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ノッシノッシと逃げ始める──カナダ=エスキモー6(本多勝一)

銃声と同時に8頭のカリブーは一斉に立ちあがって逃げはじめた。(藤木高嶺記者写す。)

姿を見せた8頭のカリブーは、全頭すわりこんで悠然としている。あの位置まで約100メートルか。今年の新しいツノは、まだ成長の途中だから短いが、1頭はきわ立って大きくのびている。まるで大きなカンザシ(簪)みたい。白っぽい体毛で、均整のとれた姿態だ。

イスマタが前進の合図。ヒジだけで体をずらせる。銃を持つ3人は、いつでも発砲できる姿勢だ。私たちはもうカリブーと全く同じ高みにいるので、体をかくせない。げんに3~4頭がこちらを見ているではないか。ふしぎそうに、キョトンとしつつ……。藤木さんの構える350ミリ望遠レンズの焦点が、距離80メートルを示した地点でストップ。

三つの銃口が8頭の群れに向けられる。口径303(約7・7ミリ)の5連発。午後8時40分。イスマタの銃が第1弾を放つ。反響のない鈍い銃声。瞬間、同時に8頭が立ちあがった。

3人のエスキモーたちは一斉射撃するものと私は思っていた。だが、イスマタに続くカヤグナの第2弾は、カリブーの8頭が立ちあがって四散する態勢に移ってからである。さらに2~3秒してムーシシの第3弾。

カリブーの動きも意外だ。銃声と同時に横っとびで走りだすかと思いきや、ゆっくり、あわてず、ノッシノッシと逃げ始めた。(敬称略)

(ほんだ かついち・『週刊金曜日』編集委員)

※この記事は現在、本多編集委員がかつての取材をもとに『週刊金曜日』に毎週連載しているものです。カナダ=エスキモーの連載は1963年に『朝日新聞』に掲載され、後に単行本や文庫本にまとめられています。