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山本美香記念財団「国際ジャーナリスト賞」公募

2012年にシリアで殺害された山本美香さん。(写真/佐藤和孝)

2012年にシリアで殺害された山本美香さん。(写真/佐藤和孝)

1月末に「イスラム国」に殺害されたとされる後藤健二氏は、紛争や抑圧下に生きる人々の姿を伝え続けた。しかし自民党の高村正彦副総裁は2月4日、彼の行動を「蛮勇」と放言した。

2012年に同僚の山本美香が亡くなった(享年45)ときも、「なぜ(山本氏は)危険な場所に行ったのか」と私はある人に問われた。だが問い返したい。「では、あなたはなぜシリアが危険な場所だと知り得たのか」と。過酷な状況で暮らしを守ろうとする人たちがいる。一方で、戦争を望む者がいる。それはかつての日本の姿でもあり、今後われわれの身に起こり得ることかもしれない。遠い世界の出来事ではないのだ。

一般財団法人山本美香記念財団は、第2回「国際ジャーナリスト賞」の候補者を4月1日まで公募する。並行して2月17日には、戦争取材を行なう者への非難やジャーナリズム側の自粛が進行する現状を受けたシンポジウム「なぜジャーナリストは戦場へ向かうのか」を開催する。伝えなければ誰にも知られず理不尽に殺される人々、壊される暮らしがある。入念に準備して現場で細心の注意を払っても、危機は常につきまとう。それでも現地に入り、自らを問い続けながら「伝えたい」と強く思うジャーナリストの意志に出会えることに期待したい。詳細は URL http://www.mymf.or.jp/contents/prize.htmlで。

(藤原亮司・ジャパンプレス、2月13日号)

公安による執拗なつきまといで東京の男性――日弁連へ人権救済申し立てへ

Aさんを自宅近くで尾行する公安。(提供/警察の人権侵害を許さない会・三鷹。2013年9月撮影)

Aさんを自宅近くで尾行する公安。(提供/警察の人権侵害を許さない会・三鷹。2013年9月撮影)

公安警察につきまとわれ、嫌がらせを受けているとして、東京都内に住む会社員Aさん(39歳)が近く、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済の申し立てを行なう。

発端は2011年4月だった。東日本大震災の被災者が避難していた都内調布市の「味の素スタジアム」に皇太子夫妻が訪れた際、Aさんは同施設前で「天皇制を維持するための見舞いだ」と抗議の声をあげた。すると、またたく間に10人程度の私服刑事に取り押さえられ、何もしていないのに「公務執行妨害」の容疑で3日間、調布署に勾留された。Aさんはその後、国民体育大会(国体)や植樹祭などで天皇が皇居から移動する日になると、出勤や外出時に帽子・マスク姿の公安と見られる人物らから尾行されるようになった。

第68回の東京多摩国体が開催された13年9月から10月にかけては、24時間自宅の周辺に公安が張りついた。通勤中のAさんの背後には複数人が尾行し、電車内でも威圧してくる異様さ。このため、Aさんと一緒にいた友人二人が駅構内で抗議し、所轄の制服警官が駆けつけたが、男たちが「俺たちは警察だから」と名乗ったところ、制服警官は引き揚げてしまった。

Aさんは「尾行に抗議しても公安は高圧的に『早く行け』などと怒鳴るだけ」であり、「身分も明かさなければ理由も言わない」と憤る。「昨秋以降、露骨に威圧するようなことはなくなったが、こちらが気付いていないだけで尾行が続いている可能性もある」として、日弁連に人権救済の申し立てを行なう準備を進めている。

2月28日には立川市の三多摩労働会館で午後1時半からAさんやジャーナリストの青木理氏が参加して「公安警察の人権侵害を許さない集い」が開かれる。

(成澤宗男・編集部、2月13日号)

人質事件で1200人超の言論人ら声明――政府批判の自粛に重大な危惧

「ISIL」による日本人人質殺害事件の過程で、政府批判を自粛するムードが広がったことに重大な危惧を覚えるとして、言論・表現活動に携わる約1200人が連名で2月9日、「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」を発表した。

声明は、(1)日本政府の行動や施策が必ずしも人質の解放に役立つとは限らず、常に監視・精査・検証され、批判されるべきは批判されて当然だ、(2)「非常時」を理由に自粛を認めてしまえば、他国と交戦状態に入った時にも適用され、「翼賛体制」の構築に寄与することになる――と指摘し、そうなれば「他国を侵略し日本を焼け野原にした戦時体制とまったく同じではないか」と問いかけている。

単なる安倍政権批判と受け取られないように、「誰が、どの党が政権を担おうと、自身の良心にのみ従い、批判すべきだと感じ、考えることがあれば、今後も、臆さずに書き、話し、描くことを宣言する」と謳った。

きっかけを作ったのは、映画作家の想田和弘さん、元経済産業官僚の古賀茂明さんとジャーナリストの今井一さん。事件が表面化して以来、マスメディアや国会議員までもが政府批判を避けていると実感したことから、「相当に危機的な状況。このままでは国民に正しい情報が行き渡らなくなる」(古賀さん)と声を上げることにした。

2月1日に賛同人を募り始めるとメールや口コミで広がり、映画・演劇関係者、ジャーナリスト、弁護士、詩人、大学教員など、職業や性別、年代、有名・無名を問わず多彩な面々が応じた。「現時点で政府の対応を批判するつもりはないが、同調圧力には強い危機感を抱く」と賛同した人もいる。

今後も賛同人を募る方針だ。「これが始まり。報道機関や記者にも呼びかけたい」と古賀さんは話した。
ホームページ URL http://ref-info.com/hanyokusan/

(小石勝朗・ジャーナリスト、2月13日号)

スカイマーク経営破綻で宮古・石垣路線から撤退――大手航空社は運賃値上げ

石垣島路線へ2013年7月に初就航した当時のスカイマーク機。(提供/八重山毎日新聞社)

石垣島路線へ2013年7月に初就航した当時のスカイマーク機。(提供/八重山毎日新聞社)

民事再生法の適用を東京地裁に申請し1月29日に経営破綻したスカイマーク社(本社は東京、有森正和社長)の余波が各地に拡がっている。ス社は同日、沖縄県宮古島ならび石垣島路線からの撤退を発表。石垣―那覇便は3月28日で撤退し、今後の再開について「見通しはない」としている。

これを受けて地元住民や旅行代理店などは、日本トランスオーシャン航空(JTA)と全日本空輸(ANA)が下げ止まりだった航空運賃をス社参入前の料金水準に引き上げる可能性を懸念する。

ス社は2013年7月10日に南ぬ島石垣空港と那覇、神戸、成田の3路線に就航したが約1年6カ月で撤退を決定。突然の撤退劇に各市町村も対応に追われている。中山義隆・石垣市長は「宮古島市や県と連携し継続を要請したい」として2月6日、宮古島市と多良間村の代表とともにス本社を訪ね、存続を要望した。日本航空(JAL、JTAの親会社)とANAには料金の現行水準を継続するよう訴え、市議会も9日に臨時議会を開催し、要請決議を提出した。

一方、ス社撤退後の3月29日から、ANAと業務提携しているスカイネットアジア航空(ソラシドエア・本社は宮崎市)が石垣路線に新規就航する。同社の運賃設定は既存社よりも高額だが、新規社を保護・育成する国土交通省の制度により、既存社は新規社の運賃より「安く値段を設定できない」(JTA関係者)、また、この仕組みが「妨げになっている」(同)との理由で既存2社は「現段階で運賃(設定)は未定」としている。

石垣市観光交流協会の高嶺良晴会長は「(石垣島含む八重山諸島の)入域客数が伸びたのはスカイマークのおかげ。住民の足として現状を維持してもらいたい」と語る。八重山内外を結ぶ「人」の交通手段は空路しかない。13年に現空港が開港したが、「離島苦」(格差)が再び押し寄せてきそうだ。

(砂川孫優・『八重山毎日新聞』記者、2月13日号)

米軍新基地、辺野古埋め立ての承認めぐり――沖縄県で第三者委が初会合

検証委は今後論点を整理し、7月に結果を報告するとしている。2月6日=沖縄県庁。(撮影/横田一)

検証委は今後論点を整理し、7月に結果を報告するとしている。2月6日=沖縄県庁。(撮影/横田一)

名護市辺野古の新基地建設に必要な埋め立ての「承認」を検証する「第三者委員会」(委員長は大城浩弁護士=元沖縄県弁護士会会長)。この初会合が2月6日、沖縄県庁で開かれた。今後は月2回のペースで10回程度の会合を開催し、「6月中には意見を取りまとめて7月上旬に報告する」との日程を明らかにした。

政府は昨年12月の沖縄県知事選挙や衆議院総選挙で示された「新基地建設反対」の民意を無視、準備工事をゴリ押ししているため、「報告時期の前倒し」が大きな課題として浮上した。大城委員長は、検証内容の質は落とせないとしつつ、「検証を進める間にスピードアップすることもありうる。早くなることは悪いことではない」と前倒しに意欲的な姿勢も示した。

委員会のメンバーは、委員長以外では當真良明弁護士、田島啓己弁護士、沖縄大学の桜井国俊名誉教授(環境学)、琉球大学の土屋誠名誉教授(生態系機能学)、東京大学の平啓介名誉教授の合計6人。全委員が出席した初会合の冒頭では、東京へ赴いたため不在の翁長雄志知事に代わり、安慶田光男副知事が「法律的な瑕疵がなかったのかを検証することが目的」と挨拶、公正中立な検証を求めた後、会議は非公開となった。「国からの訴訟もありうるので『手の内は見せない方がいい』という考えに基づくもの」(県政ウォッチャー)で、終了後、大城委員長が議事内容を説明する会見を開いた。

一方、翁長知事との面談を拒否し続ける菅義偉官房長官は、仲井眞弘多前知事の埋め立て承認について、「関連法制に則してすでに時間をかけて判断されたものだ。政府は予定通り粛々と進める」と述べ、中谷元防衛大臣も「瑕疵があったとは思わない」と足並みを揃えた。しかし、仲井眞知事時代の昨年2月に開かれた県議会百条委員会の証言では、環境生活部が「環境保全についての懸念が払拭できない」と一昨年11月意見表明していたのに、その一カ月後に埋め立て承認がなされた。

【“素人職員”が対応か】

この不可解な経緯について、委員(県議)が問題視、追及する場面があった。

「すでに百条委員会の議事録を読んだ」と話す大城委員長は、「ここが検証のポイントの一つになるだろう」と注目。新基地建設問題を追い続ける「沖縄・生物多様性市民ネットワーク」の吉川秀樹氏は、埋め立て承認を担当した土木建築部海岸防災課の担当者と面談し、次の回答を引き出している。

「承認の判断を下したのは海岸防災課の三名の職員だが、『ジュゴンとサンゴ類と海草藻場の保全』『外来種の問題』『米軍基地の運用に関する問題』に関して専門的知識を持っていなかった。それなのに専門家に助言を求めたり、協議することをせず、『懸念は払拭できない』という意見を出した環境生活部との直接のやり取りもなかった」「制度上、判断する職員が専門家レベルの知見を持たなくても承認可能」。

つまり“素人職員”が専門家に相談せずに埋め立て承認をしたということだ。吉川氏は、「これでは沖縄の環境が守られるはずがない。公有水面埋立法で求められている環境保全の考慮をしたことにはならない」と呆れる。

昨年2月の百条委員会でも土木建築部長が「環境保全への懸念が払拭できないことのみをもって承認基準に不適合とはできない」と証言したが、これも「環境保全の考慮」が欠落した発言だ。当時の土木建築部の対応を突破口とすれば承認の瑕疵が明確になり、検証が加速する可能性は十分ある。

二回目の会合は26日で、各委員の論点提案に加え、担当職員からのヒアリングも予定される。土木建築部の担当職員から「仲井眞知事(当時)の政治的判断で専門家に相談せずに“素人判断”をした」といった発言が出るか否か。大城委員長は「県職員の内部告発は大歓迎」「担当者は当時の経緯を語ってくれるだろう」と意気込む。

(横田一・ジャーナリスト、2月13日号)

ろくでなし子さんの裁判でまんこの議論を

トークショーでのろくでなし子さん(左)とアライ=ヒロユキさん。(写真/本誌取材班)

トークショーでのろくでなし子さん(左)とアライ=ヒロユキさん。(写真/本誌取材班)

「私が逮捕されたことで『まんこ』に対する日本の認識のおかしさに気付く人が増えてきた」

こう語るのは芸術家・ろくでなし子さん。「慰安婦」や「天皇アート」をはじめ展示の中止などに追い込まれた作品を展示した「表現の不自由展」(1月18日~2月1日、東京・練馬で開催)で、1月27日にトークショーが行なわれた。

ろくでなし子さんは、インターネットのクラウドファンディングを通じ、多くの支援者からの寄付金で作成した「マンボート」や「ジオラまん」などの作品を写真で紹介。どの作品も「面白いものを作りたい」という気持ちから生み出されている。企画展では作品が紹介されるたび、約100人が詰めかけた満員の会場は笑いに包まれた。また、ろくでなし子さんは、留置場で購入した下着や差し入れられた部屋着を見せながら、留置場での生活や取り調べの様子を話した。

トークショーでは、主催者の一人である元NHKディレクターの永田浩三さんが1991年に制作した『女性器の名前』を上映。まんこがタブーとされている一例として、埼玉県の小学校では「女性器をおちんちん」と呼ぶ教育がされていたことが紹介された。

ろくでなし子さんは「私の裁判がみんなでまんこについて議論するいい機会になればいい」と決意を新たにした。

(本誌取材班、2月6日号)

高知白バイ・スクールバス事故――再審棄却で即時抗告

高松高裁で1月29日、県警が提出した現場写真の不審点を説明する片岡晴彦さん。(撮影/粟野仁雄)

高松高裁で1月29日、県警が提出した現場写真の不審点を説明する片岡晴彦さん。(撮影/粟野仁雄)

「このままでは、バスは動いていなかったと法廷で証言してくれた(乗客の)生徒さんたちが偽証していたことになる。彼らのためにもあきらめられません」――高知市で2006年3月、交通取締用自動二輪車(白バイ)が停車中のスクールバスに突っ込み、高知県警の隊員が死亡した。この事故で「バス側が動いていた」と認定され、運転手の片岡晴彦さんが業務上過失致死罪で服役。昨年12月16日、高知地裁は片岡さんの再審請求を棄却したが、「バスは止まっていた。過失はない」とする片岡さんは1月29日、高松高裁に即時抗告理由書を提出し、会見した。

再審請求で弁護側は、千葉大学名誉教授の三宅洋一氏による「県警が提出した現場写真は合成」とする鑑定書を提出。合成(貼付)が疑われる人物が映っているなど不自然な点が複数ある写真だが、棄却決定書は「合成の際に出るドットがない」などとして、鑑定を排除した。タイヤ痕を液体様のもので描いた可能性も鑑定は示唆したが、決定書は「衆人環視の中でタイヤ痕捏造は不可能」と判断。「白バイでアスファルト面が削れるはずのえぐれがない」との指摘も「えぐれがあるのは明らか」と、理由を明示しないまま退けた。片岡さんと弁護団は「理由も示さずに排斥するのは許されない」などと糾弾する。自動車事故鑑定人の石川和夫氏は「必ず付くはずのタイヤの溝の跡もなく、タイヤ痕が前輪にしかない。後輪はダブルタイヤなので迅速に捏造できなかったため」などと説明した。

10年秋の再審請求後、裁判所、検察、弁護団による三者協議を繰り返したが、裁判所は弁護側が再三にわたり求めた三宅氏の証人尋問も認めていない。日本国民救援会高知県本部の田中肇会長は、「棄却を受け入れての第二次請求も検討したが、やはり警察や検察のでたらめを認めるわけにはゆかない」と話した。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、2月6日号)

道内各地コタンのアイヌ、救済を申し立て――「アイヌ遺骨再集約は人権侵害」

「人権救済」を日弁連に申し立てた葛野次雄さん(中央)ら。(撮影/平田剛士)

「人権救済」を日弁連に申し立てた葛野次雄さん(中央)ら。(撮影/平田剛士)

北海道大学など全国12大学が長年にわたり「研究資料」として保管する大量のアイヌ人骨を、2020年までに国立施設に再集約する計画を閣議決定した政府に対し、道内在住のアイヌ13人と和人支援者ら8人は1月30日、「再集約はアイヌの人権を侵害する」として、日本弁護士連合会人権擁護委員会に人権救済を申し立てた。

各大学が保管する遺骨(推定2000体)の大半は、明治期から昭和前期にかけて和人の医学・人類学者らが各地のアイヌ墓地を発掘するなどして収集。頭骨計測研究などのブームが去った後も長らく放置された。政府は昨年6月、「コタンに返還することが望ましい」と前置きしながら、北海道白老町に新設予定の「慰霊施設」にその大半を再集約すると決めた(本誌1月30日号に関連記事)。

30日に申し立てたのは、すでに北海道大学を相手取って地元コタン(集落)への遺骨返還請求訴訟を起こしている小川隆吉さん(札幌市)、城野口ユリさん(浦河町)、畠山敏さん(紋別市)、差間正樹さん(浦幌町)らで、申立書には、再集約が〈アイヌの宗教上の行為の侵害〉にあたり、信教の自由を保障した憲法に違反する旨が記されている。日弁連が事実関係を調査して人権侵害が認められれば、政府に対して警告を出す見通しだ。

同日夜に都内で開かれた「出前講座アイヌの遺骨はアイヌのもとへ」(本誌協賛)では、申し立て人たちの訴えに、約100人の参加者が耳を傾けた。病のため欠席した城野口さんの実弟である山崎良雄さんは、「(先祖の遺骨が返還されずに)悔しくてたまりません」と声を詰まらせ、静内アイヌの葛野次雄さん(新ひだか町)は、静かな口調でカムイノミ(神々への祈りの儀式)の際の祈りの言葉を唱えた。

参加者の一人は「大学や政府はアイヌに謝罪して遺骨を返還する努力をすべきだ」と話した。

(平田剛士・フリーランス記者、2月6日号)

諫早湾、排水門の開門まで国の「制裁金」確定――最高裁、農水省の抗告を棄却

諫早湾で被害を受けつつノリ漁を営む篠塚光信・美恵子夫妻。2014年12月19日。(撮影/永尾俊彦)

諫早湾で被害を受けつつノリ漁を営む篠塚光信・美恵子夫妻。2014年12月19日。(撮影/永尾俊彦)

「(農林水産省は)ホント、自分たちの体面だけですたい。漁民と農民を巻き込んで対立させ、紛争みたいにしとる」――こう批判するのは、長崎県島原市でノリ漁を営む篠塚光信さんだ。現地のノリ漁は近年、芽流れや色落ちなどの深刻な被害を受けている。「原因が諫早湾干拓だとわかるから、農水省は開門できんのやろう」(篠塚さん)。

九州・有明海の諫早湾干拓事業をめぐっては、漁業者側と営農者側が双方向から国に対する制裁金支払いを福岡高裁に申し立て、両者ともに認められている。農水省が潮受堤防排水門を、開門しない場合は漁業者らに対して、開門する場合は営農者らに対して一定額、支払うというものだ。

農水省はこの二つの高裁決定に抗告していたが、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は1月22日、抗告を棄却した。「当事者が異なり、別個に審理された裁判の判断がわかれることは制度上ありうる」とし、「法的要件は満たされている」との理由だ。開門の是非については「審理する立場にない」としたが、農水省には「紛争解決のための十分な努力」を促した。

【制裁金払うも現場を分断】

干拓で諫早湾を閉め切ったため漁業被害が発生した――こう主張する漁業者らが排水門の開門を求めて起こした裁判で、福岡高裁は2010年12月、一定の因果関係を認め、3年の猶予後に5年間の開門調査を行なうよう国に命じ、当時の民主党政権は上告せず、確定した。

だが営農者らは開門に「絶対反対」だ。潮受堤防内の調整池の農業用水が開門すれば使えなくなる。営農者らの反対を理由に農水省は代替水源の海水淡水化施設造成など準備工事を3年間実施せず、開門しなかった。

納得のいかない漁業者らは農水省に制裁金の支払いを求める裁判を起こし、福岡高裁は昨年6月、開門されるまで一人につき一日あたり1万円(計45万円)を漁業者らに支払うよう同省に命じた。これまでの総額は約一億円。漁業者は開門をより強く求めるため、昨年12月15日、制裁金を1日1億円に増額するよう佐賀地裁に申し立てた。

他方、営農者らが開門禁止を訴えた裁判では、長崎地裁は「準備工事の計画が不十分」であるとして13年11月、開門禁止の仮処分を決定した。営農者らも開門した場合の「制裁金」を申し立て、福岡高裁は昨年7月、これを認めた。

抗告が棄却された翌23日、西川公也農水大臣は「一連の訴訟で最高裁の統一的な判断を得る必要がある」と発言。福岡高裁や長崎地裁で争われている開門と開門禁止を求める他の訴訟でも、制裁金を払い続け、最高裁まで争う構えだ。漁業者らと農水省との2月3日の交渉で、漁業者側は「制裁金の支出総額はいくらを想定しているのか」と質問。農水省は「予断を持っては言えない」とのみ答えた。最高裁判断を待つ理由を農水省は、「二つの相反する義務の間で身動きが取れない」からだと説明する。

しかし、漁業者側弁護団は、「農業に被害が出ないよう対策した上で開門し、被害が出なければ開門を禁じた長崎地裁の仮処分の前提が崩れるので、仮処分決定後の事情変更として開門しても制裁金を支払う必要はなくなる」と主張する。

だが、営農者側の山下俊夫弁護団長は、「法律の理屈の上ではその通りだが、開門を差し止めた長崎地裁の仮処分は農水省の対策工事が事実上不可能という前提がある。代替水源の海水淡水化施設は民有地を使う計画だが、地権者は開門反対で農水省の対策工事は実現性がない。施設が機能するのかどうか、実効性もない」などと反論。

漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は、「国の案が実行不可能なら、開門反対の人たちは被害を防止するために、どういう案なら納得できるのか意見を言うべき」として、「その話し合いを裁判所の三者(漁民・農民・農水省)協議で行なうべきだ」と述べた。

制裁金を払っても漁民と農民を分断し続ける国の責任は重い。

(永尾俊彦・ルポライター、2月6日号)

『21世紀の資本』著者トマ・ピケティ教授講演――「世界的累進資産課税は可能」

東京・日仏会館で講演するトマ・ピケティ教授。(2015年1月30日、撮影/赤岩友香)

東京・日仏会館で講演するトマ・ピケティ教授。(2015年1月30日、撮影/赤岩友香)

資本主義経済が進むと格差は拡大しつづける――。欧米を中心に数百年の税務統計を分析し、格差拡大の解消への提言を行なったトマ・ピケティ教授(パリ経済学校)の『21世紀の資本』。世界各国で翻訳され、「ピケティ現象」を巻き起こしている。

そんな中、1月29日に来日したピケティ教授は30日、東京・日仏会館で「格差・税制・経済成長 『21世紀の資本』の射程を問う」と題する討論会を行なった。主催は(公財)日仏会館と日仏会館フランス事務所。

ピケティ教授は、欧米のデータを用いながら、「米国は1920年代よりも現在の方が富の集中が高い水準で、上位4%の人に集中している」と語った。80年代、「日本やドイツに抜かれるのではないか」という危機感を持ったレーガン政権が富裕層への所得税率を下げるなどしたことから、格差が拡大してきたと指摘。「レーガン政権の選択は正しくなかった。あまりに不平等だとイノベーション(変革)に役立たない」と批判した。欧州でも経済格差は拡大しているものの、米国ほどではなく、日本の格差は米国と欧州の中間ぐらいであると解説。また、資産の世襲の割合は米国よりも日本や欧州の方が高いと説明した。

経済学の橘木俊詔・京都大学名誉教授も、「先進国で貧困率が一番高いのは17%の米国で、日本は世界2番目の貧困大国。15%の人が貧困にあえいでいる不平等な国」だと述べた。「格差はお金だけでなくアイデンティティも失う」と述べたピケティ教授。格差拡大への解決策としてはさまざまな再分配の形があるが、ピケティ教授は累進税を強化し再分配を進めるべきだと主張した。

【安倍首相は導入に否定的】

また、橘木教授が「日本は福祉を家庭に押し付けてきたが、今後は北欧のような福祉国家を目指して消費税率を25~30%にしていくべきだと思うか」と質問したのに対し、ピケティ教授は「消費税率を上げることには反対」と回答。日本の税制については「高齢者と若い人の世代間のリバランス(再均衡)をすることが大切」「若い世代は相続資産がなければ、労働所得がなく賃金も上がらない。財産形成をすることができない」とした。

日本ではピケティ教授がアベノミクスを評価しているのか否かという議論がある。日本の格差社会の現場を取材しつづけ、『ピケティ入門』(小社刊)を執筆したジャーナリストの竹信三恵子さんは、「安倍首相やアベノミクス支持派はピケティが経済成長を否定しないことで評価されたと強弁しているが、その主張の重点は成長ではなく、成長の成果を再分配する仕組みの強化だ。焦点ずらしの曲解による世論誘導は不誠実」と語る。

『21世紀の資本』では、世界的に広がる経済格差を解消するため、富裕層への資産に対して国を超えた「世界的累進資産課税」の導入を提案している。この主張について、安倍晋三首相は1月28日、参議院本会議で「導入にあたって執行面で難しい」と述べた。討論会でも会場から、「『世界的累進資産課税』への導入は実現可能だと思うのか」という質問が上がったが、ピケティ教授は「実現可能」であると言い切り、「不動産には財産税がかけられているが、なぜ金融資産にはかけられないのか。税金は数百年以上前に導入されたが、当時の資産は不動産だった。それを変えてこなかった」と、世界的に金融の透明性を高めていくことが必要だと語った。

13年8月の『21世紀の資本』発刊以降、国内外で「資本主義経済」に関する議論が活発化している。この格差をいかに縮小していくかが、各国の首脳のみならず、私たちにも問われている。

(赤岩友香・編集部、2月6日号)