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在日朝鮮人女性が在特会を提訴――“複合差別”を指摘

第一回口頭弁論後に開かれた支援集会で決意を述べる李信恵さん=10月7日。(撮影/平野次郎)

第一回口頭弁論後に開かれた支援集会で決意を述べる李信恵さん=10月7日。(撮影/平野次郎)

ヘイト・スピーチ(差別煽動表現)で精神的苦痛を受けたとして、在日朝鮮人でライターの李信恵さん(43歳)が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と同会の桜井誠(本名・高田誠)会長に対して550万円の損害賠償を求めた訴訟の第一回口頭弁論が、10月7日、大阪地裁で開かれた。被告側は欠席のまま、原告の代理人が訴状を読み上げた。

訴状によると、桜井会長は昨年1月から今年7月、神戸市内で街頭宣伝中に李さんの面前で「朝鮮人のババア」と発言したほか、インターネット上で「不逞鮮人」などの書き込みを繰り返した。これらの行為は李さんへの名誉毀損、侮辱、脅迫、業務妨害だけでなく、「在日朝鮮人」に対する人種差別に当たるとしている。

ヘイト・スピーチをめぐって個人が在特会などを相手に提訴するのは本件が初めて。法人や団体が名誉毀損などで在特会の違法性を訴えた裁判としては、今年7月の大阪高裁判決で原告の京都朝鮮第一初級学校(現、京都朝鮮初級学校)が勝訴した。だが、被害者が不特定多数の場合はその個人が特定されない限り、現行法で裁判に訴えることが難しい。このため、今回は李さんが「不特定多数」を代表して提訴に踏み切った。

また、本件は原告が女性であることから、性差別をともなう“複合差別”であることも注目される。弁護団によると、ネットでは李さんの容姿を揶揄するものが多いと言う。

閉廷後は「李信恵さんの裁判を支える会」の発足を兼ねた支援集会が開かれ、約130人の支援者らが「京都朝鮮初級学校の裁判に続こう」「女性一人を矢面に立たせることはしない」と激励した。

在特会とは別に「保守速報」(インターネット・サイト)運営者に2200万円の損害賠償を求めた訴訟は、10月30日に第一回口頭弁論が行なわれる。

(平野次郎・フリーライター、10月17日号)

大阪・泉南地方の石綿被害めぐる裁判――最高裁が国の責任認める判決

厚生労働省の担当者と大臣の謝罪などを求めて交渉する原告=10月9日。(撮影/永尾俊彦)

厚生労働省の担当者と大臣の謝罪などを求めて交渉する原告=10月9日。(撮影/永尾俊彦)

大阪南部・泉南地方の石綿工場の元労働者ら89人が石綿の危険性を知りながら対策を怠った国に損害賠償を求めた裁判で、最高裁第一小法廷(白木勇裁判長)は10月9日、排気装置の義務付けが遅すぎたとして、石綿被害では最高裁として初めて国の責任を認めた。

原告は一陣34人、二陣55人。一陣高裁は敗訴、二陣高裁は勝訴と分かれていたが、最高裁判決で二陣は約3億3200万円の賠償額が確定、一陣は賠償額算定のため、高裁に差し戻された。

他方で、排気装置が義務付けられた1971年以降に就労した労働者の遺族原告7人への賠償は認めず、工場に隣接する社宅に住んでいた労働者の家族や石綿工場の近隣住民の訴えは門前払いにした。

元看護師の岡田陽子さん(58歳)は、親が働く石綿工場隣の社宅に住んでいたが、今は石綿肺に苦しむ。「石綿は労働者もその家族も区別しません。表に出てこない労働者家族の被害者もたくさんいます」と語った。

南寛三さんは、石綿工場の隣の畑で農作業をしている際に石綿の粉塵を吸い、20年以上も石綿肺で苦しみ抜いて91歳で死去した。長女の和子さん(71歳)は、「労働者と住民をなぜ線引きするのか。近隣暴露も救済されるよう政治解決を求めます」と話した。

原告らは、同日夜から10日にかけて塩崎恭久厚生労働大臣の謝罪などを求めて断続的に交渉を続けたが、同省は「判決を精査して検討する」として15日に回答することになった。交渉後、小林洋司大臣官房総務課長は、「一陣は大阪高裁に差し戻され、形式としては訴訟は継続中。係争中の相手とは会わないのが不文律」と語った。

原告側の鎌田幸夫弁護士は、「厚労省から、最高裁の判決直後に勝訴が確定した二陣原告に賠償金を支払いたいとの連絡がありました。お金だけ払って済まそうということなのでしょう」と推測した。

(永尾俊彦・ルポライター、10月17日号)

「大きい津波」の可能性も東電元幹部は事前に把握か――勝俣氏について語る吉田調書

勝俣恒久元東電会長は事実を話しているのか。(撮影/畠山理仁)

勝俣恒久元東電会長は事実を話しているのか。(撮影/畠山理仁)

東京電力(東電)福島第一原発事故を起こす要因の一つとなったのは東京電力の対策を超える津波だった。事故時に東電会長だった勝俣恒久氏は当時、想定された高さを超える津波が来る可能性について知らなかったとしていたが、これが嘘である可能性が高いことが吉田昌郎所長(当時、2013年死去)の調書(以下、吉田調書)から明らかになった。勝俣氏ら東電元幹部3人に対しては今年7月、検察審査会が「起訴すべき」(起訴相当)と議決し、東京地検が再捜査している。勝俣氏の「嘘」は今後、波紋を広げそうだ。

吉田調書は、政府事故調査・検証委員会が吉田氏から事故当時や事故前の状況を聴取した記録で、9月11日に公開された。吉田氏によると、2007年7月16日に東電柏崎刈羽原発を襲った中越沖地震以降、地震を極めて大きい、重要課題としてとらえるようになった。勝俣氏は当時、東電社長だった。吉田氏の証言は具体的だ。

〈社内では、地震の、特に中越沖地震の対策の会議を社長会という形で月1ぐらいの頻度で、日曜か土曜日に集まってやるというのがありまして〉〈太平洋側の場合は、いろいろ学説が今、出ておって、大きい津波が来るという学説もあります。それをベースに計算すると、今、想定している津波高の、何mと言った記憶はないんですけれども、要するに、今、5m何十cmという今の設計のベースよりも大きい津波が来る可能性が否定できない〉〈場合によっては高い津波が来れば、それなりの対策が必要です。そのときにはこの費用がそれなりに固まってくるんで、それも5億、10億という話ではなくて、かなり桁の大きいお金が来ますよということを説明した〉

質問者の〈予算発動があり得るような指摘もございますという話をされたときに、社長や会長の反応は覚えておいでですか〉という問いに吉田氏はこう答えている。

〈勝俣さんは、そうなのか、それは確率はどうなんだと。勝俣さんの場合、非常に理論的ですから、説明すると、蓋然性というか、どれぐらいなんだと、こういう話はされたと思うんですよ。多分、性格からしてもですね〉

869年(貞観11年)に貞観大地震・大津波が東北の太平洋岸を襲ったことから、福島第一原発を大津波が襲う可能性を複数の研究者が指摘していた。このことにも吉田氏は言及している。

〈貞観津波というのは、私はたしかその後で、ここで一回、社長、会長の会議でも話をしました〉

勝俣氏はこれまでどのような証言をしていたのか。2012年5月14日に開かれた国会事故調で、野村修也委員が〈津波が来てしまったときに全電源喪失になるかもしれないという知見が二〇〇六年のときに届けられているわけなんですが(略)何か対策を講じることはできたんじゃないですか〉と尋ねたのに、勝俣氏はこう答えている。〈この情報というのは(原子力)本部止まりであったということは一つの今後の課題であるかもしれません〉〈恐らく本部長のところまでで終わったんだろう〉〈結果的には私のところまでは来ていなかった〉(括弧内は筆者)

一方、福島第一原発事故をめぐって東電が巨額の損失を出したのは安全対策を怠ったためだとして、株主が現・旧経営陣を相手に約5兆5000億円を東電に賠償することを求める株主代表訴訟を起こしている。原告の株主側は、部下である東電の原子力担当従業員から対策を上回る津波が襲う危険性について勝俣氏が報告を受けていたと主張しているが、勝俣氏側は今年7月に提出した書面で〈否認乃至不知乃至争う〉(「認めない」または「しらない」または「争う」)と答弁していた。

原告側は9月25日の口頭弁論で吉田調書を書証として提出。〈「不知」又は報告が「実際上もなかった」なる認否ないし主張をすることは、それ自体嘘以外の何ものでもなく〉〈いかに無責任な認否をしているかが端的に明らか〉と反論する書面を提出した。勝俣氏は事故の責任を真摯に受け止めるべきだ。

(伊田浩之・編集部、10月17日号)

森富子教育長の性差別発言──「食事を作るのはお母さん」? PTA研修会で目が点に(瀬地山 角)

渋谷区のPTAの研修会で、女性の教育長が「(食事を)作るのはお母さんですから」と平気で発言した。ジェンダー論の立場から抗議をしたが、訂正にも後ろ向き。問題の深刻さがわかっていないとしか思えない。

子ども二人が小中学校に入り、9割以上やっていた保育所の送迎がなくなって、主な家事分担は毎日の夕食づくりくらいになった。家事育児を半分以上分担することは、私の研究上の原点でもある。毎食合格点がもらえるわけではないが、子どもには「夕食を作っていたのは父親だった」という記憶を残したいといつも思っている。

当然、学校のPTAでの役割も分担することになるのだが、私の住む東京都渋谷区の公立小中学校におけるPTAでは、集まりで私以外に男性がいるのをほとんど見たことがないのだ。

問題の研修会は6月6日金曜の午前中、渋谷区役所のホールであったもの。平日の午前中で、しかもテーマが食育。参加者は百数十人だったろうか? 予想はしていたが、ほぼ女性だけ。男性がゼロというわけではなかったが。

そこで渋谷区の教育長である森富子氏(61歳)が、「(食事を)作るのはお母さんですから」と言ってのけたので、目が点になった。子育てには食事が重要で、というお決まりの話の延長なのだが、女性が中心だったので、軽い気持ちで発言したのかもしれない。しかし教育長という要職にある人間が、保護者相手の研修会でこのような差別発言をすることは許されない。

講演が終わった瞬間に手を上げて、「『食事を作るのはお母さん』というのは、性差別発言で問題です」と指摘した。ところが森教育長の答えは「すみません、お父さんも、それからおばあちゃん。うちはおばあちゃんでした」というもの。こちらは作り手の性別を問題にしているのであって、お母さんが「おばあちゃん」になったところで何も解決しない。「ジェンダーの問題が根本的にわかってない人なのだな」と思い、頭を抱えた。

「女性を意識」するとあの発言に?

会場中が女性だから口が滑ったと、言い訳をするのかもしれない。しかしジェンダーについて意識があれば、これは絶対に言ってはならない「暴言」だ。少なくとも聴衆にごくわずか男性がいたことは見えたはずだ。私を含む彼らに「食事を作る必要はない」と伝えている。だから私は聞いた瞬間に怒りを覚えた。そして何よりも、その場にいくらかはいたであろう、不本意ながら家族の食事作りに縛られる女性に「逃げ道はない」と宣告する抑圧的なものである。そもそも自分はおばあちゃんにやってもらっておいて、なぜ「作るのはお母さん」と言えるのだろう? 小学校の校長を務め、教育長まで出世するには、「食事を作るのはお母さん」という生き方をしてきた女性ではなかったはずなのに、どうしてこんな発言が出てくるのか。

男性のこの手の発言を聞いて、悔しい気持ちを抑えてきた女性はやまほどいるはずだ。だとすれば、男性のジェンダー論研究者が批判するということに意味があるのかもしれないと考えた。そこでこの発言が渋谷区の男女共同参画行動計画に明白に反したものであることを指摘し、全PTA構成員に対して訂正をするよう文書で求めた。

返ってきた回答は、次のもの。

「研修実施の日程から、女性保護者の参加が多く、女性講師の多くが自らの体験を話すなど、対象者を意識した講演内容となっておりました。そうした中で、最終日の私の発言についても、自らの体験を語ることで、参加者のご理解を深めていただくことを意図し、先の発言となりました。

しかしながら、瀬地山氏が指摘されている『渋谷区男女共同参画行動計画(第3次)』にございます、区の取り組みの方向とはそぐわないものでございました。渋谷区の教育を担うものとして、今回の発言の重みを十分に受け止め、自戒を促すと共に、今後は、教育長として……(中略)……研鑽を積んでまいります。

最後に、今回の発言については、まずPTA役員会等を通じて経緯を説明し、訂正させていただきたいと存じます」

「対象者を意識し」ての発言というのなら、「いじめっ子対象の研修」では「いじめたくなることもあるよね」という発言も許されてしまう。つまり発言の問題性を、聴衆の属性に還元することは許されない。この発言が女性に対してこそ、抑圧的に働くということをまったく理解していないのだ。

こんな発言を仮に安倍首相がしたら、マスコミは大騒ぎになるだろう。教育長(教育委員長とは別)というのは、首長が指名し、議会の承認を経て任命される教育委員5人の互選で選ばれる。事務方とは異なり、政治任用のポストなので桑原敏武渋谷区長の任命責任に直結する。公開の場での訂正を避けようとしていることも明白である。さらに「自戒を促す」との不可解な表現には資質を疑った。

聴衆の属性を理由にした点と訂正に後ろ向きである点。この2点はやはり許せず、2通目の抗議文を送ったのだが、ここから区教委は一切の返答をよこさなくなった。そこで「東洋経済オンライン」で7月10日にこの問題を取り上げたところ、私の連載の中でも最大の20万人以上のアクセスと、「いいね!」が7800というものすごい反響があった。この時も「東洋経済」側が区教委にコメントを求めたのだが、「コメントはない」との回答。そのうちうやむやになると読んだのだろう。そもそも訂正したのかさえ連絡してこない。

ジェンダーに理解ある? 区議も意味不明な説明

そこで面会を求めるために、区議を介すことにした。ジェンダーの問題に比較的理解があるという噂を聞いた何人かの区議にアプローチした。共産党は全員無回答。一番おもしろかったのが民主党から無所属に転じた岡田マリ区議だ。

「森教育長は食育について詳しいということ、これまでの教師だった経験からとにかく子どもたちのことを一番に考えておられる方で、今回ご指摘のような発言をしてしまったようです。ご本人や同席者に確認しましたが差別を意図したり助長するような発言ではなかったようです」という回答がきた。

ジェンダーに理解のある区議と聞いていたのだが、(1)どうして「子どものことを一番に考える」と、「食事はお母さん」という発言が出てくるのか、さっぱりわからない。読んだ瞬間に吹き出した。(2)「意図して差別した」と公言する人はまずいないし、そんなことをしたらクビが飛ぶ。PTAの研修会という公の場で、重職にある人間が、男女共同参画行政では決して許されない発言をしたことをこちらは問題としており、だからこそ公開の場での訂正を求めているのだ。(1)については、文章として意味不明なので説明してほしいとメールを送ったが、返事はなかった。

複数の区議に打診したが、まともな回答をくれたのは鈴木健邦区議(民主党)のみ。森教育長への2通目の抗議文には返事すらこなかったので、鈴木区議が面会の要望を伝えてくれたのだが、「すでに回答済みで会う必要はない」という返事が事務方から返ってきた。そのことを根拠にして鈴木区議は今月末の区議会の中で質問として取り上げるとのこと。森教育長の返答を期待したい。

その後別件で森教育長とすれ違うことがあり、「なぜ会うことすら拒否なさるのか」と聞いたところ「私は性差別はしていない」とのこと。私はこれが「大した問題ではない」と思われることを一番心配している。森教育長があの発言を「性差別ではない」と認識している限り。というわけでこのバトル、いまだ「現在進行形」です。

(せちやま かく・東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はジェンダー論。著書に『お笑いジェンダー論』(勁草書房)など。9月26日号)

※瀬地山角さんによる森富子教育長のインタビューが実現しました。仰天のインタビュー記事は、10月31日発売(一部地域除く)の『週刊金曜日』10月31日号に掲載されます。

「慰安婦」問題で“悪意”の報道――教授が『文春』を告訴

「慰安婦」への聞き取り調査は失敗だったことを“自供”したと報道された韓国の安秉直ソウル大学名誉教授(78歳)が9月30日、記事を掲載した『週刊文春』(以下、『文春』)の編集人および発行人、記事を執筆した大高未貴氏と取材時に大高氏に帯同した男性O氏を相手取り、「出版物による名誉毀損罪」でソウル中央地方検察庁に告訴した。安氏によると、地検は同事件の捜査を刑事1部に割り当てた。

聞き取り調査は1990年代に韓国で行なわれたもので、安氏は調査に参加した中心人物の一人だ。大高氏は『正論』などで執筆する「フリージャーナリスト」。安氏によると、大高氏は今年1月、「慰安婦」関連の著書出版を理由に韓国で安氏と面会。安氏は「報道前提の取材」は拒否するとの意思を事前に示していたが、面会当日はO氏が「無断で」ビデオ撮影もした。

その後、『文春』4月10日号は安氏が面会時に「実質的な“調査失敗”を認めた」とする記事(大高氏執筆)を掲載した。これに対し安氏は、「私の発言の趣旨を歪曲している」と本誌で告発。本誌9月12日号で反論を展開した。だが、『文春』10月2日号は再び大高氏による類似内容の記事を掲載し、同号発売日には面会時の映像の一部を「文春デジタル」の有料サイトで安氏に許可なく公開した。

告訴状には、『文春』と大高氏が虚偽の事実を報道した点、大高氏が面会時も報道前も媒体名を明かさなかった点、「5時間にわたるインタビュー」ではなかった点などが盛り込まれた。安氏の担当弁護士は、「歴史を歪曲しようとする勢力による“悪意的な”報道だという点も勘案して捜査に当たってほしいとの趣旨も含めた」とし、「安氏の許可を得ずに映像を公開したことは、肖像権、音声権の侵害に当たる」とも話す。安氏は、映像を無断で公開されたことについても追加告訴する意向を示している。

(渡部睦美・編集部、10月17日号)

“イスラム過激派組織”に日本の若者が参加の意思――巧妙な間合いで“対テロ”法案

イラク・シリアで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」に参加しようとシリアへの渡航を企てたとして、警視庁公安部は6日、北海道大学の学生(26歳)らを任意で事情聴取し、家宅捜索を行なった。この一件は国内のみならず国外でも大きく報じられた。

チュニジアの首都・チュニス在住の建築家、ハナ・ジェニさんはニュースを知って「驚いた」と話す。彼女はスンニー派のイスラム教徒だ。「日本はイスラム国の問題とはまったく縁遠いと思っていたのでたいへんな衝撃です。彼らは単なる犯罪集団。多くのイスラム教徒も殺されている」と言う。

ジェニさんが心を痛めるのは、多くのチュニジア人の若者も同組織に参加しているからだ。その数は3000人とも言われ、他の中東諸国と比べても格段に多い。

「私と同じ小学校だった男性が一カ月前に参加しました。パリに住む知り合いの女の子も。二人とも臆病な子でした。2010年から11年にかけてのジャスミン革命(民主化運動)以後、サラフィー・ジハード主義という復古的なイスラム過激思想の影響が強まり、一部の人々を魅了し、大きな社会問題となっています」(ジェニさん)。

チュニジアは「近代化」が進み、比較的豊かなイスラム国家とされている。他方で、伝統的な宗教共同体の基盤のない若者たちの間では、あたかも自分たちのアイデンティティを呼び覚ますかのような復古調の過激思想が浸透しやすくなっているという。「保守」「伝統」といった概念への回帰傾向が指摘される日本と現状は似ている。

ただ、若者が勢いで戦地に向かうことを懸念する声は少なくない。

1990年にタイの少数民族、カレン族の解放闘争に加わったフリーター全般労働組合の渡辺修孝さんは、「後悔している」と語る。

「迫撃砲の弾補充をしたがトラウマが残り、帰国後も5年くらいは(夢の中の)爆撃の音で目が覚めることが続きました。私の時もブローカーが仲介しましたが、金儲けのために若い人を戦地に送り込む安易さに非常に腹が立ちます」

アメリカに就労ビザで滞在した98年から2年間、スカウトされてニュージャージーの州兵として勤務した大家信夫さん(仮名)も、本件についての見方は厳しい。

「戦場に入るには武器の扱いはもちろん、体力、食糧確保の技術などかなりの訓練を要します。伝え聞くかぎり、北大生の様子では足手まといにしかならない。イスラム国は軟禁して家族に送金要求するのが目的だったとしか思えない」

【報道直後の閣議決定】

「北大生」やその関係者に対する世論は厳しいものが多い。ただし、この問題は別の角度からも注視する必要がある。警視庁は刑法93条(私戦予備・陰謀の罪)を根拠に容疑をかけ、捜査を実施した。同条文が持ち出されるのは今回が初。警察の狙いについて、特定秘密保護法や共謀罪の問題に詳しい梓澤和幸弁護士はこう分析する。

「刑法93条の立法趣旨は、外交上の利益等、重大な国家的法益を保護することだと考えられる。条文にある『私的に戦闘行為をする』とは一定の戦力、武装した者が国家の命令に反して戦闘を行なうことでしょう」

同条文が想定しているのは、たとえば国連平和維持活動(PKO)で海外に派遣された自衛官が命令もないまま戦闘行為を始めてしまうようなケースだ。一個人の行動で日本の外交上の利益が著しく侵害される、というのも考えにくい。

各種メディアが学生らのことを一斉に報じた直後の10日、政府は「国際テロリスト財産凍結法案」を閣議決定し、臨時国会へ提出した。この法案は、共謀罪導入との関連で危惧する声もある。

「共謀罪の創設でいちばん問題なのは警察権限の拡大です。今回、被疑事実が曖昧なまま家宅捜索がされましたが、こういったことが今後、警察の裁量で広範囲に及ぶ可能性があります」(梓澤弁護士)

「テロ対策」で“危険な法”を成立させ、共謀罪新設法案再提出に向けた地ならしを政府が行なっている、と見ることもできよう。

(竹内一晴・ジャーナリスト、10月17日号)

国民安保法制懇が集団的自衛権行使容認の撤回を要求――「嘘と詭弁の閣議決定は無効」

「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める」報告書l要旨

「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める」報告書l要旨

平和憲法下で禁じてきた海外での武力行使を、一内閣の閣議決定(7月1日)で容認しようとする安倍政権に対して、憲法学者や元政府高官、弁護士らでつくる「国民安保法制懇」がNOを突きつける「報告書」を発表(9月29日)。歴代政権で憲法解釈を担った元内閣法制局長官は会見で「(この閣議決定は)内閣の権能を超えたものであり、無効」(大森政輔氏)と言いきった。折しも臨時国会の開会日、約2000人が国会周辺で「安倍退陣」を求めてデモを繰り広げた。

国民安保法制懇は、安倍晋三首相が恣意的に選んだメンバーによる安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)が集団的自衛権の行使を容認する「提言」(5月15日)を出したのを受け、「立憲主義の破壊だ」との危機感を共有する憲法学者らで同月末に設立された。

発足時メンバーは愛敬浩二・名古屋大学教授、青井未帆・学習院大学教授、伊勢崎賢治・東京外国語大学教授、伊藤真弁護士、大森政輔・第58代内閣法制局長官、小林節・慶應義塾大学名誉教授、長谷部恭男・早稲田大学教授、樋口陽一・東京大学名誉教授、孫崎享・元外務省国際情報局長(元防衛大学校教授)、最上敏樹・早稲田大学教授、柳澤協二・防衛省防衛研究所長(元内閣官房副長官補)の11人。その後、7月1日の安倍政権による閣議決定をめぐり検討を重ねてきた。

報告書の要旨は〈表〉(メルマガでは割愛)のとおりだが、東京・永田町の衆議院第二議員会館で開かれた発表会見にはメンバー9人が並んだ。樋口氏は「自衛権という言葉を使っているが、これは他衛権だ」とし、「他国を守るという名目で他国をめちゃくちゃにすれば、当然その報復は日本にも来る」と危険性を指摘。柳澤氏は「政府の『武力行使新3要件』にある『我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から脅かされる明白な危険』などが現実にありうるのか。かりにあれば自衛権で対処可能」とし、小林氏も「『明白な危険』とは何なのか、いくら考えてもわからない。他国が攻撃された結果として、なぜ日本、日本人の人権が根底から脅かされる事態になるのか」と疑問を呈した。

孫崎氏は「これは米国の戦争に自衛隊が使われようとしているのであって自己防衛ではない。米艦船が日本人の保護などというのはハリウッドの脚本で、嘘と詭弁で日本の根本を変えようとしている」と喝破。青井氏も「他国の防衛のための武力行使が集団的自衛権であり、『必要最小限』というのはまやかし。個別的自衛権に踏みとどまってきた憲法9条が紙切れになる」と危惧した。元内閣法制局長官の大森氏は「昭和29年7月1日、自衛隊創設に際し、9条は自国防衛のための個別的自衛権までは否定していないとされ、以後70年近くこの説明が維持されてきた。それを論理のすり替えでひっくり返した閣議決定は内閣の権能を超えたものであり、無効だ。認められない」と述べた。

(片岡伸行・編集部、10月10日号)

『文藝春秋』と塩野七生氏に――wamが公開質問状

日本軍「慰安婦」問題の実態について各国の証言・資料を収集し公開している「女たちの戦争と平和資料館」(wam)は4日、『文藝春秋』編集部と作家の塩野七生氏に対し、公開質問状を提出した。

これは同誌10月号で塩野氏が、「朝日新聞の“告白”を越えて――『慰安婦大誤報』日本の危機を回避するための提言」と題した記事中で「オランダ人の女も慰安婦にされたなどという話が広まろうものなら、日本にとっては大変なことになる」と執筆しているため。

同誌編集部に対するwam側の質問状では、旧オランダ領インドネシアで、戦時中に日本軍が現地オランダ人女性を強制的に拉致し、集団強かん・暴行した歴史的事実について説明した上で、(1)そうした事実を知らなかったのか、(2)記事掲載前に下調べをしなかったのか、(3)知っていたなら、修正もせず掲載した真意は何か――などについて回答するよう要求している。

また塩野氏に対しては、「1990年代の初めにはオランダ人の『慰安婦』被害者が名乗り出て、日本政府を訴える裁判を起こした女性もいた」事実を知っているか否かについて、回答を求めている。

一方、オランダのティマーマンス外相は3日、同国での日本メディアとの記者会見で、オランダ人女性「慰安婦」について「強制売春そのものであることに何の疑いもない」と発言。さらに「実際に経験したオランダ国民やその子孫にとっては、今なお痛みを伴う」(『朝日』5日付)と指摘した。

『朝日新聞』による吉田清治氏「証言」の報道撤回後、安倍晋三首相が「『慰安婦』を強制連行した証拠はない」「日本兵が人さらいのように『慰安婦』にしたとの記事が世界中で事実と思われている」などと述べ、自民党内でも「河野談話」撤回の動きが出ていることへの牽制だろう。「慰安婦」の史実を無視しようとする歴史修正主義者らの姿勢が問われている。

(成澤宗男・編集部、10月10日号)

宮城県気仙沼市小泉地区の巨大防潮堤計画――国が「見直し派」名簿を流出

地域住民の「合意をどう作り上げていくのか」が大事と語る竹下亘復興大臣。(撮影/横田一)

地域住民の「合意をどう作り上げていくのか」が大事と語る竹下亘復興大臣。(撮影/横田一)

「税金の無駄ではないか」と疑問視される宮城県気仙沼市小泉地区の防潮堤計画(高さ14・7メートル)で、「見直し派」の国への陳情内容(参加者リストなど)が行政機関から「推進派」に流出するという前代未聞のことが起きた。

「人の住まない農地を守るために230億円を投入」「海の景観や環境破壊を伴って復興にマイナス」などといった批判が噴出し、「NHKスペシャル」(5月30日放送)でも「費用対効果が低い」と取り上げられたことなどから全国的に注目される“復興”事業だが、村井嘉浩知事と宮城県は見直しの声に耳を傾けず、小泉地区の長老たちがまとめた“見せかけの住民合意”でゴリ押ししようとしている(本誌6月13日号で紹介)。

これに対して見直し派は、防潮堤の建設場所を陸側にずらすことで景観破壊が避けられ、事業費も少なくなる代替案「国道45号線兼用案」を提案。8月25日に防潮堤事業を所管する国土交通省と復興庁に足を運び、代替案の検討と見直しを求める陳情書を手渡した(本誌8月29日号で紹介)。

しかし、陳情に参加したメンバーの名簿が地元の推進派に流れた。全員の名刺がコピーされた文書を元に推進派の及川善賢・気仙沼市議らは9月20日、参加者の一人である小野寺久一氏(小泉浜第二区振興会長・水利組合長)に振興会長辞任を迫ったという。小野寺氏はこう振り返る。

「小泉浜第二区の住民約30名が集まっている場で及川市議は『小野寺久一会長は小泉浜第二区新興会長の肩書きの入った名刺を提示し、8月25日、国交省などに防潮堤反対の陳情をしている。会長でありながら、地区民が賛成し進めようとしている防潮堤事業に反対の運動をして事業を遅らせる原因となっている。会長の行為は職権乱用であり説明を願いたい。今回は責任を取って会長を辞任、会長の座を譲るべきである』と訴えたのです。同地区の推進派住民からは損害賠償請求を受けました。『被災者は防潮堤等の用地買収費を住宅の建築費用に考えている。防潮堤事業が遅れることにより建設資材等が高騰し、防潮堤建設事業費の負担増加になっている』というのが理由でした」(小野寺氏)

事の発端は、国交省から参加者名簿が流出したことだった。担当の同省海岸整備課はこう話す。

「陳情書や名刺を事業主体の宮城県に参考情報として提供した。これ自体は法律上問題ない。ただ、宮城県側が地元から情報公開の請求があったということで情報を出した。国交省への情報公開請求であれば個人情報は黒塗りにしただろうが、今回は宮城県が条例等に照らして出したところだ」

【ゴリ押しの現行案】

「国交省の責任はない」と開き直ったわけだが、もう一方の陳情先である復興庁も、今回の事態を徹底的に調査するつもりはないようだ。9月30日、竹下亘復興大臣に「『陳情に参加したのはけしからん。地元の団体の役職を辞めろ』という圧力がかかっている。『丁寧な住民合意が必要』と言っている復興庁の方針に反するのでは?」と筆者が訊ねると、竹下大臣は、「一番重要なことは、地域の皆様方の合意をどう作り上げていくのか。合意ができたところから復興の予算を突っ込んで対応するのが復興庁の仕事です」などと答えた。

しかし小泉地区の防潮堤計画では、強権的な圧力がかかり、現行案がゴリ押しされる現実がある。竹下大臣には事実関係を調べたり、現地調査をする考えの有無をiねたが、「徹底的に話し合ってもらうしか方法はない。復興庁が出て行って何か変わるものではない。現地調査と言ってもあらためて何かをしようという考えはない」と従来の答弁を繰り返した。

見直し派の住民は10月5日、国交省から情報提供を受けた宮城県土木事務所と8日に面談することや、及川市議ら推進派の言動も問題視することを決定。及川市議は「流出文書ではなく、『河北新報』の記事を見て辞任要求をした」と反論している。臨時国会で追及される可能性は濃厚だろう。

(横田一・ジャーナリスト、10月10日号)

秘密保護法を問う!ミュージカル公演

「廃止運動とリンクしていければ」と語る作・演出の田中広喜さん。(写真/片岡伸行)

「廃止運動とリンクしていければ」と語る作・演出の田中広喜さん。(写真/片岡伸行)

「20××年、ついに秘密保護法違反の逮捕者が出た! 裁判当日、法廷に姿を現した被告人はなんと普通の市民9人だった」――そんな設定で始まる社会派ミュージカル『シークレット・ガーデン―嘘の中にある真実』が10月22日から26日までの連続公演で、東京・中野区の区立野方区民ホール・WIZホールで開かれる。新聞労連(日本新聞労働組合連合)、出版労連、民放労連、日本ジャーナリスト会議などが後援する。

社会性とエンターテインメント性を融合したミュージカルをと、2005年に旗揚げした「ミュージカル・ギルドq」の第9回公演。いわゆる法廷劇だが、歌ありダンスありの芝居だ。

「巻き込まれなければ大丈夫と思っている人もいます。秘密ってやっぱり必要だし……と。しかし、知るということは生きる上で根本的に必要なことで、勇気を持って行動を起こした市民がどう裁かれるか、危険なこの法律の嘘を暴きます」。そう語る作・演出の田中広喜さんは新聞労連のベテラン書記だ。

法廷劇のため、トータルアドバイザーに海渡雄一弁護士を迎え、台本を練りに練った。見どころは「市民が取得した秘密とは何だったのか」。法廷で明かされるその秘密については「秘密です」。

平日はまだ席に余裕あり。問い合わせは事務局TEL 03・5392・0167。

(片岡伸行・編集部、10月10日号)