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JR東海が住民無視のトンネル堀削 リニア事業の限界露呈

リニア中央新幹線の建設を進めるJR東海は、4月27日、2015年末の山梨県側での着手に続き、南アルプストンネルの長野県工区(8・4キロメートル)の掘削を開始した。現場は除山という大鹿村の釜沢集落の川向いの山の麓。長野県内で本体工事にかかる作業用トンネルの掘削は初となる。

しかし、難工事への挑戦にもかかわらず、掘削の連絡が大鹿村や釜沢地区の自治会になされたのは前日。釜沢への通知はメールで1行触れられていただけだ。私は釜沢の隣の上蔵地区に住むが、新聞記者から問い合わせを受けて当日午後はじめて着手を知り、いっしょに現地を見に行った。

掘削現場に通じる道路はゲートができ近づけないため、重機の騒音が響く釜沢集落の林道から急斜面の山中を10分ほど下り、工事現場の対岸に着いた。現場は山肌にトンネルの入り口が据えられていたものの、他に完成した建設物は見当たらない。掘削作業ではなく、川沿いに防音壁を作業員が1枚1枚設置していた。

もともとJR東海が、南アルプストンネルの掘削開始を予定していたのは、上蔵地区の小渋川非常口だ。ところが昨年11月の小渋川現地での起工式では、住民の抗議を受け社長と長野県知事も含め、来賓多数が会場に足止めされた。その上、掘削地の保安林の解除手続きが長引き、解除予定を林野庁が告示したのが今年2月。

それに対し住民から多数の異議意見書が提出されたためさらに遅れ、2番目に掘削する予定だった除山非常口で起工式から半年後の安全祈願祭となった。

現在長野県内で排出される974万立方メートルの残土の最終処分地が決定した場所はなく、今回の着手のあり方そのものが、むしろリニア事業の限界を示している。

南アルプスの自然破壊を懸念する登山者グループは、4月10日に都内で記者会見を開き、3912筆の賛同で工事への反対を表明している。

(宗像充・ライター、5月12日号)

自民区議の後援会に「ヤミ政治団体」の疑い 政治資金規正法違反か

葉梨康弘衆議院議員(自民)の親族にあたる葉梨俊郎杉並区議会議員(会派名・杉並区議会自民党)の後援会団体が法律で義務づけられた設立届出をしていないことが発覚、違法な「ヤミ政治団体」である疑いが浮上した。

2014年6月の区議補欠選挙に関連した葉梨氏の「選挙運動費用収支報告書」にこう記述がある。

「2014年6月21日/7万円/寄附/はなし俊郎後援会(政治団体)」

「はなし俊郎後援会」という政治団体から葉梨候補(予定者)に対して7万円の寄附をしたという意味である。だが、東京都選挙管理委員会や総務省政治資金課に照会したところ、「はなし俊郎後援会」の届出はなかった。葉梨俊郎氏に関連する政治団体は一つも存在しない。

政治資金規正法6条は、政治団体の活動について、都道府県選挙管理委員会や総務大臣への届出と収支報告書の提出などを義務づけている。また同8条は、無届出のまま寄附を受けたり支出をすることを禁止。違反者に対しては「5年以下の禁錮または100万円以下の罰金」という厳しい罰則をもうけている。

「はなし俊郎後援会」のヤミ政治団体活動がこれらの法律に抵触するのは明らかだ。

葉梨区議の自宅に質問状を送ったが締め切りまでに回答はなかった。

葉梨区議は2003年、自民党公認で杉並区議に初当選。一度落選したのちに14年の補欠選挙で再び議員となり、15年の統一選でも当選して現在にいたっている。

議長だった05年には政務調査費(当時)9万円で冷蔵庫を購入して批判された。15年には、区議選1カ月前の3月末に、杉並区広報を丸写しにしたチラシを2万5000部と大量に作成して配布、経費約80万円を政務活動費で支出した。現在一部返還を求める住民訴訟が東京地裁で続いている。

(三宅勝久・ジャーナリスト、5月12日号)

賃上げ闘争のため、新たに「秋闘」を(高橋伸彰)

黒田東彦・日本銀行総裁による異次元の金融緩和から4年を経ても、2%の物価安定目標を達成できないのは、デフレの真因が貨幣量の不足ではなかったからだ。1990年代後半以降20年近くにわたり、グローバル競争での生き残りを口実に大手輸出企業が先頭に立って賃金を抑制したからデフレに陥ったのである。

そのことに安倍首相も気づいたから、財界主導の「官製春闘」で賃上げを図ろうとしたのではないか。実際、2014年9月の経済財政諮問会議における榊原定征経団連会長の「法人実効税率を真水で2%下げれば、賃上げに回すことができる。今年の賃上げ、しかもベアが実行できたのは総理の御英断で、復興特別法人税を1年間前倒し廃止したことが、非常に大きな力になった」という発言を受け、安倍政権は早々に法人税率を従来の25.5%から15年度は23.9%、16年度に23.4%、18年度以降は23.2%への引き下げを決定した。

しかし、労働者にとっては脱デフレを図り、アベノミクスを成功に導くことが賃上げの目的ではない。現在の生活を守り、将来の安心を確保するのが目的である。それにもかかわらず、連合は主要企業の集中回答があった3月15日のアピールで今春闘を「『経済の自律的成長』実現に向けた労使の社会的責任や人への投資が企業の存続と成長に寄与することを訴え(中略)4年連続して賃上げの回答を引き出している」と総括する。

鉄鋼労連で長年にわたり春闘の賃上げ闘争を支え、連合の政策委員長も歴任した千葉利雄は、自戒も込めて日本経済の発展や企業の生き残りに対して労働組合が協力するのは、あくまで「例外的なもの、つまり危機管理的な、緊急避難的な手段と位置づけるべき」(『戦後賃金運動』)と述べ、危機が去れば「労働組合は機を失せずに本来の積極的な分配闘争に立ちもどって、主体性を強めていかないと、運動の生命力が弱くなっていく」(同)と警告する。

かつての石油危機とは異なり、現在のようにマクロ的にはプラス成長が続き企業収益も好調を示す中、労働組合があえて賃上げは経済成長や、人への投資を通して企業の成長や存続にも寄与すると訴えて春闘に臨む必要はない。

また、もしかりに大企業労組が中堅・中小労組や未組織労働者を気遣い、本来勝ち取れるはずの賃上げを自制しているなら、それこそ本末転倒である。なぜなら大企業労組が賃上げ要求を抑えたことで増える企業収益は、結果的に経営者の報酬や株主の配当に回り、日本全体で見れば階層間の格差が拡大するからである。

前出のアピールで連合が「すべての働く者の処遇の『底上げ・底支え』『格差是正』の実現をめざしている」と訴えるなら、傘下の大企業労組はむしろ可能なかぎり大幅な賃上げを獲得したうえで、身銭を切って中堅・中小労組や未組織労働者を支援すればよい。

賃上げの不足による個人消費の停滞は、労働者が現在の生活に苦しみ、将来の生活に不安を抱いているあらわれにほかならない。連合には春闘で取り残した分は、新たに「秋闘」を組織しても取り返すくらいの気概をもって賃上げ闘争に臨んでほしい。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。5月12日号。一部敬称略)

前代未聞の安倍首相、現職総理として5月1日に「改憲宣言」していた

5月1日、東京・憲政記念館で改憲の演説をする安倍晋三首相。(撮影/永野厚男)

「いよいよ機は熟してきた」「理想の憲法の具体的な姿を自信を持って国民に示す時だ」「新しい憲法を作っていくこと……を、自民党総裁としてお誓い申し上げる」

改憲派の国会議員で構成する新憲法制定議員同盟(中曽根康弘会長)が5月1日、東京・永田町の憲政記念館で開いた「新しい憲法を制定する推進大会」(主催者発表で1250名出席。サテライト会場含む)に、現職首相として初めて出席した安倍晋三氏の発言だ。

安倍氏の演説は、かけ声だけでなく、踏み込んだものだった。「結果(を出す)」を5回、「具体的(な提案)」の語を3回も使用。

そして、「谷垣禎一総裁の時、示した憲法改正草案は党の公式文書だが、そのまま憲法審査会に提案しない。どんなに立派な案でも衆参両院で3分の2を形成できなければ」などと述べた上、民進党の福島伸享衆院議員に「今深くうなずいて頂けた。建設的な議論に参加して頂けると期待する」と秋波を送るなど、手ぬかりなかった。

その福島氏は、「憲法改正するために政治家になった」と力んだものの、「立憲主義に立脚した憲法を」とも発言。閉会後、筆者が「民進党支持者には護憲派はかなりいますが」と問うと、福島氏は「安倍氏(の改憲)には反対です」と答え、ブレを見せた。

安倍氏は、日本会議系の「民間憲法臨調」(櫻井よしこ代表)などが3日、都内千代田区で開いた「公開憲法フォーラム」に寄せたビデオメッセージで、(1)憲法9条1項・2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む、(2)高等教育の無償化、(3)五輪開催の2020年に新憲法施行を――の3点を主張。具体的改憲項目と時期を明言したのは、初めてのことだ。

ビデオ上映後、登壇した公明党の遠山清彦衆院議員は、「わが党の加憲アプローチに合う考え方である」と同調。護憲・リベラル派にとって重大な事態になってきた。

(永野厚男・教育ジャーナリスト、5月12日号)

安倍話法のまやかし(西谷玲)

大型連休が終わり、国会論戦が再び始まった。森友学園問題や北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)をはじめとする緊迫する国際情勢、安倍晋三首相が2020年と期限を切って表明した憲法改正への動きなど、課題がてんこ盛りである。しかし、野党の追及がいま一つ迫力不足に映る時がある。安倍首相の答弁スタイルとともに考えてみたい。

安倍首相の答弁でまず目立つのが、自分の都合のいいところにだけ焦点をあてて答えるということだ。たとえば、首相がよく「アベノミクス」の成果として引き合いに出す数字に「100万人の雇用を作った」というものがある。確かに、就業者数は2012年に6270万人だったが、15年には106万人増えて6376万人となっている。

ところが重要なのは、その内訳である。正規雇用は3340万人から3313万人に27万人減っているのである。逆に、非正規雇用は1813万人から1980万人になっているのだ。167万人増えているのである。これを答えず、表面的な数字だけを強調するのは政治家として不誠実であろう。

ほかにも、生活保護世帯が減っていることもよく引き合いに出すが、これも内実が肝心である。確かに生活保護世帯は減っているのだが、高齢者の保護世帯は増えているのだ。「貧困老人」が増加しているのである。

野党の質問力についても指摘しておきたい。重要なのはファクトとデータをおさえて、何が聞きたいのかクリアに問い、理詰めで追及していくことである。ところが、最近の野党の質問を見ていると、延々と1人でしゃべり続けて何が聞きたいのかよくわからなかったりする。また、肝心のファクトが間違っていたりするのだ。

たとえば、昨年、カジノ法案について公明党の山口那津男代表が、パナマ、キューバ、コロンビアの3カ国を視察した時のことについて民進党の蓮舫代表がたずねた。蓮舫氏は、山口氏はキューバのカジノについて視察したと言及した。ところが山口氏は、ちょっとややこしいのだが、キューバ滞在中にパナマのカジノについて話したのだった。キューバにはカジノは現在開かれていない。

野党は細心の注意を払って事実関係の間違いがないようにしなければならない。一つ間違いがあっただけで足もとを見られ、あげつらわれ、質問全体の正当性について疑問を突きつけられてしまう。

それから、蓮舫氏の言うように提案型を標榜するのなら(筆者は必ずしもそれに全面賛成するものではないが)、具体的な政策を小さなものから要求していくことである。

ある閣僚は言った。

「こちらだってすべての政策をチェックできているわけではない。相手の言ってきたことでなるほどと思えば、その場では検討する、というふうにしか答弁しなくても取り入れる」

実際その役所では、この国会だけですでに複数の野党提案を実行に移しているのだという。ちなみにこの野党とは共産党である。

安倍首相は歴代の首相に比べて狭量であり、人の意見を聞かないように見えるが、こういう閣僚だっているのだ。野党は安倍話法のまやかしを追及し、細かく政策を積み上げていくことだ。

(にしたに れい・ジャーナリスト、5月12日号)

日本国憲法施行から70年 改憲危機に5万5千人が都内に集結

会場の東京臨海広域防災公園には5万5000人が集まった。(撮影/斉藤円華)

日本国憲法の施行から70年を迎える憲法記念日の5月3日、「5・3憲法集会」(同実行委主催)が東京臨海広域防災公園(東京都江東区)で開かれた。参加者数は主催者発表で、昨年の5万人を上回る5万5000人。

「今の日本は戦争に近付いているようでキナ臭い。憲法が活かされていない」と話すのは都内に住む会社員の男性(30代)。妻と幼い子どもとともに「家族のお出かけ」を兼ねて参加したという。

憲法改正の是非を巡って、男性は「防衛や安全保障は今ある法律で対応できるはず。憲法を変える必要がある、と思う人はその点をどう考えるのか、逆に聞きたい」と考える。自衛隊についても「戦力の不保持を定めた憲法第9条の下で、自衛隊を合憲とするのは私に言わせれば詭弁。9条を活かすのであれば、書いてある通り実行してほしい」と話した。

「日本国憲法を一字一句変えるな、とは思わない。けれども憲法が価値とする国民主権や基本的人権は守りたい。その意思表示のために来た」。都内在住の公務員の女性(40代)は、「自由に物を言いにくくなっている」と感じる。

「たとえば『憲法守れ』と言った瞬間に『考えが偏っている』と受け止められてしまう。護憲集会の会場提供が不許可になっても批判の声が弱い」(女性)。共謀罪法案が通ればさらにその傾向が強まるのでは、と女性は危惧した。

横浜市から来た大学教授の男性(50代)は「(集団的自衛権を容認した)安保法制の変更はクーデターに等しい。現状は日本国憲法が停止し、立憲主義が機能していない状態。現状追認のための改憲は法治主義ではない。憲法の下位に平和基本法を設けて自衛隊を規定すべきだ」と話した。

集会では民進、共産、自由、社民の野党幹部らが発言。米軍新基地建設への抗議中に逮捕され、5カ月余りの勾留を経て釈放された沖縄平和運動センターの山城博治議長も登壇した。山城氏は「私たちの運動、全国の仲間の闘いを潰すために共謀罪が用意されようとしている。力を合わせて共謀罪を葬ろう」などと訴えた。

(斉藤円華・ジャーナリスト、5月12日号)

国家主義者は救国の伝道師ではない(浜矩子)

「東が西から遠いほど、わたしたちの背きの罪を遠ざけてくださる」。旧約聖書の一節だ(詩篇103.12)。神の力を謳い上げている。聖書講座を開講しようとしているのではない。フランス大統領選の成り行きを見守る中で、この「東が西から遠いほど」というフレーズが頭に浮かんだのである。

最終的に誰が勝利するかはさておき、候補者たちの主張を聞きながら、奇妙な点に気がついた。それは、いまや、どうも東が西からあまり遠くなさそうだということである。聖書の上記の言い方は、東と西が対極にあるところに眼目がある。人間からこれ以上遠くはなりえない遠方に、神は罪を追いやってくださる。それが、この一節の勘所だ。

政治の世界において、対極的な位置づけにあるものは何か。それは右と左だろう。右翼と左翼が政治的信条の両極だ。この両端を結ぶ直線上に、中道右派とか中道左派があったりする。右翼から最も遠いところに向かって進めば、左翼にたどり着く。左翼から遠ざかれば遠ざかるほど、右翼に近づく。東から西が遠いほどに、左翼は右翼から遠い。そのはずである。

だが、今のフランスでは少々状況が違う。今回の選挙に向けて最右翼に陣取ってきたのが国民戦線を率いるマリーヌ・ルペン氏だ。極左ポジションから急浮上したのが、ジャン=リュック・メランション氏である。フランス政治の信条測定定規において、この両者が左右の両端を画している。そういうことだ。ところが、この2人が言っていることは、驚くほど似通っている。反グローバル・反自由貿易・反EU。2人とも、ロシアのプーチン大統領がお気に入りだ。

いみじくも、選挙キャンペーンの本格始動に当たって、ルペン氏が次のように言っていた。「いまや、右翼も左翼もない。あるのは、グローバル対愛国の対決だ。」メランション氏も、これには大いに同感しそうだ。

対極的に遠い関係にあるのは、いまや、右と左でも西と東でもなくて、グローバルと愛国なのか。こんな対極意識が広がってしまうのは、実に危険なことだと思う。グローバルを悪役に仕立てることで、国家主義者たちが救国の伝道師であるかの自画像を打ち立てる。このまやかしに乗せられると、人々は、それこそグローバルなスケールで国家権力の餌食と化していく。

グローバル化という現象は、確かに扱い方が難しい。だが、国境を超えた相互依存関係が深まれば、それだけ、誰も偉そうな顔が出来難くなる。誰もが誰かのお世話になっている。これほど人々を謙虚にしてくれる構図はない。これほど、人々がお互いに愛想良くすることを容易にしてくれる時代はない。親分がいないから、誰もが責任をもって全体のことを考えなければならない。なかなか、麗しい風景だ。グローバルは愛国で、愛国はグローバル。実は、それが今日的時代状況であるはずだ。

この感覚で、西と東が手を結び、右翼と左翼が抱き合うなら、確かに、人類は罪から最も遠いところにいけるかもしれない。神よ、何とぞ、そこに向かって我らを導き給え。

(はま のりこ・エコノミスト。4月28日・5月5日号)

宋日昊(ソン・イルホ)大使、「朝日平壌宣言は大切」(伊藤孝司)

朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が計画する核実験と米韓合同軍事演習で、朝鮮戦争以降で最大の軍事的危機が高まっている。

単独会見に応じる宋日昊大使(撮影/伊藤孝司)

そうした中で朝鮮は、4月15日に金日成主席生誕105年の記念日を迎えた。その取材に訪れた日本メディアの記者団に、宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は17日、会見に応じた。それを聞いた翌日、私は記者団と平壌から車で約5時間かかる咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムフン)市に向かい、残留日本人と日本人妻を取材した。

84歳のリ・ウグン(日本名・荒井琉璃子)さんは、自宅でインタビューに応じた。熊本県出身の両親の間に「京城」(現在のソウル)で生まれる。日本敗戦の混乱の中で家族とはぐれ、朝鮮人に育てられて結婚。中国東北地方と同じ状況がソ連軍管理下の朝鮮半島北部でもあり、残留日本人がたくさんいた。

13日に単独インタビューした「日本研究所」の曺喜勝(チョ・ヒスン)上級研究員は、今までの調査で残留日本人9人を確認していることを明らかにした。咸興市では、在日朝鮮人の夫とともに「帰国事業」によって朝鮮へ渡ったいわゆる日本人妻たちによる「咸興にじの会」の会員たちとその事務所の取材もすることができた。

平壌へ戻った20日夜に、宋大使への3時間に及ぶ単独インタビューが実現。17日の会見では出なかった、より突っ込んだ話があった。

私はまず、残留日本人と「にじの会」を初公開した意図について聞いた。「日本の記者から取材希望があったが、個別に認めると(朝鮮の)工作活動と言われるので、多くの記者が来た時に設定した」と述べた。だが「日本の政府・民間を問わず、(日本人埋葬地)墓参や残留日本人での提起があれば前向きに対応する」と語るなど、人道的課題を見せようとしたのは確かだ。

ストックホルム合意は消滅

宋大使は17日の会見で「ストックホルム合意」は「すでになくなっており、その責任は日本にある」とした。そして「合意」に基づいて日本人調査を実施していた「特別調査委員会」は「解体された」と語った。この発言に対して岸田文雄外務大臣は18日、「まったく受け入れられず、合意の履行を引き続き求めていく」と強く反発。私は宋大使に、それをどのように受け止めるか質した。「拉致問題だけを進めるよう求める発言であり認められない。合意とは、破棄すると再び戻すことができないもの」と述べ、復帰する意思がまったくないことを明言した。

しかし宋大使は「『朝日平壌宣言』は首脳会談によるものなので非常に大切にしており、関係改善の里程標となっている」とした。つまり、金正日総書記が署名した宣言は絶対的なものであり、あくまでも守ろうとしているのだ。

「朝鮮革命博物館」がリニューアルされて3月30日に開館。朝鮮の解放と建国、社会主義建設の歴史が約100室に展示されている。私は外国人ジャーナリストとして初めて取材できた。日本に関する展示室にはパネルや写真、日用品などが並び、植民地支配の実態を細かく解説。昨年6月には、日本・米国との対決の歴史を若い世代に教えることを目的とした「中央階級教養館」がオープンしている。

宋大使は「『朝日平壌宣言』の中核は過去の清算であり、これを抜きにして(日本との)実りある関係は結べない」と語った。その姿勢を改めて示しながらも、日本国内で批判が出にくい人道課題で対話の糸口を再び探る。これが現在の朝鮮の、日本に対する方針のようだ。

(いとう たかし・フォトジャーナリスト。4月28日・5月5日号)

森友学園問題、財務省は黒塗り文書で何を隠す

黒塗りだらけの土地取得要望書の一部(表紙と「設置趣意書」ページ)。(提供/川内博史)

5月8日と9日の衆参予算委員会の集中審議で取り上げられるなど森友学園疑惑の追及が続いている。4月28日には民進党の森友学園問題解明プロジェクトチームが籠池泰典・前理事長のヒアリングを行ない、安倍晋三・昭恵夫妻の関与が改めて明らかになった。

籠池氏は冒頭の説明で「平成25年9月に財務省に『安倍晋三記念小学校』として土地取得要望書を提出」と強調。安倍首相の名前を財務省の文書に明記したことが、国有地格安払下げの“追い風”となった可能性が浮き彫りになったのだ。

この土地取得要望書について「財務省は黒塗りを外し、全て公表すべき」と主張するのは、川内博史・元衆院議員(民進党鹿児島第1区総支部代表)だ。国会議員時代にさまざまな問題を追及してきた川内氏は、現在も現職国会議員と連携して調査活動を継続。開示請求で財務省近畿財務局の文書(籠池氏が作成して提出)を出させた。

タイトルは「未利用国有地等の取得等要望について」(平成25年9月2日接受)。A4判で約100ページだが、黒塗り部分がないのは9ページだけ。具体的内容が判読不能状態だった。川内氏はこう話す。

「ほとんど黒塗りですが、文書が存在していることが分かり、財務省が何かを隠そうとしていることが明らかにもなった。財務省理財局の担当者に、売買契約以前の書類の分量を聞くと、『ドッジファイル(パイプ式ファイル)で4冊から5冊分の文書があります』と答えました」

川内氏開示の財務省の黒塗り文書と先の“籠池発言”を並べると、財務省が隠そうとしているのが「安倍晋三記念小学校」と記載した部分に違いないことがよく分かる。特に怪しいのが、「事業計画の概要 開設概要」「(事業実施)スケジュール表」「創立予算費・負債償還計画書」「寄附行為」。表題は読み取れるが、内容の大半が黒塗りだったからだ。たとえば、「開設概要」の「設立趣意書」(5~7ページ)は設立代表者の籠池理事長(当時)名以外はすべて黒塗り。「学則」も「寄附行為」に関するページも表題以外は読めなかった。

誰もがこう疑うだろう。〈黒塗りとなった部分には「安倍晋三記念小学校」の名称と共に教育勅語の暗唱などの教育方針が「学則」に記載され、小学校名に盛り込んだ「安倍晋三(首相)」を前面に押し出す寄附金集めについて「寄附行為」のページに書かれているのではないか〉、と。

財務省は「文書は廃棄、パソコンにデータは残っていない」と答弁しているが、文書は残っていた。

「重要文書を破棄したら文書管理規則で懲戒の対象になるし、証人喚問で籠池氏が暴露した安倍昭恵夫人付の谷査恵子氏のファクスだけが残っているはずはない。野党は『書類を出せ』『黒塗りを外せ』と徹底的に追及すべき」(川内氏)

【昭恵氏「主人に伝えます」】

昭恵氏との14年3月の面談内容についても籠池氏は暴露した。場所は東京のホテルオークラで、安倍事務所の秘書も同伴。その席で昭恵氏は小学校建設運動について、次のように発言したという。

「昭恵夫人から『主人に伝えます』ということを言っていただき、さらには『何かすることはありますか?』とまで言っていただき、喜ばしかったことを記憶しています」

すでに本誌では、昭恵氏が首相直結の“陳情窓口”であり、口癖が「夫に伝えます」であったと紹介したが、森友学園の建設でも、まさに同じ役割をしたことを籠池氏は明らかにしたのだ。

安倍首相は、昭恵氏は「私人」、と妻の関与を否定するが、籠池氏の発言は、陳情を役所に伝える国会議員と同じ役割の公的人物であることを物語るものだ。両者の主張に大きな食い違いがある以上、昭恵氏の国会招致は疑惑解明に不可欠だ。

財務省は徹底した文書黒塗りで、安倍夫妻称賛の森友学園(「安倍晋三記念小学校」)の実態を隠蔽し、妻の関与は明らかなのに認めようとしない安倍首相を支えている。野党の追及が期待される。

(横田一・ジャーナリスト、5月12日号)

安倍首相の友人が理事長を務める「加計学園」に約132億円が援助されていた

来年4月開校に向け工事が進む加計学園・岡山理大獣医学部。(撮影/浅野健一)

安倍晋三首相の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人「加計学園」の岡山理科大学が愛媛県今治市で獣医学部を設置する。今治市は3月3日、「市いこいの丘」の所有地約17万平方メートル(36億7500万円)を学園に無償譲渡し、校舎建設などの大学設置経費192億円の半額の96億円を交付すると決定。学園は翌日、建設工事を開始し、2018年4月開校を目指している。

52年ぶりの獣医学部新設だ。京都産業大学は16年3月に獣医学部の新設を提案、10月17日政府のヒアリングで、21ページの資料を示し構想を訴えた。しかし3週間後、安倍首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議が地理的条件を新たに示したため、京産大は設置を断念。17年1月、加計学園が今治市に新設する計画が認められ、文科省に設置認可を申請し、審査中で、9月頃に設置の可否決定がある。

4月23日、今治市内で「今治の“獣医学部”開校について市と市議に話を聞く会」が開かれた。「聞く会」は2回目で、教科書問題を取り上げてきた市民有志が主催。

今治市の秋山直人企画課長は「大学誘致は42年前からの念願。県内の私学、松山大学なども設置を検討していたが、立ち消えになった」「加計学園誘致によって毎年3000万円の税収効果がある」などと説明した。

筆者は「用地はタダで、建設費の半分を市が負担するという条件なら、他の大学も来たのでは」と聞いたが、「国の方で決まったことだ」としか答えなかった。参加者が「学部の教員スタッフ、建築の見積もり・図面が市議会に出ていない」と追及。秋山氏は「設置審査中のため公表できない」と答えた。

司会の高井弘之さんは「国家戦略特区は安倍首相の肝煎りでできた。広島県と今治市で特区というこじつけで、加計氏のために進めてきた。住宅地に近い場所で動物のウイルス研究も予定され、安全面の不安もある」と話している。

(浅野健一・ジャーナリスト、5月12日号)