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「安保法制」はおかしいです。(9)

ながしま かずみ・1994年生まれ、20歳。武蔵野大学文学部3年。2014年、U-20デモ実行委員会としてデモ・勉強会を行なった。

ながしま かずみ・1994年生まれ、20歳。武蔵野大学文学部3年。2014年、U-20デモ実行委員会としてデモ・勉強会を行なった。

「うちは一家全員が助かったけれど、周りは空襲で家族の誰かが亡くなっていたから、申し訳なくて」

2014年8月15日。私は、東京大空襲・戦災資料センターにいた。この日は、「終戦の日」ということで、戦争体験者の話を聞く会が開かれていた。冒頭の言葉は、その会の中で赤沢寿美子さんが口にした言葉だ。その日から1年近く経つけれど、私は今も、この言葉が頭から離れない。

本当ならば、生き残ったことも、いま生きていることも、喜んで良いことであるはずだ。しかし、素直に喜べない。それとも、?生きていることを喜ぶ”という感覚すらも、わからなくなっているのか。周りの人間にも、「自分の子(親・恋人)は死んだのに、なぜあの人は……」という目で見られることがある。それは、映画『父と暮せば』、漫画『夕凪の街・桜の国』などでも描かれていた。生きるという自然なことが、不自然に感じてしまう。それが戦争なのだと、あらためて強く思った。

今、安倍政権は「安全保障関連法案」という名の?戦争をするための法案”を成立させようとしている。自衛隊が戦地に行くことができるようになり、今まで以上に隊員が危険にさらされる。後方支援は、国際的には戦争に加担していると受け取られ、攻撃の対象となる。私は、間接的であっても誰も殺したくないし、大切な人が傷ついたり、誰かを傷つけたりすることは耐えられない。戦地に行くことや、人を殺すことが名誉であるとされ、大切な人の死を悲しんだり、無事を喜んだりすることができなかったあの頃には、戻ってはならないと思う。

だから私は、声を上げる。

(長島可純、8月21日号)

川内原発に新たな問題――法令違反の高経年化審査

九州電力鹿児島県川内原発の再稼働が迫る中、運転開始30年の原発に必要とされている高経年化(老朽化)審査の問題が新たに浮上した。川内原発1号機は、運転開始から31年以上経つが、高経年化審査が未了だ(8月3日現在)。認可なしに30年を超えた、はじめてのケースとなる。

この制度は、新規制基準の適合性審査とは別に、運転開始30年を経過する前に、電力事業者が技術評価および長期保守管理方針を策定。これらを盛り込んだ保安規定について、規制当局の認可を受けなければならないというもの。その後の保全計画に反映させる。

保安規定に組み込まれたのは原子力規制委員会になってからだが、30年までに審査を終えるルールは旧原子力安全・保安院時代には厳格に守られていた。これが規制委発足後、いきなり破られたのだ。

実際の危険も伴う。たとえば、九電が実施した主給水系配管の腐食減肉を考慮した耐震安全評価では、許容値1に対し0・991とぎりぎり。薄くなった配管が地震により破断し、大事故に至るおそれもある。

7月3日、九電は、基準地震動の引き上げに伴う補正申請を提出。規制委は、7月13日から審査を開始した。しかし、審査が終了していないのに再稼働することに批判が高まるや否や、逆に審査を再稼働日程に合わせ、再稼働直前の8月5日に審査を終了させる見込み。外部有識者ヒアリングはおろか、現場検証も行なわない。明らかな「駆け込み審査」に批判の声が高まる。

「規制委は九電の評価を丸呑みにして、住民の安全を犠牲にするつもりか」と原発から30キロ圏内の鹿児島県いちき串木野市に住む高木章次さんは憤る。

市民団体らは、これが「高経年化対策実施ガイド」や原子炉等規制法の規定に違反していると指摘し、違法状態にある原子炉の再稼働は許されないと批判を強めている。

(満田夏花・FoE Japan、8月7日号)

人種差別撤廃基本法の実現を――認められていない犯罪

8月4日から審議入りした反ヘイト・スピーチ法(人権等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律)案に先立ち、「今こそ人種差別撤廃基本法の実現を」と題する集会が7月22日、参議院議員会館で行なわれ、約140人が参加した。主催は、外国人人権法連絡会ら4団体。

在日朝鮮人をはじめ、マイノリティーの人々を貶める街頭宣伝やデモが繰り広げられていることから、法案は5月22日、国会に提出されていた。2カ月以上経ち、ようやく審議が始まった。

基調講演を行なった龍谷大学の金尚均教授は、2009年12月の在特会らによる京都朝鮮第一初級学校に対する襲撃事件の裁判を引き合いに、法律の必要性を次のように訴えた。

「(判決では)人種差別を認定し、民族教育を行なう社会環境も損なわれたことも指摘された。これまでも存在した差別に対する法的制裁は皆無で、差別がなかったことにされていたが、今回の判決は、“あったことをあった”とした意義は大きい。しかし、特定の個人が具体的な被害を受けないと民族差別が犯罪行為だと認められない問題が残る」

この指摘のように、具体的な個人ではなく、「朝鮮人」といった一定の集団に対する侮辱的・卑俗的な行為がなされたとしても、対処できない現状がある。

人種差別撤廃基本法を求める議員連盟会長の小川敏夫参議院議員(民主)も集会に参加し、「現行法では、個別具体的な犯罪被害がないと、集団として差別の対象となる人々は救われない。法案を確実に通すために、内容もゆるやかにし、罰則も設けていない」と述べた。

まずは差別が犯罪であることを法で明確化することを優先し、法制化で強制力が生じる場合の懸念にも対応するための妥協案でもあるだろう。

(林克明・ジャーナリスト、8月7日号)

県外避難者が批判――改定案は避難者切り捨て

東京都内で会見に臨む県外避難者や支援関係者ら。(7月29日。撮影/斉藤円華)

東京都内で会見に臨む県外避難者や支援関係者ら。(7月29日。撮影/斉藤円華)

東電原発事故にともなう「子ども・被災者支援法」(支援法)の基本方針で、国は福島県内に設けられた「支援対象地域」について「避難する状況にない」とする改定案を示している。これに対して県外に避難中の住民らは「避難者の切り捨てだ」などと反発。7月29日に東京都内で会見を行なった。

復興庁は7月10日、「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の改定(案)」を公表した。この中で、現在県内浜通りと中通りの市町村に設定されている支援対象地域では、年間積算線量が20ミリシーベルトを大きく下回る、として「避難指示区域以外から避難する状況にはない」と明記。当面は支援対象地域を縮小しないものの、今後は「縮小および撤廃することが適当」としている。

しかし従来の基本方針では、避難基準である年間積算線量20ミリシーベルトを下回るが「一定の基準」以上の地域を支援対象地域とする。避難者や支援団体は、一定の基準があいまいなまま「避難は不要だ」とする改定案は支援法の趣旨に反すると批判している。

また、復興庁は住民の被曝量を測るものさしに「実効線量」を使う。これは空間線量率から屋内、屋外の線量などを試算したものの合計だ。しかし避難者らは、屋内線量の算出に用いる遮蔽係数「0・4」などを疑問視。

会見で、南相馬・避難勧奨地域の会の小澤洋一さんは「屋内であっても屋根や遠くからの放射線により、屋外より線量が高い場合がある」と指摘した。

そもそも基本方針の策定、および改定案には避難者の要望がまったくと言っていいほど反映されていない。避難者らは「年間1ミリシーベルト以上の地域」を支援対象地域とするよう訴え続けてきた。

福島市から京都に避難中の宇野朗子さんは「改定に民主的プロセスが全くない。嘘とごまかしで事を進めてはいけない」と訴えた。

(斉藤円華・ジャーナリスト、8月7日号)

原発事故めぐり東電元会長ら3人を強制起訴へ――真相究明の邪魔をした検察

7月31日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見する福島原発告訴団団長の武藤類子さん(中央)ら。(撮影/伊田浩之)

7月31日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見する福島原発告訴団団長の武藤類子さん(中央)ら。(撮影/伊田浩之)

福島第一原発事故の刑事責任が、ついに裁判の場で問われることになった。7月31日に東京第五検察審査会(検審)が公表した「強制起訴」議決は、福島原発告訴団が、検察当局との長い闘いの末に勝ち取ったものと言える。

当初、同告訴団が検察に期待していたのは、政府や国会の事故調査委員会でも解明できなかった事故原因の究明であり、加害企業である東電への強制捜査だった。各事故調による真相究明作業が中途半端に終わったのは、強制力を伴う調査ができなかったからだ。

だが検察は、東電や規制官庁への家宅捜索などの強制捜査を一度も行なわないまま、2013年9月9日、被告訴人ら全員を不起訴処分とした。14年7月の検審「起訴相当」議決を受けた捜査でも、検察は強制捜査をしなかった。

それでも検察は、不起訴のたびに「すべき捜査は尽くした」と弁解した。「強制起訴」議決が出た後に至っても、マスコミに向けて同じ説明を繰り返していた。

しかし、その説明を真に受けることは、とてもできない。なぜなら、原発事故に伴う刑事告発や告訴が行なわれた後に検察が取った行動には、二つの不可解な「謎」があるからだ。

【検察官がヒアリング担当】

同告訴団は12年6月11日、刑事告訴の受付窓口である福島地検の検事正に、告訴・告発状を提出していた。にもかかわらず、同告訴団の告訴を同年8月1日に受理したのは、全く畑違いの「公安部」だった。その理由は、今もって明らかにされていない。東京地検特捜部に対する同様の刑事告発も、受理したのは「公安部」である。なぜ特捜部で受理しなかったのか。

あまり知られていないことだが、政府事故調で関係者らのヒアリングをしたのは、検察官である。そして、その政府事故調は「原因究明を優先し、責任追及を目的としない」(畑村洋太郎・政府事故調委員長)組織とされた。

本来、刑事責任の追及をすべき立場の検察官が、なぜそのような組織にかかわることになったのか。真っ先に浮かぶ疑問は、

「特捜部で受理しなかったのは、ヒアリングを担当した検察官の多くが特捜部からの出向だったからではないのか」

というものだ。事実、検察による告訴・告発の受理は、政府事故調の「最終報告書」が出るのをわざわざ待って行なわれていた。

「責任追及を目的としない」ことを条件にヒアリングを検察官にやらせた結果、精鋭集団の特捜部が原発事故捜査から外されたのだとすれば、これほど軽率な話はない。さらには、政府事故調の主目的であるはずの「原因究明」さえ、検察官の彼らは満足に果たせていないのである。

【被害者に“敵意”剥き出し】

同告訴団の告訴・告発は福島地検で受理されたので、たとえ不起訴になっても、それに対する異議申し立ては、福島県民で構成される福島の検審で審査されるはずだった。だが、その思惑を、検察当局は総力を挙げて阻止していた。

不起訴処分公表当日、福島地検は同告訴団の告訴・告発を東京地検へと移送し、東京地検はその日のうちに間髪入れず、ほかの告発とまとめて電撃一括不起訴としたのである。オリンピックの東京招致決定(日本時間の13年9月8日)の翌日のことだ。同告訴団に対する、大人げない嫌がらせにほかならない。

検察当局は、原発事故被害者である同告訴団に対し、なぜここまで敵意を剥き出しにしたのか。そんなことをするくらいなら、そもそも告訴を受理しなければよかったのである。

ところで、こうした検察の姿勢は、かえって同告訴団側の闘志をかきたててしまい、ついでに検審の心証まで悪くしたようだ。

これから始まる裁判で裁かれるべきは、「東電の不作為」ばかりではない。原発事故の真相究明の邪魔にしかならなかった「検察の不作為」も、同時に俎上に載せるべきだ。検察を取り巻く「謎」の解明を期待したい。

(明石昇二郎・ルポライター、8月7日号)

「安保法制」はおかしいです。(8)

ダビ・ナタナエル 1985年、ドイツ生まれ。2005年来日。漫画家、漫画の講師。Twitter@davi_nathanael

ダビ・ナタナエル 1985年、ドイツ生まれ。2005年来日。漫画家、漫画の講師。Twitter@davi_nathanael

ドイツでは学校でずっと先の大戦のドイツの過ちについて勉強し、二度と繰り返さないように政治に興味を持て、という教育を受けてきました。日本でボクは漫画家として活動していて、選挙権もないですが、震災の後の政治的状況に違和感を感じ、漫画のためにあるはずだったTwitterががらりと変わって政治についてつぶやかないでいられなくなりました。

今まで日本は素晴らしい憲法を持って戦争を放棄してきました。ドイツではそれを見習うべきだという政治家もいます。だが現政権が暴走し、それを強引に変えようとしています。

ドイツには中東の難民がたくさんきています。母が働く小学校には自分の国にいられなくなって逃げてきた家族の子どももいます。戦争で死ななくて済んだから今は笑顔でいられるけど、石油がある国で生まれただけで居場所を奪われたと考えると辛いです。でもメディアが「敵」と呼べば、その家族たちがドイツにきて直接、接する機会があるまで敵だと思っていた人もいたはずです。しかし敵は、つくらなければいません。

今まで日本は戦争の危険はないのに、わざわざ米国と参戦し人を殺し、かえってテロの的になるのは、武器産業等で儲かる人以外誰も得しません。万が一日本が今の憲法で攻撃されたとしても個別的自衛権があります。

今までの日本のように、武器を持たずに平和を支持する以外の方法は正しくないです。文化の狭間にいるボクが見る日本だけじゃなく、世界的な流れが少しこわいので世界中の人々の戦争に反対する力を信じたいです。

(ダビ・ナタナエル、8月7日号)

東アジアの平和を築くシンポ――首相の歴史認識がネック

やはり安倍晋三首相の歴史認識がネックとなるようだ。「東アジアの平和をどう築いていくか~日本、中国、米国、そして沖縄から戦後70年を問い直す」と題したシンポジウムが7月25日、東京都内の法政大学市ヶ谷キャンパスで開かれ、日・中・米・沖縄それぞれの視点から平和構築のための要点が語られた。法政大学沖縄文化研究所、日中友好協会、慶應義塾大学大西広研究室が共催した。

戦争法制の国会審議が続く中、法政大学の田中優子総長らは挨拶の中で、安倍政権の危険性と日本が岐路に立つ危うい情勢下で開かれるシンポの意義に触れた。

報告者は5人。最初に登壇した毛里和子早稲田大学名誉教授は戦後70年には先の戦争への「反省と謝罪が和解の前提」とし、「温家宝首相の訪日(07年4月)や98年の日韓共同宣言が和解の第一歩だった」と指摘。「第二歩へと踏み出す」ために次世代への期待をにじませた。中国社会科学院近代史研究所の歩平氏は、東アジアの平和共存のためには「国を超えた歴史認識への努力が必要」とし、日中韓3国の学者による「新しい東アジアの近現代史」の取り組みを紹介。「歴史を鏡とし未来に向かう」重要性を指摘した。笠原十九司都留文科大学名誉教授も安倍政権下で深刻化している歴史認識問題を具体的に挙げ、「戦争の歴史からいかに教訓を学び取るかが重要」とした。沖縄大学の新崎盛暉名誉教授は辺野古新基地建設をめぐる日米関係、尖閣諸島と日中対立を挙げて「国家を相対化する」ことが肝要とし、「辺野古の闘いは沖縄を軍事的な要石から平和と交流の要石に転換させるための自己決定権の行使だ」と述べた。

一方、マイケル・チュチェック上智大学非常勤教授は「覇権をめぐり対立する米中と日米関係」について、「ワシントンも何が米国の利益になるのか、現実と理想の間で揺れている」などと分析した。

(片岡伸行・編集部、7月31日号)

学者らが「70年談話」前に声明――「違法な侵略戦争」

安倍晋三首相の戦後70年談話発表に先立つ7月17日、歴史学者や国際法学者、国際政治学者ら74人が談話に関する声明を発表した。「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」などとする安倍首相のこれまでの発言に危惧を示し、日本が1931年から45年までに遂行した戦争は「国際法上違法な侵略戦争であった」こと、「日本が台湾や朝鮮を植民地として統治したこと」を明確にしなければ「関係諸国に誤解と不信が生まれる」と指摘した。

声明の呼びかけ人となった代表の大沼保昭明治大学特任教授(国際法)は会見で、安倍首相が戦後50年の「村山談話」や戦後60年の「小泉談話」を「全体として受け継ぐ」との曖昧な発言に終始していることについて、「逃げ口上として使われることはいかがなものか」との疑問を呈した。声明の中でも、どのように受け継ぐのか「具体的な言語表現によって明らかにされる」ことが強く要望されている。

同じく代表の三谷太一郎東京大学名誉教授(日本政治外交史)は、談話の内容は「アジアの近隣諸国民との間の国際的コミュニケーションのあり方が左右される」との懸念を示した。声明にはこのほか、内海愛子恵泉女学園大学名誉教授(日本・アジア関係論)や本誌編集委員の中島岳志北海道大学准教授(政治学)など学者や、半藤一利氏、保阪正康氏など現代史家も名を連ねた。

大沼教授はまた、声明を出すに至った背景として、72年当時から歴代首相が、日本の侵略の問題は学界、後世、歴史が判断すべきとの旨を述べてきたことも言及。「学界の総意としてまとめたこの声明をまったく無視するような戦後70年談話が出されれば、歴代総理が語ってきたものは何だったのかということになる」と釘を刺した。

(渡部睦美・編集部、7月31日号)

日本郵政の非正規労働者約1万4000人雇い止め――差別温存し定年だけ“平等”

東京地裁判決後の報告集会。(7月17日、東京・千代田区の弁護士会館。撮影/林克明)

東京地裁判決後の報告集会。(7月17日、東京・千代田区の弁護士会館。撮影/林克明)

「原告の請求をすべて棄却する」

7月17日、東京地裁第527号法廷に、佐々木宗啓裁判長の言葉が重く響き渡った。

日本郵政は、民営化にともない正社員と非正規社員の大きな格差を温存したまま、65歳定年制だけを“平等”にし、2011年9月、1万4000人近い非正規労働者を雇い止めした。そのうち9人が地位保全と未払い賃金などを請求して11年12月に提訴した訴訟の判決だった。原告らは、控訴する。

この裁判が社会に投げかける意義は、(1)非正規労働者に定年制を導入することの是非、(2)高齢者の雇用と生活確保、の2点である。原告のひとり、丹羽良子さん(70歳)は言う。

「給与・福利厚生・退職金その他の恵まれた条件を前提に正規社員には定年制があります。そういう条件を一緒にするなら非正規の定年制もわからなくはありません。でも、そのような差別はそのままで定年制だけ同じ条件にするなど、納得できません」

丹羽さんが04年に勤め始めたときは時給700円台。小包などの集荷と配送の両方をこなす業務だった。

非正規労働者は正社員と同等の業務を担いながら、賃金は3分の1、正社員には与えられるさまざまな手当はゼロだ。退職金もなく、厚生年金はごくわずかで定年後の生活保障はない。しかし、正社員と同様の責任だけは課せられる。実際、解雇された人たちの生活は困窮している。

労働条件に大きな格差があるのに定年制だけ同一にしたのが、今回の問題の根幹だ。その根拠は、07年の郵政民営化のときに導入された「期間雇用社員就業規則」。これ自体の妥当性も裁判の争点だったが、それ以前の初歩的な疑問もある。

【騙し討ちの就業規則改変】

前出の丹羽さんが言う。

「その就業規則の10条2項目が65歳定年制の条項です。ところがそれを渡されたとき、『2項目(略)』となっていて読めないようになっていたんです。だから私たちは65歳定年制を周知されていなかったんです」

これは、まさに騙し討ちではないのか。代理人の萩尾健太弁護士は、次のように言う。

「原告らの加齢による能力の低下などは認められず、解雇権の濫用であると、認められました。にもかかわらず、65歳定年を定めた就業規則があるのだから雇い止めは許されるとされたのは、解雇権の濫用を免れるための就業規則を認めてしまったことになります」

しかし前述のように、就業規則の正当性には疑問がぬぐえないのである。判決理由でも65歳定年は「一部は周知された」旨が書かれているが、これは大半の支社では周知されていないという事実の裏返しでもある。

さらに、ベテラン非正規労働者が大量に解雇されたことにより、各地で大混乱が起きてきたことも見逃せない。たとえば80人が解雇された千葉県船橋郵便局では、配達しきれなかった郵便物が廃棄されたことが問題になった。大量解雇のために人員不足が生じ、月の残業時間が100時間を超える者が続出するありさまだった。

【非正規全体に影響も】

非正規労働者の一律定年制導入は、格差を一層拡大させ、高齢者の貧困化を加速させる深刻な問題だ。控訴審に向け、丹羽さんは闘うという。

「この判決が確定すれば、日本の非正規労働者にものすごい悪影響を与えてしまいます。私たちだけの問題ではないのです。控訴審では絶対勝ちたい」

小泉政権時代、改革の“一丁目一番地”とされた郵政民営化。そのために解雇された大量の人びとは、いわば小泉・竹中改革の直接の犠牲者ともいえるだろう。“改革される側”にとっても、「日本郵政65歳定年裁判」は“一丁目一番地”なのである。

非正規社員への定年制導入は、すべての非正規労働者に影響を及ぼすため、控訴審は見逃せない。

(林克明・ジャーナリスト、7月31日号)

新国立競技場計画だけでなく――アパート移転も撤回を

霞ヶ丘アパート問題にも言及した安藤忠雄氏の会見。(7月16日、東京・千代田区、撮影/永尾俊彦)

霞ヶ丘アパート問題にも言及した安藤忠雄氏の会見。(7月16日、東京・千代田区、撮影/永尾俊彦)

新国立競技場計画について、安倍晋三首相は「白紙に戻し、ゼロベースで見直す」と表明したが、内閣府と文部科学省の担当者は、隣接する都営霞ヶ丘アパートを廃止する計画についても「廃止しないことも含めてゼロベースで見直す」ことに含まれると述べた。共産党都議団が7月23日に同府省から説明を受けた中で明らかになった。

これまで、東京都は「国策に協力する」という理由で一方的に同アパート住民に移転を求めてきた。住民側は、6月22日にも都庁で記者会見を開き、舛添要一知事に直接対話を求めるなど再三話し合いを求めてきたが、知事は「住民の大半は早期移転を望んでいると聞いている」などとして話し合いを拒んでいる。これに対して、同アパート住民の甚野公平さんは会見で「今残っている住民は100パーセント動きたくないと思っていると断言できます」と反論した。

7月16日には、白紙撤回される前の新国立競技場デザイン選考で審査委員会の委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏が会見を開き、その中で筆者は計画が巨大すぎて同アパート住民が立ち退きを求められていることをどう思うか聞いた。「(関係者が)徹底的に話し合わないかんのです。これからオープンに、公開しながらやられたほうがいいんじゃないか」と他人事のような答えだったが、安藤氏は話し合いの必要性は認めた。

同アパートは新国立競技場関連施設として公園になる計画だった。「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」共同代表で建築家の大橋智子さんは、都市公園の中にも建物を建てている例はあるという。大橋さんは「かつては10棟で400世帯が住んでいましたが、現在残っているのは約140世帯なので、公園の中に3棟~4棟残して改修すればその方々に住んでいただけます。これは、国際オリンピック委員会が求める『レガシー』(遺産)にもなります」と提案している。

(永尾俊彦・ルポライター、7月31日号)