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豊洲新市場、解析データで浮かび上がった謎――盛り土による地盤沈下にズレ

2016年10月11日11:08AM

2007年7月9日に行なわれた日本環境学会の現地見学会。豊洲を訪れたが、敷地内への立ち入りは東京都から拒否された。(撮影/伊田浩之)

2007年7月9日に行なわれた日本環境学会の現地見学会。豊洲を訪れたが、敷地内への立ち入りは東京都から拒否された。(撮影/伊田浩之)

東京・豊洲新市場(江東区)の移転問題が混迷を深めている。新市場の主要建築物の下に、東京都が土壌汚染対策として4・5メートル(m)の盛り土を行なう予定が、実際はしていなかった、“消えた盛り土”問題は序の口。建物の床下に“謎の空洞”があり、水産卸売場棟の地下空洞には地下から染み出したと考えられる水が溜まっていた。

しかも、この水産卸売場棟の地下に溜まった水について、都議会公明党は9月20日、環境基準では不検出であるべきシアン化合物が1リットルあたり0・1ミリグラム検出された、と公表したのだ。

そもそも、2008年に専門家会議が出した土壌汚染対策(盛り土)の提言はなぜ無視されたのか。

移転決定時に都知事だった石原慎太郎氏は9月13日のBSフジ番組に出演し、〈盛り土にしなかったことを部下から「聞いてません。これは僕、だまされたんですね」と述べた。/さらに「してない仕事をしたことにして予算を出したわけですからね、その金はどこにいったんですかね。都の役人ってのは腐敗してるね」と話した〉(『東京新聞』9月14日夕刊)。

が、地下にコンクリートの箱を埋める案について当時の都中央卸売市場長の比留間英人氏が『東京新聞』の取材に〈「石原氏から『こんな案があるから検討してみてくれ』と指示を受けた」と明か〉(同紙9月16日朝刊)すと、石原氏は態度を一変。〈これまでの発言を修正し、「(自分が)専門家から聞き、都の幹部に検討したらどうだと言っていた」と述べた〉(同紙9月18日朝刊)。ウソで都民をだまそうとした石原氏こそ「腐敗してる」のではないか。

【残留沈下は最大17センチ】

盛り土をしなかった理由を探るため、東京都中央卸売市場の公式サイトを精査していると、興味深い資料があった。「豊洲市場に関する会議資料」の「地質調査データ」「地盤解析データ」だ。東京都の新市場建設室が発注し、民間の地質コンサルタント会社が2006年6月から12月まで調査している。

地盤解析データの「沈下解析」では、AP+6・5mまで盛り土した場合、埋め立て地のため軟らかい豊洲の地盤がどの程度沈むかを計算している。(APとは、Arakawa Peilの略で荒川工事基準面のこと)

そして工事前である06年当時の地表は、5街区(青果棟)はAP+6・5mに達しているが、6街区(水産仲卸売場棟)は現地盤から0・57~2・73mの盛り土が必要。7街区(水産卸売場棟)は、おおむねAP+6・5mよりも高い盛り土が覆っているので切り土が必要だが、部分的に1・12~2・5mの盛り土が必要としている。

そして、盛り土から1年間放置しても6街区の一部で、残留沈下(地盤沈下が起こった際に沈降現象が収束しておらず、今後もまだ沈下が進む可能性があること)が最大17センチメートルあることがわかった。沈み方にこれほど差があれば安定しないだろう。

この対策としては(1)放置期間を2年間と長くする、(2)放置期間1年ならばAP+8・6mまで土を盛る──が明記されている。専門家会議が提言した、地表から深さ2mを掘削して高さ4・5mの盛り土をすると、2・5mの盛り土になるので、最初の沈下解析があてはまる。

ただ都は、主要建物は基礎地盤まで届く杭基礎という方式を採用していると説明している。

あるコンサルタント技術者は「地面の上にじかに建てる直接基礎形式ならば、盛り土より軽いコンクリートの空洞で沈下量を抑えようとしたと考えられるが、杭基礎ならば、コストはかさむものの、建物は地盤沈下の影響は受けない。ただ、駐車スペースなどとの段差が沈下で広がるのは困るだろう」と推測している。

東京都は当時、16年の五輪開催誘致を進め、豊洲新市場は12年開場を目指していた。誘致失敗などで開場時期が遅れるなかで、汚染対策も謎の変遷を遂げている。そして、費用がかかる工法にどんどん変わっているようだ。

(伊田浩之・編集部、9月30日号)

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