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帰還迫られる福島・田村市で放射線調査――除染道路の4割が効果なし

除染廃棄物約2000袋。田村市にある37の世帯からなる集落のみでこの量だ。(C)Greenpeace

除染廃棄物約2000袋。田村市にある37の世帯からなる集落のみでこの量だ。(C)Greenpeace

支援対象などの見直しがなされないまま、「子ども・被災者支援法」の基本方針が一〇月一一日、政府で閣議決定された。約四九〇〇件のパブリックコメント(意見公募)も無視された形だ。支援対象は福島県東部の計三三市町村のみ。一方で避難指示区域に指定されていた一部地域の指示が解除され、住民は「帰還」への決断を迫られる危険が出てきた。

 特に、「避難指示解除準備区域」に一部が指定されている福島県田村市では、「除染作業が完了した」とされる主要道路でさえ約四〇%の地点で年間一ミリシーベルト(mSv)を上回る空間線量が計測されたことが判明。除染効果の再評価を求める声が上がっている。

 国際環境保護を促進するNGO(非政府組織)グリーンピースが一〇月一日~五日にかけて、同市の道路や住宅とその周辺、田畑などで行なった放射線調査によって明らかになった。

 一〇日に東京都内で行なわれた記者会見によると、福島第一原発から二〇キロ圏内に位置する同市の主要道路約九〇キロメートル・一万八〇〇〇カ所で計測を行なった。結果、三九%の地点で放射線量が毎時〇・二三マイクロシーベルト(μSv)を上回っていることがわかった。一年間の放射線量を一mSvに保つために政府が目標としている値を超えるものだ。

 住宅の敷地については、線量は目標値以下となっており除染効果があったと言えるが、ある住宅ではほんの三〇〇メートル離れた細道に入ると線量が急に毎時一・四μSvにはね上がったという。

 東日本大震災直後から調査をしてきたベルギー出身でグリーンピース所属のヤン・ヴァンダ・プッタ放射線防護アドバイザーは、「除染されていない地域における空間線量が高すぎる。主要道路や家屋だけを除染しても、きれいな部分だけ縫って歩くように生活しろということになる」と指摘した。

(渡部睦美・編集部、10月18日号)

会長代行が暴力事件で敗訴、刑事責任の可能性も――麻生体制のクレー協会で不祥事

暴行事件の10日後に開かれた理事会から退席する麻生太郎会長。岸記念体育館前で。(撮影/中島みなみ)

暴行事件の10日後に開かれた理事会から退席する麻生太郎会長。岸記念体育館前で。(撮影/中島みなみ)

 二〇二〇年の東京五輪開催が決まったが、暴力指導や助成金不正受給問題などで国際的信頼を失墜させた全日本柔道連盟に続いて、日本クレー射撃協会(以下、日本クレー)の不祥事が明るみに出た。日本クレーの会長は、自ら選手経験もある麻生太郎副総理兼財務相だ。一体、何が起きたのか。

 日本の著名なスポーツ団体が事務局を設ける岸記念体育会館(東京・渋谷)。その由緒ある建物の一室で起きた暴力事件をめぐる損害賠償請求訴訟で、東京地裁は一〇月一日、原告勝訴の判決を下した。

〈被告は原告に対し、三四万八三五〇円を支払え〉

 被告は、麻生会長に代わって采配を振る日本クレーの高橋義博・会長代行。原告は同協会専務理事(当時)の福城一信氏だ。

 事件が起きたのは二〇一二年五月七日。口頭弁論で示された両者のやりとりを再現してみよう。

高橋会長代行「インチキ執行部なんだから、ちょっと席はずせ」

福城氏「私も総務の人間だからね」

高橋氏「早く席はずせ。ほら」

 そう言うなり、高橋氏は座っている福城氏に歩み寄り、その後ろ首筋を殴打したという。

 さらに「あんた手上げたね」と、福城氏はそのことに抗議するも、高橋氏は

「うん、早く席はずせ」と、取り合わなかった。

 そして、もう一度「手上げたね」と畳み掛ける声にこう答えた。

「うん、一一〇番でも何でもしろ。インチキ執行部。出て行け」

 この暴行で、福城氏は一カ月の通院を余儀なくされた。口頭弁論で高橋氏は、当時の両者の位置関係や殴ったとされる左腕が五十肩で上がらないことを理由に殴打することは不可能と主張したが、裁判所は認めなかった。

 協会会員の一人は頭を抱える。

「この判決は痛い。単に会長代行という団体のトップの不祥事というだけではない。銃砲所持の許可を受けたクレー射撃で、暴力事件が起きることは、警察の大きな関心を呼ぶ。そのことがどれだけスポーツ普及の妨げとなることか」

 クレー射撃で使われる銃は、実包に散弾を使ったショットガン。猟銃でも使われる散弾銃だ。〇七年、佐世保市のスポーツクラブで起きた乱射事件で猟銃が使われ、その後の銃所持は格段に厳しくなった。

 東京都内の銃砲店関係者はこう話す。

「申請や更新では、担当する生活安全課の警察官が、申請者の行状調査のために近所に聞き込みをする。銃所持の申請が出ていますが、けんかはありませんかってね。その時、暴力どころか言い争うことでもあったら、許可は下りません」

 警察官は、保管場所や設備の確認のために申請者の部屋にも来る。こうした所持のわずらわしさもあり、愛好家は年々減少。そんな中で起きた今回の事件は、さらに許可を厳しくする方向に向かいかねないと会員は心配している。

 それにしても、なぜこのような暴行事件が起きてしまったのか。

 日本クレーでは、高橋氏がののしる“インチキ執行部”派と、麻生会長が率いる一派で、一〇年に及ぶ争いを続けていた。お互いに協会私物化の是正という大義を掲げている。そのことが影響して、今でも通常の総会議決を経て人事が決まっていない。高橋会長代行も新人事を経ない暫定執行部だ。

 しかし今後、高橋会長代行の刑事責任も浮上する可能性がある。警視庁渋谷署がこの判決を受けて捜査を進めれば、当然ながら同氏の銃砲所持の許諾にも影響が及ぶだろう。一方で厳しい所持許可を行なっている警察の姿勢が問われるからだ。

 訴訟は協会を相手取ったものではないが、“腹心”の敗訴に、麻生会長に代わって協会参与である麻生氏の秘書・村松一郎氏が答えた。

「判決は《違法な有形力の行使》としているだけで《左手を握って手拳で殴打したとまで認めるに足りる証拠はない》としている。刑事事件になることはありませんよ」

 高橋氏は、判決について全面的に争うとして即日控訴した。

(中島みなみ・ジャーナリスト、10月18日号)

特捜チーム編成で、本腰捜査となるか――福島県警、告発状を正式受理

記者会見で告発状の受理を報告する、福島原発告訴団の佐藤和良副団長(中央)。(撮影/明石昇二郎)

記者会見で告発状の受理を報告する、福島原発告訴団の佐藤和良副団長(中央)。(撮影/明石昇二郎)

 福島第一原発から高濃度の放射能汚染水を垂れ流し続ける東京電力と同社幹部らを公害犯罪処罰法(公害罪法)違反容疑で市民が訴えていた告発状を、福島県警察本部が一〇月一一日、正式に受理した。

 同日に受理されたのは、福島第一原発事故の刑事責任を問い続ける「福島原発告訴団」の武藤類子団長ら三人が、九月三日に刑事告発していたものだ。汚染水対策の責任は東京電力に課せられているが、東電は汚染水管理のために必要な注意義務を怠り、汚染水タンクから高濃度の放射能汚染水を漏洩させる一方、地下水や海洋にまで汚染を拡大させていた。

 告発人の一人で、同告訴団の佐藤和良副団長は、告発受理を受けて東京の司法記者クラブで開かれた会見で、怒りをあらわにしながらこう述べた。

「国と東電は、太平洋を放射能の最終処分場だと考えているのではないか」

【強制捜査も視野】

 今回の「告発受理」で着目すべき点は、公害罪法を所管する同県警の生活安全部を中心に、関係部署を横断した「特別捜査チーム」が編成され、事件の捜査に当たることだろう。中でも、特捜チームに「刑事部」が加わっているのがポイントだ。

 特殊事件捜査を担当する「特殊班」を抱える刑事部も捜査に当たるということは、東電幹部らに対する業務上過失致死傷罪容疑の刑事告訴を受理していながら九月九日に不起訴処分とした東京・福島の両地検が最後まで着手することのなかった「現場検証」や「強制捜査」までも、県警本部が視野に入れていることを意味する。県警本部の“やる気”のほどがうかがえる。

 県警本部が告発を受理し、特捜チームまで編成する背景には、検察の「不起訴処分」に対する世間の評判がすこぶる悪いという現実がある。新聞各紙の「社説」でさえ、次のような論調だ。

「誰一人として、未曽有の大事故を招いた責任を問われない。被災地・福島の悲痛な告発は黙殺された。不条理極まりない結論だ」(『琉球新報』九月一一日社説)

「家宅捜索など強制捜査をしなかったのも疑問だ。任意では限界がある。捜査を尽くしたとは言い難い」(『北海道新聞』九月一二日社説)

 そもそも、放射能汚染水垂れ流し事件の捜査にしても、今回の告発を待たずに検察主導でやることもできたはずなのである。しかし検察は、汚染水垂れ流しを放置し、不問に付していた。

【検察審査会での審査に“追い風”】

 かつて環境基本法の第一三条では、放射性物質による大気汚染や水質汚濁、土壌汚染については原子力基本法体系によって規制することとし、環境基本法の範囲外であると定めていた。

 ところが、原子炉等規制法をはじめとする原子力基本法体系には、原子炉等の運転上の過失によって公共の危険を惹起したことを罰する規定が何もない。

 環境法体系に属する公害罪法が、放射性物質による環境汚染には適用されないとなると、他の有毒物による汚染は処罰される一方で、放射性物質による環境汚染だけが刑事的に不処罰という、きわめてバランスを欠いた話になる。

 そこで、福島原発事故後の環境汚染に対処するため、昨年六月の「原子力規制委員会設置法」成立とともに、環境基本法の一三条は削除された。

 つまり、東電の放射能汚染水垂れ流し問題に公害罪法が適用される素地は、十二分なまでに整っていることになる。でなければ、県警本部が今回の告発を受理することもありえなかった。

 同告訴団では一〇月一六日に、検察当局の不起訴処分を不服として、東京検察審査会に審査申し立てをする予定。その直前に刑事告発が受理され、県警が捜査に着手したことは、検察審査会での審査においても相当な“追い風”となりそうだ。

(明石昇二郎・ルポライター、10月18日号)

原発稼働せず、逼迫するのは電力会社の経営(弓削田理絵)

 9月15日、関西電力大飯原発4号機が停止、定期検査に入ることで、日本は1年2カ月ぶりに「原発ゼロ」になる。だが、再稼働申請されている原発は計12基。原子力規制委員会による新規制基準の適合審査が進められるなか、早ければ年明けにも再稼働される原発が出てくるかもしれない。

 九月一五日、唯一稼働中であった関西電力大飯原発4号機(福井県おおい町)が定期検査に入る。再稼働に反対する多くの国民の声を無視し、民主党野田政権(当時)が再稼働に踏み切ってから一年余り。日本は再び、「原発ゼロの日」を迎える。

関西電力の高浜原発。高浜原発3、4号機は再稼働申請されたが、津波想定の不十分さが指摘された。(撮影/編集部)

関西電力の高浜原発。高浜原発3、4号機は再稼働申請されたが、津波想定の不十分さが指摘された。(撮影/編集部)

 昨夏は、電力需給が逼迫するという関西電力の要請により、大飯原発3、4号機の再稼働が認められたが、昨夏の関西電力のピーク時の電力需要は二六八二万kW。猛暑だった今夏こそピーク時に二八一六万kWを記録しているが、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の松原弘直理事は、「今夏のような状況だと、関電はピーク時の電力供給に不安があった。だが、今年は昨年並みに電力需要を抑制するための節電目標を立てていない。西日本間の電力融通と企業によるピーク時の節電があれば、3、4号機が稼働しなくとも電力需給には問題ないはずだ」と言う。

 原発の停止に伴い、原発を持つ九電力会社は、「電力需給」の逼迫を訴え、各電力管内の消費者に対して節電を呼びかけた。最も電力需要が高まるとされる夏のピーク時の電力需要は、各会社ともに福島第一原発事故前(二〇一〇年)から減少している。

 一方、ISEPの試算によると、一〇電力会社の化石燃料購入費は二〇一〇年度の約三・一兆円から二〇一二年度は、約六・三兆円と倍増した。しかし、二〇一二年度の火力発電による化石燃料(LNG、原油、重油、石炭)消費は二〇一〇年度と比較して約三七%増加にとどまる。

 電力会社は、この間、火力発電の燃料費増加等を理由に電気料金の値上げを {お願い} しており、結果、今年九月までに東京電力をはじめ、北海道電力、東北電力、関西電力、四国電力、九州電力が値上げを実施している。

     値上げは仕方ない?

「原発関連の原価の八割は維持費。一方で火力の場合、ほどんどが燃料費。原発が稼働せず、火力が焚増しされれば、その分コストが上がるのは当たり前で、今が一番高い状態」

 大島堅一立命館大学教授はこう指摘する。大島氏は、関西電力が値上げ申請時に提出した資料をもとに原発を廃止した場合の影響を試算。大飯原発3、4号機、高浜原発3、4号機の発電量を仮に火力で代替したとしても、その焚増し燃料費は、原発のコスト(維持費等)を下回る可能性があるとして「再稼働か値上げか、は選択肢でない。本来、原発廃止か維持か。原発を廃炉にすれば、原発のコストがなくなるので、原発ゼロで国民負担が増えることにはならない」(大島氏)という。

     ツケは消費者に転嫁?

 だが、原発を廃止した場合、電力会社の損益には大きな影響が出る。稼働四〇年未満の原発が廃炉になれば原発施設の資産価値がゼロになり、巨額の除去損が生じる。結果、会計上マイナスになり、電力会社は債務超過に陥るといわれる。そのため政府は六月に廃炉費用の一部も電気料金に算入できるよう検討に入った。

 また、関西電力はオール電化住宅割引(はぴeプラン)を継続している(二〇一五年四月一日以降は新規加入休止)。火力燃料費の増加で厳しい経営状況のため、電気料金の値上げをしたはずだが、なぜ、オール電化の場合には一〇%もの割引ができるのか。その分、一般消費者の値上げ分に上乗せされているのではないかとの疑念も生じる。関西電力に見解を尋ねたが、期日内に回答を得ることができなかった。

「原発が稼働できないのは、電力会社が”安全な原発” を作らなかったのが原因。原発依存による経営の失敗の責任は電力会社が取るべきこと。なぜ、その肩代わりを消費者がする必要があるのか。原発に依存して変な経営をしたら潰れるという方が、本来、健全ではないのか」(大島氏)

 現在、再稼働申請がされているのは、六原発の計一二基。新規制基準で求められるのは、フィルター付きベント装置(沸騰水型のみ)や緊急時対策所の設置などだが、原子力資料情報室の伴英幸さんは、「各原発ともに自然災害への対策が不十分。地震や津波のみならず、火山(噴火)や竜巻などもある。また、立地自治体および三〇キロ圏内の自治体の防災計画は十分なのか」と指摘する。

 九月五日には、大飯原発直下の断層が活断層でないとの結論が出たとして、原子力規制委は申請中であった大飯原発3、4号機の審査再開を表明した。再び、大飯原発再稼働に向けた動きが加速する可能性もある。

 安倍政権は「原発再稼働」「原発輸出」を掲げている。今や原発は、安全性や電力の問題ではなく経済の問題にシフトした。もはや逼迫しているのは電力需給ではなく電力会社の経営の方なのだろう。

(ゆげた りえ・編集部。9月13日号)

「入れ墨は伝統」、アイヌ民族が抗議――先住民マオリ女性を入浴拒絶

「この温泉施設固有の問題ではない」と語る小川さん(左)。右は石井さん。(撮影/平田剛士)

「この温泉施設固有の問題ではない」と語る小川さん(左)。右は石井さん。(撮影/平田剛士)

北海道を旅行中だったニュージーランドの先住民族マオリの女性が、恵庭市内の温泉施設で入れ墨を理由に入浴を拒絶される事件が起き、北海道の先住民族アイヌの間から日本社会の不寛容に対する抗議の声が上がっている。

 被害にあったのは、ハミルトン市でマオリ語の復元活動に取り組むエラナ・ブレワートンさん(六〇歳)。アイヌ民族との交流事業のため来日中だった先月八日、札幌市内の豊平川で執り行なわれたアイヌの「アシリ・チェップ・ノミ(新しいサケ迎えの儀式)」に参加後、食事に寄った温泉施設で入浴を断られた。ブレワートンさんは唇と顎にマオリの伝統的な紋様のモコ(入れ墨)をしている。

 事件を受けて市民グループ「少数民族懇談会」(会長はアイヌの清水裕二さん)は同月一三日、施設や政府に「異なる国や民族の文化を学び受け入れる努力を」と要望。またアイヌ長老会議の小川隆吉さん(七八歳)は今月二日、一一三筆の署名を集め、公衆浴場法に基づき同施設の運営を監督する立場にある高橋はるみ道知事に、謝罪などを求めた。

 アイヌ女性も口の周りに入れ墨をする文化がある。しかし明治政府は「陋習」(いやしい習慣)と決めつけて一八七一年、「自今出生ノ女子、入墨等堅禁ベキ事」と布達。和人との同化政策を進めた。

 原住・アイヌ民族の権利を取り戻すウコチャランケの会代表の石井ポンペさん(六八歳)は、「亡くなった祖母は入れ墨がありました。でも外出時は(口元を隠すために)いつも頬かぶりをしていた」と振り返る。多数派政府による一方的な風習禁止が差別感を生み、アイヌたちを苦しめてきた。

 今回のような事件は「入れ墨=やくざ→入浴お断り」の安易なマニュアルを持つ施設ならどこでも起こりうる。こんな日本はいまだ少数者を切り捨てる社会だと批判されても、反論は難しい。

(平田剛士・フリーランス記者、10月11日号)

国連で各国政府閣僚が宣言採択――LGBT差別撤廃を

 国際社会で長年無視され続けてきたセクシュアルマイノリティに関する問題に世界が声を上げた。九月二六日、国連本部(ニューヨーク)に各国政府の閣僚級が集合し、「性的指向及び性自認に基づく暴力及び差別をなくすための閣僚宣言」を採択した。この問題で、閣僚級が一堂に会したのは初めて。

 米国のケリー国務長官やオランダ・ブラジル・クロアチアの外務大臣らに続き、日本の新美潤国連大使も「性的指向や性自認に基づく暴力や差別そして差別的刑罰などLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)に対するあらゆる形態の人権侵害を撤廃すべき」と述べた。

 LGBTの人権問題に関しては、かねてから潘基文国連事務総長も「きわめて重大で無視されてきた人権上の課題」とアピールを続けてきていた。

 世間で「愛ってすばらしい」とのんきにしていられるのは異性愛者の話だ。「愛」が処罰対象となる国は多く、合意に基づく同性愛行為が犯罪として処罰の対象となる国は七六以上に上る。世界各地に同性愛憎悪がはびこり、暗殺もおきている実態を二〇一一年の国連報告書が浮き彫りにした。日本を含む多くの国でも結婚できないことを含め差別が蔓延している。

 日本政府は実は、国連のLGBTコアグループのメンバーで、アジアからは唯一の参加国となる。このほか、アルゼンチン、クロアチア、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、米国、国連人権高等弁務官、さらにNGO(非政府組織)であるヒューマン・ライツ・ウォッチなどが参加しており、この閣僚級会合もコアグループが主催した。

 日本政府がコアグループに所属し声を上げた意義は大きい。今後は、世界中のLGBTが愛を貫けるよう、今回の宣言を実行に移すリーダーシップを期待したい。

(土井香苗・ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表/弁護士、10月11日号)

“改憲派”安倍政権への危機意識高まる――秘密保護法案の成立阻止を

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「安倍政権でどうなる私たちの人権 監視・管理・統制がすすむ社会」と題するシンポジウムが一〇月三日、東京都内で開かれた。主催は全国労働組合総連合、自由法曹団、国民救援会の三団体。

 コーディネーターの泉澤章氏(自由法曹団事務局長)は「一九八〇年代に国家機密法案が提出された際は、マスコミも学者も、自民党の一部も引き込んで反対運動を展開した。特定秘密保護法案についても、成立阻止に向けた運動に取りかかりたい」と語った。

 パネリストの田島泰彦氏(憲法学)は「『特定』の対象は(1)防衛、(2)外交、(3)特定有害活動(スパイ行為など)の防止、(4)テロリズムの防止に関する事項とあるが、国家の秘密を保護する枠組みは公務員の守秘義務など、既存の法律でカバーされている」とした上で、「特定秘密保護法案はそれをさらに厳重にするというが、何を『特定秘密』とするかは行政機関の各責任者が勝手に決めることができる」と指摘。「憲法を根本的にひっくり返す内容」だと批判した。

 同じくパネリストの北村肇本誌発行人は「同法では『公共の安全と秩序の維持』が謳われているが、たとえば原発などは警察が担当する領域。そうしたものにも『特定秘密』の範囲を拡大させれば、事実上の治安維持法となる」として、メディアを含めた広範な運動の必要性を訴えた。

 一〇月七日には「九条の会」が「集団的自衛権行使による『戦争する国』づくりに反対する国民の声を」との声明を出し、都内で会見を開いた。作家の大江健三郎さんは「自衛隊が米国の言うとおりに働くよう政府が決めることになれば、戦後かつてない大転換。それは日本人にとって後戻りできない不幸な、危険な、悲惨なことへの転換である」と危機感を語った。

 同会は一一月一六日に都内で九条の会第五回「全国交流・討論集会」を開く。

(本誌取材班、10月11日号)

規制法の議論が沸騰する可能性――ヘイトスピーチに違法判断

「在日特権を許さない市民の会」(在特会)による学校周辺でのヘイトスピーチ(差別扇動表現)で授業を妨害されたとして、被害を受けた京都朝鮮初級学校を運営する京都朝鮮学園が、在特会とその会員九人に対して街宣活動の禁止と三〇〇〇万円の損害賠償を求めた裁判で、京都地裁(橋詰均裁判長)は一〇月七日、「著しく侮辱的、差別的で人種差別に該当し、名誉を毀損する」と違法性を認定。同会に街宣の禁止と約一二〇〇万円の賠償を命じた。

 露骨な憎悪行動が激化する中での初の司法判断だ。橋詰裁判長は「在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える差別的発言」と認定、日本も批准する人種差別撤廃条約に違反するとしたが、日本は第四条の罰則については留保している。

 同学園の孫智正理事長は「悪質性を認め、ヘイトスピーチ的な言動を今後、抑止する上で有効になりえる」と評価し、原告側弁護団は「民族教育の充実に尽力している教職員や父母を勇気づける判決」と喜んだ。

 在特会の会員らは二〇〇九年秋、京都市南区にあった同校前身の第一初級学校が学校近くの公園を運動場代わりに使ったことを理由に街宣を開始。学校周辺に街宣車で乗り付け、拡声器で「キムチくさい」「北朝鮮のスパイ機関」「犯罪者に教育された子ども」などと連日叫んだ。学校側は一〇年六月に同会を提訴。その後、会の幹部四人が威力業務妨害罪で逮捕・起訴され有罪判決を受けた。

「表現の自由の保護範囲内」と反論していた在特会側は判決を受け、八木康洋副会長が「あくまでも在日特権を排する活動。その目的で続けていく」とコメント。同会の代理人弁護士も「民族差別を理由に政治的な表現を封殺されかねない」と話した。ドイツなどは刑法でヘイトスピーチを禁じているが、日本でも論議が沸騰しそうだ。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、10月11日号)

「凍土方式」の杜撰さ浮き彫り――東電破綻処理の議論再燃か

「凍土方式」の決定過程などについて追及する馬淵澄夫氏。(撮影/横田一)

「凍土方式」の決定過程などについて追及する馬淵澄夫氏。(撮影/横田一)

 福島第一原発の汚染水問題で、経済産業委員会の閉会中審査(九月二七日、三〇日)において、政府の目玉対策である「凍土方式」の杜撰な決定過程が明らかになった。三二〇億円の国費が投入される「凍土方式」は、同原発をはじめ原発建設を多数受注してきた鹿島が提案、今年五月の汚染水対策委員会で最終決定したものだ。

 しかし原発事故当時、首相補佐官だった民主党の馬淵澄夫元国土交通大臣は、汚染水対策の責任者として「粘土の地下遮水壁」(推定事業費一〇〇〇億円)に決定したが、二〇一一年六月の記者発表は延期され、補佐官の辞任後、計画自体の実行も見送りとなった。

“馬淵案”を予定通り進めておけば現在のような深刻な汚染水漏れを招くことはなかったのは明らかだが、三〇日の委員会で馬淵氏は、入れ替わるように浮上した「凍土方式」の決定過程について問うた。

 政府の中西宏典大臣官房審議官の答弁は「総合的に検討して、凍土方式が妥当と判断」。これに対し馬淵氏が、凍土方式選定の大きな理由となった「透水係数(水をどれくらい通すかの係数)=ゼロ」の根拠を問い質すと、驚くべき回答が返ってきた。

 実験やシミュレーションのデータに基づいた数字ではなく、工学的に「水が凍った場合に水は動かなくなる」という理論上のものにすぎないことを政府が認めたのだ。馬淵氏が「検討に値するのか」と首を傾げたのは当然だった。

 凍土方式は、地中に埋設した冷却管が冷えて周辺の土を凍らすもの。だが、現場の土は粘土質の細かいものから荒い砂や礫、岩まである。礫や岩のところには空隙があり、そこは水がないため、凍らない。「汚染水がそこを通って流れ出す可能性もある」などと馬淵氏が懸念したのはこのためだ。

 また凍土方式は、トンネル工事で土の崩落を防ぐための「土止め工法」であり、地下水の流れが少ない地点を選んで使われることも馬淵氏は指摘した上で、「地下水の実流速度を測っているか」とも聞いたが、中西審議官は「流速は測っていません」と回答。確認作業をせずに、地下水の流れが強いところでは使用されない凍土方式を選んだのだ。

 しかも馬淵氏は、一方の「粘土の地下遮水壁」が、高速道路工事の遮水壁や米軍の核兵器工場でも使用された実績を有する在来工法であるとの答弁も引き出した。

 その上で、政府の報告書には「(凍土壁を造っても)長期的なメンテナンスは困難になるがゆえに、その後は比較的高い遮水能力があり、維持管理が簡単な粘土による遮水壁に入れ替えを行なうことも検討するべきだ」と書いてあることも判明。「凍土方式」はあくまで“一時しのぎ”の対応だったことも露呈した。

 不適切な工法選定を招く諸悪の根源は、破綻処理の議論を再燃させたくない政府の場当たり的姿勢と、安全よりもコストを重視する東京電力の経営体質にある。

 新型アルプスを含め四七〇億円の国費投入が決まったが、これが東電破綻処理に直結するわけではない。資源エネルギー庁は「『凍土方式』は研究開発段階にあるため、高度な技術を有する鹿島に直に発注する。これは東電への税金投入には当たらない。一方、在来工法の『粘土の地下遮水壁』は研究開発段階にないので、東電への税金投入になる」と見ているためだ。

 東電への税金投入となれば、株主や金融機関や経営陣の責任を問う「東電破綻処理」の議論が再燃するのは確実。それを避けるために、机上の理論(空論)にすぎない「研究開発段階」の凍土方式が採用された可能性が高い。これでは、福島第一原発が実験場と化す。鹿島をはじめ原子力関連企業に血税が投入されはするが、実効的な事故処理につながる保証はないのは言うまでもないことだ。

 六日の民放番組「新報道二〇〇一」では、馬淵氏がリスクの過小評価につながる現在の東電の経営形態を問題視すると、自民党の塩崎恭久政調会長代理は分割案を提案。秋の臨時国会で、東電破綻処理の議論が再燃するのは確実だ。

(横田一・ジャーナリスト、10月11日号)

国連での安倍首相発言に批判――ごまかし許さない!

「慰安婦」問題解決に取り組む団体・個人が参加する「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」(梁澄子、渡辺美奈共同代表)は九月二七日、安倍晋三首相が国連総会で「女性に対する性的暴力」について発言したことに対し、首相が「『慰安婦』問題の事実と責任を直視し、被害者への謝罪と賠償を直ちにおこなう」よう求める緊急声明を発表した。

 安倍首相はこれまで、「慰安婦」について「『朝日新聞』の誤報」によって「まるで事実かのように、日本中に伝わっていった」(二〇一二年一一月の党首討論)などと、問題自体が存在しないか、存在しても「狭義の強制性を裏付ける証言はなかった」(〇七年三月参議院予算委員会)として政府責任を回避する言動を繰り返してきた。

 国連総会で安倍首相は、「慰安婦」問題に触れずに「二一世紀の今なお、武力紛争のもと、女性に対する性的暴力がやまない」として、「不幸にも被害を受けた人たちを、物心両面で支えるため、努力を惜しまない」と演説している。

 これについて緊急声明では、「自らの責任からは目を背け、『イメージアップ』のためにこれ(女性に対する性的暴力)を利用しようとしているのだとしたら、断じて許すことはできない」と批判。さらに、「日本政府が女性の権利を守る国際的な取り組みを支援することは歓迎すべきことである。しかし、そのことをもって日本軍『慰安婦』被害者に対する加害責任を免れたり、ほんの少しでも薄めたりすることはできない。また、二一世紀の武力紛争下の性暴力を強調することで、二〇世紀の日本の戦争犯罪をごまかすことはできない」と指摘している。一方、米『ウォールストリート・ジャーナル』紙も九月二五日付で、「首相は、米国で『慰安婦』が話題になっていることに困り、日本は変わったかのように示そうとした」との日本人識者のコメントを掲載している。

(成澤宗男・編集部、10月4日号)