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原発事故の調書めぐり「誤報」認めた『朝日新聞』――「誤報とは言えない」との声も

9月11日午後7時半過ぎ、『朝日新聞』東京本社では、木村伊量社長ら役員3人が会見に臨み、いわゆる「吉田調書」報道を誤報として謝罪し、記事を取り消すことを発表した。翌日の『読売新聞』『産経新聞』『毎日新聞』は一面トップで「朝日『東電撤退』記事を撤回」(『読売』)などと大見出しをつけてこれを批判した。

事の発端は『朝日』が5月20日、政府事故調による関係者への聴取記録のうち、故・吉田昌郎氏(事故発生時の福島第一原発所長)の調書を入手し、その内容から「所長命令に違反 原発撤退」と報じたことだった。

記事では、(1)2011年3月15日朝、事故現場にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、約10キロメートル離れた福島第二原発に撤退、(2)事故対応が不十分になった可能性があったが、(3)東京電力株式会社(東電)はこれを公表しなかったなどとされている。また、6月6日には社説で「政府が集めた情報は、国民の財産である」と主張。その後も政府事故調の聴取に応じた細野豪志・元原発事故収束及び再発防止担当大臣をはじめ、与野党から公開を求める声が出ているなどと報じていた。しかし、政府は調書の公開を否定した。

他方、一部週刊誌は『朝日』の報道直後から「9割の人間が逃げた」と書くのは誤報であるとして、事実をねじ曲げ、「なぜここまで日本人を貶めなければならないのか」(『週刊ポスト』6月20日号)などと批判していた。こうした論調にも『朝日』は抗議文を送付するなど、応酬する構えを見せていた。

次の動きは、8月18日の『産経』の報道から始まった。『産経』は吉田調書を入手して分析した結果、吉田調書は「『全面撤退』 明確に否定」している内容だったと、『朝日』の報道を全否定する記事を掲載。8月末にかけて吉田調書の抄録を連載した。連載が続いていた8月25日、菅義偉官房長官は会見で「9月のできるだけ早い時期に公開」することを発表。すると8月30日には『読売』、31日には共同通信と吉田調書の内容を伝える記事が続けて公表された。

【「原発報道」萎縮を懸念】

謝罪会見と同じ日の夕方、政府は吉田調書をはじめとする政府事故調による聴取記録を公開した。だが、公開された聴取記録は全772人中19人にすぎず、東電関係者や現役官僚などはひとりも含まれていなかった。

『朝日』批判の論調が続くなか、9月16日、政府事故調による聴取記録の公開を求めて提訴していた原発事故情報公開原告団・弁護団の会見で、海渡雄一弁護士は、公開された調書の分析から「『朝日』の報道は誤報とはいえない」とする所見を発表した。

『朝日』による記事の本質は、残された人数でプラントの維持が可能かどうかにあったとして、事故直後のプラント維持に必要な人員が400人と定められていたことなどから「命令違反の撤退」という表現が取り消さなければならない誤報といえるのか疑問だとした。「公開された調書に東電関係者はひとりも含まれていないのは問題」とも批判した。

海渡弁護士の分析からわかるのは、『朝日』を批判した各紙もまた、吉田調書やその他の調書の一部を拾っている可能性があるということだろう。『東京新聞』は9月12日の紙面で、「今回の記事そのものの意義を、もっと丁寧に検証するべきだ」(田島泰彦・上智大学教授)とのコメントを紹介。本質を外した批判で原発報道が萎縮する懸念を示した。

吉田調書をはじめとする聴取記録には何が書いてあるのか。政府、国会の両事故調は、未解明事項が多く残っているとして調査の継続を求めていた。しかし、政府に調査を継続する姿勢は見られない。

また、政府及び国会事故調の資料は、公開に関する取り扱いさえ決まっていない。原発の再稼働論争が高まっている今、必要なのは情報を公開し、福島第一で何が起こったのかを多くの目で徹底的に検証することではないだろうか。

(木野龍逸・ジャーナリスト、9月19日号)

福島原発事故めぐり東電や元請企業の責任を問う――現役の作業員が初めての提訴

9月3日にいわき市内で開かれた「原発労働者員裁判 報告・支援集会」の様子。(撮影/布施祐仁)

9月3日にいわき市内で開かれた「原発労働者員裁判 報告・支援集会」の様子。(撮影/布施祐仁)

東京電力福島第一原発事故の収束・廃炉作業で本来支払われるべき危険手当などが支払われなかったとして、現役の作業員二人と元作業員二人が9月3日、東京電力(東電)や元請企業など17社を相手に計約6200万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁いわき支部に起こした。

提訴したのは福島県内に住む34~65歳の男性四人で、東電の三、四次下請企業の労働者として、同原発構内でがれき撤去や汚染水タンクの点検などの業務に従事した。現役の事故収束作業員による提訴は初めて。

原告らは訴状で、「危険手当は放射線被ばくをともなう福島第一原発の事故対応・廃炉作業といった危険な被ばく作業に従事する労働者のために支払われる性質のもの」とし、「下請企業らがピンハネすることは許されない」と指摘。東電が、多重下請構造のもとで危険手当がピンハネされていることを認識しながら、これを放置してきたことは「共同不法行為に当たる」として、その責任を厳しく追及している。

原告の一人、元作業員の男性(65歳)は「私は1日1万5000円(危険手当込み)もらっていたが、まったく同じ仕事をしていた別の作業員は9000円しかもらっていなかった。不満はあっても、みんなクビになるのが怖いから言えない。誰かが風穴を開けて、その穴を大きくしていかないといけない」と提訴した理由を語った。

この日は、事故発生直後の収束作業で無用な放射線被曝を強いられたとして、元作業員の男性(48歳)が東電や元請企業など三社に対し1100万円の損害賠償を求めた訴訟の第一回口頭弁論も福島地裁いわき支部で開かれた。

原告は事故発生直後の2011年3月24日、3号機タービン建屋で電源ケーブルの敷設作業に従事した。作業開始前のミーティングでは、元請・(株)関電工の放射線管理者から作業場所の空間線量は毎時10mSv(ミリシーベルト)程度と聞いていたが、現場に行くと、床には普段あるはずのない水が溜まり、そこに足を浸けて作業を始めた元請の担当者の線量計の警報はすぐに鳴り始めた。しかし、担当者は作業の続行を指示した。

原告の男性は、水に足を浸けての作業は拒否したものの、約11mSv被曝。溜まり水は原子炉から漏れてきたもので、表面の放射線量が400mSvもある高濃度汚染水だった。(株)関電工の担当者らは約180mSvの被曝をし、汚染水に触れた足の皮膚がベータ線熱傷のおそれがあるとして千葉県の放射線医学総合研究所に搬送された。

訴状は「本来であれば即時撤退しなければならないほど放射線量の高い環境下で作業に従事させられた結果、無用な被ばくをさせられた」と指摘。「労働者の労働安全環境を整えて、できる限り被ばくを低減させ、無用な被ばくをさせない義務が、労働安全衛生法とその関連法規によって事業者には課せられている」と東電や(株)関電工の責任を追及している。

被告・東電の代理人は「事故を起こしたのが東電だから、何でも東電が責任を負うのが当然と言うのはいかがなものか」と発言。答弁書でも原告の男性が東電と直接雇用関係になかったことなどを理由に「安全配慮義務はない」などと、争う姿勢を示している。

口頭弁論後にいわき市内で開かれた「原発労働者裁判 報告・支援集会」で広田次男弁護団長は「二つの裁判に共通するのは、原発固有の多重請負構造に起因している点だ。この構造のもとで賃金や危険手当がピンハネされ、安全管理の責任体制が不明瞭になっている。福島第一原発に良質な労働力を確保し、廃炉作業を安全に進めていく上で、この点の改善は不可欠。これは日本全体で考えなければならない緊急課題」と強調した。

集会には原発周辺地域からの避難者を含む約90人が参加。「支援する会」の設立も確認された。

現役作業員として初めて東電などを提訴した男性(34歳)は、「大変勇気をもらった。これから、(労働者の待遇が)改善されていくのを現場で見ていきたい」と語った。

(布施祐仁・ジャーナリスト、9月19日号)

『週刊文春』、公開討論を希望――本誌は誌上を提案

本多勝一・本誌編集委員を批判するコメントを『週刊文春』(9月4日号)に出した藤岡信勝・拓殖大学客員教授に本誌編集部が公開質問状(9月5日号の本欄で既報、全文は公式ホームページに掲載)を出した件で、『週刊文春』編集部は9月4日、藤岡氏と本多編集委員の公開討論を申し込んできた。回答者は当該記事の担当デスク。質問状を送付した藤岡氏ではなく、『週刊文春』の担当デスクが回答したことは不可解であり、残念でならない。

本誌編集部は9月5日、次のように回答した。

〈本多勝一編集委員に意向を確認したところ、文章で公開討論をしたほうが、より正確を期すことができるとともに、この問題に関心を持つ『週刊文春』と『週刊金曜日』の読者のみなさまのためになるのではないか、とのことでした。/互いの誌面に掲載することを前提にした、文章による公開討論をご提案いたします〉。本誌の呼びかけへの回答期日は9月12日。

株式会社文藝春秋が発行する雑誌での公開討論は、月刊誌『諸君!』(2009年6月号で休刊)で1972年に行なわれたイザヤ・ベンダサン氏と本多編集委員とのやりとりが有名だ(本多勝一著、『殺す側の論理』朝日文庫所収)。

『週刊文春』9月4日号で藤岡氏は本多編集委員の『中国の旅』(『朝日新聞』連載、のちに単行本・文庫本として朝日新聞社が刊行)について〈この記事は本多氏が中国共産党の案内で取材し、裏付けもなく執筆したもので、犠牲者三十万人などは、まったくのデタラメです〉とコメント。公開質問状で本誌編集部は、本多編集委員が30万人と断定していないことを著作に沿って示し、事実関係を知っているかどうかを藤岡氏にたずねていた。本誌編集部が『週刊文春』編集部からの質問を本多編集委員に取り次いだため、本誌編集部が公開質問状を出した。

(編集部、9月12日号)

『文春』、大高未貴氏による“でっちあげ”報道を韓国人教授が告発──安教授の当惑「みなさんとても悪い人ですね」

1990年代に行なわれた「慰安婦」の聞き取り調査について、韓国人教授が誤りを認めたとの記事が今年4月、『週刊文春』に掲載された。だが教授は「事実を歪曲された」としている。

問題となっているのは、『週刊文春』4月10日号に掲載された大高未貴氏執筆の記事。「現地直撃5時間 慰安婦『調査担当』韓国人教授が全面自供!」との見出しで、4ページにわたり掲載された。

この記事の要は、ソウル大学名誉教授の安秉直氏(78歳)による証言だ。安氏は、90年代初めに韓国で行なわれた日本軍「慰安婦」たちへの聞き取り調査に参加した中心人物の一人。調査は韓国の挺身隊研究会が主体となった。調査結果は『証言 強制連行された朝鮮人軍慰安婦たち』(明石書店、93年11月)にまとめられている。記事では、同書が元日本軍「慰安婦」たちの被害について世界各国でロビー活動をする「反日活動家」たちの“バイブル”になっているとし、「こじれにこじれた慰安婦問題の“原点”」と位置づけている。

記事の中で、安氏は「慰安婦」の証言について「今思えば、本当に事実かどうか自信がありません」「当時の調査方法は、反省してみますと、全然ダメです」と語っており、安氏が「実質的な“調査失敗”を認めた」と記事では解釈されている。また安氏の発言を引き合いに、記事では元軍「慰安婦」の証言に基づく河野談話は根拠が薄弱だとの主張が展開されている。

さらに、「強制連行」について、「性奴隷、奴隷制度といった言葉は、手錠、足枷をかけて強制連行したようなイメージが浮かびますが、それはありえません」などの発言や、韓国の“活動家”が自身の運動に、「慰安婦たちを利用している側面があるかもしれません」との安氏の見解も掲載された。

寝耳に水の『文春』記事

『文春』記事をめぐる事件の流れ 調査当事者が、これを否定する発言をしたとのセンセーショナルな記事は、関係者の話題を集めた。

だが、安氏は「そもそもこういう趣旨の発言をしていない」と事実関係を否定。「証言の聞き取りは相手の恥ずかしい部分を聞き出すことで、大変だし時間もかかる。そうした面での調査の苦労話や問題点を語っただけで、『実質的な“調査失敗”』を認めただなんてまったくの捏造です」としている。

安氏は取材時、「性奴隷という表現についてどう考えるか」との質問に対し、「奴隷にも限定された範囲内での自由はあるのだが、自由に『慰安婦』をやめることができなかった点で性奴隷だ」という趣旨の回答をしたという。しかし記事では、安氏が「慰安婦」の強制連行を否定する意味合いで、奴隷制を語ったとされている。

運動団体が「慰安婦」を利用しているとの発言については、「そういう発言は確かにしましたが、記事では、運動体がもっぱら『慰安婦』を利用しているかのように拡大解釈をしています。私の発言の文脈を無視している」とした。

安氏によると、記事の元となる取材が行なわれたのは今年1月16日。安氏はソウル郊外の喫茶店で、大高氏と同行の日本人男性O氏、現地コーディネーターの韓国人男性S氏の3人と会った。

その後、4月10日号の発売日である4月3日が過ぎてから、大高氏が掲載を知らせる短いメールを送ってきたと安氏は記憶しているというが、怒りでメールを削除したため正確な日時はわからないという。さらに、知人からの指摘で記事の内容を知り、「驚きと怒りで頭が真っ白になった」と話す。

安氏はこうも抗議する。

「私は、もともと『慰安婦』の証言について“慎重派”の立場を取ってきました。ですが、昨年に日本軍慰安所の管理人の日記を発見してからは、これまで語られてきた『慰安婦』の実態について確たる証拠をつかんだとの思いに至りました。そのため昨年からは、日本のとくに右派メディアからの取材には慎重に対応するようにしていました。私の発言を都合良く切り貼りし報道してしまうためです。

ですが1月の取材は、『文春』という媒体名を出さずに個人名で、取材目的もぼかして面会要請があったため、『報道しないことを前提』に、S氏を介してメールで二度も念を押してから会ったのです」

安氏は現在、大高氏らと『文春』を詐欺および名誉毀損で司法当局に告訴することも検討している。

「結論」ありきの取材

安氏への取材をめぐっては、「結論」ありきの姿勢が見て取れる。

安氏によると、安氏との面会を希望する日本人がいると昨年末にS氏から複数回電話がきたため、目的を知らせるよう要請したという。すると、「慰安婦問題を長年取材して」いると言う「鈴木美貴」と名乗る女性からメールがきた。この女性が大高氏で、『産経新聞』などで執筆するジャーナリストだ。保守系ネット放送「チャンネル桜」のキャスターもつとめている。

安氏によると、大高氏は面会時にも「鈴木美貴」との名刺を渡した。さらに面会目的は、「慰安婦」に関する本を書くための取材であるとし、『文春』に掲載するとは一言もいわなかった(4月に出版された大高氏の著書には、安氏の発言や写真が無断で使われている)。また同行者O氏は、安氏に断りなくビデオを回し始めたともいう。

安氏が反駁文を日本の知人らに送り、大高氏や『文春』に抗議を始めると、大高氏はビデオ映像の一部を「チャンネル桜」で公開。反駁文は、それをツイッターで流した山下英愛氏(文教大学教授)が捏造した、との主張を展開した。

これらの内容に関し大高氏とO氏はビデオ映像を根拠に「安教授ご本人が私の発言は発言として何を書いても良いと自ら発言している」などとし、問題はないと説明。ただS氏は、「(安氏は)会う前も、後も“報道しない前提”と言ったのが正しいと記憶しています」と回答した。安氏は「O氏から送られてきたビデオ映像をみても、私が彼らに報道を許可する発言をした部分はない」としている。本誌編集部も映像を確認したが、報道許可と受け取れる発言はなかった。

こうした件に関して『文春』は「記事の作成過程については従来よりお答えしておりません」としている。安氏は、大高氏側と『文春』に動画の配信停止や記事に対する反論の掲載を求めたが、要求はいまだに拒否されたままである。安氏はこうつぶやいた。「みなさんとても悪い人ですね」――。

(渡部 睦美・編集部、9月12日号)

沖縄地方統一選挙で名護市議会は稲嶺与党が過半数――知事選を前に交錯する「民意」

9月7日に投開票された名護市議選挙で与党当選者氏名に花をつける稲嶺進市長。(撮影/本誌取材班)

9月7日に投開票された名護市議選挙で与党当選者氏名に花をつける稲嶺進市長。(撮影/本誌取材班)

沖縄県内地方統一選挙にともなう名護市議会議員選挙(定数27)が9月7日に投開票され、現職の稲嶺進市長を支える与党側の候補者14人が当選した。ここに公明党の2人の議員が加わると米軍普天間飛行場の辺野古への移設反対派は16議席となり過半数を超える。一方、推進派の野党・自民党系は1議席増やしたが、当選者は11人にとどまった。投票率は70・40%で過去最低の数値だ。

与党・選挙対策本部の関係者は「11月16日の沖縄県知事選挙へ向けてさらに弾みがついた」と語り、安堵の表情を浮かべた。稲嶺市長は「(立候補していた)16人全員の当選をめざしたが、叶わなかったのは大変残念」と振り返りながらも、「基地問題で同じ姿勢の公明党とも協力しながら、日本政府に対して訴えていく」と自身の後援会でコメントした。

野党の末松文信自民党名護市支部長は、「移設問題は争点にならなかった。移設は国が進める」と記者団に述べ、野党が1議席増えたことについては「これまでよりも前進だ」と分析した。

知事選の前哨戦と位置づけられた今回の名護市議選では、水面下で壮絶な戦いが繰り広げられた。

与党側は「辺野古に新基地はつくらせない」として、「全員当選で市長を支える。強固な体制を築き県知事選挙への大きな流れを生み出す」「政府に(計画を)断念させるための最後の結集を」などと有権者へ支持を訴えた。

野党側はメディア各社のアンケートに無回答を繰り返すなど、その立場をぼかす戦術に徹した。並行して「再編交付金で地元経済は活性化する」との主張を展開。米軍再編推進法(2007年成立)に基づいて、負担が増える周辺市町村には交付金が支給されると宣伝したが、支持は広がらなかった。

【依然として保守も強く】

名護市の政治情勢に詳しい人物は「政府と仲井眞弘多県政の『辺野古強行』姿勢が、名護市民のより強い反発を招いた」と分析する。「告示直前に仲井眞知事が名護入りして自民党市議候補者らのテコ入れを図ったが裏目に出た」。与党側は基地問題を前面に打ち出した候補者の得票数が伸びており、「基地問題に対する訴えの強さが当落を分けた」「意思の明確な候補者に有権者は票を投じた」と解説する。

昨年末の知事承認で動き出した辺野古新基地建設だが、10年1月に稲嶺市長が初当選して以来、選挙で示された名護市の民意は四度にわたり「基地NO」を突きつけている。8月26日に公表された『琉球新報』と沖縄テレビ放送の合同世論調査でも「安倍政権を支持しない」とする回答が81・5%、「移設作業は中止すべきだ」とするものが80・2%だった。

仲井眞知事は8日、「(与党側が)過半数というより野党側が1議席伸ばした」と述べ、「判断の仕方はいろいろあるんじゃないですか。ほかの市町村をご覧になったら、私の政策に賛成する方向の方が多いと思う」と話した。事実、県内全体で「軍事強化」化の動きは予断を許さない状況が続いている。

市議会議員選挙は今回、名護市のほか沖縄・宜野湾・南城・石垣の4市と6町13村で実施された。

普天間飛行場を抱える宜野湾市(定数26)は保守系の佐喜眞淳市長を支える与党が15議席と過半数を占めた。同じく米軍基地に隣接する沖縄市では今年4月に保守系の桑江朝千夫市長が誕生しており、定数30に対して与党が16議席を獲得。石垣市でも保守系の中山義隆市長を支える与党が定数22のうち14議席を獲得した。

いずれも米軍基地問題や自衛隊配備の争点化を避け、経済政策などを強調する戦略が功を奏している。「国策の是非を問うことも大切だが普段の生活も気になる。有権者は微妙な判断ラインを常に行き来している」と、ある県民は語る。

陸上自衛隊の配備をめぐり住民の間で対立がつづく与那国町では、定数6に対して7人が立候補。配備を推進する外間守吉町長を支持しない野党議員が3議席を獲得し、与党側はこれまでの4議席から1議席減となっている。

(本誌取材班、9月12日号)

牛久の入管施設でクルド人がハンスト抗議――「なぜ難民認定をしないのか!」

抗議のハンストが続く牛久収容所(茨城県牛久市)の建物。(撮影/片岡伸行)

抗議のハンストが続く牛久収容所(茨城県牛久市)の建物。(撮影/片岡伸行)

国外退去を命じられている外国人の収容施設、法務省管轄の東日本入国管理センター(茨城県牛久市、通称・牛久収容所)で、9月1日朝からクルド民族の人たちが抗議のハンガーストライキに入った。同センターでは今年3月、収容者の男性二人が立て続けに病死する“事件”が発生した。牛久収容所で何が起きているのか。

「私たちは人間です。動物じゃない」――。収容されている31人の署名入りで、そのような記述のある要請文が9月2日に同センターに提出された。原文はローマ字で、地元の市民団体「牛久入管収容所問題を考える会」(田中喜美子代表)がそれを日本語表記に直した。

「世界のどこの国も クルド人 避難民として受け入れているのです。なぜ日本 クルド人を避難民として認めてないです」「この2、3年、トルコ――イラク――イラン――シリア政府を一緒になってクルド人の国民を殺害しているのです」「だから日本に避難民として難民申請を出しています」……。

たどたどしい記述が並ぶが、訴えている要点は次の5点だ。

(1)なぜ難民申請を受け入れてくれないのか(2)収容期間が長期にわたり心身の健康が損なわれている(3)何の罪も犯していないのになぜ刑務所のような収容所に閉じ込められるのか(4)不調を訴えても診察を受けるまでに1カ月以上かかる(5)薬は睡眠薬ばかり出される。専門の医者にかかりたい。

【「人権侵害ではないか」】

東京から電車で約1時間。常磐線牛久駅東口からバスで30分ほど。人里離れた場所に牛久収容所はある。施設正面入り口には以前、アウシュビッツを思わせるゲートがかかっていたが、「3・11」後に撤去されたという。さる7月、筆者はここを訪れ、前出の田中さんとともに若いクルド人(トルコ国籍)の男性(26歳)に面会をした。男性はトルコのシリア国境に近い村の出身。今年1月に成田空港で入国拒否され、牛久収容所へ移送されたという。収容期間はとうに半年を経過している。

「外の病院へ行くとき、手錠と腰縄をされる。外の人は犯罪者を見るような冷たい目で僕を見る。とても悲しく、プライドが傷つけられる。人権侵害ではないのか」

彼の左目には異状がある。トルコのシュルナク県で警察から取り調べを受けた際、電気を当てられる拷問を受けたという。

「トルコでは、クルド人というだけで差別され迫害を受ける。家族も欧州に逃れたが、難民として受け入れてもらっている。しかし日本は申請をしても認定してくれない。問題があるから出国したのに、日本はその国へ帰れと言う。もうトルコには戻りたくない。早く難民として認めてほしい」

刑務所のような透明のアクリル板の向こうで、彼は必死に訴えた。

2006年以降、難民申請件数は急増。13年には過去最高の3260人が申請をしたが、難民認定されたのはわずか6人だ。主要国では米国が1万9043人、フランス1万2552人、英国は9281人を難民認定(11年統計)。日本の冷酷さが際立つ。認定件数の異常な少なさとともに長期の収容が心身に深刻なダメージを与える。現行の難民行政はそれ自体が人権侵害と言っても過言ではない。国連からたびたび勧告を受け、7月に人権規約委員会が、8月29日には人種差別撤廃委員会がそれぞれ是正勧告を出したばかりだ。

同センターによれば、牛久収容所には約260人が収容され、6割近くが難民認定を申請中だ。今回の要請とハンストについては認めながらも、「施設内には医師が毎日来て診察をしており、医師のいない時間帯には看護師もいる。薬は医師の指示に基づいて対処している」(総務課)とし、冒頭の要請に耳を傾ける気配はない。

牛久収容所での抗議行動はこれまでもたびたび起きているが、これは日本の入管および難民行政そのものへの抗議にほかならない。

「人権尊重」の看板を掲げている法務省は、こうした収容者の声や国連からの勧告を、いつまで無視し続けるのだろうか。

(片岡伸行・編集部、9月12日号)

第3回「ブラック企業大賞」決まる――(株)ヤマダ電機が2冠を獲得

「ブラック企業大賞」で大賞ほか部門の受賞企業には『労働六法』などを贈呈。(撮影/古川琢也)

「ブラック企業大賞」で大賞ほか部門の受賞企業には『労働六法』などを贈呈。(撮影/古川琢也)

労働者に劣悪な労働を強いる企業を「表彰」する「ブラック企業大賞」(同実行委員会主催)の授賞式が9月6日に東京・千代田区で開催され、家電量販店の(株)ヤマダ電機が大賞を受賞した。同社では2007年9月、当時23歳の社員が「名ばかり管理職」として扱われた末に過労自死している。

居酒屋チェーンの(株)大庄、JR西日本など、社員の過労死を招いた企業は多数ノミネートされたが、(株)ヤマダ電機の場合、04年にも当時29歳の契約社員が上司から罵倒などを浴びて自死しており、05年、遺族が提訴。さらに厚生労働省の定める「過労死ライン」に相当する店長が昨年9月時点で46人に上るとする内部文書の存在も報じられるなど、多数の要因が受賞の決め手になった。同社はインターネットなどからの一般投票で選ばれる「ウェブ投票賞」も受賞し、昨年の大賞「ワタミフードサービス(株)」に続く2冠獲得となった。

そのほかの部門では、アニメーション制作会社(株)A-1Picturesと、エステティックサロン運営会社の(株)不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)が、違法な長時間労働が野放しになっているそれぞれの業界を代表して「業界賞」を受賞。第三者委員会が深夜のワンオペ(一人勤務体制)解消など労働環境の改善を求めている(株)ゼンショーホールディングス(すき家、ゼンショー)には、「要努力賞」が贈られた。

実行委は7月末に候補を発表した(本誌8月29日号参照)が、その後ゼンショーで第三者委員会報告書の内容が明らかになったほか、(株)不二ビューティでも組合活動を理由に社員が圧力をかけられている事実が発覚したため、この2社を9月2日に緊急追加した。

また、今年6月に女性議員への差別的な野次が問題になった東京都議会は、企業においてセクハラが放置されるのと同様の構図があるとして「特別賞」に選出された。

(古川琢也・ルポライター〈実行委〉、9月12日号)

人権NGOが日本政府を批判――「国連勧告の実施を」

国連人種差別撤廃委員会がヘイト・スピーチの規制、差別禁止法の制定などを勧告(8月29日)したのを受けて、国内の人権団体で組織する人種差別撤廃NGOネットワークは9月2日、東京・永田町の参議院議員会館で報告会見を開き、日本政府に対して勧告内容の速やかな実施を求めた。

対日審査(8月20日、21日)を傍聴した同ネットワークの小森恵さん(反差別国際運動事務局次長)は、「日本が1995年にこの条約に加入してから今回で3回目の審査となるが、この間、問題はほとんど改善されていない」とし、日本政府の姿勢について人種差別撤廃委の委員が懸念と苛立ちを表明していることを指摘した。

ヘイト・スピーチについては、弁護士で外国人人権法連絡会の師岡康子さんが勧告内容を評価し、「差別禁止法の目的は弱い立場におかれた集団の保護であり、自らの意見を表明したり権利の実現を求める集団に不利益をもたらすよう使われてはならない」とするバスケス委員の発言を紹介。自民党ヘイト・スピーチ対策検討プロジェクトチームの8月28日の会議で「国会周辺のデモ規制を検討する」旨の意見が出たことに同連絡会として「不適切」とする声明を出したことを明らかにした。

会見には国会議員として初めて対日審査を傍聴した糸数慶子、有田芳生両参議院議員も出席。糸数議員は「琉球・沖縄」に関する勧告内容に触れ、米軍基地の問題とヘイト・スピーチにつながる差別・支配の構造を指摘。有田議員は「日本に差別はない」などとする日本政府の姿勢に疑問を投げかけ、「秋の臨時国会に人種差別撤廃基本法案を提出すべく準備している。これを日本の人権状況を変える一歩としたい」と述べた。

このほか、国内人権機関、個人通報制度、朝鮮高校無償化問題、部落問題などについてそれぞれの代表が勧告内容の実現を求めた。

(片岡伸行・編集部、9月5日号)

兵庫県で実施された“防災”訓練――初の米軍参加に市民は反発

市民による抗議活動。高級住宅地に珍しいデモ行進も実施された。(撮影/たどころあきはる)

市民による抗議活動。高級住宅地に珍しいデモ行進も実施された。(撮影/たどころあきはる)

「防災に名を借りているが、これは住民を巻き込んでの合同軍事演習にほかならない」――米軍基地のない府県では全国初となる“米軍参加の防災訓練”が8月31日、兵庫県芦屋市の南芦屋浜フリーゾーンで実施された。米軍参加は兵庫県が要請したものだが、主人公である阪神間の7市1町に事前の相談はなかったという。

演習当日、騒音をまき散らす垂直離着陸“欠陥”輸送機「オスプレイ」の姿はなく、神奈川県の米軍キャンプ座間から、攻撃ヘリ「ブラックホーク」が飛来した。

7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認を前提に、自衛隊と米軍との連携・機能強化を印象づけた格好だ。

今回の演習は「これまでの防災訓練のあり方・性格を大きく変えてしまう重大な問題」であるとして、反発する市民が実行委員会を結成、二日間にわたる抗議行動を繰り広げた。演習前日の30日は、阪神電気鉄道「芦屋」駅近くの宮塚公園に約350人が結集し、集会やデモ行進などを通じてこの問題をアピールした。抗議は31日も演習地近くで行なわれ、多くの市民が参加した。

大阪在住の男性は「今秋10月の和歌山県での防災訓練には米軍のオスプレイが参加する」と言い、「11月の東北6県での訓練にはオスプレイだけでなくオーストラリア軍も加わる」と指摘した。

また、京丹後市(京都府)で北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国を意識した米軍のXバンドレーダー基地建設が進んでいることについて、抗議に駆けつけた京都在住の女性は、「年内に運用開始というが、集団的自衛権に結びつく米軍基地は不要」と批判した。

東日本大震災(2011年)の「トモダチ作戦」以降、“防災訓練”名目での日米合同演習が各地で増加している。両政府の狙いは米軍の活動を全国展開することにあり、「本土の沖縄化」が懸念される。

(たどころあきはる・ジャーナリスト、9月5日号)

「指導死」の存在認めない文科省――「先生のいじめ」と大臣

生徒指導をきっかけ、原因として子どもが自死に追い込まれる指導死。その多くは教師のパワハラによる――昨年11月、下村博文文部科学大臣は筆者の単独取材の中で、前述の見解を容認する発言を行なった。『サンデー毎日』に掲載される予定だったが、編集部と文科省の間で「取材はなかったこと」になり、記事化されなかった。文科省が指導死を公的に認めていないためだろうか。

下村大臣は取材でこう語った。

「教師の暴言や憎しみの言葉があったかもしれませんが、一方で、なぜ、あれ位のことで自殺してしまったのかと周りが不思議に感じるケースがあるかもしれません。教師が責められるかどうかはケース・バイ・ケースで、一つ一つを調査して分析しないといけません」

文科省は調査を実施しておらず、再発防止策もとっていない。

下村大臣は、「指導死というのは先生のいじめです。いじめ防止対策推進法は、教師によるいじめは含まないという前提はありますけども、波及効果は相当あると思います。学校空間で起こるいじめの全てを撲滅したいと考えますので、指導死も国が基本方針を作って地方自治体に徹底します」と話した。

「指導死」親の会代表の大貫隆志さんは、「文科省が指導死を放置し続けるなか、大臣の発言には勇気づけられた」と言う。

8月1日の定例会見でも下村大臣は、「指導により子どもが自殺することがあってはならない」とした。教育行政はこの発言を無視せず、「指導」の名のもとになされる暴行や精神的暴力により、悩み、苦しんでいる子を救う責務がある。

名古屋大学大学院(教育発達科学研究科)の内田良准教授は、「文科大臣が教師のパワハラに言及したことに意義がある。児童・生徒への体罰は法律で禁じられているが、精神的暴力については法整備されていない。今回の大臣発言を法制化に向けるべき」と指摘する。

(桜木和美・ライター、8月29日号)