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被災地タクロバンで現地調査――福島からフィリピン支援を

【上】パロ地区の漁港。水上の木造家屋は全壊し、遠くに避難所のコンベンションセンターが見える。

パロ地区の漁港。水上の木造家屋は全壊し、遠くに避難所のコンベンションセンターが見える。

【中】学校に支援物資を届けた菅野さん(左)とシスター・チャン先生。

学校に支援物資を届けた菅野さん(左)とシスター・チャン先生。

【下】泥にまみれた廃棄物の中から使えるものを探す人々。(写真/藍原寛子)

泥にまみれた廃棄物の中から使えるものを探す人々。(写真/藍原寛子)

 海岸沿いは見渡す限りの瓦礫の山だった。死者、行方不明者合わせて7200人以上。今世紀最悪規模とも言われる巨大台風ヨランダ(台風30号、昨年11月8日)が直撃したフィリピン・レイテ島タクロバンを訪れた。

 東日本大震災でフィリピンから受けた支援のお返しをしようと、募金活動を開始した福島県内のボランティア団体「シェア・ラブ・チャリティの会」(菅野良二代表)の現地調査が昨年末に行なわれ、私はそれに同行したのだ。

 高波が襲った漁港パロ地区。人々は東ビサヤ地方最大の屋内競技場タクロバン・コンベンションセンターに避難しているが、「物資も食料も水も家も、まだまだ不十分」と、案内してくれたステファン・カスティーリョさんが言う。

 410万人が家を失った。安心して住める家が今、何よりも必要だ。海外のNGOやセブ、マニラなどの支援団体はトタンやコンクリートを運び込み支援を始めたが、まだまだ追いついていない。

「政府や軍の支援が足りないんだ。この地域だけでも、幼い子どもたちが200人以上亡くなった。遺体は自分たちで埋葬しなければならず、浅い埋葬なので雨が降ると土が流れて遺体の一部が出てしまう。私の父も亡くなった。ちゃんと埋葬してやりたい」

 サンホアキンの区長パポス・ランタホさんの涙が止まらない。教会の前には、遺族による手作りの十字架が無数並ぶ。

「安否が確認できたのは幼稚園児から高校生まで753人の70%。あとは連絡がつかない。1月に学校を再開したいのですが……」。タクロバン市内中心部の私立学校の先生シスター・ローサ・チャンは、天井と壁が吹き飛ばされた校舎を見上げ、悲しみを浮かべた。

 菅野代表は今回、日本の子どもたちが学校で使っている鍵盤ハーモニカを持参、同校に2台寄付した。鍵盤ハーモニカは電気を使わず演奏できる。先生方は「大切に使います」と、鍵盤ハーモニカを両手で抱きかかえた。

 タクロバンで唯一治療を続ける東ビサヤ地区医療センターでは、電力も水も不足していた。気温30度でエアコンもない。被災地では13年末までに1万2000人が生まれるという多産国フィリピン。「小さな命を守りたい」。院長のアントニオ・パラディラさんが厳しい表情で訴えた。

 いくつか店の開いている市中心部の商店街。古着の店で掃除が始まり、泥だらけになった服が路上に放り投げられた。強烈な泥の匂いとハエ。そのごみの山に、「お宝発掘」とばかりに多くの人が群がった。泥の中から、水没を免れた生理用品を丁寧に掘り出した女性。ホッとした表情に、ピュアな笑顔が輝いたとき、私の頭に東日本大震災・原発事故と今なお闘う福島の人々の姿が浮かび、苦しく切ない思いが押し寄せた。

(藍原寛子、1月17日号)

新大久保に「のりこえ」の拠点

オープン初日。語らう辛淑玉氏(右端)ら。(写真/渡部睦美)

オープン初日。語らう辛淑玉氏(右端)ら。(写真/渡部睦美)

「売られたケンカを買うために、ここに事務所を建てました」――。ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク「のりこえねっと」が1月10日、東京・新大久保に事務所をオープンした。同日は事務所内の専用スタジオで、発起人の辛淑玉・共同代表や本誌編集委員の佐高信・共同代表らによるトークを生中継。動画共有サイト「ニコニコ動画」上にある「ニコニコチャンネル」にて放送された。

 民族、性的少数者、宗教など社会的マイノリティーに対する憎悪を扇動するヘイトスピーチは、コリアンタウンなど多民族の店舗が集中する新大久保で特に、執拗に展開されてきた。そのため辛氏らは、昨年9月に「のりこえねっと」を設立。マイノリティーの拠点とすべく新大久保に事務所を開き、冒頭の意気込みをみせた。

 佐高氏は「深刻ぶらずに、明るくめげずに闘っていく。差別を防ぐ闘いは、戦争を防ぐ戦いでもある」とした。このほか同日は、差別に反対するカウンター行動を行なっている「男組」の高橋直輝氏や山口祐二郎氏も事務所を訪れた。

「のりこえねっと」では今後、憎悪の扇動は嫌だという人たちの思いを形に表現するホワイトリボンキャンペーンや、漫画による啓発活動、ヘイトスピーチなどに関するデータベースの作成、番組の放送など具体的な活動をしていく予定だ。

(渡部睦美・編集部、1月17日号)

NHK人事で職員らにアピール――勇気のある報道を

アピールを配る会員。(撮影/伊田浩之)

アピールを配る会員。(撮影/伊田浩之)

〈経営委員の人事から新会長選任にいたる経過には、NHKの番組、ニュースを都合のいいようにしたい、という政権の意図が強く働いていると考えられます〉〈現場のみなさんは、機械的でマニュアル的なバランスに縛られず、視聴者に本当に伝えるべき内容を勇気をもって放送してください〉――放送を語る会(今井潤代表)は「放送の自主・自立の危機に際してNHKで働くみなさんに訴えます」とのアピールをまとめ、1月14日午前、東京のNHK放送センターや名古屋、京都、大阪の放送局前で出勤する人々に手渡した。

 アピールには、日本ジャーナリスト会議など9団体、研究者ら29人(うちNHK関係者11人)が賛同。同会によると、今回の人事へのNHK内部の問題意識が高くないことに危機感を抱いたのがきっかけで、NHKの人たちへの直接配布はあまり例がないという。

 アピールでは、次期会長に決まった籾井勝人氏(日本ユニシス特別顧問)が「テレビは『反対!』っていう人ばかりを映している。賛成と反対があるならイーブンにやりなさい」とインタビュー(『週刊文春』2013年12月26日号)で述べたことを紹介。政府批判の報道や市民運動の取材の制限などが、新会長のもとですぐに始まる恐れがあると警鐘を鳴らしている。

 会のメンバーらは、配布終了後、NHKと日本放送労働組合にも同趣旨の申し入れを行なった。

 放送を語る会は、1988年の「天皇報道」をきっかけに、視聴者市民、放送研究者、放送労働者の三つの立場の人びとが、放送について語り合い、研究し、発言する場を作ろうと結成された。

(伊田浩之・編集部、1月17日号)

越冬救援キャンプを渋谷区が“襲撃”――重傷者も問答無用で強制排除

「強制排除」に集まった警官隊=2013年12月29日午後10時半。(撮影/楡原民佳)

「強制排除」に集まった警官隊=2013年12月29日午後10時半。(撮影/楡原民佳)

 福祉のまち――東京・渋谷区(桑原敏武区長)の庁舎前の碑に刻まれた区民憲章を空々しく感じさせるような事件が起きた。昨年12月29日深夜、同区宮下公園に開設中だった生活困窮者のための越冬救援キャンプに対し、渋谷区土木清掃部(黒柳貴史部長)職員と警察官ら総勢約100人が“襲撃”をかけ、ボランティアと避難者あわせて数十人を追い出したのだ。

 キャンプには頭骨にヒビが入った重傷者ら数人の路上生活者が避難中だったが、職員や警官隊は問答無用で追い出し、周囲にめぐらされたフェンスの門に施錠した。「暴力をやめろ」「人殺し」などの怒号で騒然となった。

 毛布や食料などの救援資材が公園内に残されたが、当夜の回収を認めなかった。深夜厳寒の路上で行き場を失った避難者らはどうすればいいのか――ボランティアらは黒柳部長に迫った。しかし何ら策をとることもなく立ち去った。

 実は年末年始の福祉施策として、簡易宿泊所1床を用意する、24時間体制で生活保護申請を受け付けるなどの態勢をとっていたという。だが担当する生活福祉課との連携はなされていなかった。

 警官隊を先頭に力ずくで公園から追い出したことはVJU(ビデオジャーナリストユニオン)の記者が記録した映像にも映っている。 

そしてこの「強制排除」の法的根拠は疑わしい。渋谷区の説明も歯切れが悪い。

「公園の管理権に基づいて退去命令を出した。自主的に出て行っていただいたと理解している。不退去罪などではなく、警察や職員が実力で出したことはない。警察を要請したのは不測の事態を避けるため、警備のためだった」(吉武成寛公園課長) 

 矛盾する説明をしながら吉武課長は、「今回の件は『福祉のまち』とは関係ない」と言った。非人道的都市として「シブヤ」は世界に名を知られつつある。

(三宅勝久・ジャーナリスト、1月17日号)

原発「回帰」を狙う安倍政権――民意無視のエネルギー計画

エネルギー基本計画のパブコメを呼びかける市民たち。(提供/満田夏花)

エネルギー基本計画のパブコメを呼びかける市民たち。(提供/満田夏花)

 国のエネルギーの基本方針を定める「エネルギー基本計画」の素案が昨年12月6日に公開され、1月6日までパブリック・コメント(一般からの意見聴取、以下パブコメ)にかけられたが、民意無視の資源エネルギー庁の強引なやり方に批判が集まっている。

 資源エネ庁によれば、この1カ月間に集まったパブコメの数は1万9000件。政府は公聴会の開催などは予定していない。当初は今月にも閣議決定が強行されるとみられていたが、与党内からの異論の噴出などから2月に持ち越されそうだ。

 エネルギー基本計画案では、原発を「準国産エネルギー」「廉価」「安定供給」とし、「重要なベース電源」として位置付けている。「世界で最も厳しい水準の新規制基準」で安全性が確認された原子力発電所については、再稼働を進める。核燃料サイクルを「着実に推進する」とし、高レベル放射性廃棄物については、「国が前面に立って最終処分に向けた取組を進める」としている。

 安倍政権の考えを色濃く反映し、「原発回帰」の色濃い内容だ。

 原発事故の収束が見えず、被害者が苦境におかれている現在、原発が「廉価」で「安定している」とは説得力に欠ける。さらに、核燃料サイクル構想が破綻している中、「着実な推進」とのみ記しているのは現実からの乖離だ。この点は、「自民党エネルギー政策議員連盟」からも異論がふきだしている。

【「国民的議論」を無視】

 2012年夏、民主党政権下で、エネルギー政策を決めるための「国民的議論」が行なわれた。全国11カ所での意見聴取会に加え、パブコメ、討論型世論調査を実施。パブコメでは、寄せられた約8万9000件の意見のうち87%が「原発ゼロ」を、78%が「即原発ゼロ」を選択した。

 これを踏まえ、12年9月14日に「2030年代に原発稼働ゼロが可能となるよう、あらゆる政策資源を投入する」とした「革新的エネルギー・環境戦略」が決定された。目標時期をいつにするかという点については多くの議論があったが、もはや原発ゼロへの方向性は不動のものと思われた。

 しかし、原発ゼロの方向性は、同年12月に安倍政権が発足すると、崩れ去った。安倍晋三首相は昨年1月、原発ゼロの方向性を「ゼロベースで見直す」と明言。

 それを反映したかのように、エネルギー基本計画を議論する資源エネルギー庁の審議会のメンバーから、飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)、大島堅一氏(立命館大学教授)、伴英幸氏(原子力資料情報室共同代表)など、原発慎重派が姿を消した。再開した審議会のメンバー15人中13人が原発の維持・推進の立場だ。審議会の座長は、強固な原発推進派で知られる三村明夫氏(新日鐵住金(株)相談役名誉会長)だ。今回のエネルギー基本計画案は、そうした中で策定された。

 実は、12月6日の段階で公表された「エネルギー基本計画案」は、事務局(資源エネ庁)が作成したものであり、審議会で審議される前のもの。パブコメにかけてから、その後2回差し替えるという異例の措置をした。このことからも資源エネ庁の急ぎぶりがわかる。

 また、パブコメを積極的には広報せず、問い合せ先すら書いていない。パブコメの送付先となるファクス機は1台しかなく、年末年始は不通。最終日はつながらなかった。市民団体からの再三の要請にもかかわらず、全国各地での公聴会は開催していない。

 FoE Japanおよび原子力規制を監視する市民の会は、街頭で、パブコメの提出を呼びかけるとともに、資源エネ庁に対してパブコメを公開審議すること、全国各地で公聴会を行なうことを要請。1月8日、第一次集約分の6904筆を資源エネ庁に提出した。

 資源エネ庁は「パブコメは現在、精査中。どのような形でいつ公開するかはわからない」とのみ回答。国民不在の中で原発ありきのエネルギー基本計画が決められようとしている。

(満田夏花・FoE Japan、1月17日号)

イタイイタイ病「全面解決」――遅きに失した合意

岐阜県の三井金属鉱業(現、神岡鉱業)工場付近。植生が完全に回復しない。(撮影/まさのあつこ)

岐阜県の三井金属鉱業(現、神岡鉱業)工場付近。植生が完全に回復しない。(撮影/まさのあつこ)

 明治以来の鉱山開発によるカドミウム汚染が原因のイタイイタイ病をめぐり、神通川流域カドミウム被害団体連絡協議会(被団協、高木勲寛代表)と三井金属鉱業(仙田貞雄社長)が合意し、カドミウム腎症に対する補償の意味合いを持つ一時金支払いが決定した。

 昨年12月17日、富山県内で締結した合意は、(1)三井金属鉱業は被害を謝罪(2)土壌汚染と農業被害は全て解決したと確認、患者らへの補償や公害防止のための被団協らの立入調査には引き続き対応(3)神通川流域住民健康管理支援制度を新設し、カドミウム腎症にも一時金を支払い(4)被団協は全面解決を認め、三井金属鉱業は解決金を支払う――という内容。これにより、国の公害病認定制度では骨粗鬆症を伴わないためにイタイイタイ病と認められなかったカドミウム腎症に一人当たり一時金60万円が支払われる。汚染地域に1975年以前に20年以上居住し、尿検査で腎機能の影響が認められれば、カドミウム由来ではないと否定できない限りは支払い対象となる。

 富山県では、この合意を機に環境省の委託で汚染地域住民に対し行なってきた健康調査を、毎年受けられるよう拡充することを決定した。調査対象は8000人だが、従来は5年ごとで、受診率は3割程度にとどまっていた。

 今回の「全面解決」について高木代表は、「遅きに失した。また全面解決に至らない水俣病、新潟水俣病のことを思えばおめでたいという言葉は受け入れられない」と述べ、巨大企業と政府を相手にそれぞれ訴訟で闘った「四大公害病」被害者を慮った。

 近年、カドミウム腎症はより寿命が短くなるなどの調査結果が明らかになったが、環境省は「検査値の異常は見えるが日常生活に支障はない」(日田充・保健業務室長補佐)とし、認定基準は見直さない姿勢。企業と患者との「全面解決」の意味がわかっているのか。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、1月10日号)

東電株主訴訟で求釈明――どうすれば防げたか

「福島第一原発事故はどのようにすれば防げたと考えるのかを明らかにせよ」――。東京電力の株主42人が現・元取締役27人を相手取り、原発事故の損害金として5兆5045億円を同社に賠償するよう求めている株主代表訴訟で、株主側弁護団が昨年暮れ、東電に対するこんな内容の求釈明書(質問状)を東京地裁に提出した。

 発端は、弁護団が昨年6月に出した準備書面。被告の取締役が対策を講じていれば原発事故を回避できた可能性があったことを指摘し、具体的な方法として、外部電源の強化、非常用電源の分散化や高所設置などを細かく挙げた。

 ところが、被告の取締役を支援するため訴訟に補助参加している東電は12月12日付の準備書面で、「津波には多角的な視点からの総合的な対策を検討する必要があった」とした上で、実現には「数多くの技術的な課題の解決のため、極めて多くの人的資源、費用や時間が必要」で、「現実には全く不可能だった」と主張した。

 そして、株主側が挙げた個々の対策を、(1)外部電源は耐震設計審査指針を遵守し、安全性を十分に備えていた、(2)非常用電源の設置場所は分散され、複数の構造になっていた、(3)高い津波を予見することは不可能だったので、高所設置は現実的な選択肢となり得なかった、などとことごとく否定した。

 これに噛みついたのが、株主側の河合弘之・弁護団長だ。12月19日の口頭弁論で「東電の基本的な態度に怒りを禁じ得ない」と強く批判し、冒頭の求釈明書提出となった。文面で「あれも駄目、これも無意味と『ケチ』を付けるばかりでは、国民も市民も納得しない。訴訟の争点も定まらない」と強調している。

 東電の弁護士は法廷で「回答の要否を含めて検討したい」と述べるにとどまっているが、河合氏は「この訴訟の原点。東電には言う義務がある」と話している。

(小石勝朗・ジャーナリスト、1月10日号)

原発事故の被曝と甲状腺がん――因果関係は本当にないのか?

甲状腺がんと被曝の問題を議論。正面・席上左から鈴木教授、津田教授。(撮影/藍原寛子)

甲状腺がんと被曝の問題を議論。正面・席上左から鈴木教授、津田教授。(撮影/藍原寛子)

 福島県の58人の子どもが甲状腺がん、あるいはがんの疑いと診断された福島県民健康管理調査。子どもの甲状腺がんは原発事故が原因なのか? 予防や治療体制はどうすればいいのか……。「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会」(主催・環境省と福島県、事務局・原子力安全研究協会)の第3回「甲状腺を考える」が昨年12月21日、白河市で開かれた。しかし専門家の見解が分かれ、健康対策や治療体制の充実についても議論は深まらず、県民の抱く疑問が解消されることはなかった。

 県民健康管理調査で甲状腺がんの検査や診断を行なう福島県立医科大学の鈴木眞一教授(外科・甲状腺内分泌学)は、「今発見されている子どもの甲状腺がんは放射線被曝とは関係がなく、(原発事故前から)既にできていたものと思われる。超音波機器はチェルノブイリ原発事故当時よりもずっと高性能で、小さな結節(しこり)なども見つかるようになっており、子どもでも早期に発見された(スクリーニング効果の)可能性が高い」と原発事故との因果関係を否定。これに対して、岡山大学の津田敏秀教授(疫学)は「100ミリシーベルト以下の被曝でも放射線によるがんは増加するが、“がんが出ない”、安全であるというような“雰囲気”が作り出され、建設的な議論を阻んでいる。因果関係はまだわからないが、発生率と有病割合の関係から、スクリーニング効果を考慮しても多発と言える。今は治療体制を早急に議論・整備することが必要で、その対策を否定する理由はない」と話した。

 主催者は当初、メディアに対し「冒頭撮影のみ」と動画取材を規制。前日夜にオープン取材となったが、開会前に環境省が「誹謗中傷対策を取る」との文書にサインをしなければメディアは会場に入れないとする一幕があり、知る権利や報道の自由に安易に制約を加える会議の問題点も露呈した。

(藍原寛子・ジャーナリスト、1月10日号)

マスコミ黙殺の本庄保険金殺人で大きな動き――新たに死因の再鑑定へ

東京高裁が再鑑定を行なう決定をしたことを公表する八木氏の弁護団。(撮影/片岡健)

東京高裁が再鑑定を行なう決定をしたことを公表する八木氏の弁護団。(撮影/片岡健)

1999年頃に熾烈な報道合戦が展開された埼玉県本庄市の保険金連続殺人事件から十余年。主犯格として殺人罪などに問われ、無実を訴えながら2008年8月に死刑確定した八木茂氏(64歳)の再審請求即時抗告審で新たに大きな動きがあった。しかし、マスコミがそろって黙殺する異様な事態が続いている。

八木氏は死刑確定後、09年1月にさいたま地裁に再審請求し、10年3月に請求を棄却されたが、現在東京高裁に即時抗告中。弁護側はこの間、八木氏が95年に愛人女性らと共謀し、トリカブトで毒殺したとされる知人の佐藤修一氏(当時45歳)の死因が実際は「溺死」だと複数の専門家の意見をもとに主張してきた。

そして昨年12月11日、ついに東京高裁が佐藤氏の死因の再鑑定を行なうと決定。同20日に東京・霞が関の司法記者クラブで会見した弁護団によると、「再鑑定では、保管された臓器に含まれるプランクトンの量から溺死と認められるのは確実」。これにより、遺体が川で見つかった佐藤氏が自殺だったとする弁護側の主張が法医学的に裏づけられ、再審が始まるのは確定的という。だが、この重大発表に関する報道は皆無だ。

実はこの事件は元々、捜査段階の報道の印象とは裏腹に証拠が乏しい。たとえば、八木氏らの関係各所でトリカブトが押収されたという報道(『読売新聞』00年10月20日付朝刊)や、佐藤氏の死亡時に見つかった遺書が八木氏の愛人の筆跡と酷似していたという報道(『朝日新聞』同年10月20日付夕刊)は八木氏らへの偏見を広めたが、そんな事実は存在しないと裁判で判明済みだ。

マスコミはこんな数々の誤報を垂れ流したまま、八木氏の死刑が妥当なように報じてきたのだが、再審の重大な新展開も黙殺してしまうのだろうか。再審の行方と共に報道のあり方も注目される。

(片岡健・ルポライター、1月10日号)

コンゴ日本大使館放火事件で疑惑浮上――地デジめぐる裏金隠しか!?

 アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)の首都キンシャサで昨年6月に起きた日本大使館の放火事件をめぐり、さまざまな憶測が飛び交っている。警視庁は同12月、現住建造物等放火の疑いで、当時大使館の会計業務を担当していた3等書記官の外務省職員(30歳)を逮捕。公金横領目的の放火として調べを進めているが、背景には大使館のずさんな公金管理の実態とともに、裏金を隠蔽するための工作だったとの疑念も浮かび上がる。

 火災は、キンシャサにある民間ビル3~4階に入った日本大使館の4階部分から出火し、約220平方メートルを焼いた。4階には職員の政務室があり、中央部分が特に激しく燃えていたとされる。さらに、焼け跡から見つかった金庫は空の状態で、現地職員の給料など日本円で2200万円相当の現金がなくなっていた。報道によると、逮捕された職員は警視庁の調べに対し「現金を使い込み、証拠を隠すために放火した」と供述しているという。

 この事件について外務省は、金庫の鍵は主に逮捕された職員が管理していたとした上で、この職員が複数の同僚から借金をしていたほか、現地のカジノに出入りしていたといった情報を日本のメディアに流している。そこからは、事件が職員の個人的な動機による犯行であると印象づけたい、外務省の思惑が強く感じられる。

 だが、コンゴの日本大使館では、この事件の前から日本政府のプロジェクトをめぐる関係者の不可解な動きがあった。これには相当の裏金も使用されたとみられており、

これを隠蔽するために放火事件が起きたとの説が、関係者の間でささやかれている。

 そのプロジェクトとは、コンゴで進められていた地デジ(地上デジタル)システムの導入をめぐって、日本方式を採用させようというものだ。コンゴはアフリカの中心に位置し、人口も多いため、日本政府は日本方式売り込みでの重要地域と位置づけていた。

 現地ではヨーロッパ方式がライバルとして火花を散らせていたが、ここで日本政府は「顧問」としてあるコンゴ人男性を採用する。このコンゴ人男性は、日本で国会議員の秘書として活動し、テレビにも出演したことのある人物。自らが持つ部族などの裏ルートを使い、日本方式採用に有利になるよう工作をすると持ちかけ、日本政府がこれに乗る形となった。

 だが、実際には地デジを司る省庁との交渉や、日本政府とコンゴ政府との仲介といった役割はほとんど果たさないまま。結果としてヨーロッパ方式が採用となり、男性に交渉をほぼ丸投げにしていた大使館は本国から責任を問われる事態になった。

 ここで問題となったのが、交渉に使われた多額の裏金だ。そうした痕跡を消すのに、放火事件は手っ取り早く、かつ確実な手段といえる。現地の事情に詳しい関係者は「火災で燃えたのは公文書の倉庫とパソコン。使い込みの証拠を隠すには大げさで、不自然です。コンゴ政府の情報機関も『何か隠したいことがあったのだろう』といった見方を示していました」と話す。放火の動機についても「使い込みの事実をつかまれて利用されたのでは」と、懐疑的だ。火災当時、大使館の監視カメラは作動しておらず、公用車が炎を避けるように所定の位置から離れて駐車していたという説も、こうした見方を補強する材料となっている。

 こうした疑念について、外務省関係者は「考えにくいこと」としながらも「日本から遠く離れた国の公館(大使館)では、公金のチェックが甘く、いわば『利権の宝庫』となりやすい」と指摘。「税金という感覚ではなく、湯水のように使えるカネという状態にあったことが背景にあったのは間違いない。事件の温床は、世界中に散らばっている」と話した。

 外務省は全ての在外公館に公金管理徹底を求める訓令を出し、抜き打ち検査を実施するなどの再発防止策も発表した。だが、第三者の目が入らないままでの「再発防止策」からは、事件の深層を隠そうとする思惑すら感じられる。

(北方農夫人・ジャーナリスト、1月10日号)