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白い花(小室等)

2017年4月10日7:41PM

人は皆自分を殺して生きている、という芝居を観てきた。

二〇〇一年、旧日本軍による「慰安婦」制度を裁く女性国際戦犯法廷を紹介しようとしたNHKのドキュメンタリー番組が、政治家による圧力を受けて改変されたのは万人の知るところ。その事件を元に、劇作家の石原燃が書いた戯曲「白い花を隠す」を、演劇集団「Pカンパニー」が、池袋のシアターグリーンBOX in BOX THEATERで公演した。

圧力をかけた政治家とは、中川昭一と安倍晋三(当時は官房副長官)の二人だ。どのような圧力かについては、『番組はなぜ改ざんされたか「NHK・ETV事件」の深層』(一葉社)にくわしい。亡くなられているので中川氏の今を語るすべはないが、安倍という人のひどさは今も健在だ。

内部告発して組織を去った者にも、組織に居残った者にも沈黙の時が過ぎていくが、〇五年一月になって、NHKチーフプロデューサー(当時)長井暁氏が沈黙を破って涙の会見を行なう。

なぜ四年も経ってから告白する気になったのかという質問に、劇中ではMHK(NHKではない)の長井に扮する木村プロデューサーは、
木村 ……家族が路頭に迷うわけにはいかないので、この四年間、非常に悩んで……。(泣く。カメラのシャッター音)。やはり、真実を述べる義務があると、決断するに至りました。(上演台本より)

その会見に接したMHK外部制作会社の、自らも組織のため、家族のため、沈黙をし続けてきたプロデューサー大友敏也(年齢設定四五歳)は突如自虐的な哄笑を発し、
大友 家族が路頭に迷うわけにいかないって。藤田なんかとっくに路頭に迷ってるよ。谷だって田舎帰って。なんなんだよ、路頭に迷うわけにいかないって。笑わすなよ。(同)
と白い花を求めて家族と組織から去っていく。

ほかの役者もみんなすばらしかった。この芝居が上演されたことを、誇らしく思う。

大友役も演じたPカンパニー代表の林次樹さんもパンフレットで書いているが、この作品が含む問題は重層的。(「慰安婦」、組織、家族、表現の自由、自主規制、同調圧力、メディア、政治介入、公平中立……)。どの問題もすべて僕自身に突きつけられているが、とりわけ、まがりなりにもメディアにかかわる仕事をしている僕には切実だ。

現に、いま僕がホストの「小室等の新音楽夜話」のテレビ局は東京MX。そしていま、辛淑玉さんたちが貶められた番組「ニュース女子」も東京MX。今まさに、重層された問題がすべて僕に突きつけられている。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、3月24日号)

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