週刊金曜日公式ブログ 週刊金曜日ニュース

超党派103名の議員が賛同――「脱原発基本法案」を国会提出

左から大江健三郎氏、宇都宮健児弁護士、木村結氏=9月7日の記者会見。(撮影/古川琢也)

 脱原発の法制化を目的とした日本で初めての法案「脱原発基本法案」が九月七日、国民の生活が第一、社民党などの議員により衆議院に提出された。

 作家の大江健三郎氏、ルポライターの鎌田慧氏、宇都宮健児弁護士などが代表世話人を務める市民団体「脱原発法制定全国ネットワーク」が法案をまとめ、議員たちに働きかけて実現した。脱原発を「遅くとも二〇二〇年から二五年までのできる限り早い三月三一日までに実現されなくてはならない」(第三条一項)とするほか、同四項では、最新の科学的知見に基づく災害防止基準に適合しない限り、原発の運転を認めないなどと定めている。「最新の科学的知見」に基づく災害防止基準は、「脱原発法制定全国ネットワーク」の見解によれば現時点で存在せず、大飯原発の再稼働も違法と判断されるという。

 法案は次期国会での継続審議がすでに決定。七日時点で民主党、みんなの党などを含む一〇三名の衆参両議員が賛同しているが、日本共産党では「手続きが拙速に過ぎ、十分な検討をする時間がない」(国会対策委員会事務局)として、賛否を保留している。

 七日に行なわれた代表世話人の記者会見によれば、同法案を着想したのは約一カ月前で、国会提出までごく急ピッチで漕ぎ着けたもの。だが、代表世話人の一人である木村結氏(脱原発・東電株主運動)は「拙速との批判もあるが、ものごとにはスピードが大事。原子力ムラの巻き返しが加速している今だからこそ、ぜひこの法案を通してほしい」と語る。法案可決には国会議席の過半数が必要になるが、「この法案に賛成か反対かは、次の選挙における決定的なリトマス試験紙になりうる」(河合弘之弁護士、同ネットワークの代表世話人の一人)としており、法案を次の選挙の最大の争点としてほしいという考えだ。

(古川琢也・ルポライター、9月14日号)

自殺率の高い性的マイノリティ――支援サイト立ち上げ

 若年層自殺の増加が指摘される中、性的マイノリティという立場に悩み、自ら命を絶つ人へのメッセージサイト「ハートをつなごう学校」立ち上げの説明会が九月七日、参議院議員会館で開かれた。共同代表のうち石川大我さんと杉山文野さんの二人が、サイト立ち上げの動機や特徴について語った。

 ゲイであることを公表している東京・豊島区議の石川さんは「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)当事者が孤立しないよう、自殺防止とイジメ防止につなげたい」とあいさつ。石川さんは二五歳まで自分以外の当事者に出会うことがなかったが、インターネットを通じて多くの当事者とつながりを持てるようになった。「このサイトが生きるきっかけになってほしい」と述べた。

 杉山さんは、身体は女性として成長し、心は男性として成長した。「女子高生」として学校に通っていた過去に触れながら「引き裂かれるような思いだったが、怖くて誰にも言えなかった。死にたい、死にたいと布団をかぶっていた時期もある」と吐露。「バラエティでネタになっているオネエたちだけではない。一般企業で働いているセクシュアル・マイノリティの存在を可視化することは意味があるはず。悲観はしていない」と語った。

 八月二八日に閣議決定された自殺総合対策大綱では、性的マイノリティの自殺率の高さに初めて言及した。今後、どう具体的な対策に結びつけていくかが課題だ。

 石川さんらがサイト立ち上げのヒントにしたのが米国の性的マイノリティ向け動画サイト「It Gets Better」(状況はよくなる)。この中にはオバマ大統領や歌手のレディー・ガガさんらがメッセージを寄せている。

 本サイトには「ハートをつなぐ大使」として作家の石田衣良さんや歌手のソニンさん、タレントの山田邦子さんなどがメッセージを寄せており、今後、首相のメッセージも入るよう働きかけるという。(サイトURL http://heartschool.jp/)

(野中大樹・編集部、9月14日号)

野田首相が有利と報じられる民主党代表選――「非野田勢力」結集なるか

「野田勢力」と「非野田勢力」で算出すれば両者は拮抗している。(撮影/小谷洋之)

 野田佳彦代表(五五歳)の任期満了に伴う民主党代表選挙が九月一〇日、告示され、二一日の投開票に向け実質一〇日間の選挙戦がスタートした。

 この代表選挙で選出される新代表の任期は二〇一五年九月まで、つまり消費税一〇%値上げ(二〇一五年一〇月)直前までの三年間で、少なくとも解散までの間の総理大臣に指名され、解散総選挙の民主党の「選挙の顔」となることが求められる。

 現在の民主党は三年前の大ブームとはうって変わり、結党以来の逆風のなかにある。それは「消費税増税」などマニフェスト違反をはじめ、「三党合意」などによる野田官邸の強引な政治手法が国民に呆れられたためである。「このまま野田首相で解散したら惨敗だ」もとい「自分が犬死してしまう」との危機感から、選挙の告示直前まで野田首相に勝てる強力な候補とその支持の一本化が模索され、そんな中、細野豪志原子力行政担当相(四一歳)の出馬が取り沙汰されたが、断念を余儀なくされた。

 このまま野田首相の対抗馬はでてこないのかと心配もされたが、一〇日の告示日には「社会保障・税一体改革の実現」「TPPと日中韓FTA、東アジア経済連携協定を同時並行して推進」と再選を目指す野田首相に対して、「原発ゼロ社会の早期実現」「TPPへの参加は、国益を踏まえ慎重に行なう」を謳う赤松広隆元農林水産相(六四歳)、「増税の前にやるべきことをやる行革特命政権」「TPP交渉については不参加」「一体改革の三党合意の破棄の確認」と総理と真っ向から対決する原口一博元総務相(五三歳)、前回の代表選(二〇一一年)に続き出馬の鹿野道彦前農水相(七〇歳)が「社会保障は、政権が変わるたびに変えるべきではなく、三党合意をベースにし、民主党としての主張をしっかり行なって成案を得る」と政策をアピールした。

 それでは新代表すなわち新総理は誰になるのか。新聞・テレビなど大手メディアは菅・岡田・前原・玄葉各氏など幹部の支持をとりつけた野田首相優勢と報じる。

 だが野田首相が開票一回目で過半数を制することができず、一位・二位での決選投票で、「二・三・四位」が一本化した場合、番狂わせが起こる可能性があるのだ。

 やや乱暴な方法になるが、野田陣営と非野田陣営の実勢を算出してみたい。

 民主党の各派閥(グループともいう)は所属議員数を公表していないし、メディアなどに掲載される推定数も二重所属などがあり、代表選挙の票読みには使いづらい。

 対して確実に勢力を読めるのが一一年代表選挙「一回目投票」の投票先である。前回、野田首相に投票した勢力は今回も高い確率で野田首相に投票すると推定して「野田勢力」とし、野田首相に投票しなかった勢力を同じく「非野田勢力」とした。なお「非野田勢力」から「国民の生活は第一」の勢力は差し引いている。

◎野田勢力

野田一〇二票+前原七四票=一七六票

◎非野田勢力

(鹿野五二票+馬淵二四票+海江田一四三票)-生活四九票=一七〇票

 意外と勢力的には接戦状態となっていると見られるのだ。

 非野田勢力の候補が一本化すれば、野田首相再選の大きな壁となる。決選投票で、「野田の再選を許すまじ!」と小異を捨て「二位・三位・四位」連合が成立したら、逆転もアリなのだ。一一年代表選挙において一位・海江田氏を逆転した野田首相の如く。

 最後に、代表選挙のルールを解説しておく。代表選挙はポイント制で争われ▼国会議員には一人に二ポイントが付与され計六七二ポイント▼党員・サポーターには計四〇九ポイント▼地方議員には計一四一ポイント▼公認候補予定者には九ポイントの合計一二三一ポイント(過半数は六一六ポイント)。

 一回目の投票で過半数を取る候補がいない場合は、一位と二位を候補として、国会議員の直接投票による決選投票となる。

(小谷洋之・ジャーナリスト、9月14日号)

原発事故直後の録画・録音――裁判所保管で合意

 東京電力福島第一原発事故の発生直後に東電本店と同原発を結んで行なわれたテレビ会議の録画・録音が、当面、裁判所に保管されることになった。報道関係者への一部公開が終われば消去・改竄されるのではないかという疑念は、とりあえず回避されそうだ。

 東電の株主が勝俣恒久前会長ら現・元取締役二七人を相手取り、原発事故による五兆五〇四五億円の損害を個人の財産で会社に賠償するよう求めて東京地裁に起こした株主代表訴訟で、八月二九日、原告・株主側と東電が合意した。

 株主側弁護団の説明によると、昨年三月一一日~三一日のテレビ会議の録画・録音(一部の映像・音声は欠落)について、(1)東電は原本を廃棄・消去しないことを約束する(2)東電はピー音やぼかしの入っていない原本のコピー(DVDとブルーレイディスクで計一五五枚)を裁判所に任意で提出する――が合意の柱。

 ただ、裁判所は保管するだけで、ただちに証拠に採用して中身を調べるわけではない。証拠として開示させるには、株主側が訴訟の争点に関連する部分(日時、内容など)を特定して請求し、(1)東電が受け入れて自ら開示するか(2)裁判所が東電に対し提出命令を出す――といった手続きが必要だ。

 今回の措置により、東電が開示する録画・録音が改竄されていないかどうか、株主側は裁判所が保管しているコピーと照合して確かめることができる。

 株主側は、同期間のテレビ会議の録画・録音を証拠として保全(=内容を開示)するよう申し立てていたが、合意に伴い取り下げた。東電が被告の取締役を支援するために申し出ていた「補助参加」も認めることになった。

 株主側にとっては不満も残る内容だが、弁護団長の河合弘之弁護士は記者会見で「国民の共有財産である録画・録音が毀滅・改竄されることはなくなった。引き続き全面開示を要求していく」と合意の意義を強調した。

(小石勝朗・ジャーナリスト、9月7日号)

田中稔氏が特派員協会で会見――海外から支援の声

 本誌二〇一一年一二月一六日号の記事を「名誉毀損」とされ、原発警備会社ニューテック社元経営者・白川司郎氏から六七〇〇万円の損害賠償請求(スラップ訴訟)を起こされているジャーナリストの田中稔氏が八月三一日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を開いた。会見で同氏は「原発関連事業により巨額の利益を享受してきた者によるジャーナリスト個人に対する明白な“原発スラップ”である」と語った。

 今回の訴訟に対しては、海外からも支援の声が上がっている。報道の自由を掲げる「国境なき記者団」(本部・パリ)は、「名誉毀損で訴えられている調査報道ジャーナリスト田中氏を全面的に支援する」との声明文を同日公表。「同訴訟で田中氏が勝訴した場合でも、多くのジャーナリストは訴訟の復讐劇を目撃したことにより、政治的にやっかいな問題の報道に対して“自己規制”を強いる結果になりかねない」と懸念を示した。

 会見に出席していたドイツ人特派員は「ドイツでは記事を書いた個人が訴えられることは法律上あり得ない。裁判になったとしても、ジャーナリスト組合があって裁判費用は保険で賄える仕組みになっている。日本にはそうした組織はないのか?」とあきれた様子。

 会見で通訳を担当した米国のジャーナリスト、ジェイク・アダルスタインさんは「大手メディアが田中さんの問題を一切取り上げないのは酷い。こうしたケースでは最初はフリーランスが狙われますが、最終的には大手報道機関も黙殺されます。この訴訟で負けたら、マスコミ全体の負け」として、同記者会見に参加しなかった報道機関の無関心さを批判した。

 一方、九月三日には東京地裁で本裁判の証拠提出が行なわれた。

 次回の裁判は一〇月一五日午前一〇時四五分、東京地裁六一五号法廷で実施され、白川氏の弁護士が反論予定。

(瀬川牧子・ジャーナリスト、9月7日号)

元准看護師に労災認定――タルクで中皮腫発症

 手術用の薄いゴム手袋が再利用されていた頃、ゴム手袋を洗った後にまぶすタルクという粉に含まれるアスベストが原因で、中皮腫を発症した山口県の元准看護師、河村三枝さん(五二歳)に、山口労働基準監督署が労災を認めた。

 こうした作業は当時一般的で、ベテランの看護師や元看護師らが中皮腫などに罹患している可能性がある。

 河村さんは一九八一年から数年、山口県内の産婦人科病院に勤めていた頃、この作業を月に二、三回はしていたという。「洗濯場横の普通の部屋で粉まみれになった」と会見場で実演して見せた。

 二〇〇八年ごろから疲労感を感じ、職場の健康診断で引っ掛かり、胸膜中皮腫が手術できない段階になっていた。

 アスベストとの関連は思い当たらなかったが、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の古川和子会長に「粉っぽい物を扱うことはなかった?」と訊かれ、判明した。

 タルクは滑石と呼ばれ、アスベスト鉱脈の近くで採掘されるので、アスベストを自然含有することが多い。八六年にベビーパウダーが問題になり、現在はアスベスト含有量〇・一パーセント以上のタルク製品は製造、使用が禁止されている。「労災が認められてうれしい。ピースサインしましょうか。名前は桂三枝でーす」と会見で朗らかに振舞った河村さん。名乗り出たのは他の医療従事者にも少しでも早く検査してほしいという一心からだ。「アスベストの作業をしていた人なら心配もするでしょうけど、こういうのは『まさか』です」。

 看護師、准看護師、保健師、助産師やOBで構成する公益社団法人・日本看護協会の広報部は「まだ会員から問い合わせはないのですが、ニュースを知らない人も多いのでホームページや広報誌でお知らせします。意外なことが原因で驚いていますが、会員が病気になっている可能性もあるので健康診断などの呼びかけも検討します」としている。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、9月7日号)

96年の文書にあったオスプレイ配備の記述――市民団体が防衛省に提示

 森本敏防衛大臣がモロッコのオスプレイ事故調査報告を沖縄県知事に行なった八月二九日、東京・永田町では、辺野古問題に取り組む国会議員と四つの市民団体が防衛省と外務省のオスプレイ担当者を対象にヒアリングを開催。その中で市民団体側は「日本政府が持参した文書かどうか、保管されている文書と照合を」と防衛省に、ある文書を突きつけた。

 文書は一九九六年一一月二七日付で在日米軍司令部が太平洋軍総司令部など四カ所に送ったもの。一枚目には「防衛庁のタカミザワ氏から」の情報であると書かれ、(1)普天間返還に関するSACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終合意案(2)説明文書案(3)オスプレイ配備について沖縄防衛施設局から沖縄県および地元住民に説明するためのQ&Aの三点がそれに続く。

 これを読めば当時、日米安全保障協議委員会が協議した時に、普天間代替施設を建設してヘリコプターの運用機能をほとんど吸収し、一部はオスプレイに交代する予定だったことが分かる。

 ところが、防衛省日米防衛協力課の原田道明・防衛部員は、文書は「米国が作ったもの」として、日本政府による文書作成を否定。「保管期限があり、全てを把握したわけではない」としながらも二度、三度とその存在を否定した。オスプレイ配備を日本政府が知ったのは米国から発表があった昨年六月、正式通知は今年の六月二九日だという。

 沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団の真喜志好一さんによれば、問題の文書は米国で提訴中のジュゴン裁判で米国側が出した。「当初、米国は辺野古の基地建設は日米地位協定で日本が作るから米国は責任を持っていないと裁判の却下を主張し、日米協議の議事録を出してきた」文書の一つだという。沖縄地裁には、低空飛行をするオスプレイ配備による環境影響は大きく、その情報を隠蔽していたとして環境アセス(影響評価)のやり直し訴訟を提起している。

 タカミザワこと、高見沢将林防衛省防衛研究所所長にこの件を問うと、同研究所総務課から「一九九六年は高見沢所長は普天間にかかわっていない」とありえない回答が返ってきた。これでは米国に存在、日本に不存在の第二の外交文書問題ではないか。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、9月7日号)

拉致問題と改憲を一緒くたに

石原慎太郎東京都知事。呂律が回らなくなることも。(写真/野中大樹)

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に拉致された被害者の救出を求める「すべての拉致被害者を救出するぞ! 国民大集会」(主催は「家族会」や「救う会」など5団体)が9月2日、東京都内の日比谷公会堂で行なわれ、約2000人が集まった(14ページに関連記事)。

 野田佳彦首相は、2002年に5人の被害者が帰国して以後、進展がないことを「痛恨の極み」とし、松原仁拉致問題担当大臣は「拉致問題解決を抜きに国交正常化はない」と息巻いた。

 参加者が熱狂したのは、登壇者が「憲法」について言及した時だ。口火を切ったのは拉致議連会長の平沼赳夫衆議院議員(たちあがれ日本)。平沼氏は被害者家族が書いた論文に「憲法を変えない限り、拉致被害者は戻ってこない」との記述があることを紹介した上で「(憲法改正に向けて)一致団結、行動していかなければなりません」と一気に論理を飛躍させたかと思うと、石原慎太郎東京都知事が「(憲法の)改正、改正というが、この憲法は捨て去ったらいい。廃棄したらいい」と言うと、この日一番の歓声が上がった。

 横田めぐみさんの母・早紀江さんが「めぐみちゃんと再会し、ひとこと話してから死にたい」と訴えたように、家族が求めているのは被害者の帰国であり再会だ。

 司会者の櫻井よしこ氏は「オールジャパン」を強調し、登壇者からは「涙がこぼれ落ちる」「抱きしめる日がやってくるまで」といった感傷的な言葉が繰り返される。「拉致」を大義に、違う道を歩んではいないか。

(野中大樹・編集部、9月7日号)

今期国会では不成立に終わるマイナンバー法案――秋の臨時国会で成立か

 八月二四日、衆議院内閣委員会が開かれず、マイナンバー法案こと「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」が審議入りしないまま、九月八日までの通常国会会期では“時間切れ”で成立しないことが確定した。

 政府がマイナンバーと呼ぶ共通番号制度(ないしは国民総背番号制度)はそもそも、消費税増税実施の際の逆進性(低所得者ほど負担増)対策として、民主党が検討している「給付付き税額控除」導入の前提として“所得を正確につかむ必要があるから”と検討が始められた。

 ところが、当初の目的とされていた「社会保障と税の一体改革」による新制度のための「税番号・社会保障番号」のみならず、労働関係、学校・教育関係、公衆衛生関係と公営住宅の管理などに拡大。政令で定める公益性があるなどとされ、これまでに拡大された行政事務は合計で九三に上る。個人情報の提供範囲も「刑事事件の捜査の法律に基づく犯則調査」「その他、政令で定める公益性があるとき」と定めており、極めて広範囲で情報が用いられることが想定されている。

 実態としては、ありとあらゆるプライバシー情報を名寄せすることが可能な国民監視ナンバー制度といえる。

 個人には二〇一四年にマイナンバーが印刷された個人番号カードが交付され、一五年には番号の利用を開始、一八年には利用範囲の拡大が検討される。

 政府肝いりのマイナンバー法案が、今国会では審議入りすらせず、法案不成立となった背景は次の三点に集約されよう。

(1)財務省は歳入庁創設に消極的

 財務省(国税庁)は社会保険料徴収(国民年金機構や市区町村)の下請けになることを嫌っているし、「国税庁」を財務省から切り離して歳入庁とすることはとんでもないことだと考えている。なぜなら国税庁は財務省の権力の源泉だからだ。いまのところ、財務省は与党の共通番号制度を歳入庁構想への布石と見て警戒している。

(2)閣内に共通番号制度に積極的な論者の不在

 共通番号法案の旗振り役だった、与謝野馨元一体改革相が既に閣外に去っており、閣内に積極的な共通番号制度のゴリ押し論者が不在となった。法案担当の古川元久国家戦略担当相は「歳入庁創設すべし」という民主党内きっての推進論者だが、同氏は元をただせば財務OBでもあり、今回は財務省にネジを巻かれた(足止めされた)可能性がある。

(3)消費税法案成立後の野田レームダック状態

 レームダックとは「役立たずの政治家」を指す政治用語。この会期末の政局で自民・公明両党は一転、問責決議案の提出に動くなど与党と対決姿勢へ向かっている。

 以上のように法案不成立は、これら三点におおいに助けられたと言っていいだろう。

 法案は会期末の閉会手続きで「継続審議」となる見込みだ。法案不成立となった三つの要因にしても、丁寧に利害関係を整理していけば、法案成立の障害とはならないだろう。

 (1)と(2)に関して言えば、「近いうち」のはずだった解散もなく、このまま秋の臨時国会が召集された場合、民主党の〇九年マニフェスト項目である「歳入庁創設」を取り下げたら、電撃的に法案が成立してしまう可能性がある。民主党には、いまさらマニフェスト違反への躊躇や罪悪感なんてものは残っていないはずだ。

 (3)に関して言えば、自民・公明両党も共通番号制度そのものには大賛成だ。かりに審議未了のまま解散となれば廃案だが、選挙後の新与党により、手直しされた新マイナンバー法案が提出されるだけの話である。

 なお、通常国会での不成立が確定したあとも、九月三日には、政策調査会「社保税調査会歳入庁WT(ワーキング・チーム)・番号検討WT合同会議」が開催されるなど、民主党内ではいまでも活発に議論・検討が進められている。

 今国会で不成立となったとはいえ、予断を許さない状況だ。

(小谷洋之・ジャーナリスト、9月7日号)

【宇都宮健児の風速計】 税金は金持ちから取れ

『税金は金持ちから取れ』という本が「金曜日」から出版されている。

 著者の武田知弘さんは、ノンキャリア職員として大蔵省(現財務省)に勤務した経験の持ち主であり、具体的資料を交えて税金についてわかりやすく解説している。

 折しも、八月一〇日、消費税率を二〇一四年四月に八%、二〇一五年一〇月に一〇%に引き上げる「社会保障と税一体改革関連法」が成立してしまった。

 貧困と格差が拡大し、社会保障費が膨らむ中で、安定した社会保障の財源を確保するということが、消費税増税の理由となっている。

 しかしながら、貧困や格差の解消をめざすのであれば、富裕層に対する課税を強化し、社会保障を通じて富の再分配を行なうことが求められているはずである。

 わが国では一九八九年に三%の消費税が導入され、九七年には消費税率が三%から五%に引き上げられている。そして、これらの直後にはいずれも法人税と所得税が引き下げられている。

 武田さんの試算によると、二〇一〇年の国税収入は三七・四兆円であるが、一九八八年レベルの法人税率・所得税率に戻せば、概算でも六〇兆円以上の税収が見込まれ、これに現在の消費税収入を合わせれば、約七〇兆円の税収となるということである。

 下げた法人税・所得税の税率を一九八八年レベルに戻せば、消費税を引き上げる必要などまったくないのである。

 また、日本には個人金融資産が約一四〇〇兆円あり、不動産などと合わせれば、約八〇〇〇兆円の資産があると推測されている。これに一%の富裕税を課せば、概算でも約八〇兆円の税収となる。資産の少ない人(一億円以下程度)の課税を免除するとしても、少なくとも二〇兆円以上になるという。

 武田さんによれば、金持ちというのは、税金に関して非常によく勉強しており、政治家に多額の献金を行なう一方で減税の働きかけをしてきているので、高額所得者や資産家は減税され続け、平均層以下の給与所得者ばかりが増税され続けてきているということである。

 私が貧困問題の講演を行なうときは、最近では必ず武田さんの本を紹介するとともに、私たちも税金について勉強して、財界・政治家・官僚・マスコミなどにだまされないようにしよう、と呼びかけている。

(9月7日号)