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街を歩く安心感(小室等)

二月一〇~一一日、障害者の地域生活を推進するための全国的なネットワーク作りが目的の《アメニティーフォーラム21》に行ってきた。毎年二月に滋賀県大津市の「びわ湖大津プリンスホテル」で開催されているもので、二一回目の今年は全国の福祉に携わる一五〇〇人近くが集まった。

三日間、朝から晩まで四〇を超える講座とシンポジウム。

ちなみに一日目のプログラムのタイトルを少しだけあげると、「今あらためて共生社会を」「人とのかかわりを職業とすることの意味・私たちはなにを期待し、求めているのだろうか」「ピアサポーターが精神障害者のリカバリーを促進する」「高次脳機能障害となった夫と私と娘の10年」等々。

同時開催で、映画祭、アール・ブリュット展、毎回参加している小室や北山修のライブなどもあったが、その話はいずれまた。

二日目の「津久井やまゆり園の出来事を言葉にすること~その事を語る私を確かめる~」をのぞいてみた。登壇者は、福島智(東京大学先端科学技術研究センター教授)、田口ランディ(作家)、伊原和人(厚生労働省年金局年金管理審議官)、野澤和弘(進行、毎日新聞社論説委員)。

全盲で全ろうの福島智さんの「被害者のほとんどは、容疑者の凶行から自分の身を守る『心身の能力』が制約された重度障害者たち。こうした無抵抗の重度障害者を殺すことは二重の意味での『殺人』と考える。一つは人間の肉体的生命を奪う『生物学的殺人』。もう一つは人間の尊厳や生存の意味そのものを優生思想によって否定する『実存的殺人』であり、被害者にとどまらず、人々の思想・価値観・意識に浸透し、むしばみ、社会に広く波及するという意味で、『人の魂にとってのコンピュータウイルス』のような危険をはらむ大量殺人だと思う」という重要な話に加え、あの事件の直後、福島さんが聞いた、車いす生活をする同僚の〈街を歩く安心感の根っこが抜けてしまった〉という感慨は切実だ。

田口ランディさんの死刑問題に波及した、殺していい命といけない命の選別の問題も大事な話だったが、街を歩く安心感の話は僕の心に沈潜した。

障害者の安心感と比肩できることではないが、健常者にとっても、最近の世の中は不安だ。そう、街を歩く安心感が今奪われている。

街を歩く安心感。

実存的安心感。

奪っているのは政治だ。

顔が浮かぶ。安倍、麻生、稲田。

生物学的安心感はもとより、実存的安心感を、紛れもなくこの人たちが奪っている。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2月24日号)

広島大学で“大人のいじめ”3──繰り返される不祥事
(明石 昇二郎)

前回までに報告した、広島大学原爆放射線医科学研究所(広大原医研)の「業績水増し」不正事件。だが、同大の公益通報窓口に寄せられた内部告発はうやむやにされ、パワーハラスメント(パワハラ)によって告発者は同大から追放されようとしている。広大原医研に正義はないのか。

 

Q准教授らの実験機材などが持ち去られる様子。以降、Q准教授らは広大原医研での実験ができなくなった。(2013年5月8日、提供/Q准教授、一部加工)

『広島大学原爆放射線医科学研究所年報』を舞台にした「業績水増し」不正を告発した広大のQ准教授は、「大学の教員等の任期に関する法律」(任期法)および「広島大学の教員の任期に関する規則」に基づき、7年ごとに雇用契約を更新してきた。

別の国立大学に奉職していたQ氏が広大に助教授として迎え入れられたのは2003年。広大からは任期制に関する同意書に署名するよう求められた。任期法に基づき国立大学の教員たちに「任期制度」が導入され始めた頃のことだ。

Q氏は翌04年にも同様の同意書に署名したが、これは広大で任期制が正式な制度になることに伴うもので、このとき広大側からは、

「これ(同意書)は解雇や雇い止めに使うためのものではない」
「(助教授は)7年ごとの評価だが、雇い止めや解雇はありえない」
と説明された。

1回目の更新となった10年の更新手続きは、肩書の呼称が助教授から准教授に変わっただけでスムーズに終えた。このときも広大側からは、同意書は解雇や雇い止めに使うためのものではないと改めて説明された。

それが2回目の更新である今回の更新手続きでは、これまでなかった「採点方式」による業績評価基準が広大原医研から突然示される。Q准教授は“落第点”である1640点未満の「C評価」とされた結果、任期を更新できずに「雇い止め」された。

13年にQ准教授らの実験機材や文部科学研究費の関連資料、重要書類、ノートなどが勝手に持ち去られた。その中には現金まであった。(提供/Q准教授)

広大原医研の松浦伸也所長は、Q准教授に対して「C評価」であることを伝えた際、
「任期制同意書への署名を得るにあたっては説明文書や業績評価の方法、評価基準等を渡している」
と説明した。だがQ准教授は、署名の際にそうした文書を受け取ったことも、説明を受けたこともなかった。

そこでQ准教授は松浦所長に対し、所長が「渡している」とする説明文書とはどんなものか示すよう求めるのと同時に、自分に対してはいつ説明したことになっているのか、広大原医研の記録を開示するよう求めた。

だが、広大原医研側はなぜか「調査する」とした。すぐに示すことができなかったのである。昨年末に広島大学長名の「再任不可」通知が出された際も、まだ「調査中」だとされた。結局現在に至っても、「説明文書」と「広大原医研の記録」のいずれもQ准教授に開示されていない。さらには、「C評価」とされた業績評価の点数さえ、広大原医研は明かそうとしないのだ。

これまでに業績評価で再任不可となった教員は広大にどれくらいいるのか、Q准教授は広大の教職員組合に訊ねてみた。すると「そのような例は聞いたことがない」と驚かれる。どうやらQ准教授の「再任不可」が初めてのケースのようだった。

説明を拒む広島大学

なぜ、こんな不自然な形で「雇い止め」が強行されようとしているのか。それは前回までに報告したとおり、Q准教授が、上司であるH教授のパワハラに泣き寝入りをせず裁判を起こし、遺伝子組換え生物等使用実験室での飲食行為や広大原医研年報の「業績水増し」不正を告発した人物だからである。広大がどう繕おうと、どんな段取りを踏もうと、報復人事以外の何ものでもない。

広大側がパワハラへの対応をしないため、Q准教授らがH教授や広大を訴えた裁判で、被告の広大側が提出した準備書面に、次のような一節がある(伏せ字と【】内は筆者)。

「大学研究者の研究の成果は、 毎年大学が発行する広島大学原爆放射線医科学研究所年報において発表され、原告【Q准教授】らの活動についても欠けることなく掲載されている。【中略】×教授【H教授】が着任した以降、【年報の】第53号(平成24年度)では9頁、第54号(平成25年度)では11頁、第55号(平成26年度)では12頁と記載が増え、活動が活発になっていることがうかがえる」

だが、その頁数が最大になった肝心の年報第55号で、H教授による業績の水増しが発覚したのである。この準備書面からうかがえるのは、業績の水増しはH教授の独断で行なわれ、広大側もH教授に騙されていた――ということだ。

筆者は、H教授に取材を申し込んだ。事前に送った質問事項は以下のとおり。

1)広大原医研年報に掲載されているH教授の論文リストで、改竄や水増しが確認された。なぜこのようなことが起きたのか。

2)同様の改竄や水増しは、広大ホームページの研究者総覧でも確認された。なぜこのようなことが起きたのか。

3)広大原医研の人事交流委員会の「Q准教授再任不可」決定に、H教授は関わっているのか。

4)Q准教授の「再任不可」を決めた広大原医研教授会に、H教授は出席していたのか。

だが、H教授本人は取材に応じず、かわりに広大の広報から次のような回答が送られてきた(伏せ字は筆者)。

「質問事項につきましては、裁判で係争中の事案と関連があるため回答を差し控えさせていただきます。また、×教授への直接取材はお受けしないことといたします」

広大は、広大原医研年報や研究者総覧の改竄や業績水増しを否定しなかった。それでも、H教授を全面的に擁護する構えのようだ。さらに、刊行が途絶えている広大原医研年報の次号(第56号)がいつ出るのかという問いにさえ、
「裁判で係争中の事柄と関連があり、コメントは控えさせていただきます」
としていた。だが、これは「係争中」の話などではない。不正が発覚したことに対し、大学として「どう対処するか」という次元の話なのだ。

強いられた被曝

広大は、H教授の「業績水増し」不正のことを、文部科学省には内緒にしていた。そこで、広大原医研をはじめとする「国立大学附置研究所」を担当している同省の研究振興局学術機関課に聞いた。

――もし改竄や業績水増しが事実であり、そうした不正をもとに文部科学研究費(科研費)の申請が行なわれていた場合はどうなるのでしょう?

「そういった場合は、科研費の返還を求めるなり、一定の措置を取らせてもらいます。数年間は競争的資金(研究資金制度)に応募してはダメだとか、ペナルティもあります」

ところで広大原医研ではここ数年、不祥事が繰り返されている。

05年、医師派遣に伴う汚職事件で原医研教授が自殺。06年には、所長(現・同大副学長)が引き起こした放射線障害防止法違反事件が発覚。この事件で被曝した人の中には、若くしてがんで急逝した人もいる。09年には、原医研教授による公的研究費の不正使用事件。16年には、放射線障害防止法違反事件を起こした所長(教授)によるパワハラで、部下の助教が10年にわたって放射線管理区域内に「居室」をおかれ、無用の被曝を長年強いられていた人権侵害の事実まで発覚している。

この助教氏はかつて筆者の取材に対し、
「自分の研究が完成するまでは、実名を出して告発できない」
と語っていた。彼もまた、12年にがんで逝去している。研究を完成させないままだった。そして今回の「業績水増し」不正である。

広大原医研の闇は深い。国立大学附置研究所を所管する文科省による、徹底的な調査が望まれる。(おわり)

(あかし しょうじろう・ルポライター、2月3日号)

※大学や大学の付属研究機関で隠蔽されている不正や、アカデミックハラスメントに関する情報をお寄せ下さい。「大人のいじめ」に関する情報もお待ちしております。

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被災地復興を遅らす東京五輪とアベノミクス 小池百合子都知事の“復興五輪”の胡散臭さ

東京五輪フラッグツアーイベントでの小池都知事(左)と村井嘉浩宮城県知事。(撮影/横田一)

小池百合子東京都知事が、東京五輪のフラッグツアーイベントで福島・宮城・岩手の被災3県を訪問、“復興五輪”をアピールした。

五輪開催旗(フラッグ)が被災地を含む各地を回ることで2020年に向けた機運を盛り上げるのが目的で、昨年11月2日の福島訪問を皮切りに2月9日には宮城、17日には岩手を訪れ、各県知事とも面談をしたのだ。

視察の狙いについて小池知事は「東京五輪は『復興五輪』でスタートしたことを言い続けるし、それに適うような中身になるように努力したい」「(震災復興は)オールジャパンで取り組む課題」と熱く語ったが、被災地の深刻な問題への関心は今一つだった。

9日、宮城県庁でのイベントを終えた小池知事の囲み取材で、「五輪関連事業が増えて、入札不調(工事費高騰)が深刻化しているという話を聞いたが、被災地の悲鳴は届いているのか。公共事業削減に取り組む考えはあるのか」と質問したが、小池知事からは評論家のような答えしか返ってこなかったのだ。

「さまざまなご意見として受け止めさせていただきます」

【工事費高騰で入札不調顕著】

被災地では巨大防潮堤などの大型復興事業が集中、人手・資材不足による工事費高騰や入札不調が深刻化、これに東京五輪関連事業やアベノミクスによる全国的な公共事業バラマキが拍車をかけている。震災から6年が経とうとしているのに、いまだに復興道半ばの要因の一つになっているのだ。

数字にも表れている。宮城県庁で入手した「公共工事設計労務単価変動グラフ」を見ると、建設業界の人件費は1・5倍から2倍程度に上昇。震災直後の11年は普通作業員の労務単価が1万1100円だったが、5年後の16年には1万7500円と1・5倍以上に増加、事業費増大を招いていた。たとえば、地元住民が見直しを求めた気仙沼市小泉地区の巨大防潮堤計画(高さ14・7メートル)の事業費は当初の230億円から約6割増の370億円に膨れ上がった。

入札不調の発生率も震災前は3・2%だったが、震災直後の11年度は22・6%に急増。14年度21・1%、15年度19・4%とほぼ横ばい状態にある。「東京五輪関連事業や熊本復興事業など他地域での公共事業が増えて、全国的に公共事業が多い需給関係が続き、被災地での入札不調が解消しないということでしょう」(宮城県契約課)。

民間の建築工事にも悪影響を及ぼしている。17日の岩手訪問で小池知事に説明をした戸羽太陸前高田市長は囲み取材でこう話した。

「小池知事が築地移転問題で『(豊洲新市場の建物が)高級ホテル並の平米単価』と言っていたが、被災地で市役所を建てる場合も高級ホテル並の平米単価になっており、国の災害復旧の平米単価の1・5倍を超えています。家を建てる場合も『1・4倍ぐらいになっている』と業者が言っていました」

「赤浜地区の復興を考える会」の川口博美会長(岩手県大槌町)もこう話す。「仮設住宅を出て新しい住宅を建てようとしたら、当初の見積もりの5割増になって新居建設を断念した人もいます。坪単価が70万円もするのです」。

仮設食堂を経営していた大槌町のIさんも新店舗の坪単価が2倍になり、開店を断念した。「都知事に被災地の苦境を直訴したい」という声が出るのはこのためだ。

17日に小池知事と面談した達増拓也岩手県知事も、「復興の資材や人手については、全国的調整は政府にやっていただきたい」と取り組みの必要性を囲み取材で訴えた。ただ先の戸羽氏に「小池知事が安倍首相に『復興五輪なので、被災地以外の公共事業を抑えましょう』と全国的な公共事業抑制を働きかけるといいのでは」と聞くと、「『被災地のために公共事業を抑えよう』というのは恰好がいい話だが、他地域の知事は『わが町一番』なので納得しないだろう」と答えた。

復興五輪を掲げる小池知事が、全国的な公共事業抑制の旗振り役となり、公共事業推進のアベ土建政治と対峙するのかが注目される。

(横田一・ジャーナリスト、3月3日号)