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「原子力ムラ」の中心人物・田中俊一氏が規制委員長候補に――政府案に再考求める声広がる

2012年8月9日2:16PM

「『原子力ムラ』の中心人物に『規制』を担当させるもの」「適任者への差し替えを」 

 七月二一日、NGO「FoE Japan」やeシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)、エネシフ・ジャパンなどは、二〇日に一部報道によって明らかにされた「原子力規制委員会」の人事案に、抗議の声明文を出した。

 原発の安全と規制を一元的に担う規制委。政府の人事案は、委員長(任期五年)に放射線物理を専門とする田中俊一・高度情報科学技術研究機構顧問を充てるほか、委員(任期は二~三年)に中村佳代子・日本アイソトープ協会プロジェクトチーム主査、更田豊志・日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門副部門長、大島賢三・元国連大使、島崎邦彦・地震予知連絡会会長というもの。

 この中で、とりわけ問題視されているのは委員長候補である田中氏だ。田中氏は東北大学工学部原子核工学科を卒業後、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)に入所。二〇〇四年には同機構の副理事長に就任し、その後も内閣府原子力委員長代理(〇七~〇九年)、日本原子力学会会長(〇九年)を歴任するなど、いわば「原子力ムラ」の主流を歩いてきている。 

 福島原発の事故後は飯舘村に泊まり込んで除染に取り組むなど“市民派”と見る向きもあるが、「福島老朽原発を考える会」の坂上武さんは「田中氏は故郷で暮らすのが一番良いという“美談”の下で除染に取り組んでいる。低線量被曝に対する認識も甘く、原子力賠償紛争審査会では自主避難者への賠償に最後まで抵抗した」と、否定的な見方を示す。

 規制委はそもそも、経済産業省原子力安全・保安院が原発の推進と規制の両面を担うことの矛盾と弊害から脱するために新設されるもので、国からの独立性を保つため環境省の外局に置かれる「三条委員会」となり、その人事は国会の同意事項となる。その実務を担う原子力規制庁の職員は経産省などからの出向だが、ここには、五年が経過すれば出身官庁に戻さない「ノーリターン・ルール」が適用される。「内実は経産省と一緒」という批判をかわすためだ。

 しかし原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「部屋が変わったからといって、それまで原発を推進してきた人たちが考え方を変えて働くというのは考えにくい。その意味で規制委はマイナスから出発するようなもの」と、先行きの不透明さを危ぶむ。

 安全と規制、両機能を一元的に担う規制委の職権は、原発事故が起こった際の緊急対応だけでなく、原発再稼働の是非や「四〇年廃炉」基準の見直し、放射線モニタリングなど専門的な領域にまで及ぶ。

 自民党などは人事案が国会提出前に事前報道されたことに反発しながらも、人選については承認する方針を示した。〇七年、自民と民主の両党で取り交わされたはずの「事前報道された人事案は見送る」というルールは、ここでは見送られた。

 政府は「脱原発依存」をアピールするため、七月上旬、選ばれる委員に条件を設けていた。直近の三年間に原子力関連会社などの役員や社員であったり、そこから報酬を得ていた者を除外するというもの。にもかかわらず、「原子力ムラ」の中心人物を委員長に据えようとしていることに新党「国民の生活が第一」のある議員秘書は「条件をつけたのは後付けではないか。初めから人選は固まっていて、その人物がクリアできるラインを後から公表したにすぎないのでは」と推測する。

 原発問題に詳しい共産党の吉井英勝衆議院議員は「かつては私も原子力の平和利用に夢を見た人間」と過去を振り返りながら、人事案について「福島事故に何を感じ、今どう思っているのか。それを国会の場で、委員選任の前に候補者本人たちに聞いてみたい。国会はそのためにあり、国会事故調報告書の精神はそこにある」と話した。

 二四日夜には慶應義塾大学教授の金子勝氏やサステナ代表のマエキタミヤコ氏らが人事案に異議を唱える緊急記者会見を開き、人選の再考を訴えた。

(野中大樹・編集部、7月27日号)

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