声の配信システム)の番組をめぐり、出演していた野党の元国会議員が公職選挙法違反で収監され、番組ファンなどから「言論弾圧だ」との批判が沸き起こっている。

 公職選挙法に問われたのは、番組の出演者で元民主党国会議員の鄭鳳株氏(五一歳)。昨年一二月二二日に大法院(最高裁)で上告棄却となり、判決は確定。鄭氏は同月二六日、支持者たちに見送られながらソウル地検に出頭し、収監された。

 これに対し、番組ファンのほか野党からも一斉に反発の声が上がった。韓国では今年四月に総選挙が実施され、鄭氏も有力な候補者として立候補が取り沙汰されていた。だが、収監によって立候補は不可能になる。一二月には大統領選も行なわれるが、李明博大統領の支持が低迷し「死に体」の様相を呈していることから、民主化運動を経験した四〇歳代以上から高い人気を得ている鄭氏が政権批判の活動を強めることに、ストップをかける狙いがあったのではないかとも言われている。

 番組は「ナヌン・コムスダ(私はけちくさい奴)」とのタイトルで、昨年四月二七日に放送を開始。「私」とは李大統領を指す。元国会議員やジャーナリストら四人が出演し、李政権を批判する議論を展開。番組では軍事独裁政権時代に大統領に対して使われた呼称の「閣下」をあえて用い、李大統領を「カッカ」と言い換えて、徹底的にこき下ろす。韓国政治の問題点を指摘しながら「カッカはそんなことをする方ではありません」と皮肉るシニカルな内容で、放送開始直後から話題を集め、二〇歳代から四〇歳代にかけてファンが急増。「ナコムス」との略称で、広く知られるようになった。

 毎週一回更新される番組のダウンロード数は、約二〇〇万にのぼる。昨年八月からはitunesのポッドキャストで、ダウンロード数の一位を記録し続けている。

 鄭氏は二〇〇七年の大統領選で、当時ハンナラ党の候補者だった李大統領が、株価操作と横領に関わっていたと発言。虚偽の事実を流して選挙活動を妨害したといして公選法違反などの罪で起訴され、〇八年に一、二審で懲役一年の実刑判決を受けた(株価操作などの問題は、検察は李大統領の関与なしと結論)。

 番組に出演する雑誌『時事イン』の記者、朱真吁さん(三八歳)は、鄭氏の収監について「政権批判の言論封じが目的なのは明らかだ」と語気を強めた。

 実際に、番組が実際の政治に大きな影響を与えている。昨年一〇月に行なわれたソウル市長選挙で、野党統一候補の朴元淳氏が当選を果たした背景には、番組が積極的な支援に回ったことも要素として挙げられている。

 朴市長は当選後、番組が開いた公開イベントに姿を見せ、支持に感謝を表し、会場から熱狂的な声援を浴びていた。また、世論調査機関「リアルメーター」が、市長選挙当日に番組の認知度を調査したところ、約六割が知っていると回答。市長選では、二〇歳代から四〇歳代の「反保守」の動きが朴氏当選のカギとなったとされ、民主党関係者は「反保守のムード作りに、ナコムスは絶大な威力を発揮した」と評価する。

 一方、こうした動きに政権側は敏感な反応を示している。政府関係者は「(番組によって)若者層を中心に反政権の雰囲気が醸成されたのは確か。これが(大統領選の)一二月まで続く可能性もある」と、危機感を露わにする。

 番組では、朱記者による李大統領の不正土地取得疑惑のスクープを紹介し、李大統領が批判を浴びて取引を撤回する事態に発展。政権側にとって「無視できない存在」(与党ハンナラ党関係者)となり、ソウル市長選前には同党の洪準杓代表が番組に出演し、政権や与党への批判に直接答えた。

 鄭氏の収監後も番組は続けられ、野党の重鎮らが次々と番組に出演。人気も勢いが衰えていない。朱記者は「これからも国民の知りたいことを伝えていく」と話している。

(北方農夫人・ジャーナリスト、1月13日号)

ソウル市の国会議事堂近くで行なわれた夜ライブには、ネットを通じて若者らが集まった。(撮影/金雄基)

 韓国ソウル市のヨイド広場で一一月三〇日、体感温度〇度の中、韓米FTA(自由貿易協定)反対トークライブが行なわれ、三万人以上(警察発表一万六〇〇〇人)の観客が集まった。

 ライブを呼びかけたのは今韓国で絶大な人気を誇るインターネットラジオ番組『ナヌン・コムスダ(けちくさい奴)』を運営する四人組。前国会議員、ネット新聞総帥、政治記者、評論家の四人は「李明博(大統領)狙撃手」を自負している。

 彼らのコメディ然としたトークが李大統領の不正疑惑を暴露し、それがツイッターなどソーシャル・ネットワーク・サービスで瞬く間に広まった。その信頼度は世論調査によると八五%。大手マスメディアの信頼は失墜して久しい。「今行動すれば発効を止められる。発効しても次の選挙で政権を替えて破棄できる」

 こう訴えたのは李正姫議員だ。また、一一月二二日の国会本会議で韓米FTA批准案が強行採決されようとした際、催涙弾を爆発させた金先東議員は「(催涙弾を)自分で浴びてるんじゃねぇ」と茶化され爆笑の渦も起こった。

 見ず知らずの観客同士を瞬時に一体化させ、「閣下のおかげで庶民は無茶苦茶だ」と、替え歌やパロディ映像で李大統領をこき下ろしてはいる。しかし、そこには“がなり声”のシュプレヒコールは一切ない。

 オンラインとオフラインが有機的に結びついた抗議行動はコンサート感覚で気軽に参加できる。ITと政治、そしてメディアに対するリテラシーの高さを利用したこの新戦術は、市民とりわけ若い世代の、既成政党への疑念をも吸い上げ、先のソウル市長補選では市民運動家を当選させた。

 来年の国会議員選と大統領選を占う上で、ネットメディアがどれほどの影響力を持つのかと同時に、新たに有権者となった在日韓国人がどう政治的リテラシーを高めていくかについても注目したい。

(金雄基・韓国弘益大学校助教授、12月9日号)