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命をつなぐ(小室等)

「さんさ酒屋のコンサート」は岐阜県中津川上野の坂下地区にある蔵元「山内酒造場」で開かれる。主催は二一代当主、山内總太郎氏と満由美夫妻(總太郎氏は、あの伝説の全日本フォークジャンボリーの実行委員でもあった)。

コンサート当日は、小野櫻と春一番地の新酒が蔵出しされ、“かみさん連”の奮闘によるさまざまな手作り料理が並ぶ。仲間たちの畑でとれた新鮮な野菜、とりわけ僕の気に入りは、“みそマヨ”で食べる生の玉ねぎ苗。そう三月一九日、コンサートに招かれ、地付きのフォーク・グループ「我夢土下座」「土着民」らに混ざって歌ってきた。過去三回招かれたが、一八回目の今年が最終回であった。

四月になって、僕の好きな「春一番地」が届いた。同封の山内夫妻のメッセージがあまりに素敵なのでほぼ全文を紹介する。

〈今年も新酒が搾れ、恒例の「さんさ酒屋のコンサート」を催しました。私たち夫婦は今期限りで酒造りを引退することに決め、「さんさ酒屋のコンサート」も今回を最後といたしました。一九年、一八回(大震災の年は中止しました)もやってこられたのもフィールドフォーク(七一年から山内さんたちがはじめたフォークソング運動=小室注)の仲間たちのお蔭です。

私たちの活動は歌だけでなく、もの作りを生業にした者もあれば、農家農村からの情報発信をめざした交流体験農場「椛の湖農業小学校」もやってきました。

「農小」では、農と食に理解を深めてもらい、食の安全と自然や環境を守ることを一緒に考えました。子どもたちに農作業を教えるだけでなく、自然の中での暮らしぶりなど伝えたいことがいっぱいある中で、一番は「我らは野菜の命を途中でいただいて、命をつないでいる」ことを実感してもらうことでした。言葉を替えて言えば「命を大事にする人になってほしい」ということです。

自分の命を大事にする人は他人の命も大事にするはずで、それは自然や環境を大事にし、平和を守ることにつながると信じるものです。その「農小」は昨年度二三期で閉校しましたが、今は新しい交流体験の場を準備中です。

命がないがしろにされたり、平和が脅かされている時代にあって、フィールドフォークの仲間たちもそれぞれの歌や活動をつづけるなかで、小さな声でも上げ続けていくことでしょう〉

「さんさ酒屋のコンサート」は終わったが、山内さんたちの生きる活動はこれからも続く。人知れず、という言い方は適切ではないかもしれないが、人知れず素敵な人は“田舎”に住んでいる。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、4月21日号)

パスポートの強制返納は合理的? 東京地裁が憲法軽視の「忖度」判決

報道陣に制限付きパスポートを見せる杉本祐一さん(右)。4月19日、東京都内にて。(撮影/志葉玲)

「旅券返納させた外務省の判断は合理的」――今月19日にフリーカメラマンの杉本祐一さんが国を相手に提訴した裁判で東京地裁は国側の主張を全面的に認める判決を出した。

一昨年2月、杉本さんがシリアへ渡航する計画が一部報道で発覚し、外務省は、杉本さんにパスポートを強制返納させ、新たに発給されたパスポートも、イラクとシリアへの渡航を制限されたものであった件で、同年7月にこれらの処分取り消しを求め杉本さんが提訴していたもの。東京地裁の判決は、憲法軽視もはなはだしいもので、安倍政権に忖度したものだと言える。

本件について外務省は、旅券法に基づき、杉本さんの生命と身体を保護するために行なった処分だと主張している。だが、福島みずほ参議院議員事務所の調べで、杉田和博内閣官房副長官が、外務省の三好真理領事局長(当時)を呼びつけ、旅券強制返納が決定されたことが明らかになっている。そのため、杉本さん側は「イスラム国による日本人誘拐殺人事件への対応を批判されていた安倍政権が、第二の誘拐事件を恐れたことが、パスポート強制返納につながったのではないか」と主張。裁判では、杉本さん側が証拠を提出し、何度も事実関係の確認を求めたにもかかわらず、国側は安倍政権の関与について終始認否すらしなかった。

それにもかかわらず、東京地裁は「外務省の処分が安倍政権の保身のためだったとは言えない」と判断。杉本さんの代理人で元新聞記者の中川亮弁護士は、判決後の会見で「何を根拠に安倍政権の保身ではないと言えるのか」と東京地裁の姿勢を批判した。

本裁判で争点となった一つが、強制返納に先立って、必要な法手続きである「聴聞」が行なわれなかったことだ。「聴聞」とは、行政処分にあたり、不利益を被る当事者に事前に通知し、後日に主張・弁解する機会を与えるというもので、行政手続法13条1項、憲法31条に基づくものだ。正式な手続きを経ない行政処分は、違憲・違法となるが、外務省側は「杉本さんが逃亡する恐れがあった」として行政手続法13条2項による緊急時の聴聞の省略を主張した。杉本さんが再三、「逃亡の意思はなかった。逮捕されると家族や支援者に迷惑がかかるので、苦渋の判断で、パスポートを返納した」と主張し、国側の主張を裏付ける証拠は何もないにもかかわらず、この点でも、東京地裁は国側の主張を支持した。

【危機感のないメディア】

驚きであったのは、判決文での古田孝夫裁判長らの見解だ。「身命を賭してでも取材及び報道を遂げようとする姿勢は誠に崇高なものというべきではあるが、我が国の憲法がいかなる場合にも国民の生命・身体よりその報道及び取材の自由を優先して保護すべきものとしているとは解されない」と踏み込んだのである。言うまでもなく、憲法で「報道の自由」は保障され、「取材の自由」は尊重される。前出の中川弁護士は「報道の自由や報道に携わる者としての杉本さん個人の権利といったバランスを考えないで、国は国民の生命・身体の安全に責任を持つ一般論のみでくくってしまってよいのか?」と疑問を呈した。古田裁判長の見解は、「報道の自由」「取材の自由」、そして、憲法13条の「個人の尊重」を著しく軽視していると断じざるを得ない。

東京地裁の忖度ぶりもさることながら、本件についてのメディアの報道にも危機感を覚える。判決後、一通り報道に目を通したが、そのほとんどが東京地裁の判決についてのみで、杉本さん側の主張はまったくないか、あってもわずかであった。会見で杉本さんが「今後、政府の批判をする者を、公権力が潰していくことにならないか」「フリーランスのみならず、マスメディアの人間にも弾圧が及ぶのではないか」と危惧するように、本件判決は、安倍政権の憲法軽視をますます加速させることになりかねない。特にメディア関係者はもっと危機感を持つべきだ。

(志葉玲・ジャーナリスト、4月28日号)