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巨大防潮堤問題に首つっこむ安倍昭恵氏の本気度は?――首相の見直し発言に妻の尽力

主催者の一人として壇上に立つ安倍昭恵氏(左)=10月31日。(撮影/横田一)

主催者の一人として壇上に立つ安倍昭恵氏(左)=10月31日。(撮影/横田一)

 安倍晋三首相は3月10日の参院予算委員会で、巨大防潮堤見直し問題を取り上げた片山さつき参院議員の質問に対して、踏み込んだ答弁をした。

「(大震災)発災直後の気持ちがだんだん落ち着き、住民の意識も相当変わってきた。今後、見直しも自治体と相談しながらよく考える必要がある」

 質問の冒頭で片山氏は「この問題を長らく追っかけている安倍昭恵夫人にも(自民党)環境部会に来ていただいた」と紹介、昭恵氏が防潮堤見直し発言をした記事を配布資料に添付もしていた。「家庭内野党」と自称する昭恵氏の見直し論を、夫の安倍首相が受け入れた形なのだ。

 2月7日に昭恵氏は、宮城県気仙沼市で開かれたシンポジウム「東北の美しい未来を考えるフォーラムin気仙沼」にも出席。高校生を含む住民150人からの「海の見えない気仙沼は想像できない。森の養分が海へ流れなくならないか」などとの声を受け、「行政の施策に魅力がないと若い人が離れてしまう。見直すべきところはあるので主人にも伝えたい」と発言していた。

 気仙沼市のシンポを主催したのは、巨大防潮堤見直しを求める市民団体。シンポの前日の6日にも昭恵氏は、見直し派住民の案内で気仙沼市本吉町野々下で建設中の巨大防潮堤(事業費約30億円)を視察し、海岸にそびえ立つ高さ約10メートルの防潮堤を見て驚きの声をあげたという。

 視察に同行した気仙沼の若手の漁民はこう話す。「この地区は工事が始まった時期が早く、北海道奥尻島と同様、防潮堤が海の景観破壊をしている現場を三陸沿岸でも目の当たりにできます。建設予定地周辺からは、『防潮堤で何を守るのかね』と首を傾げる声も出ている。防潮堤は海岸の美しい景観を壊すだけでなく、陸から海への地下水の流れを遮断、沿岸漁業への悪影響もあります」。

 こうした建設現場を昭恵氏自らが訪れ、地元の声に耳を傾けて夫に進言したことが、今回の首相発言につながったようにもみえる。

「防潮堤について真面目に考え、覚悟を持って取り組んでくださっている偉い人は昭恵さん以外、僕は知りません。多くの偉い方々が被災地に来ましたが、具体的な動きにつながるわけではない。それに比べ昭恵さんは積極的に行動しています」(若手の漁民)

 見直し派が昨年9月に東京で開催した防潮堤問題のシンポにも、昭恵氏は参加。集会後に説明を受けた際、「被災地に来る偉い人と昭恵氏も同じではないか」と疑われ、「どこまで本気でやるのですか」と覚悟を問われた。それでも昭恵氏は被災地視察を続け、10月31日には自ら主催者の一人となった集会で防潮堤見直しを訴えるなど(本誌11月8日号で紹介)、本気で取り組むようになったのだ。

 昭恵氏と連携する片山氏は先の予算委で、同じように人が住まないところに建設中の気仙沼市中島海岸(小泉地区)の巨大防潮堤を取り上げた。「宮城県は、住民が高台移転しても農地の利用先が決まっていなくても『やりたい』という強い希望」と指摘し、長さ700メートルで事業費が230億円であることも問題視。静岡県浜松市で工事が始まった緑の防潮堤(17・5キロで300億円)に比べ、長さ当たりの事業費が10倍以上高いというのだ。

 本吉町の防潮堤も中島海岸と同様、人の住まない所に建設され、守るものは海岸林と畑ぐらいしかない。建設業者と地主のために、景観破壊や漁業への悪影響を伴う防潮堤に巨費が投入されている。

 同じく気仙沼市大谷海岸で活動する三浦友幸氏はこう話す。「津波被害を受けた奥尻島の方は『防潮堤建設は一番最後で良かった』と話していました。どんな街にするのか話した上で、防潮堤がいるかいらないかを議論することが大事なのではないでしょうか。人が住まない街では意味がない」。

 首相発言を機に防潮堤建設をいったん凍結し、必要性や住民合意の実態や漁業への悪影響などをまずは徹底検証することが必要だ。

(横田一・ジャーナリスト、3月21日号)

声を聞いて! 脱原発のテーマ曲発売

 脱原発を歌う曲「声を聞いて~さよなら原発のテーマ~」が昨年末、発売された。曲を手がけたマチルダマーチの山口由貴さん(ヴォーカル)とハセタクさん(パーカッション)は、2人とも30代。「原発の問題に無関心な人たちの胸に残る」曲にしたいと、制作した。

 マチルダマーチは、2007年に活動を開始。東京を拠点としていたが、3・11後、「放射能汚染で、食品選びの圧迫感が強くなり、このままでは音楽活動に集中できない」(ハセタクさん)と感じ、12年末に名古屋に引っ越した。東京では「官邸前デモ」に、名古屋では中部電力前の抗議行動などに参加していた。

 ここで2人は、同曲をプロデュースした西英子さん(76歳)と知り合った。西さんは震災直後から脱原発を訴えてきた。60年安保闘争を経験した西さんは、「当時、闘いの現場には『インターナショナル』などの歌があった。歌は闘いの力になる。若者もさりげなく聴ける歌を作りたいと思った」という。

 作詞をした山口さんはこう語る。「私が声を大にして『原発反対!』と主張する歌ではなく、福島の人たちの『声を聞いてほしい』との願いを込めて作った」。同曲の試聴はURL http://www.youtube.com/watch?v=280nxh5HuNMから。CDの販売に関してはMail matildamarch@hotmail.co.jpまで。

(渡部睦美・編集部、3月14日号)

元法大生5人の無罪確定――看板破壊の嫌疑払拭

 入構禁止を告げた看板12枚を共謀のうえ壊したとして暴力行為等処罰に関する法律(暴処法)違反の罪で逮捕・起訴された増井真琴氏ら元法政大学生5人に対する控訴審判決が去る2月12日、東京高裁であった。井上弘通裁判長は「(看板の)損壊行為に及んだとするには立証が不十分」として一審に続き無罪を言い渡した。検察側は上告せず、無罪は確定した。

 法政大(増田壽男総長)は数年来、学生自治への干渉を強めてきた。「ジャージ部隊」と呼ばれる民間警備員を投入して学内集会を暴力的に排除したり、警察を介入させて逮捕を乱発させた。逮捕者は2006年以降で延べ120人を超え、起訴されたのは33人を数える。増井氏らの逮捕・起訴は一連の学生弾圧の一環とみられ、大学と警察の連携で罪が捏造された疑いは濃厚だ。

 起訴状によれば、増井氏ら5人は09年2月19日午前零時すぎ、法政大市ヶ谷キャンパスの出入り口数カ所に設置されていた看板12枚を共謀して壊したとされる。増井氏らは無罪を主張。看板は、当時学費の支払いが難しくなったために除籍処分を受けていた増井氏に対して大学側が名指しで入構禁止を告げた異例のものだった。

 判決は、唯一の物証とされる防犯ビデオ映像について、画質が悪い上に死角があり、犯行の裏付けとはならないと判断。また、検察が証拠とした学生の供述調書も信用に足らないとした。この学生は警察に連行され、20時間近くも事実上の拘束を受けて意に反する供述を取られたという。

 増井氏は訴える。「大学なのに、政治的表現の自由が圧殺されている。嫌がらせのように名指しで入構禁止の看板を出したこと、公安警察を使って学生を逮捕・起訴させたことについて謝ってほしい」。

 取材に対し、総長室広報課は、「犯人が法に照らして適正に処罰されることを望む。本学は被害者であり、(謝罪など)何らの対応を行う立場にない」としている。

(三宅勝久・ジャーナリスト、3月14日号)

大阪駅ビル内での無差別撮影――顔認証・歩行認証実験は延期に

「誰が・いま・どこを移動しているか」の追跡に反対する共同代表ら。(提供/川上洋一)

「誰が・いま・どこを移動しているか」の追跡に反対する共同代表ら。(提供/川上洋一)

 通行者を無差別に撮影し、顔画像と歩行の特徴をデータ化しIDをつけ自動的に追跡する実験が、大阪で進められようとしている。

 独立行政法人・情報通信研究機構は昨年11月25日、「人の流れを把握して、防災に活用する」との目的を掲げ、JR大阪駅を中心とした駅ビル「大阪ステーションシティ」に約90台の高性能カメラを設置し、4月から「実証実験」を行なうと発表した。実験で得た個人情報を数値化し、JR西日本に提供するという。

 これに対し、「監視社会を拒否する会」は3月5日、「顔認証実験」の中止を同機構に要請した。同日開かれた記者会見には、共同代表の田島泰彦上智大学教授、村井敏邦大阪学院大学大学院教授、伊藤成彦中央大学名誉教授らが出席。今回の実験は、「何人も、その承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」ことを明示した最高裁判決(1969年)に真っ向から反し、とくに市民を追跡し行動を把握する行為は憲法13条で保障されているプライバシーの権利(自己情報コントロール権)への重大な侵害であり、断じて許されないと表明した。

 さらに、同機構を所管する総務省に実験中止命令を、実験場所を提供するJR西日本と大阪ターミナルビル会社に実験協力中止を、それぞれ要請したと発表した。

 一方、『毎日新聞』(2月27日付大阪版)で、警視庁をはじめ5都県警が可搬型の顔認証装置を秘密裏に運用していることが報道された。これをふまえれば、今回の顔認証システムは、実験後、公共空間に導入・運用される現実性をもったものと考えられる。国民の一挙手一投足を把握する“国民監視”の強化にほかならない。

 反対が相次いだためか、会見翌日の6日、同機構の4月からの実験延期が報じられた。しかし、カメラ約90台はすでに設置済み。今後も動向を注視する必要がある。

(川上洋一・監視社会を拒否する会、3月14日号)

神戸市が憲法集会の後援を拒否――非核神戸方式への影響懸念も

「後援せず」となったチラシ(右)。市長の自民党への配慮か?(撮影/たどころあきはる)

「後援せず」となったチラシ(右)。市長の自民党への配慮か?(撮影/たどころあきはる)

 核兵器を積載していない旨、非核証明書を提出しない艦船は入港を認めない「非核神戸方式」が、神戸市議会で決議されて39年。特定秘密保護法案が強行可決されて以降、この「非核神戸方式」を巡り、緊張感が高まっている。

 直接のキッカケとなったのは先ごろ、市民団体などが主催し毎年開かれてきた「5月3日憲法集会」への後援申請を、神戸市および神戸市教育委員会が断ったことだ。「非核神戸方式」は1975年3月18日、神戸市議会が全会一致で採択した「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」に由来する。以来、神戸港に米軍艦船は、入港していない。

 これに並行して神戸市では、憲法集会への後援も事実上、「慣例」となっていたが、昨年秋に就任した久元喜造市長は総務官僚出身。林英夫・神戸市議は「自民主導で選挙をしており、自民党に過度な配慮をしている」とみて、「いよいよ馬脚を現してきた」と批判する。

 神戸市は、3月18日に開催予定の非核神戸方式決議39周年記念集会への後援は今のところ維持しているが、消極姿勢が目立つ同市の対応からみて、「安倍改憲の先取り」を憂慮する市民の声も強く、今後への悪影響が懸念される。

 公務員には憲法99条で、憲法尊重擁護義務が課せられている。だが、今回の後援不承認は「憲法に関する集会そのものが政治的中立性を損なう可能性」を理由とし、市教委は「昨今の社会情勢に鑑み」てともいう。この後退姿勢を、上脇博之神戸学院大学大学院教授は「地方自治の放棄」と指弾する。

「非核神戸方式」の精神・手法は、ニュージーランドにも取り入れられて世界の範とされ、国内では、核持ち込み「密約」を暴く力にもなった。今年の39周年記念集会のテーマは「秘密保護法で非核『神戸方式』はどうなる?!」。国際問題研究者の新原昭治氏が、非核・非同盟の日本づくりの展望を語る。

(たどころあきはる・ジャーナリスト、3月14日号)

国家総動員体制を想起させる異常さ――『琉球新報』に防衛省が訂正要求

 防衛省が、『琉球新報』の記事に関し、新聞業界団体である日本新聞協会にまで“防衛省事務次官名”での申し入れ文書を送りつけ、波紋を呼んでいる。

 発端は2014年2月23日付『琉球新報』(1面)「陸自、石垣に2候補地/八島新港地区、宮良サッカー場/防衛省が来月決定」と題された記事。陸上自衛隊で新設される警備部隊の配備候補地について、独自取材で入手したニュースだった。機先を制されたかたちの防衛省は、発行元の琉球新報社に抗議し、訂正を求めた。同時に業界団体の日本新聞協会に対しても、「適正な報道を求める」などとする申し入れを行なっていたのだ。

 当該報道について『琉球新報』は、「十分な取材に基づいた報道」とし、訂正要求にも応じていない。また、『琉球新報』が報じた翌日、ライバル紙の『沖縄タイムス』が、「陸自配備、石垣に候補地/大崎牧場周辺など」と伝えた。防衛省は、これには抗議はしていない。どうも一貫性に欠ける。一方、沖縄県2区選出の照屋寛徳・衆議院議員は、自身のブログで「琉球新報社への抗議は報道統制だ!」と断じた。そして「石垣市の3か所を含む場所を選定し、陸上自衛隊の施設整備を計画していることは間違いない」と書いている。

 日本新聞労働組合連合会は、「安倍政権と防衛省は報道に対する弾圧行為を撤回し謝罪せよ」との声明を発表。「(政府が)自らの意に沿わない報道に対して被害者面することは犯罪的ですらある」「新聞協会と各新聞社の関係に上下関係はない。政府が業界団体に申し入れれば、そこに参加している会社は言うことを聞くという発想の裏には、戦前のように政府が新聞業界を管理しようとする意図が読み取れる」などと、手厳しく指弾した。

 特定秘密保護法を成立させ、憲法改悪を志向する安倍政権だけに、報道機関も組み込まれた国家総動員体制の悪夢を想起させる防衛省の異常な申し入れだった。

(丸山昇・ジャーナリスト、3月14日号)

東京海上の保険金支払い漏れ――“監督しない”金融庁

 終わったはずの保険金未払い問題が、またも浮上した。

 端緒は、東京海上日動火災保険の自動車保険。事故の主な賠償以外に付随する「臨時費用/臨費」契約について、死亡または負傷させた相手への見舞金などに充てる対人臨費(最大10万円)、約12万件に未払いの可能性があることが発覚したことだ。その後、同社は、入院関連費用などを支払う人身傷害臨費(最大10万円)で約1・5万件、対物事故を起こした際の見舞金などを補償する対物臨費(一律1万円)で約1万件(2002年4月~03年6月)の未払いの可能性を明かした。

 だが2月7日、同社説明会見で永野毅社長は「最善を尽くした。不払いだったとは考えていない」と強気。その姿勢を支えていたのが、監督官庁である金融庁の保険金支払いについての考え方だ。

 2005年秋以降、金融庁は保険金の支払いの是正を損害保険会社26社(当時)に対して求めた。しかし、保険契約の中には臨費のように、事故があったことを会社が知っても、契約者が実際に費用負担したことを申し出ないと支払われない付随的保険契約がある。事故発生が前提でも、会社は契約者が費用負担した事実は申告を受けないとわからないというのが理由だ。その対応に金融庁は「一定の理由がある」と理解を示した。顧客との契約書の保存期間を超えて、亡霊のように保険金支払い漏れが現れた原因は、そこにある。

 同社は請求があれば、時効を理由に拒否せず対応する意向だが、中には10年以上経過している契約もあるため、同社でも全容は把握できていない。事故経験がある契約者は問い合わせてみるべきだ。

 同様の眠った事例は同社以外でも心配される。だが、金融庁は保険会社に判断を任せた過去があるため、ここでも全容把握は困難。金融庁保険課は監督指針の改正などで「対応済み」としており、未払い発覚は“かなり特殊な例”として、静観する構えだ。

(中島みなみ・ジャーナリスト、3月7日号)

安倍首相の“お友だち”金美齢氏が侮辱発言――「オバマが白人なら当選しない」

「そもそもオバマ氏が出てきた大統領選挙。もしオバマさんが白人だったら、あのレベルの政治家では大統領に当選しなかったと私は思ってるわけ。あの当時、やっぱりある種の旋風が巻き起こったんですよ」

 こう発言したのは、評論家の金美齢氏。タカ派的な主張を数多く取り上げることで知られる「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ系列)で2月23日、「オバマ大統領の内向き発言に対して、言いたいことは何ですか?」という質問に金氏が答えたものだ。「内向き発言」という表現は、1月28日に行なわれたオバマ大統領の一般教書演説で、多くが内政問題に割かれたことからきている。

 金氏の発言は、人種差別とも受け取れるが、真意を金氏の事務所に問い合わせたところ、「貴誌のために時間を割くことができません。(中略)貴誌のメール処理はできましたら今後は無しにしたいと考えております」とのことだった。

 金氏は安倍首相の“お友だち”であることでも知られる。昨秋、安倍首相をはじめ“お友だち”を自身の事務所に招いて寿司パーティーを開いていたことが『日本経済新聞』電子版で報じられている。

 今回の「たかじんのそこまで言って委員会」は生番組ではなく、事前に収録したものを編集して放送していた。なぜ金氏の発言をそのまま放送したのか。読売テレビ宣伝部にその意図を質問すると「個々の番組の内容についての質問については、お答えしておりません」という回答だった。

 金氏の発言について、元駐レバノン大使で作家の天木直人氏は、「これはオバマ大統領批判にとどまらず人種差別と戦っている米国国民すべてを敵に回す暴言だ。金美齢氏が安倍首相に近い言論人であることは皆が知っている。米国は安倍不信をさらに強めるだろう」と語っている。オバマ大統領が金氏の侮辱発言を知れば、国賓待遇どころか4月の来日自体を拒否することになるかもしれない。

(赤岩友香・編集部、3月7日号)

ヘイトスピーチに対抗して、80人が結集――「差別らくがき消し隊」始動

らくがきを黙々と消す「差別らくがき消し隊」のメンバーら(撮影/写真・岩崎眞美子)。

らくがきを黙々と消す「差別らくがき消し隊」のメンバーら(撮影/写真・岩崎眞美子)。

 コリアンタウンとして知られる東京都の新宿・大久保一帯では近年、在日韓国・朝鮮人への憎しみを扇動するヘイトスピーチデモが数多くなされてきた。昨年の9月以降はこの町での排外デモは行なわれていないが、一方で差別的ならくがきが、町のあちこちで見られるようになった。

 このらくがきを消そうと3月2日、排外デモへの対抗活動をしてきた有志が呼びかける形でボランティアが結集。ヘイトスピーチとレイシズム(差別主義)を乗り越える国際ネットワーク「のりこえねっと」の協力を得て、「差別らくがき消し隊」として活動した。

 2月に有志で町を歩いて行なった調査では、大久保周辺でのらくがきの数は約50カ所に上った。「チョン死ね」「チョン帰れ」といったものが多く、ナチスの鉤十字のらくがきもみられた。多くは油性マジックやスプレーなどで、壁や電柱、ガード下などに描かれたものだった。中には韓国料理店のシャッターに描かれたものもあった。それらの場所と写真を入れ込んだ地図をインターネット上にアップし、ツイッターなどで参加者を募ったのが2月26日。わずか4日で当日80人ものボランティアが集まった。

 主催者かららくがきの場所を印刷した地図とゴム手袋、マスク、薬剤などが配られ、9チームに分かれて消去活動を行なった。当日は小雨が降る寒い日だったが、多くの参加者によって午前中にはほぼすべてのらくがきが消去された。

 主催者のひとり、石野雅之さんはこう語る。「この活動が逆に差別者たちを刺激して、ますますらくがきが増えるのではないか、という意見もあるが、また描かれるならまた消せばいい。そういう運動がある、ということを多くの人に知ってもらうことが重要」。

 自ら右派を名乗る22歳の男性も参加。「オリンピックを前にこのような下劣ならくがきがあることは国際社会に対する日本の恥。反日的物言いは許せないが、コリアンタウンには親日的な人も多い。その人たちとの関係を悪くしたくない」とした。

 差別らくがきは新宿のほかにも都内各地、地方都市でも多く見られるようになっている。「差別らくがき消し隊」はさらなるネットワークを広げ、流動的な形で活動を続けていく予定だ。

 一方、ヘイトスピーチに関しては米国務省が2月27日、2013年版の人権報告書を公表。その中で、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)によるヘイトスピーチを取り上げ、懸念を示した。

 反ヘイト行動に取り組んできた梁英聖・在日コリアン青年連合(KEY)東京代表は、「100人、200人規模でヘイトをすることはなくなっているとしても、それで問題解決ではない。むしろ、らくがきというものは、差別する側が安全圏にいながら、相手にダメージを与える陰湿なもの。こういうものがいたちごっこのように増えると、これは暴力、差別の扇動以外の何ものでもない」と、ヘイトスピーチが分散していることに警鐘を鳴らした。

(岩崎眞美子・ライター、3月7日号)

『アンネの日記』事件で揺れる図書館関係者――運営の自由か、閲覧の制限か

 東京都内や横浜市内の図書館で、『アンネの日記』などユダヤ人迫害の関連書籍が相次いで引き裂かれる事件をめぐり、図書館側が対応に苦慮している。再発防止のために閲覧制限を求める声がある一方、図書館運営の自由を脅かすとの懸念もぬぐえず、陰湿な事件の余波が関係者の間に広がっている。 同事件に関するニュースは今年初めから報じられたが、同様の被害は昨年2月から確認されていた。昨年2月に被害が確認された東京都豊島区立千早図書館では、最近のニュースに出てくるような乱雑に破られた状態ではなく、カッターのような鋭利な刃物によって切り取られた状態で発見された。豊島区の図書館関係者によると、千早図書館は本に防犯タグを付けていないことから「何者かが外部に持ち出して切り取った可能性もある」との見方を示している。

 事件に関しては、警視庁が器物損壊などの疑いで捜査本部を設置し、本格的な捜査に乗り出しているが、「防犯カメラの映像解析を進めているが、そもそもこうした犯罪を考えて防犯カメラを設置しているところは少ないので、難航している」(捜査関係者)。前出の千早図書館のように、図書館は「防犯」の側面に弱いとされ、そうした点も捜査の壁になっている。だが、図書館側では、利用者の出入りや閲覧記録といった個人情報を守るとの立場から、事件によって「防犯の強化」という方向に進むことを心配する声が強い。

 また、子どもたちに「間違った歴史認識」を植え付けるとして、広島への原爆投下を描いた『はだしのゲン』(著・中沢啓治)の閲覧制限を求める動きが昨年から出始めていたことから、『アンネの日記』にも閲覧制限がかかるのではないかという懸念も出されている。現に、一部の図書館では『アンネの日記』など関連図書を閉架にする動きも出てきている。一方で、カウンター横など職員の目の届く場所に書籍を移動し、利用者の自由な閲覧を配慮する図書館もあり、対応が分かれている。

 豊島区立上池袋図書館では、カウンター奥に「図書館の自由に関する宣言」(1954年採択)を掲げる。「第1 図書館は資料収集の自由を有する」の2(4)には、「個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない」と記されている。同館は、ブックトラックに関連図書を揃え、カウンターの向かいに置いている。高桑光浩・豊島区図書館課長は「閉架にはしたくない。利用者が自由に本を手に取る環境を整えていたい」と話した。

【「破る自由もある」】

 図書館の被害は300冊以上に上り、2月末には豊島区のジュンク堂で書店としてははじめて、被害が見つかった。犯人像に関してはさまざまな憶測が飛び交っているが「被害は東京23区北西部と隣接地域に集中しており、同一人物による犯行の可能性が高い」(捜査関係者)という。

 こうした状況に対し、海外メディアでは日本の「右傾化」と報じる声も出ている。米国誌『タイム』は「日本で右傾化が進行しているとの印象を深めている」と指摘。韓国の左派新聞『ハンギョレ』は、民族差別を扇動するヘイトスピーチに象徴されるような「病的な右傾化現象と関連があるかにも関心が集まっている」と報じた。

 これに対し、下村博文文部科学相は「許し難い犯罪」とした上で、「日本がファシズムに向かっていることは断じてないというメッセージを強く海外に送る必要がある」と強調するなど対外的なイメージの払拭に躍起だ。しかし、同事件に関しては、中山成彬衆院議員(日本維新の会)が自身のツイッターで「日本人の感性ではない、日本人の仕業ではないと思った」などと発言するなど、「差別」を助長する偏見も出ている。事件の報道後、各図書館には励ましの電話や本の寄贈などがある一方で、「破る自由もある」と主張する電話もかかってきているといい、差別感情が陰湿な形で拡大している。

(北方農夫人・ジャーナリスト+渡部睦美・編集部、3月7日号)