考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

ノッシノッシと逃げ始める──カナダ=エスキモー6(本多勝一)

2017年3月18日7:43PM

銃声と同時に8頭のカリブーは一斉に立ちあがって逃げはじめた。(藤木高嶺記者写す。)

姿を見せた8頭のカリブーは、全頭すわりこんで悠然としている。あの位置まで約100メートルか。今年の新しいツノは、まだ成長の途中だから短いが、1頭はきわ立って大きくのびている。まるで大きなカンザシ(簪)みたい。白っぽい体毛で、均整のとれた姿態だ。

イスマタが前進の合図。ヒジだけで体をずらせる。銃を持つ3人は、いつでも発砲できる姿勢だ。私たちはもうカリブーと全く同じ高みにいるので、体をかくせない。げんに3~4頭がこちらを見ているではないか。ふしぎそうに、キョトンとしつつ……。藤木さんの構える350ミリ望遠レンズの焦点が、距離80メートルを示した地点でストップ。

三つの銃口が8頭の群れに向けられる。口径303(約7・7ミリ)の5連発。午後8時40分。イスマタの銃が第1弾を放つ。反響のない鈍い銃声。瞬間、同時に8頭が立ちあがった。

3人のエスキモーたちは一斉射撃するものと私は思っていた。だが、イスマタに続くカヤグナの第2弾は、カリブーの8頭が立ちあがって四散する態勢に移ってからである。さらに2~3秒してムーシシの第3弾。

カリブーの動きも意外だ。銃声と同時に横っとびで走りだすかと思いきや、ゆっくり、あわてず、ノッシノッシと逃げ始めた。(敬称略)

(ほんだ かついち・『週刊金曜日』編集委員)

※この記事は現在、本多編集委員がかつての取材をもとに『週刊金曜日』に毎週連載しているものです。カナダ=エスキモーの連載は1963年に『朝日新聞』に掲載され、後に単行本や文庫本にまとめられています。

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

黒沼ユリ子の「おんじゅく日記」

ヴァイオリンの家から

黒沼ユリ子

発売日:2022/12/06

定価:1000円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ