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川内原発訴訟で規制委「火山ガイド」の不備強調――住民側、勝訴判決を確信

8月10日、福岡地裁に入る原告弁護団ら。(撮影/伊田浩之)

8月10日、福岡地裁に入る原告弁護団ら。(撮影/伊田浩之)

「まともに考えれば(国には)どこにも逃げ道はない」

川内原発1・2号機(鹿児島県薩摩川内市)が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の設置変更許可は違法として、鹿児島県はじめ10都県33人が国を相手取り、許可取り消しを求めた行政訴訟の第1回口頭弁論が8月10日、福岡地裁(倉澤守春裁判長)であり、弁論後の集会で原告住民側の中野宏典弁護士は川内原発を止められる訴訟だと強調した。

訴状などによると、川内原発の別の裁判で福岡高裁宮崎支部(西川知一郎裁判長)は今年4月6日、規制委の「火山ガイド」の不備に次のように言及した。

〈火山ガイドの定めは、少なくとも地球物理学的及び地球化学的調査等によって検討対象火山の噴火の時期・規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提としている点において、その内容が不合理〉

にもかかわらず、同宮崎支部は、社会通念上、「絶対的な安全性に準じる安全性の確保」までは求められていないとして、再稼働は認められるとした。

住民側の海渡雄一弁護士は強調する。「伊方原発の最高裁判決で、具体的審査基準が不合理なら違法であることが明示されている。行政訴訟では“社会通念”という曖昧な概念は入り込む隙がない。しかも、高裁が火山ガイドは不合理だと認めているのに、地裁がそれを覆すのは困難です」。

危機感を持ったのか、九州電力は同訴訟への参加を申し立て。電力会社を規制する立場の国側は参加を相当とする意見書を提出した。原告住民側は、九電の主張は福岡高裁宮崎支部などで尽くされていると反発している。同地裁が近く参加の可否を決定する。

国側は請求棄却を求め、争う姿勢を示しているが、科学に謙虚でないと破局的事故を再び招くことになる。

(伊田浩之・編集部、8月19日号)

被爆から71年、オバマ訪問後の広島で――被爆者から首相に厳しい要望

8月5日、広島市内で講演する佐高信本誌編集委員。(撮影/藍原寛子)

8月5日、広島市内で講演する佐高信本誌編集委員。(撮影/藍原寛子)

8月6日、オバマ米大統領の訪問後初めてとなった71回目の広島・平和記念式典には5万人が参列、91カ国とEUの代表も出席した。

松井一実市長は平和宣言で、オバマ演説の「核兵器のない世界を追求する勇気を持たなくてはならない」との一文を引き、核廃絶を目指し、「情熱を持って連帯し、行動を起こすべきではないか」と訴えた。しかし、市長には、被爆者が求めている核兵器禁止条約、核兵器・先制不使用宣言に関する言及など、具体的行動を呼び掛ける「勇気」はなかった。湯崎英彦広島県知事は「安全保障の分野では、核兵器を必要とする論者を現実主義者、廃絶を目指す論者を理想主義者と言う。しかし、本当は逆ではないだろうか。廃絶を求めるのは核兵器使用の凄惨な現実を直視しているからだ」と強調した。

安倍晋三首相は「広島、長崎の悲惨な経験を二度と繰り返させてはならない」などと述べ、式典後、「被爆者代表から要望を聞く会」に岸田文雄外相らと出席し、被爆7団体の代表と懇談。広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長は「日本国憲法は、戦争と原爆による死没者の遺言だ」と指摘し、戦争法の撤回と改憲を止めるよう訴えた。6歳の時に被爆した広島県朝鮮人被爆者協議会の姜周泰副理事長は、自身と家族の被爆体験を語り「朝鮮民主主義人民共和国には約200名の被爆者がいる。政府は平壌に実態調査団を派遣し支援対策の実行を」と要望した。

岸田外相は「北朝鮮の被爆者は重要な人道上の問題だが、外交関係がないため支援は難しい」と答えた。人道問題であれば、国交がなくても対応すべきではないか。「聞く会」の終了後、安倍首相らは7人と握手した。首相は無言だったが、岸田外相は姜さんに「北朝鮮のこと頑張ってみますから」と声を掛けた。「聞く会」では、「米国の傘に頼るな」など、首相にとって、聞きたくない話が続いたのだろう。首相は天井を見上げ、目をキョロキョロさせるなど落ち着かない表情に終始した。

(浅野健一・ジャーナリスト)

【平和研問題考える集会も】

被爆71年の原爆忌を「切れ目の年」にするな――。広島では、言論の自由と人権を考え、歴史修正主義に抗う集会も開催された。

5日に開催された「8・6ヒロシマ平和へのつどい2016」(主催・同実行委)では佐高信本誌編集委員が講演。安倍政権の戦争法案、歴史修正主義、日米軍事同盟や核・原子力推進、沖縄問題など、暴力的な軍事化が加速する現状を解説。「自衛隊は、国民の生命、財産を守ると誤解している人が多いが、元統合幕僚会議議長の栗栖弘臣氏は自著で『自衛隊は国民を守らない』と否定した。軍隊が私たち国民を守らないのは過去の歴史でも明らか」と安倍政権や政府の詭弁を批判。「権力と闘う側はお行儀良くてはだめ。もっと毒のある闘いを続けていかなければ」と参加した市民らを激励した。

木原省治氏(原発はごめんだヒロシマ市民の会代表)は「被爆71年の今年は『切れ目の年』と言われるが、核廃絶なきオバマの来訪をブームに終わらせず、厳しく評価し、今後も切れ目なき市民運動を展開する」と、連帯を求めた。

7日には、広島平和研究所の講師雇い止め問題(本誌5月27日号既報)の全国集会があった。平和をうたう研究所で、なぜ進んで学問の自由・自律を放棄し、研究者に圧力をかける今回の問題が起きたかを田中利幸氏(元広島平和研究所教授)が解説。学者は「佞儒=権力にへつらう」「腐儒=狭い研究専門に目を向けるだけで役に立たない」「転儒=国家主義思想に転向」「抗儒=学問の自由への圧力に抵抗」に分けられ、佞儒・腐儒らが資金獲得に躍起になり、批判的な学者への圧力や疎外に加担すると批判。「大学独法化による学術研究レベルの急激な劣化が背景にある。平和研究所から佞儒・腐儒的要素を除去し、市民が結集して、『原爆無差別大量殺傷』への抵抗を基にした平和学の国際コンソーシアムの設立を」と提言した。

(藍原寛子・ジャーナリスト、8月19日号)

8月15日に高市総務相と丸川五輪担当相が靖国を参拝――「追悼」も「反省」もない安倍首相

新党を立ち上げると宣言した桜井誠氏。政治活動のツールはSNSだ。(撮影/野中大樹)

新党を立ち上げると宣言した桜井誠氏。政治活動のツールはSNSだ。(撮影/野中大樹)

8月15日の敗戦記念日。東京都千代田区にある靖国神社には、安倍内閣の高市早苗総務相と丸川珠代五輪担当相が参拝し、安倍晋三首相本人も「自民党総裁」の肩書きで玉串料を奉納した。

一方、参拝は「心の問題」だとして毎年8月15日に参拝してきた稲田朋美防衛相は、13日からジブチ視察の外遊に入った。公務を理由に、支持層である右派へのメンツを保とうと必死だ。

靖国神社とその周辺では、今年も威勢のいい発言が相次いだ。青年フォーラム主催の講演会には、軍事ジャーナリストの井上和彦氏が登壇し、「近隣に反日の国がふたつあります。国名は言えませんが、中国と韓国です」などと叫ぶと、拍手が沸いた。

弊誌は昨年12月4日号で、氏が防衛産業である双日エアロスペース(株)に勤めながら、それを伏せて「ジャーナリスト」として活動していることを批判している。

当日、現場が騒然となったのが、

反天皇制運動連絡会(反天連)のデモを日の丸を掲げたグループが「迎撃」(グループの一人)する場面だった。先の東京都知事選に立候補し落選した桜井誠・在日特権を許さない市民の会初代会長がマイクをにぎり、例によって中国や韓国をののしった上で、「来月、新党を立ち上げる」とぶちあげると歓声が上がった。

日の丸を持つグループがやり玉にあげたのが、終戦直後、連合国軍総司令部(GHQ)が日本に敷いたWGIP(War Guilt Information Program)だ。日本民族に贖罪意識を植え付け、独立心を奪ったプログラム、と主張する。

だが、彼らのすぐ後ろには、子宮頸がん予防ワクチンなどで日本市場を手中に収める米国の大手製薬メーカーMSD(株)のビルがそびえ立つのに、日の丸グループは見向きもしない。近辺のマクドナルドも通常営業している。日本の戦後政治、経済を強く規定してきた米国の企業や軍事基地は黙認し、中国や韓国、日本のリベラル派に敵意をむき出す彼らの言動にこそWGIPの妙味がある。

【「過去を顧み、深い反省」に示された気持ちとは】

全国戦没者追悼式で式辞を読んだ安倍首相は、「祖国を思い、家族を案じつつ、戦場に斃れられた御霊」「皆様の尊い犠牲の上に、私たちが享受する平和と繁栄がある」と強調した一方で、加害の事実には触れず、「哀悼」も「反省」も口に出さなかった。

「過去を顧み、深い反省」と踏み込んだのは、8月8日に生前退位の気持ちを示した天皇だった。参議院選挙の結果が出て、秋の臨時国会にも憲法審査会が動き出さんとするこのタイミングでの言動に、安倍内閣による改憲の動きを牽制しているという見方もある。

参拝客は例年通り中高年とりわけ男性の割合が高い。目立ったのはスマートフォンを操りながら参列する人の姿だ。写真を撮り、SNSにアップする作業をこなしながら順番を待つ人も少なくない。靖国に英霊が眠るという“物語”は、戦中は学校や隣組が、戦後はマスメディアが、そして今はSNSが担っているのかもしれない。

(野中大樹・編集部、8月19日号)

不登校の支援法案臨時国会へ――馳文科相、「必ず成立」

不登校の子どもや夜間中学での学びを支援する法案(教育機会確保法案)について、馳浩文部科学相は7月17日、都内で開かれた同法案の成立推進を求める市民団体の集会で、「この法案は9月以降の臨時国会で必ず成立すると期待している」と挨拶した。

馳文科相はさらに、「先の通常国会では自民、民進、公明、維新の4党合意の上で国会に提出されたが、参議院で民進党が突然反対して継続の案件となった。これ以上話すとハレーションを起こすので言わないが、政局で法案が左右されたのは残念。不登校の子どもたちを人質に取るようなやり方は断じて許せない」と指摘した。

その上で、「法案に反対した共産党や社民党の皆さんともコミュニケーションしながら積み上げてきている。反対している会派や政党が悪い奴らだとは思わないでほしい」と述べ、法案支持者が多数参加する会場の笑いを誘った。

今後について馳文科相は、「次の臨時国会では法案成立の石を一段目から積み上げる作業をしなければいけない。法案は第13条がすべて。ここをきちんと対応するのが文科省としても必要だ。わが国の法律で初めて、(不登校の子どもの)欠席を容認するような表現を取った。法案成立を念頭に入れながら、学習支援や経済的支援のありかたの検討に入っている。来年度の概算要求もそれとなく検討している」と踏み込み、予算措置にも自信を見せた。

教育機会確保法案は、超党派の国会議員連盟が全会派一致での成立を目指していたが、共産、社民の両党が慎重議論を求めたため、自民、公明、民進、おおさか維新の4党だけで5月10日、衆議院に法案を共同提出した。

しかし国会の会期末を控えて、民進党から「審議する時間が足りない」「全会派一致で成立させるべきでは」との声が上がり、継続審議となっていた。

(池添徳明・ジャーナリスト、8月5日号)

伊方原発反対集会に700人――アンケートも過半数反対

集会に駆け付けた鎌田慧氏。7月24日、愛媛県伊方町。(撮影/粟野仁雄)

集会に駆け付けた鎌田慧氏。7月24日、愛媛県伊方町。(撮影/粟野仁雄)

7月24日、「みんなで止めよう伊方原発」と銘打った全国集会があり、原発が見下ろせる愛媛県伊方町九町の「道の駅伊方きらら館」に約700人が集結した。

「八幡浜・原発から子供を守る女の会」の斉間淳子さんが「こんなに集まって下さった姿を近藤誠さん(『南海日日新聞』記者・15年没)たちに見せたかった」と挨拶。ルポライターの鎌田慧氏が「長い闘いの中では四国電力に騙されて土地を売ってしまい自殺した奥さんもいた。でも今、原発反対運動は勝利しつつあるんです」と強調した。「ストップ川内原発! 3・11鹿児島実行委員会」の野呂正和氏が「鹿児島県知事選では三反園(訓)さんを勝たせました」と報告、「よしっ」と声が上がった。

翌日、残った有志が原発ゲート前に集合した。参加者より多い警官が現れ、難癖をつけては中断させたが、福井県小浜市の中嶌哲演氏が「大阪など電力消費地の意識が問われている」などと訴えた。

愛媛県有機農産生協の秦左子さんは「三崎高校で予定された避難訓練は当日、天候が悪いからと中止しました」と指摘した。愛媛県は原発より半島先方向の住民の海上避難を検討したが、荒天時対応を問われると防護シェルター建設を言い出している。西予市のブルーベリー農家松井勝成氏は「この辺は地盤が弱い。大地震でトンネルが崩れたら絶対に逃げられない」と怒る。伊方町で泊まった民宿の女性は「稼働停止で同業はばたばた潰れていますが原発には反対です」と打ち明けた。

町民の多くは表立って反対を言わないが、「伊方原発50㎞圏内住民有志の会」の葉書アンケート結果のパーセントは熊本地震前にもかかわらず賛成26・6、反対53・2、どちらともいえない20・2だ。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、8月5日号)

沖縄防衛局辺野古事務所のこっそり移転で広がる波紋――新基地利権調整団体で内紛か

8月1日から業務開始の防衛局辺野古事務所。CSSに家賃等を払い続ける。(撮影/本誌協力者)

8月1日から業務開始の防衛局辺野古事務所。CSSに家賃等を払い続ける。(撮影/本誌協力者)

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐって国がふたたび沖縄県を提訴し、高江(東村)のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設も強行しようとしているさなか、沖縄防衛局の辺野古事務所が近所の別の建物に引っ越しをしていたことがわかった。元の事務所は老朽化が進んでいたため、防衛局は移転先を探していた。引っ越し作業は7月23日からはじまり、8月1日から業務を開始している。

事務所が移ったのは最近完成したビルの一室だが、実は、このビル建設と事務所移転に関して地元で業者らが紛糾しているという。

施工したのは名護市に隣接する宜野座村に本社を構える㈱新都市エネルギー。法人登記には「地域循環型の農業の推進と活性化」などと記されているが、役員には同村の仲程土建㈱や㈲玉城電気設備の社長らが入っている。事実上のディベロッパーである。

この4月、記者が工事現場に赴いた時には「新都市エネルギー自社ビル新築工事」と看板に書かれていた。ビル所有者は新都市エネルギーになるが、どういう経緯で建設するに至ったのか? 代表取締役社長の玉城進一氏に聞くと「CSSから依頼があったので建設した」と答えた。CSSとは一般社団法人キャンプ・シュワブ・サポートのことで、辺野古新基地関連工事を地元の業者が優先的に受注できるよう利権調整する組織だ。辺野古区(嘉陽宗克区長)や名護漁業協同組合(古波蔵廣組合長)ら地元有力組織もCSSに数百万円ずつ拠出している。

CSSが新都市エネルギーに「建設を依頼した」というのは事実なのか。CSS相談役の藤沢一馬氏に話を聞いた。

「ビルは新都市エネルギーの玉城さんたちが、自分たちや辺野古工事関係者が半宿泊施設として使えるようにと構想したものです。辺野古区の土地ですから、地元の調整役を担うという形でCSSが(運営)管理者になることになりました。防衛局はまったく関係ないし、引っ越すはずもありませんでした。ところが7月に入って辺野古の工事が部分的に再開されることになったため、防衛局から『入居してもいいか』とCSSに打診があったのです。それでCSSはOKを出した。防衛局が入居することになったのは偶然です」

建設理由について両人の説明には明らかな食い違いがあるが、それには理由があるという。

【最初から防衛局が関係か】

2月のCSS理事会では次のような議論が起きたという。CSS関係者が明かす。

「出席者の1人が『CSSは地元(名護市)の業者が優先的に仕事をとるために存在しているのに、なぜ隣町(宜野座村)の業者が建設することになったのか。CSSが機能していないではないか』と声をあげたのに対し、進める人たちは『防衛局がそれを望んでいるのだから、われわれが関知することではない』と一蹴したのです」

地元の業者が手がけるはずの仕事を他の市町村の業者にとられたことに異論が出たのだが、抑えられたという。事情通が明かす。

「実は、ビル建設を新都市エネルギーに担わせ防衛局に入居させるまでのスキームを描いたのは藤沢氏なんです。はじめから防衛局と〝密約〟を交わしていました」

藤沢氏は東京・市ヶ谷にある㈱パシフィック総研(長野俊郎代表取締役会長)の“ひとり沖縄支社”のような動きをしている。同社は佐藤正久参議院議員事務所と同じビルに事務所をかまえている。ちなみに辺野古のビル建設にかかわった仲程土建の正面玄関には佐藤氏の看板が立てられている。

辺野古のビル建設と防衛局の移転スキームを描いた疑惑について、藤沢氏は記者の取材を否定した。藤沢氏に同調する古波蔵氏や名護市議の宮城安秀氏も記者の取材に「知らない」と言い通した。

本誌は沖縄防衛局に対し、辺野古事務所の引っ越しについて「いつ入居を決めたのか」「どういう理由、経緯で決めたのか」などを複数回にわたって質問したが、一度も回答はなされていない。

(野中大樹・編集部、8月5日号)

参院選が終わった途端、介護保険サービス縮小へ――自立を損ね重度化する恐れも

参議院議員選挙での圧勝を受け、安倍晋三政権は介護保険のサービス縮小を中心とする制度見直しにアクセルを踏み始めた。最大の焦点は、軽度者への生活援助を保険の対象から外すかどうかだ。国の財政が逼迫する中、政権の本音は介護費用の抑え込みにある。しかし、それは与党が参院選で掲げた「介護離職ゼロ」などの介護充実策と真っ向から食い違う。

参院選から10日後の7月20日。厚生労働省2階の講堂であった、厚労相の諮問機関、社会保障審議会介護保険部会では、各委員に「軽度者への支援のあり方」「福祉用具・住宅改修」との表題がついた厚労省の資料が配られた。資料には、過去の経緯と「制度の持続可能性の観点を踏まえた対応について、どう考えるか」といった漠然とした論点が記されているだけだったが、当局の意向が「軽度者切り」にあることは透けて見えた。

部会で経団連の井上隆常務理事は、「介護保険の持続可能性の観点から、要介護3以上の人にサービスを重点化していくことを考えざるを得ない」と口火を切った。

介護保険の認定は介護の必要度に応じ、要支援1~2、要介護1~5の計7段階に分かれている。最も介護の必要度が低いとされる要支援1~2の人(約175万人、厚労省、今年4月現在。以下同)への生活援助サービスは、昨年から順次、市町村事業に移しており、厚労省の次の標的は要介護1(約122万人)と要介護2(約108万人)の「軽度者」だ。

「状態が悪化しないか不安でなりません」。東京都世田谷区で独り暮らしをする要介護2の女性(77歳)は、そっとため息をついた。

女性は手がしびれ、週3回、ヘルパーに家事を手伝ってもらっている。年金暮らしで、生活援助が保険から外れたら、自分では払えない。「風呂桶を1人で洗うのは大変。手伝ってもらいながら洗うことが、リハビリにもなっていると思うのだけれど」と話す。

軽度者への生活援助カットについて、介護の現場からは「利用者の自立を損ね、かえって重度化する」との異論も出ている。それでも厚労省は、来年の通常国会への介護保険法改正案提出を目指し、年内にサービス縮小案をまとめる腹だ。具体策として、軽度者に対する掃除や調理などの生活援助サービスや、歩行器の貸し付け、住宅への手すり取り付けなどを保険から外す案をちらつかせている。

このほか、厚労省は介護保険の自己負担割合(原則1割)の引き上げや、負担額に上限を設けている「高額介護サービス費」の限度額アップも視野に入れる。自己負担割合は、65歳以上の人全体のうち、所得が上位20%程度の人に限って昨年8月から2割に引き上げられたが、同省はこの対象をもっと広げようとしている。

【「介護離職ゼロ」に逆行】

背景には、高齢化に歩調を合わせて膨れ続ける介護費用の問題がある。介護保険発足の2000年度に3・6兆円だった介護費は、16年度には10兆円を超す勢いとなっている。当初、3000円を切っていた65歳以上の平均保険料は月額5514円へ急増した。25年度の介護費は20兆円、平均保険料は8165円に達するとみられ、財務省や厚労省は軽度者の6割程度が利用する生活援助を格好の縮小対象とみなしている。

安倍政権は参院選直前に「1億総活躍プラン」をぶち上げ、そのメインの一つに「介護離職ゼロ」を掲げた。親などの介護のため、年間10万人を超す人が仕事を辞めている現状を改めるため、介護の受け皿を50万人分増やすという構想だ。選挙中はこちらばかり前面に出し、サービス縮小の具体的な議論は「野党につけいる材料を与えるだけ」(自民党中堅議員)として参院選後に先送りした。

そして選挙が終わるや、軽度者の生活援助カットの議論を具体化させ始めた。ただし、本当に進めるなら介護に追われる働き盛りの人への打撃となり、介護離職ゼロには逆行する。こうした行き当たりばったりの政策が続く以上、国民の社会保障制度に抱く不安感はいつまでたっても解消されない。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、8月5日号)

“小池劇場”で与野党からも票集め都知事選圧勝だが――都政の課題は待ったなし

“劇場”型選挙で都知事選の座を射止めた小池百合子氏。7月31日。(撮影/横田一)

“劇場”型選挙で都知事選の座を射止めた小池百合子氏。7月31日。(撮影/横田一)

7月31日20時、JR池袋駅前の小池百合子候補の事務所で支持者から歓声が上がった。投開票終了と同時に当確が出たためだ。すぐに小池氏が現れて万歳をした後、「これまでにない、見たこともない都政を進める」と挨拶をした。

東京都知事選(31日投開票)で元防衛大臣の小池氏(無所属)が約291万票を得票、自公などが推薦する元総務大臣の増田寛也氏(約179万票)と民進・共産・社民・生活などが推薦するジャーナリストの鳥越俊太郎氏(約135万票)らを破った。勝因は、自民党都連のドンで除名文書も出した内田茂幹事長を悪代官にする選挙戦を展開、「都政を牛耳る自民党都連が担ぐ増田氏対闇に斬り込む小池氏」という勧善懲悪の選挙戦に仕立てたことだ。

街宣(〝小池劇場〟)では、除名覚悟で駆け付けた若狭勝衆院議員(元東京地検特捜部副部長)が「私は誰から何と言われようが負けません」「初の女性都知事誕生を」とアピールすると、超党派で応援する都議有志の音喜多駿都議(北区選出)が「内田氏は猪瀬直樹知事と舛添要一知事の去就を左右するほどのドン」と名指しした上で「若狭先生が加わった利権追及チームを立ち上げ、闇に斬り込む」と呼びかけた。都政を刷新する存在として小池氏への期待が高まったのだ。

一方、既成政党は与野党とも精細を欠いた。30日、増田氏の立川駅での街宣には自公の幹部が次々と駆け付けた。菅義偉官房長官や石原伸晃大臣(都連会長)や茂木敏充選対委員長、公明党選対責任者の斉藤鉄夫衆院議員が支持を訴えたが、大差をつけられた。得意の組織選挙が通用しなかったのだ。

野党統一候補擁立のドタバタ劇も見るに堪えなかった。8日に出馬表明をした石田純一氏が3日後に断念、今度は元経産官僚の古賀茂明氏が最有力となり、松原仁・都連会長(衆院議員)が11日に出馬要請をして握手をする場面が報道された。しかし深夜にかけて民進党執行部は強引に鳥越氏に乗換えたのだ。これでは民進党が一丸になって動くはずがない。

これに週刊誌報道も加わって、序盤戦で1位だった鳥越氏は2位から3位へと失速。民進党支持者の約4割、共産党支持者の約2割が小池氏に流れた。

【試金石の豊洲移転問題】

劇場型選挙で勝利した小池氏だが、改革派のイメージを現実化する課題を負った。当確後に小池氏は、膨らんだ五輪関係予算などを検証する「第三者委員会(利権追及チーム)」を設置すると述べた。若狭氏も囲み取材で「早急に設置すべき」「検証対象には1・5倍に工事費が膨らんだ豊洲新市場建設も含まれる」と意気込んだ。

11月7日に予定されている「豊洲移転問題」も待ったなしだ。しかも小池氏は22日の築地街宣で次のように訴えていた。「土壌汚染の安全性の確認、豊洲のさまざまな使い勝手の問題などについて、移転をする人の納得をいただく。そのためには、一歩立ち止まって考えるべきだと思っております」「築地市場の豊洲への移転問題、都民の都民による都民のための都政ではなくなっている最たる例ではないかと思っています」。

小池氏は演説後、築地関係者の「躍進する市場の会」会長の関戸富夫氏から開場予定日の見直しなどを求めていた要望書も受け取ってもいた。関戸氏が「11月7日の延期はもちろん、築地での営業継続が可能な抜本的見直しに踏み込む決意表明と理解しました」と期待したのはこのためだ。

また豊洲移転問題に詳しい一級建築士の水野和子氏は、こう話す。

「すでに土壌汚染の情報は公開され、施設内の発がん性物質濃度が基準値以上になる恐れが明らかになっています。小池氏は『情報公開が第一』と言っていますが、公開データを直視すれば、豊洲移転中断を検討せざるを得なくなる。ここまで踏み込むのかが試金石です」

しかし都は、選挙中に築地市場の解体工事を発注するなど移転強行の姿勢。小池新知事とのバトルが就任直後から始まることになる。

(横田一・ジャーナリスト、8月5日号)

明石歩道橋事故で元副署長――時効の「免訴」確定に疑問

明石歩道橋事故から15年、事故現場を訪れた遺族ら。7月21日。(撮影/粟野仁雄)

明石歩道橋事故から15年、事故現場を訪れた遺族ら。7月21日。(撮影/粟野仁雄)

2001年7月21日夜、兵庫県明石市の歩道橋で花火大会を見にきていた子ども9人を含む11人が圧死し、247人が重軽傷を負った群衆事故から15年。9歳の長女と7歳の長男を失った有馬正春さん(57歳)、8歳の二女を亡くした三木清さん(47歳)ら遺族が橋を訪れ、通路脇に作った「想いの像」に花を手向けて手を合わせた。

少し前の12日、最高裁第三小法廷は、検察審査会により業務上過失致死傷罪で強制起訴されていた事故当時の明石署副署長、榊和晄被告(69歳)について、「強制起訴時点では公訴時効」とした大阪高裁判決を支持し、遺族らの上告を棄却、「免訴」が確定した。三木さんは「悔しい、娘にも報告しにくい」と話したが、2歳の二男を失った下村誠治さん(58歳)は、「やれることはやった。副署長の怠慢も法廷で明らかにできた」と評価した。

本事故では、明石署の元地域官や警備会社支社長、明石市職員らが有罪となったが、神戸地検は「事故を予見できなかった」と元副署長を不起訴にした。10年の強制起訴でも被告・弁護側は「発生から5年以上経ち時効」と主張した。

一方、検察官役の指定弁護士は「共犯者の元地域官の裁判中は時効が停止される」と反論したが、最高裁は「地域官と副署長の役割は違う」と共犯を否定した。

この事案は、司法改革で検察審査会の2度の「起訴相当」議決で強制起訴されることになった、最初の適用だった。しかし、同一事件なのに、検察起訴ではない強制起訴の時点で時効が適用されてしまうことも再考の余地がある。

当時の署長は死去し、警察トップらの刑事責任は問えなかったが、下村さんらは講演などで再発防止を強く訴え、明石歩道橋事故以後は全国的にも死者が出る群衆事故は起きていない。天国の子どもたちも親たちの奮戦に拍手しているだろう。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、7月29日号)

NHK新経営委員長に「日本会議福岡」名誉顧問――NHKが事実上の回答拒否

「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」(湯山哲守・醍醐聰共同代表)は7月8日、「日本会議福岡」名誉顧問の石原進JR九州相談役が、このほどNHKの新経営委員長に就任した問題で、石原氏と経営委員会に対し、「名誉顧問の職を退くべきではないか」等の項目を連ねた質問書を提出した。

今回の石原氏の新経営委員長就任は、経営委員からの事実上の「昇格」だ。石原氏は委員時代、「(放送内容が)政府とかけ離れたものであってはならない」などと数々の暴言を吐いた籾井勝人氏がNHK現会長に就任するに当たり、強く推薦したことで知られている。

質問書は、(1)委員時代、「公共放送の信頼を失墜させるような言動を繰り返した」籾井氏を会長に推薦した責任を感じているのか(2)2012年11月に「原発を全廃すれば……日本の産業は死ぬ」などと発言したことは「NHKの政治的公平」に疑念を生み、慎むべきではないか(3)「公共放送を監督する組織の長として」、「日本会議福岡」の名誉顧問職を退くべきではないか――等の5点に及ぶ。

またこれとは別に経営委員会と経営委員に対しても、一部の新聞で経営委員が「政権・与党サイドの関係者から、石原氏を推薦するよう求められた」と発言したと報じられた問題について、経営委員としてそうした働きかけに「どう対処したか」の回答を求めている。

21日に前掲の「コミュニティ」宛にNHK経営委員会事務局名の回答文書が一通だけ届いたが、「個別のご意見、申し入れなどに対する回答は、差し控えさせていただいております」とあり、事実上の回答拒否だ。なお(3)については、「日本会議福岡」のHPから、以前石原氏の同「福岡」の名前と役職を明記していた箇所が現在、説明もなく削除されている。

このため「コミュニティ」は23日、再度誠意ある回答を求める文書をNHK側に提出した。

(成澤宗男・編集部、7月29日号)