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福島の子ども、「甲状腺がん/がんの疑い」が新たに4人――健康調査そのものにも課題

甲状腺検査の結果を報告する「県民健康調査」検討委員会=12月25日。(撮影/藍原寛子)

甲状腺検査の結果を報告する「県民健康調査」検討委員会=12月25日。(撮影/藍原寛子)

東日本大震災発生時の2011年3月に0歳から18歳だった福島県民を対象とする甲状腺検査で、昨年10月までの先行検査(1巡目)で「異常なし」とされた4人が、その後の本格検査(2巡目、継続中)で新たに「甲状腺がん/がんの疑い」と診断されたことが昨年12月25日、「県民健康調査」検討委員会(星北斗座長)で報告された。伊達・田村・福島の3市と大熊町から一人ずつ、1巡目の結果と合計して112人になる。

検査・診断に当たった鈴木眞一教授(福島県立医科大学)は、「(1巡目の検査で)見落としはなかったことは画像で確認した。引き続き慎重に調べる」と述べた。となると、前回の検査から短期間に発症した疑いがある。同検討会や鈴木教授らが「甲状腺がんの進行は遅い」としてきた説明も揺らぐ。星座長は「断定的には言えないが、放射線の影響は考えにくい」と前回と同様の回答を繰り返した。

健康調査そのものにも課題が残る。甲状腺嚢胞・結節・腫瘍のみに特化し、機能亢進症や機能低下症などの機能障害の患者が統計に上がってこない。世界の被ばく地で放射能の影響とされる白血病や悪性リンパ腫などについても同様で、全身症状を調べ、予防や早期発見・治療につなげる医療政策が欠落している。結果的に県民が検査の利益を実感できない“アリバイ検査”になる危険性を孕む。

県民205万人を対象にした「基本調査」(行動範囲や飲食物などで被ばく推計を弾き出す調査)の回答率は、震災後の行政不信もあいまって、26・9%と3割に満たない(14年10月31日現在)。

そこで事務局は、回答済みの調査票に、県民全体の線量分布の「代表性」があるかどうかを新たに調べるという“奇策”を打ち出した。これが将来、全県民の健康状態の把握をしない理由になるならば、調査の意義を根幹から否定するような愚策ではないか。

(藍原寛子・ジャーナリスト、1月16日号)

米国で「慰安婦」めぐり日本の“右派”が集会――退役軍人の団体などは抗議

日本の“右派”団体による「慰安婦」集会に抗議する米国の市民団体。(提供/スティーブ・ゼルツァー)

日本の“右派”団体による「慰安婦」集会に抗議する米国の市民団体。(提供/スティーブ・ゼルツァー)

日本軍「慰安婦」は戦時売春婦である――などと主張する山本優美子氏(なでしこアクション)ら日本の“右派”活動グループは昨年12月、米国カリフォルニア州の2カ所で「慰安婦問題に終止符を!」をテーマに集会を開いた。だが、サンフランシスコ近郊の会場では現地の平和・人権団体による集会への抗議デモが実施された。

「反核行動委員会」や「平和を求める退役軍人の会」といった市民団体が中心で、筆者が関わる「脱植民地化を目指す日米フェミニストネットワーク(FeND)」を含めた複数の団体も賛同した。

米国の平和団体はなぜこの問題に関心を寄せるのか。反核行動委員会のスティーブ・ゼルツァー氏は、「安倍政権は米国の後押しを受けて軍国主義化を進めている」と語り、「過去の戦争の歴史を書き換えることは、新たな戦争をはじめる第一歩だ」と警鐘を鳴らす。

平和を求める退役軍人の会のマイケル・ウォン氏はそれに続き、日本が第二次世界大戦における戦争犯罪を否認することは、それ自体が不当であるだけでなく、アジアにおける国際的な緊張を高めることになる、と指摘する。

デモの実施についてはインターネットで事前告知があり、山本氏らも警戒していたようだ。「しかし、参加者の多くが白人だったことには山本氏らも驚いたようだった」と、ゼルツァー氏は言う。「かれらは抗議に来るのは韓国人だと思っていたようだが、この問題を日本と韓国のあいだの外交問題としてのみ考えるのは間違いだ」。

ウォン氏は、日本の読者に伝えてほしい、として次のように発言した。「いまの日本は素晴らしい国だ。戦後の日本は戦争をせずに繁栄と地位を得ることに成功した。なぜ軍国主義化する必要がある?山本氏らは日本の名誉のために戦っているつもりかもしれないが、かれらの行動はせっかく高まっている日本の評判を落とすだけだ」。

(小山エミ・FeND共同呼びかけ人、1月16日号)

日本軍「慰安婦」問題で元『朝日』記者の植村氏――『週刊文春』と西岡氏を提訴

都内の司法記者クラブで会見に臨む元『朝日』記者の植村隆氏=1月9日。(撮影/長谷川綾)

都内の司法記者クラブで会見に臨む元『朝日』記者の植村隆氏=1月9日。(撮影/長谷川綾)

「慰安婦」問題の記事を書いた元『朝日新聞』記者の北星学園大学非常勤講師、植村隆氏(56歳)が1月9日、記事を「捏造」と批判した西岡力・東京基督教大学教授と『週刊文春』を発行する(株)文藝春秋を相手取り、名誉毀損で計1650万円の支払いなどを求める訴えを東京地裁に起こした。

訴状によると、植村氏は1991年、韓国の元「慰安婦」の証言を記事化。西岡氏はこれを週刊誌などで、(1)女子挺身隊が「慰安婦」であるかのように書いた(2)元「慰安婦」がキーセン(妓生)の育成学校に通った事実を隠した(3)植村氏の妻の母親は元「慰安婦」が日本政府に戦後補償を求めた裁判の支援者で記事は裁判を有利にするために書いた、などと批判した。

植村氏は、(1)当時の韓国で女子挺身隊は「慰安婦」を指し、元「慰安婦」も自身を「挺身隊」と呼んでいた(2)キーセンは芸者であり学校に通った経歴と「慰安婦」にされたことは関係がない(3)義母の裁判と無関係なことは『朝日』の第三者委員会も認めた、などと反論。『文春』昨年2月6日号で西岡氏が「捏造」とコメント後、教授職に内定していた神戸松蔭女子学院大学へ抗議が殺到して破談、北星大には「爆破する」との脅迫状がきたほか、高校生の長女がネット上で写真を晒され「自殺に追い込む」と書き込まれるなど、「言論テロ」とも言える人権侵害を受けていると主張した。

会見で、植村氏は長女への攻撃について「白いシーツに黒い染みがどんどん広がっていくようで、つらかった」と述べた。170人の弁護団の一員である小林節・慶應義塾大学名誉教授は「完璧な人間などいない。不完全な人間が走りながら、向こう傷を背負いながら記事を書いている。大きな議論を」と訴えた。新崎盛吾・新聞労連委員長は「表現の自由を守るため、こうした人権侵害は絶対に認められない」と強調した。

(長谷川綾・『北海道新聞』記者、1月16日号)

ろくでなし子さんに起訴状届く――わいせつの根拠は?

本誌先週号(1月9日号)で報じたとおり、昨年12月24日に起訴され、26日に保釈された芸術家のろくでなし子さん。年が変わった2015年1月6日に東京地方検察庁から起訴状が届いた。

起訴状は別表2枚を含んだA4サイズの計4枚。罪名は、(1)わいせつ物陳列(2)わいせつ電磁的記録等送信頒布(3)わいせつ電磁的記録記録媒体頒布の三つが挙げられている。起訴状には「わいせつ」という言葉が8回出てくるが、ろくでなし子さんは本誌に対し、「起訴状は私の作品やデータが『わいせつ』だということが前提となっている。どうやって『わいせつ』だということを決めたのか。根拠などはまったく書かれていないが、検察の主観で『わいせつ』だと決めつけているに違いない。恐ろしいことだと思う」と語った。

また、「不特定多数の者に対し、自己の女性器の三次元形状データファイルをインターネットを利用して頒布しようと考え」(起訴状)とあるが、不特定多数ではなく、ろくでなし子さんの活動に賛同し、寄付金を提供した人に送ったものだ。詳しい経緯については、本誌で連載した、ろくでなし子さんの漫画で描かれている。

ろくでなし子さんの弁護団の須見健矢弁護士は「こんなことで刑事裁判になるなんて、と思うが、裁判となったからには、全力で無罪判決を勝ち取りに行きます」と決意を述べた。

初公判は2月以降になる見込みだが、ろくでなし子さんは「多くの人に傍聴してほしい」と希望している。昨年12月22日に開かれた、ろくでなし子さんの勾留理由開示公判では、一般傍聴席24席に対し、100人以上の傍聴希望者が東京地裁を訪れた。今後の裁判も注目を集めるだろう。

なお、今後の裁判の模様についても、ろくでなし子さん自身が漫画にし、本誌で不定期連載する予定だ。

(本誌取材班、1月16日号)

「表現の自由」問う企画展、市民らが開催

題字はいちむらみさこ氏の木版画。(提供/実行委)

題字はいちむらみさこ氏の木版画。(提供/実行委)

「表現の自由」問う企画展、市民らが開催

「表現の不自由展~消されたものたち~」と題する企画展が1月18日から東京都内のギャラリー古藤(練馬区栄町9-16)で開催される。企画趣旨によると、集められた作品は絵画・彫刻・写真・映画・テレビ番組・文芸などで、過去に展示中止・掲載拒否・作品撤去されたり、検閲・自粛されたりした。2012年に東京・新宿ニコンサロンで旧日本軍「慰安婦」被害女性の写真展が中止され、現在、理由を明らかにするため係争中の安世鴻氏、来日する《少女像》の作家ら6人の作品展示、映画上映やトークイベントを行なう。

実行委の岡本有佳共同代表は「天皇制や戦争(加害)責任を問う作品はこれまでもタブー視されることがあった。さらにここ1~2年は表現の自由を侵害する範囲が拡がっている」と指摘する。「3・11以降は原発、原爆、憲法9条まで。第2次安倍政権の発足やヘイト・スピーチ(差別煽動表現)といったレイシズムの台頭も足並みを揃えている」と言う。会場で販売予定の図録には年表があり、1960年代から今年に至るまで、「表現の自由(場)」が加速度的に制限されていく様子が見てとれる。

2月1日までの企画展は入場料500円。大学・高校生、障がいのある方は300円。中学生以下は無料。問合せはMail hyogenfujiyuten@gmail.com。
詳細はURL https://www.facebook.com/hyogennofujiyuで。

(内原英聡・編集部、1月16日号)

 

JRリニア計画に反対!5048通の申立て書

国交省職員に異議申立て書を手渡す市民団体メンバー(左)。(写真/樫田秀樹)

国交省職員に異議申立て書を手渡す市民団体メンバー(左)。(写真/樫田秀樹)

昨年10月17日、国土交通省はJR東海のリニア中央新幹線計画を認可した。これにより、2027年には東京から名古屋までを40分で結ぶリニアが着工されることになる。

だが、認可直後から、この計画に反対する10の市民団体が加盟する「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」は、「JR東海の杜$な環境アセスを認める事業認可は取り消すべき」との趣旨の異議申立て書を国民から集めることに奔走。12月16日、国土交通省鉄道局に対して5048通の異議申立て書を提出した。

ネットワークの天野捷一共同代表は、「5000通以上とは予想外でした」と、リニア計画が招く環境破壊や地域分断への危機意識の高さに驚いた。

一方、異議申立て書を受け取った国交省は、「申立て人はリニア沿線住民に限定される。誰が沿線住民かを判断するのはJR東海」との見解を示した。この判断では、無人の南アルプスを通過するだけの静岡県では、申立て人がゼロにされる可能性もある。

5048人のうち、国交省への口頭意見陳述を望む人は数百人にのぼると見られ、手続きは長期化しそうだ。ただ、国交省が事業取り消しをする可能性は未知数であり、ネットワークは、行政訴訟の可能性を模索。今月中旬、原告志願者を募り、合宿を行なうという。

(樫田秀樹・ジャーナリスト、1月9日号)

住民らは最高裁で争う方針――携帯電波で不調訴え

健康被害を多発させている小林市内のドコモ基地局。電磁波の影響が疑われる。(撮影/加藤やすこ)

健康被害を多発させている小林市内のドコモ基地局。電磁波の影響が疑われる。(撮影/加藤やすこ)

福岡高等裁判所宮崎支部は昨年12月5日、KDDI株式会社(田中孝司社長)が設置する基地局の操業停止を求めていた住民の控訴を、棄却する判決を下した。

宮崎県延岡市内で2006年に同基地局が建ってから、周辺の住民には耳鳴りや頭痛、睡眠障害などの健康被害が発生。住民30人は09年に提訴したが、稼働後に健康被害が多発したことは認められたものの、電磁波との因果関係は認められなかった。

控訴審で原告側は、九州大学の吉富邦明教授(環境電磁工学)に測定を依頼し、被曝によって耳鳴りが起きると世界保健機関も認めた「マイクロ波ヒアリング効果」が発生しうるレベルだと主張した。

住民の症状は同効果と酷似するが、裁判所は、基地局の電波で同じ効果が起きるという公的見解がなく、影響が発生していると認めるのは困難と判断。原告側が複数の科学的・医学的な証拠を示したにもかかわらず、詳細に検討しないまま控訴人らの「立証は不十分」と結論づけた。原告住民は12月19日、最高裁に上告した。

一方、同県の小林市では「携帯電話等中継基地局の設置又は改造に係る紛争の予防と調整に関わる条例」が昨年12月に市議会で可決された。基地局を新設・改造する際は住民への事前説明や、予定地周辺に計画概要を記した標識を設置することなどを求めるもので、今年4月から施行される。

同市では、基地局に近い保育園で鼻血を出す園児が増え、健康面への不安が高まっていた(本誌14年9月19日号で既報)。住民は「電磁波問題を考える小林市民の会」を結成し、昨年3月、約2400筆の署名とともに市へ条例制定を陳情した。同会の住民は「条例が制定され安心。健康被害を解決する第一歩を踏み出せた」と喜んでいる。

(加藤やすこ・環境ジャーナリスト、1月9日号)

ろくでなし子さんが起訴されるも保釈――裁判で問われる「まんこ観」

「まんこちゃん」を並べ保釈会見に臨むろくでなし子さん(右)。(撮影/本誌取材班)

「まんこちゃん」を並べ保釈会見に臨むろくでなし子さん(右)。(撮影/本誌取材班)

「今後の裁判で日本のまんこに対する認識、まんこ観のおかしさが浮き彫りになっていくと思います」

こう語るのは、昨年7月に自身が逮捕されたときの模様を小誌で漫画連載していた芸術家のろくでなし子さん。連載掲載中の昨年12月3日、わいせつ物の陳列及びわいせつ電磁的記録の頒布を理由として再度逮捕された。東京地検は24日、ろくでなし子さんを起訴。その後、弁護団の保釈請求を受け、東京地裁は26日に保釈を認めた(保釈保証金は150万円)。

保釈当日に東京都内で開かれた会見で、ろくでなし子さんは「逮捕は2回目だったので、前回のように不安はなく、逆に怒りのほうが強かったです。私は絶対、(自分の作品を)わいせつだとは思っていませんので、勾留がどんなに長引いても闘い続けるつもりでした」と語った。

昨年7月の1回目の逮捕の際は勾留中に100件に1件程度の割合と言われる準抗告が認められたろくでなし子さん。逃亡の恐れがないにもかかわらず、2回目の逮捕では同じような罪状で20日以上も勾留された。その理由を明らかにするため、ろくでなし子さんの弁護団の請求によって、勾留理由開示公判(安藤範樹裁判官)が12月22日に開かれた。

同公判における、ろくでなし子さんの意見陳述書の中には、「私は自分の体の一部にすぎない『まんこ』が何故日本では悪いもの、汚らわしいものとして嫌われ、『まんこ』という三文字を口にするだけでも怒られたりおそれられたりするのか疑問に思い、この活動をしてきました」という文章がある。公判に出廷した彼女が「まんこ」と読み上げただけで、裁判官が「呼び方を変えてください」と指示。弁護団の山口貴士弁護士が意見陳述の制限に異議を述べたが却下された。それでも、ろくでなし子さんが「まんこ」という言葉を口にしつづけると、裁判官は「それ以上続けると意見陳述を制限します」と告げた。最終的には、ろくでなし子さんが「性器」と言い換え、意見陳述書を最後まで読んだ。

東京地裁は勾留理由について「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由」「逃亡すると疑うに足りる相当の理由」などを挙げた。しかし、ろくでなし子さんは「逃亡のおそれとありますが、私はむしろ私の作品がわいせつではないことを裁判で堂々と証明したいのです。逃亡する気など更々ありません」(意見陳述書)と主張した。

【起訴の対象は三つ】

今後の裁判はどうなっていくのか。初公判は2月以降に開かれる見込みだ。「わいせつ」だとされている対象は、(1)ろくでなし子さんの性器の3Dデータ、(2)ろくでなし子さんが数多く作ったデコまん(まんこの型をデコレーションした)のうち、チョコレートケーキ風にしたもの、(3)ろくでなし子さんが開催したワークショップに参加した女性が同じく自らの性器をかたどって制作した作品――の三つである。山口弁護士は「わいせつの概念は時代によって変化する」とし、学者や芸術家の意見書などを証拠提出していく予定だ。

なお、彼女がクラウドファンディング(インターネット上で寄付金を募る仕組み)を通じて作った「マンボート」をはじめとする作品などを掲載した単行本を小社から刊行する予定だ。弁護団の須見健矢弁護士は「作品を見ないでわいせつだとか、わいせつではないという議論がなされている気がするので、ぜひ世間の方々に彼女の作品を広く知ってほしい」と言う。

ろくでなし子さんの小誌での連載漫画は警察など公権力のおかしさを「笑い」で表現した。それが2回目の“嫌がらせ”逮捕につながった可能性もある。しかし、ろくでなし子さんはこう語る。「笑いにつなげるのは私のやり方。今後もこの闘い方を貫いていきたい」。

ろくでなし子さんの弁護費用のカンパ先は次の通り。

郵貯14100―56560871 ロクデナシコシエンベンゴダン

ゆうちょ銀行 四一八支店 普通 5656087 ロクデナシコシエンベンゴダン

(本誌取材班、1月9日号)

旧日本軍の戦後処理、日中で初の民間協力――毒ガス被害に支援基金設立

日中戦争時、旧日本軍が中国に遺棄した毒ガス兵器で現在も中国の市民に被害が続く中、日中間で民間の被害者支援基金が初めて設立される。戦後70年の日中関係の改善にも意味を持ちそうだ。

日本は、化学兵器禁止条約を批准し(1995年)、遺棄した化学兵器を廃棄(無害化処理)する義務を負っている。日中間で覚書を締結し(99年)、化学兵器を廃棄するための遺棄化学兵器処理事業を開始。昨年度は200億円を超える予算で神戸製鋼が一手に処理を請け負っている。ところが、被害の問題については所管する部署すらおかれず、まったくの放置状態にある。

被害を受けた中国市民たちが原告となり東京地方裁判所に提訴したのが19年前の96年。裁判の間も被害防止措置は行なわれず、2003年には新たな大事故が起こり(チチハル事件、一人死亡43人重傷)、翌年04年にも男児二人が被害に遭い(敦化事件)、いずれの事件も裁判が起こされた。

この二つの事件が14年10月28日に最高裁で棄却され、毒ガス被害の法的責任は認められなかった。しかし、被害が深刻であること、日本軍が毒ガスを製造・使用し、中国大陸に遺棄し、被害の原因をつくった事実は認定した。法的責任を認め、政府に被害救済施策の実現を求めた判決もあった。

毒ガスは皮膚の糜爛だけでなく、呼吸器などの内臓や神経に深刻な被害を及ぼす。チチハル事件では被害者の一人は事故後数日で亡くなり、裁判中に二人死亡した。身体的な被害のため、就職困難となり経済的にも困窮、人間関係まで破壊される。子どもは学校や名前を変えるなど通常の生活が送れないケースも多い。被害者たちは今、まともな医療も受けず最低限の生活もできないまま深刻な被害と不安に苦しんでおり、被害の放置は一刻も許されない。他方、日本政府は被害者支援に動こうとしない。

そこで、毒ガス被害弁護団連絡会議は、民間で被害救済基金を立ち上げて医療支援に着手し、同時に本来責任を果たすべき日本政府にさらに強く政治決断を求めていくことにした。また、中国の人権発展基金会と数年にわたる協議の上、昨年10月28日に「毒ガス被害者支援平和基金」を設立することで合意した。

(荒川美智代・撫順の奇蹟を受け継ぐ会、1月9日号)

汚染対策は見切り発車、後世に残る“粗大ゴミ”も!?――生活を圧迫する“東京五輪”

除染工事前と同様に水溜まりがある。坂巻幸雄氏は「水管理が不徹底。残った土壌の汚れが水で拡がる危険性もある」と指摘する=1月2日の豊洲。(撮影/永尾俊彦)

除染工事前と同様に水溜まりがある。坂巻幸雄氏は「水管理が不徹底。残った土壌の汚れが水で拡がる危険性もある」と指摘する=1月2日の豊洲。(撮影/永尾俊彦)

2020年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)だが、性急にすぎる整備事業が人々の生活を圧迫しつつある。

東京都は、豊洲新市場(江東区)の土壌汚染対策工事の完了を受けて昨年12月17日、新市場建設協議会を開き、豊洲の開場時期を「2016年11月上旬としたい」と提案、築地市場(中央区)から引っ越す大卸や仲卸などの代表は合意した。五輪の開催年にあわせて環状2号線を築地市場の跡地に通す計画になっており、17年4月までに更地にしなければならず、そこから逆算した日程だ。

だが、傍聴した日本環境学会の坂巻幸雄さんは、「関係者にとっては刑の執行日の宣告と同じで、『合意』というよりも『不承不承』に近い。五輪が汚染市場を生んだと知ったら、国際世論はどう反応するのだろうか」と疑問を呈する。

土壌汚染対策法では、対策工事完了後、2年間の地下水質モニタリングを定めている。この調査で特定有害物質の含有量が基準値以下であることを確認しなければ、同法の指定区域を解除できない。

13年3月、塚本直之市場長(当時)は、都議会予算特別委員会で「2年間のモニタリングを実施した上で指定を解除する」と述べた。豊洲には以前、東京ガスの工場があり、これに由来するベンゼンやシアン化合物などが検出されている。塚本氏の答弁は本件についてのものだったが、今後のモニタリングで基準値以上の有害物質が検出された場合、指定区域が解除されないまま開場されることになる。

都の井川武史課長(新市場整備部)にこの点を質問すると、「塚本元市場長は2年間のモニタリングが開場の条件とは言っていません。また、指定解除を目指すスタンスは変わっていません。昨年(14年)11月からモニタリングは始めているので、16年11月開場には間に合います」と答えた。しかし、この問題を追及する一級建築士の水谷和子さんは、「都は汚染が検出された場合の指定解除のための対策を予定していません。それなのに『指定解除を目指す』というのは、とんでもないインチキ」と批判する。

【迷走する新国立競技場】

五輪の主会場となる新国立競技場も計画が迷走している。当初は総工費が最大3000億円と試算されたが、著名な建築家や市民団体から「景観を破壊する」など批判が相次ぎ、高さを75mから70mに抑え、面積も約2割縮小した。それでも、約1625億円かかる。予算は国費で賄われるが、政府は都にも負担を求めている。

事業主体の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は、国立競技場を改修すれば約777億円で済むとの試算を出していた。だが、陸上競技で世界標準の9レーン(現状は8レーン)へ改修できないなどと不明瞭な理由で、JSCは新設の姿勢を崩さない。

建築家の磯崎新氏は、コンペで選ばれたザハ氏の本来のデザインを損なう現行案で建築された場合、「将来の東京は巨大な『粗大ゴミ』を抱え込む」と憂慮している。

この計画に伴い、近隣の生活者にも負担がのしかかる。都営霞ヶ丘アパートの立ち退き問題では、都は住民に事前相談なく、同アパートの立地を「関連敷地」と設定。昨年11月に住民説明会を開き、(1)15年10月頃に部屋割り抽選会を実施、(2)16年1月頃に都が用意した別の都営団地へ引っ越す――といったスケジュールを通告した。

50年代から同アパートに住む女性は、「ここは高齢者が多く、引っ越し自体がストレスになります。『移転しろ、というならここで焼き殺してくれ』とまで言う住民もいます」と憤る。舛添要一知事は昨年12月2日の会見で、「すべての人を100%満足させることはできないので、何らかの妥協はどこかでやっていただく」と述べた。

都が主体となる新国立競技場以外の建設費では、立候補段階の1538億円から現在は2576億円(昨年11月19日の都発表)と、1038億円も額が増えている。

華やかな五輪の底には、人々に犠牲を強いる構造が横たわる。

(永尾俊彦・ルポライター、1月9日号)