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暴力団排除条例の“副作用”対策か――安藤隆春警察庁長官、勇退の謎

2011年11月21日11:07AM

 暴力団排除条例(暴排条例)を全国で施行させるなど暴力団対策の陣頭指揮を執ってきた安藤隆春前警察庁長官が、一〇月に唐突に辞任した理由について、いまだに警察内部からも「よくわからない」と疑問視する声が聞こえてくる。

「警察のトップが退任するのに次の天下り先も決まっていなかった。そんなこと普通ありえない」

 警察組織の幹部までもが関係者にこうつぶやいたというのだ。

 一〇月一七日付で片桐裕新長官と交代した安藤前長官の退任は、一四日の閣議で急に決まった。安藤氏は通常の任期である二年を超えて在任していた。ただ、警察のトップ人事は通常八月に替わるため、同氏は少なくとも来年の春か八月まで在任するとみられていた。かつて漆間巌元長官が三年務めた例もあった。さらに、安藤氏には一六、一七日に鹿児島出張の予定もあった。そのため関係者の間では「何かスキャンダルでもあったのか」「健康問題でもあるのか」といった憶測も飛び交ったのである。

 これに対し、漆間氏の“慣例”を超えた在任で生じていたトップ人事の年次構成の歪みを安藤氏でさらに拡大させないため、という警察庁関係者の解説が報道されたりもしていた。

 そんな騒動最中の二一日、警察庁が、警察組織内でも上層部だけにしか周知されていない緊急会議を都内で極秘裏に開いていた。

 片桐新長官が議長を務めたこの会議には、現役の警視総監や本部長といった上層部だけでなく、歴代の警察庁長官や警視総監の経験者まで含めた幹部一同が招集された。出席した幹部が関係者に漏らした話によれば、招集がかかったのは直前で、それだけの大物を集めるのには「異例なやり方だった」(警察関係者)という。

 会議でも長官交代について、トップ人事の年次構成を本来の“順送り”に戻すための調整だったという趣旨の話は出たという。

 だが、ある警察幹部は、本当に調整をするつもりならば、今回も片桐新長官と次の長官候補との年齢差が一歳しか違わず、片桐新長官が「一年で辞めないといけないことになる」などと矛盾点を指摘。冒頭のように安藤氏の天下り先が決まっていなかったこともあり、結局、交代の真相は「よくわからない」と首を傾げていたという。

 そうしたなか、ある警察関係者は暴排条例との関係について指摘する。

 暴排条例は暴力団員だけでなく団員と密接に交際する一般人まで罰することができ、「憲法違反」との指摘もある。実際、「山口組が憲法違反で裁判を起こす準備をしている」(警察関係者)との情報もある。このまま暴排条例による摘発が進み、訴訟などが実際に起きた時に、安藤氏がトップのままでは「火の粉が直接トップに降りかかり、万が一、辞任でもする事態になれば警察全体の失態になる」(同)。しかし、当事者の安藤氏を先に辞めさせておけば新長官は個別の問題に対処する形ですむ、というわけだ。

 一方、暴排条例についてはメディアの批判なども強く、警察内からも実際の適用に向けて「動きにくい」という声も聞こえてくるほか、暴排条例でもっとも得をするのは警察OBという指摘もある。

 実際、暴力団との関係を憂慮する企業が、警察OBが経営する危機管理会社や警備会社と契約したり、警察OBを雇用したりするケースが増えている。結果的に、これまでヤクザが“ケツモチ”(トラブルの解決など)などで得ていた“利権”を警察OBが肩代わりするところがあるのだ。今回は詳細は省くが、再就職した警察OBについて、その活動が活発化すれば「さまざまな問題が表面化する可能性も高くなる」と懸念する警察関係者もいる。

 いずれにせよ、安藤氏退任の真相は、警察内でも極一部の上層幹部を除いて不明のままで、暴排条例の“副作用”が顕在化するのも今後の話。長官勇退の真相と暴排条例の行方について、しばらく目が離せない。 

(杉原章一・ジャーナリスト、11月11日号)

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