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「翁長雄志新知事」誕生の背景――沖縄県知事選挙を振り返る

2014年11月25日7:24PM

「イデオロギーではなく、アイデンティティ」を合い言葉に、辺野古移設反対を訴えた翁長雄志氏。(写真/横田一)

「イデオロギーではなく、アイデンティティ」を合い言葉に、辺野古移設反対を訴えた翁長雄志氏。(写真/横田一)

「どのように勝つか、が大事だ」

米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設問題を最大の争点とする沖縄県知事選の投開票日(11月16日)を直前に控え、翁長雄志選対のひとりはこう話した。

11月7、8日の両日、共同通信社が実施した世論調査で、前那覇市長の翁長氏(64歳)は現職の仲井眞弘多氏(75歳)を大きく引き離した。共産、社民、沖縄社会大衆各党の支持層をほぼ固め、無党派層の5割超に浸透。自民党、次世代の党の推薦を受ける仲井眞氏は、自民党支持層の5割超を固めたが、公明党支持層は3割にとどまる。

一方で、自民党支持層の3割弱が翁長支持にまわっており、同氏陣営の焦点は、勝敗から「辺野古移設反対という民意を日本政府につきつけるため、どれだけ差をつけられるか」(支援者のひとり)に移りつつある。前衆議院議員の下地幹郎氏(53歳)、元参議院議員の喜納昌吉氏(66歳)の支持は、ともに拡がりを欠いている。

【“翁長撃ち”に幸福実現党】

安倍政権にとって最大の懸案は、日米合意のもとで進められる普天間飛行場の辺野古移設に翁長氏が反対している点だ。推進の仲井眞氏をバックアップし、翁長氏の票を削ごうと画策している。

複数の事情通によると、数カ月前から警察庁は沖縄県警に対し、翁長氏をおとす、もしくは脅せるスキャンダルがないか照会を求めていたという。しかし「確たるものは出てこなかった」(事情通)。そこで街に出てきたのが翁長氏を誹謗中傷する怪文書と宗教団体の存在だった。本誌が確認したものだけで複数枚の怪文書がばらまかれている。

真相を明かすのは西田健次郎元自民県連会長。同氏は今年1月の名護市長選でも辺野古移設反対派の候補をおとすべく怪文書配布を主導した。「今回も宗教団体と連携しているのですか」と尋ねると、「幸福実現党が怪文書を配布してくれている。自民党と幸福実現党が連携するのは沖縄だけだろうが」と笑って答えた。同党は宗教団体「幸福の科学」の政党だ。

【娘と妻と仲井眞知事】

「ネックは年齢」と言われる75歳の仲井眞氏は自分の娘を前面に出す。琉球放送に務める長女と、電通に務める二女だ。街宣車でまわる仲井眞氏の横には、「候補者の娘」というタスキをかけた女性が手を振る。選挙プランナー三浦博史氏(アスク社長)が「娘同伴若返りイメージ作戦」を指南した。また、仲井眞氏の数十年来の知人によると、今年2月に結婚式を挙げた二女の「ご祝儀」の額は常識をかけ離れていたという。

「去年の8月、菅義偉官房長官が来沖し仲井眞と会いました。同席したのは琉球放送最高顧問の小禄邦男、國場組社長の國場幸一です。この席で菅は仲井眞に『あなたはいくらもらえば降りるのか』と聞いたそうです。仲井眞は『自分は個人的にカネをもらったことはない』と返したそうですよ」

このやりとりが前段となって、後々でてきたのが「祝儀」だった。「祝儀なら何千万だろうと何億だろうと問題視されないし、表にも出ないでしょう」と知人は語る。

「仲井眞は東京にマンションも買い、現在の妻U氏と静かに暮らす準備も進めていたよ。ところが、借金が残ったりとか、いろんな事情があったんでしょう、また出馬すると言い出した。当時は政府から官房機密費がおりるという話もあったから」。官房機密費がおりたのかどうかは定かではない。

【鉄道建設というアメ】

仲井眞氏の出陣式(10月30日)にかけつけた谷垣禎一自民党幹事長の横で、仲井眞氏は“巨大花火”を打ち上げた。総事業費が7~8000億円の鉄道建設である。

「(那覇市と名護市を結ぶ)『南北縦貫鉄道』もほぼ調査が終わっております。那覇空港のもう一本の滑走路(建設)の後は、直ちにこれが立ち上がるように安倍総理に話をしております。今日は自民党の幹事長さんもお見えですから、一つ、よろしくお伝えください」

仲井眞氏の演説終了後、鉄道建設について谷垣氏に直撃すると、「しっかりとバックアップしていかないといけない」と回答。だが、辺野古移設反対派はこれに憤る。

「全国で鉄道がないのは沖縄だけ。鉄道建設は県民の悲願ですが、新基地建設容認とセットにすべき話ではないでしょう」

【島尻氏のカレンダー】

「経済政策で勝負する」――地元選出の島尻安伊子参院議員は仲井眞陣営の講演で次のように語った。

「仲井眞さんは鉄道建設に加え重粒子線治療施設整備から成る『国際医療拠点構想』やカジノを含む『統合型リゾート(IR)開発』などの振興策を進めようとしています」

しかしその島尻氏、支援者らに配った顔写真入りカレンダーが公職選挙法に抵触するのではないか、との指摘を受けている。告発したのは島尻氏選挙区の住民だ。

「ことし初めに配られていた顔写真入りカレンダーです。こんなものを配るのは似顔絵入り『うちわ』を祭りで配っていた松島みどり前法相や、顔写真入りワインを支持者に贈っていた小渕優子前経済産業相と同じではないでしょうか」

島尻氏はカレンダー画像を自身のブログにもアップし、〈ちなみに写真は「島尻あい子 2014カレンダー」支持者の皆様にお配りしてるところです〉と書き込んだ。

公選法は選挙区での「寄付」を禁じている。「うちわ」や「ワイン」は「寄付」かどうかが争点となっている。顔写真入りカレンダーはどうか。島尻事務所に問うたが、期日までに回答がなかった。

【櫻井よしこ氏の講演】

11月9日には評論家の櫻井よしこ氏も仲井眞氏の応援にかけつけ、豊見城市内で講演した。

「翁長さんを応援しているのは誰ですか。共産党じゃないですか」

「名護市には辺野古移転に反対の方(稲嶺進市長)が通りました。いま副市長は共産党なんですって。教育長も共産党なんですって」

名護市役所関係者は「事実無根です。櫻井氏の発言は公職選挙法に抵触するのではないか」と反論する。櫻井氏はさらにこう続ける。

「(普天間の移設先は)辺野古しかない。辺野古を活用して、アメリカが働きやすくし(中略)この中国の脅威の最前線に、否応なく立たされている沖縄を力強い砦にしないといけない」

安全保障の基礎知識が欠落しているのだろう。たとえば「有事」の際、MV-22(オスプレイ)は長崎・佐世保の米軍艦船に積まれたのち現場に向かう。九州に配置されているほうが出動しやすいのだ。

今年8月、翁長氏に出馬を要請したことで自民党を除名された那覇市議の屋良栄作氏もこう話す。

「どうしてそういう(櫻井氏のような)発想になるのか。役割や機能を考えれば、海兵隊が沖縄に常駐する必然性はない。沖縄にあるのは、森本敏元防衛相が言ったように『政治的な理由』からです。ここにだけ基地機能を集中させ、強化することは、またも『捨て石』にしかねない発想だと思います」

11日現在、衆議院の年内解散が現実味を帯びてきた。安倍首相最大の公約「拉致問題の解決」ははるか遠く、消費税増税や原発の再稼働は国論を二分している。沖縄県知事選の結果が、安倍首相をさらに追い詰めるだろう。

(横田一・ジャーナリスト+野中大樹・本誌編集部、11月14日号)

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