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南阿蘇村の地獄3兄弟(小室等)

「地獄三兄弟」に会ってきた。

熊本県南阿蘇村河陽の老舗旅館〈地獄温泉 清風荘〉。地元民にとって地獄と言えば、あの地獄ではなく、清風荘のことで、「熊本県地獄」で郵便物は届くそうだ。「地獄三兄弟」とは、その〈清風荘〉を営む社長の河津誠さん(五四歳、長男)、副社長の謙二さん(五三歳、二男)、専務の進さん(五一歳、三男)たち三人、正しくは「地獄温泉の三兄弟」です。

二〇一六年四月一六日、南阿蘇村、震度七の地震。江戸時代から二〇〇年以上の歴史を誇る地獄温泉も、本震で、施設の壁にひびが入るなど大きな被害を受け、村道が土砂崩れでふさがり、宿泊客、従業員計五一人が一時孤立するが、自衛隊ヘリで救出される。

地震から一〇日後、三兄弟はそれぞれ示し合わせたわけでもなく徒歩で山をかき分け宿に向かう。泉源と水の無事を確認、敷地内は地割れができ、明治時代に建てられた本館に歪みはあれど、風呂施設も無事。再開のめどは立つ。希望を胸に、調理の腕を生かして炊き出しなど、村民のためのボランティア活動に邁進するが……。

六月二〇日、熊本に豪雨。降り続く大雨で地獄温泉にも大規模な土石流。本館も、もっとも古い「元湯」も飲み込み、被害は全体の三分の二に及ぶ。気持ちが折れかかる。村全体としても、交通流通の要所、阿蘇大橋が崩落。地元民は不自然な崩れ方だと言う。「ぐるっとどんだけ見回しても、あのサイズの崩落はあそこしかない。もっと細く小さくしか崩れないんですね、山は」と誠さんも言う。四月一四日の前震で大橋が架かる地盤は緩んでいたはず。

五月になって、〈地震発生後、南阿蘇村にある九州電力水力発電所の水路から、阿蘇大橋の方向へ二〇万トンもの大量の水が流れ出ていた〉との報道。人的崩落の側面が考えられるのに、追跡されるべきニュースは途絶えていると言う。メディアは弱り切っている。

本当の地獄になってしまった地獄温泉、笑えない。それでも、泉源と水は生き残ってくれた。三兄弟は元気だ。異口同音に言う。村の仲間たちと家族が無事なら、何だってやり直せる。最低でも三年間無収入の覚悟を決めた三兄弟は今、文字通り地獄からの生還に全力を注いでいる。

隣の「垂玉温泉 山口旅館」の山口さんにも会った。メルヘン村のペンション「風の丘・野ばら」の栗原さんにも。南阿蘇村に復興の手が届く順番は後の方だろう。待っていられない。避難所で結束も生まれた。地震から一年、新住民、旧住民一つになって、南阿蘇村の村おこしがはじまっている。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、3月10日号)

やさしさがない安倍外交(西谷玲)

国会では森友学園問題が火を噴いている。野党は徹底的に追及すべきだ。外交に目を転じれば、トランプ米大統領と安倍晋三首相は先月の訪米で蜜月関係を築けたという。トランプの無茶苦茶にはまるで意見せず、「Trumpabe」(トランペイブ、トランプ=安倍)の様相である。

さて、外交のもう一つの懸案、安倍政権の行き当たりばったり、戦略のないさまがよく表れているもの……それは、日韓関係である。

「慰安婦」問題で象徴として建てられた少女像をどうするのか、解決が見えていない。昨年末に釜山の日本総領事館前にも少女像が設置された。日本はそれに抗議して、この1月に駐韓大使と釜山総領事を一時帰国させた。

その後どうなっているかと言えば、韓国外相が、少女像撤去を要請する文書を釜山市や同東区に送っている。が、何の効果もないどころか、今月1日の、日本統治下での大規模な独立運動の記念日である「3・1節」には、各地で新たな少女像の設置、除幕式が続々と行なわれた。さらに、今計画中のものもあるという。こんな状況で大使と総領事をまた派遣させるわけにもいかず、日本政府はまさに振り上げたこぶしのやり場に困ってしまっている状況である。

ご存知の通り、朴槿恵大統領はスキャンダルで弾劾訴追され、4月にも退陣、6月にも新たな大統領を選ぶ選挙が行なわれそうである。つまり、国政の混乱状況がずっと続いており、それまで現政権は当事者能力をとても持ちえない状態なのだ。しかも、次の大統領選では文在寅氏をはじめとして、野党の候補が勝つであろう可能性が高い。文氏は「慰安婦」問題に関する日韓合意を批判しており、少女像問題に対しても撤去の必要はないという意見である。

このような情勢のなか、大使と総領事を帰国させてしまったら、その後の落としどころに困ると予測するのは容易だっただろう。それなのに確固たる戦略もなく、行き当たりばったりで対応するからこんなことになるのである。

ある元外交官が言った。「安倍外交にはやさしさがない」。

こんな状況を生んだのは、まさにこのことに起因するのではないだろうか。毅然たる、決然たる、断固たる……そんな勇ましい言葉ばかりが躍る安倍外交。しかし、外交とは何枚腰、そして硬軟両様の使い分けが必要。さらに、人の心の重さをどう考えるか、どう見えるかがとても大切だ。外交だけでなく、政治全般がそうなのだが。

元「慰安婦」の人たちが何に怒っていて、何が赦せないかといえば、突き詰めていけば、やはり心の問題ではないだろうか。やさしさ、思いやり、心の底から悪かったと思う気持ち……。それが安倍首相に見えないというのである。

「慰安婦」問題について、歴代の首相はずっとお詫びの手紙を書いてきた。確かに一昨年末の日韓合意で日本は政府から10億円を拠出することに合意した。それは画期的には違いない。いつまで謝ればすむんだ、という声もわからないでもない。首相には「嫌韓」な人々の支持が多い以上(森友学園を見よ)、あそこまで譲歩したのも画期的であるともいわれる。それも理解したうえで、でも、心が必要なのだ。これは政治家でなければできないし、一流の政治家だったらできることだ。

(にしたに れい・ジャーナリスト。3月10日号)

群馬、東京で追悼碑めぐる動き――朝鮮人犠牲者、直視せよ

追悼の言葉を述べる芦沢一明渋谷区議。3月4日、東京都慰霊堂。(撮影/山口祐二郎)

3月1日。群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」に存在する「記憶 反省 そして友好」の朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑について、県が碑の設置更新を不許可決定し撤去を迫ったことに対し、碑を管理する市民団体が撤去処分取り消し等を求めた訴訟の第12回口頭弁論が行なわれた。原告は、群馬の森の入口から碑まで行く様子を撮影した映像を流すなどをした。

記者会見で原告弁護団の下山順弁護士は、「県は碑が論争の対象になり憩いの場じゃなくなると主張するが、昔も現在も普通に利用者は憩いの場として使用している。また、2004年4月に開催された除幕式の動画を見る限り、県が問題としている中山敏雄氏の政治的発言はなかったことが発覚した」と話した。

朝鮮人追悼碑が設置されているのは群馬の森だけではない。東京都墨田区にある横網町公園にも、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑が存在する。関東大震災時の混乱の中での差別煽動デマにより起こったジェノサイドで命を奪われた朝鮮人を追悼する碑だ。横網町公園内の東京都慰霊堂では3月4日、東京大空襲72周年朝鮮人犠牲者追悼会が行なわれた。多くの日本人と在日コリアンが集まり、献花をし焼香をした。慰霊堂には、東京大空襲で犠牲になった朝鮮人犠牲者の遺骨が納められている。日本の植民地支配により連行され、東京大空襲の爆撃で被害に遭った朝鮮人は推定で負傷者が4万人以上、死者は1万人を超える。主催者の西澤清氏は、「一刻も早く犠牲者の遺骨を故郷の遺族のもとに奉還する決意を新たにした」と話した。日朝友好促進東京議員連絡会代表の芦沢一明渋谷区議なども出席し追悼の言葉を述べた。

東アジアの平和と友好のために、日本は過去を隠蔽するのではなく、歴史を直視し、真摯に向き合う姿勢が必要ではないだろうか。

(山口祐二郎・フリーライター、3月10日号)

消えた民進党の「2030年原発ゼロ」(高橋伸彰)

報道によれば、2月27日に民進党の蓮舫代表は今春の党大会における「2030年原発ゼロ」方針の表明を断念した。背景には同党の支持母体である連合の猛反発があったという。

実際、連合の神津里季生会長は本誌2月24日号のインタビューで〈最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていく必要がある〉と述べたうえで、〈そこに至る道筋で雇用や国民生活に与える影響を最小化していく努力は不可欠で、その間の再稼働はありうる〉という。原発ゼロの具体的時期には触れず、旧民主党時代に定めた2030年代(2030年ではない!)でさえ連合の方針よりも「踏み込んで」いると評するのだ。

民進党のエネルギー・環境調査会が、党大会に向け策定中の「原発ゼロ基本法案(仮称)」に「2030年ゼロ」を明記する考えを示したのは2月2日。そこから連合傘下の産業別労組へ理解を求める蓮舫代表の説明行脚が始まる。だが結局、合意は得られなかった。これに対し冒頭の断念が報じられた2月28日付『朝日新聞』(名古屋本社版)には「国民や労働者の生命、健康を守らずして何が労働組合か。労組のナショナルセンターとして失格と言わざるを得ない」という読者の声が掲載された。

この声を聞き改めて思うのは、かつての公害闘争で被害住民よりも企業側に立ち、公害の実態を隠そうとした大企業労組の姿勢だ。 公害研究者の宮本憲一は、公害が発生しても企業擁護にまわった労組を批判したうえで「水俣病の初期にチッソの労働組合が患者と対立し、四日市公害裁判を四日市労働組合評議会が提起すると三菱系企業労働組合が脱退したことなどは典型である」(『戦後日本公害史論』)と述べている。

前出の神津会長が原発再稼働の理由に挙げる「雇用や国民生活への影響」も、その主語は誰かと問えば、今回の福島第一原発事故で生業や生活を奪われた被災者よりも、傘下の電力総連を中心とする大企業労組を優先しているのは明らかではないか。

確かに、経営者と一体になって生産性を高め、そこで得られた付加価値の分配と組合員の雇用確保に専念してきた大企業労組にとっては、公害や原発事故の被災者、下請けや未組織労働者、地域住民は自分たちの雇用や生活に無関係な外部者かもしれない。しかし、そうした排除の思想が市民との間に分断を生み、労働組合の組織率や発言力の低下につながってきたことを忘れてはならない。

福島第一原発事故後も再稼働を容認する連合の方針が、いかに時代遅れかは先の新潟知事選挙や世論調査の結果を見れば一目瞭然である。そんな連合の方針に抗せない民進党に政権復帰の資格はないし、また、ともに働き、ともに生きるすべての労働者と市民のために企業や職域を超えて「身体を張り身銭を切った」(熊沢誠『労働組合運動とはなにか』)運動を展開できない連合にも明日があるとは思えない。

市民の生命と健康を危険に晒してまで考慮すべきような「雇用や国民生活への影響」など、私たちが暮らす社会には存在しない。そう考えれば、原発ゼロは2030年でも遅すぎるのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。3月3日号)

森友学園の異様さに(雨宮処凛)

国会では安倍晋三首相への追及が続き、「第二の森友学園」疑惑が浮上するなど「アッキード事件」は広がっていくばかりだ。

そんな森友学園が運営する塚本幼稚園の映像が連日テレビに映し出されている。

教育勅語の暗唱、運動会で「安倍首相、頑張れ!」「安保法制国会通過、良かったです」などと言わされる園児たち。

塚本幼稚園の映像を見て思い出したのは、今まで5回訪れた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)だ。

初めて北朝鮮に行った時、連れて行かれたのは幼稚園だった。

そこには、幼稚園なのになぜかファンデーションをがっちり塗り、唇を真っ赤に塗るなどしたフルメイクの子どもたちがきらびやかなチョゴリに身を包まれていた。

私たち外国人が教室を訪れると、「うちのお父さんは主席から勲章をもらった」という歌を朗々と歌い上げたり、集団で一糸乱れぬダンスを披露してくれたりしたのだった。

また、幼稚園の先生が「この日はなんの日ですか?」と聞くと、「大元帥様のお生まれになった日です!」と全員が大きな声で唱和。子どもたちは可愛かったものの、歌ったり踊ったりするときの子どもらしさのまったくない作り込まれた表情に、なんとも言えない違和感が残った。

それから数年後、また北朝鮮を訪れた際、今度は小学生が芸術活動をする場所に連れていかれた。

やっぱり綺麗にメイクをして、琴のような楽器を弾いたりバレエをする子どもたちの表情は作り込まれていて、演奏やダンスはもちろん完璧だった。

そんな子どもたちを次々と見せられているうちに、一緒に行った男性の1人が突然泣き出した。混乱して、動揺して、とにかく何もかもが異様で、耐えられなかったのだという。彼が泣く姿を見て、「ああ、やっぱりこれって泣くくらいのことなんだよな」と、妙に冷静に思った。が、北朝鮮のガイドは、終始「わが国の子どもはこんなに素晴らしい教育を受けている」と自慢げだった。

そんな北朝鮮を彷彿とさせる森友学園が新設する「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長に、首相の妻である安倍昭恵氏が就任していたのだ(現在は辞任)。しかも、教育方針に感銘を受けたことを語っている。

森友学園の問題が発覚する数日前、あるヴィジュアル系バンドのコンサート会場で昭恵氏を見た。終演後、出口に向かう昭恵氏は満面の笑顔だった。布袋寅泰氏もそうだが、彼女は随分とミュージシャンが好きなようである。彼女には公費で5人の秘書がついているというが、あの時、秘書は同行していたのだろうか。

なんだかとても、気になる。

(あまみや かりん・『週刊金曜日』編集委員。3月10日号)

入管が強制送還者を”水増し”――3分の2が対象外の「帰国希望者」

法務省入国管理局は2月20日から21日にかけて、日本に非正規滞在するタイ、ベトナム、アフガニスタンの男女43人をチャーター機でタイに強制送還した。タイ人以外はタイから本国に送還された。本来、チャーター機での送還は帰国拒否者が対象だが、今回は約3分の2に当たる26人の帰国希望者が含まれていた。“対象外”の帰国希望者を人数に加える形で“水増し”した背景には、チャーター機での送還が思うような成果を上げていないことがある。

チャーター機での送還は「大量に、確実に、安価に」を名目にして2013年からスタート。入管は当初、年間3000万円で200人の送還を予定していた。これは1人当たり15万円の計算だが、実際は14年は1人当たり約125万円、15年は159万円、昨年は約123万円と高額で推移。今回の男女43人の送還費用は約2700万円で、1人当たり約63万円に下がったものの、帰国希望者を抜くと1人当たり約159万円に跳ね上がる。

入管は本誌の取材に対し、帰国希望者もチャーター機に乗せることは「今までも通常やっている」としたが、「仮放免者の会」の宮廻満さんは、「14年にも10人ほどの帰国希望者を乗せたが、その時は人数に入れなかった。昨年は人数に入れたけれども、帰国希望者は30人のうち1人だけだった」と指摘する。だが入管は今回、帰国希望者が大量に含まれているということは当初発表していなかった。宮廻さんは「大量に安価にという部分が実現されていないとの批判を避けるために、帰国希望者も人数に“水増し”したのでしょう」とした。

入管はまた、費用を自分で賄えない帰国希望者もチャーター機に乗せれば、「(送還を)達成できる」と“成果”を強調。これに対し同会の永野潤さんは「入管からの“圧力”により、帰国希望に転じる人も多い」と言う。そして、「今回、日本に25年以上暮らす人や、日本に家族がいる人も強制送還された。明確な人権侵害だ」と訴えた。

(本誌取材班、3月10日号)

たばこ全面禁煙めぐり自民党内紛 たばこ業界からの自民党議員への献金も背景に

東京五輪・パラリンピックに向けて厚生労働省が公表した、他人のたばこの煙にさらされること(受動喫煙)を防ぐ対策が、自民党内で激しい反発にあっている。

飲食店での喫煙を原則禁止としつつ小さなバーなどは例外とした妥協案なのに、慎重派の議員が「まだ規制が厳しすぎる」と騒いでいるのだ。推進派は全面禁煙を譲った厚労省案でもやむなし、と受け入れる構えだが、慎重派の鼻息は荒く、決着の行方は見通せない。

厚労省は、受動喫煙で肺がんなどのリスクが高まるとし、国内で年間約1万5000人が死亡していると推計している。にもかかわらず、今の日本の対策は努力義務にとどまり、世界保健機関(WHO)からは「世界で最低レベル」と断じられている。国際オリンピック委員会とWHOは「たばこのない五輪」で合意しており、政府としても2020年の東京五輪に向けた対策は避けられない。

規制強化策を検討してきた厚労省は1日、禁煙の場で繰り返し喫煙する人に30万円以下の過料を科すといった罰則付きの案を公表した。(1)小中高校や医療機関は敷地・建物とも全面禁煙(2)官公庁や老人福祉施設は建物内禁煙(3)オフィスや飲食店(屋外テラス席も)禁煙──としつつ、(3)は建物内に喫煙室の設置を認めている。

(3)の飲食店には、焦点の居酒屋や焼き鳥屋も含まれる。ただし、慎重派に配慮し、「小規模」なバーやスナックなどは喫煙可とした。厚労省は小規模の定義を「面積30平方メートル以下」とする意向だ。昨年10月に示した「たたき台」は例外を設けていなかっただけに、規制推進派は「後退」と受け止めている。それでも、慎重派は居酒屋などが規制対象として残ったことに「飲食業への打撃が大きい」とさらなる妥協を求めている。

厚労省案は早くから水面下で広がり、内容を知った慎重派は不満を募らせていた。同省は3月に健康増進法改正案としてまとめ、今国会に提出することを目指しているが、それを見越した慎重派は、2月15日の自民党厚労部会に大挙して乗り込んだ。関係業界団体の代表が見守るなか、「分煙を成熟させるべきだ」「30平方メートルに何の根拠があるのか」などと推進派を責め立てた。

【安倍首相は沈黙】

一見、飲食業界の応援団が多いように見える。しかし、WHOによると「喫煙規制による飲食業の減収はない」。実際、慎重派の中核は、たばこ業界の発展をうたう「自民党たばこ議員連盟」の面々だ。たばこ業界は多くの自民党への献金を怠らない。

同議連の野田毅会長は「禁煙よりは分煙」と強調し、坂本哲志事務局長は「禁煙なのか分煙なのか、経営者が選択できる仕組みが必要」と訴えている。

このままでは党内合意を得られないと危惧した自民党の茂木敏充政調会長は2月24日、田村憲久元厚労相や同省の二川一男事務次官らを呼んで調整に乗り出した。が、厚労官僚は動けない。塩崎恭久厚労相が「居酒屋には子どもさんも訪れる。外国人への『おもてなし』を掲げる五輪で、受動喫煙はあり得ない。妥協するな」とハッパをかけているからだ。3月3日の記者会見でも「五輪開催国で飲食業を受動喫煙禁止にしていない国は近年ない」と強調した塩崎氏に、自民党幹部は「厚労相が堅い。3月中の法案閣議決定は難しい」とこぼす。「慎重派が大多数のように見えるが、自民党内で厚労省案に反対しているのは6割ほど。東京五輪・パラリンピックを控え、醜態をさらすのが格好よくないことは慎重派も分かっている」。

2月22日、国会内であった受動喫煙防止を推進する超党派の議連で、尾辻秀久元厚労相は慎重派の歩み寄りに期待を込めた。とはいえ、自民党の内紛が伝播し、民進党内も慎重派と推進派が割れ始めている。自民党内からは「100平方メートル以下」を規制の例外とする神奈川県条例を参考にすべきだ、との声も上がるものの、1月の施政方針演説で受動喫煙対策の徹底を表明した安倍晋三首相は、依然沈黙を守っている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、3月10日号)

温かく“肉体的な”ツノ──カナダ=エスキモー8(本多勝一)

イスマタがカリブーの大腸を手づかみにして食べると、中の糞が外へ大量にこぼれ出た。

これまでの自分の知識とまるで違っていたことの第一は、カリブーのツノがふさふさとした毛皮でおおわれている点だ。やわらかくて、ビロードの縫いぐるみを撫でているみたい。

第二は、ツノが胴体と同じように温かいことだ。血液がかよい、まさに生き生きとしている。とりわけ成長中の先端は、まだグニャグニャである。ツノというものは、ツメや毛などよりも〝肉体的〟なのですね。よく飾りものにしてあるシカやトナカイのツノ。あれはツノの骸骨と言うべきものだろう。

この見事なツノに私はほれこんで、剝製にできないものかと思った。ともかく藤木さんに写真をまずとってもらおうと、イスマタに「ピオヨ(立派だね)」と声をかけたとたん、彼は「イー、ママクト(うん、うまいぞ)」と答えるなり、ツノの先端をナイフで切り落としてしまった。

あきれて見ていると、イスマタはバナナの皮をむくようにしてその毛皮を剝ぎ、ツノの中身をかじっている。「ネリヨマプンガ(俺も食いたいね)」と言って、私も別のツノを切って食べてみる。いくらか桃色がかった白い中身は、ナマコみたいにコリコリしていて、かなり甘味もある。生臭さはほとんどない。味はカリブーの脚骨の髄とよく似ている。
(一部敬称略)

(ほんだ かついち・『週刊金曜日』編集委員)

※この記事は現在、本多編集委員がかつての取材をもとに『週刊金曜日』に毎週連載しているものです。カナダ=エスキモーの連載は1963年に『朝日新聞』に掲載され、後に単行本や文庫本にまとめられています。

石垣島で「慰安婦」・南京事件を記述した中学生向け副読本の配布が中止に

日本軍「慰安婦」や南京事件の記述がある沖縄県石垣市の中学生副読本『八重山の歴史と文化・自然』がこのほど、一部市議の抗議に端を発した市教委の方針転換で、2017年度から配布が中止される。

石垣市議会では昨年6月、以前から地元の『琉球新報』や『沖縄タイムス』を「偏向」と批判している友寄永三議員(無所属)が、副読本を取り上げて攻撃。「朝鮮から連行されてきた女性たちが慰安婦として人権無視の状態に置かれていた」という記述について「軍や官憲が『慰安婦』を強制連行したという証拠は全くなかった」として、「人権無視という記述も含め訂正すべき」と要求した。さらに、南京事件の「一般市民への無差別の虐殺や略奪を行いました」という記述も、「虐殺の証拠は全くないというのが政府の見解」と質した。

これを受けて、中山義隆市長と石垣安志教育長が副読本の「見直し」を表明。1月になって市教委側が、15年と16年度に配布されていた副読本の17年度配布中止を執筆者側に通知した。

だが、副読本編集委員会の田本由美子委員長ら執筆者9人が2月21日、市教委に対し「意見書」を提出。(1)「慰安婦」については、1993年の「河野談話」や、2015年の岸田文雄外相記者会見でも「軍の関与」と人権侵害の事実を認めている(2)南京事件についても、外務省のHPでは「日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為があったことは否定できない」と明記されている――などと反論した。

今回の決定について市教委は本誌に、「16年度で副読本配布事業は終了したから」と説明している。だが、「自国に都合の悪い歴史事象が、教育の現場から削除される傾向」にあり、「政府の公式見解ですら教科書で扱われず、今度は副読本がその対象にされようとしています」という「意見書」の懸念が増す結果になったのは、間違いない。

(成澤宗男・編集部、3月10日号)

子牛ぐらいの6頭をうちとる──カナダ=エスキモー7(本多勝一)

カリブー8頭のうち6頭が倒され、解体される。

ところが、カリブー(トナカイの一種)の1頭は銃声とほぼ同時に立ちすくんだ。重傷らしい。あとはバラバラに逃げる。右へ2~3頭、左へ4~5頭。3人のエスキモーたちの銃口が次々と連発する。カリブーの肌に命中する音。同時に倒れる者、後脚をひきずって立ちどまる者。きわ立って大きくのびたツノの1頭は、50メートルと走らぬうちに1発で倒され、うずくまった。

3人はそこで立ちあがり、なおも逃げている4頭を追う。全8頭が全滅かと思ったが、2頭だけは雪原のかなたへ消えた。

うちとった6頭のうち、3頭は即死、あとは負傷のまま立ったりすわったり。後脚をやられた1頭に近づいたイスマタは、手にした石の一撃で倒すや、ナイフで首にとどめを刺す。ほかの2頭も、カヤグナとムーシシが石やナイフで息の根をとめた。ムーシシは、ナイフについたカリブーの血を、惜しそうに舐めている。

藤木さん・カヤグナ・ムーシシの3人が犬ゾリをとりに行った間に、イスマタと私は倒したカリブーを一カ所に集める。ツノや脚をつかんで2人で引っぱり、雪面をひきずる。かなり重い。日本の野生シカよりずっと大きくて、子牛くらいはある。この6頭はみんなオスだった。

そのツノを握ってみたとき、ツノについての私の知識が全く誤っていることを知った。(一部敬称略)

(ほんだ かついち・『週刊金曜日』編集委員)

※この記事は現在、本多編集委員がかつての取材をもとに『週刊金曜日』に毎週連載しているものです。カナダ=エスキモーの連載は1963年に『朝日新聞』に掲載され、後に単行本や文庫本にまとめられています。