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水俣病「補償協定」の理念はどこに――症状悪化しても補償額不変

 水俣病認定患者の健康状態が悪化し、補償金増額を必要とする変化が生じた際、金額の変更を申請できる制度(通称「ランク変更」)があるが、患者の状態が悪化してもランク変更が却下されるケースがあることが分かった。

 新潟水俣病を除く水俣病の認定患者は、一九七三年にチッソとの間で締結された補償協定に基づき、慰謝料として一八〇〇万円(Aランク)、一七〇〇万円(Bランク)、一六〇〇万円(Cランク)の一時金が支払われるほか、医療費、終身特別調整手当(年金)として、毎月一七万一〇〇〇円(Aランク)、九万一〇〇〇円(Bランク)、六万八〇〇〇円(Cランク)が支払われている。

 BランクとCランクの認定患者については、上位ランクへの変更が必要な変化が生じた際、総務省の外局である公害等調整委員会や、熊本県に設けられた水俣病患者補償ランク付け委員会に申請ができる。しかし、ランク変更の基準や、判定の過程は明らかにされていない。

 一一日、就任後初めて水俣を訪問した横光克彦環境副大臣は、胎児性水俣病患者らが通う福祉施設「ほっとはうす」で、患者たちの要望を聞いた。車椅子の胎児性患者・松永幸一郎さん(四八歳)は「二年前までは歩けたのに、急に歩けなくなった。(BからAへの)ランク変更の申請をしたが、二年続けて却下された。チッソと補償協定を交わしているのは何のためなのか」と訴えた。補償協定の前文には、患者の福祉の増進について、誠意をもって早急に講ずるとあり、当時の環境庁長官・三木武夫衆議院議員らが立会人となっている。

 公害等調整委員会はこれまで、複数の医師や専門家を派遣し松永さんと面会し、検診を行なった上で「申請者の生活環境に、著しい変化は認められない」とランク変更を却下してきた。しかし、松永さんは「明らかな体調の変化があったのになぜ認めないのか」と納得がいかない。

 横光副大臣は、「胎児性患者の方たちの医療、福祉の充実は、環境省がやるべき課題だと思っている」と述べるにとどまった。

(奥田みのり・ライター、10月21日号)

被曝線量と死因に因果関係はない?――作業員「死因」公表拒む東電

 一〇月一一日に行なわれた「政府・東京電力統合対策室の共同会見」で筆者は、一〇月六日に死亡した三人目の作業員について東京電力原子力立地本部長代理・松本純一氏に問いただした。

――なぜ東京電力は即日、「被曝と死亡との因果関係はない。過重労働にもあたらない」と発表できたのか?

東電 作業の実態と被曝線量の結果から見て、今回の作業との因果関係はないだろうと判断した。

――この作業員に司法解剖もしくは行政解剖等は行なわれたのか?

東電 私どもは発注者だが雇用関係は直接ないので承知してない。

――亡くなった作業員の死因は?

東電 個人のプライバシーの問題があるので公表は差し控える。

 わずか半年の間に危険な作業所内で三人もの死者が出ているにもかかわらず、東電側はかたくなに三人目の死因の公表を拒み続けた。

 この作業員は、一〇月五日の朝礼時に倒れて救急搬送され、翌六日の早朝に磐城共立病院で死亡したという。東電はそのわずか半日後には作業と死亡の因果関係を否定したことになるのだが、これほど短時間の間に、なぜそのような判断ができたのか。

 本来であれば解剖を行ない、医学的な各種検査を経た上で死因が判断されるべきもの。東電の対応は、諸外国の死因究明制度に比して到底あり得ないことである。

 内閣府大臣政務官の園田康博氏に、こうした東電の対応を国としてどう評価するのかと問うたところ「対応については、東京電力さんの方にお任せしています」という、耳を疑うような答えが返ってきた。驚いた筆者は、思わずこう切り返した。

「そのような政府の考え方は大問題。たとえば時津風部屋で力士が亡くなったが、その死因をすべて親方に任せますと言っているのと同じことではないのか?」

 二日後の会見では、この作業員に対し「死亡診断書」が発行されていたことが、東電側の回答によって明らかになった。が、死亡診断書は異状死届を警察が受理していない場合に発行されるものであり、この事実からすると、検視も司法解剖も行なわれていないことになる。

 三人目の作業員の死は、なぜこれほどずさんに処理されたのか。真実は、国が率先して明らかにすべきだろう。

(柳原三佳・ジャーナリスト、10月21日号)

全米に拡大する「我々は99%」デモ

デモの作戦を練る若者ら。(提供/AP・AFLO)

 ニューヨークで始まった経済格差是正を求める抗議運動「ウォール街を占拠せよ」は4週目に入り、全米に広がっている。約1000人で始まったデモは労組の参加で膨れ上がり、ワシントン、シカゴ、ロサンゼルスなど主要都市へと飛び火し、9日現在で1000以上の都市で同様の「占拠」デモが行なわれている。

 現在米国の失業率は9%、国民の15%が貧困層。にもかかわらず、トップ1%の企業・富裕層が国民の所得総額の20%を占有し、40%の富を保有していると言われる。リーマン・ショック震源の金融機関が政府に救済されたにもかかわらず、経済は立ち上がれず悪化の一途。失業に追い込まれる中低所得者に救済の手は差し伸べられない。

 今回のデモは「我々は99%」運動とも言われる。1%の富裕層に対する残り99%の不満、怒りから生まれたものだ。ウェブサイト「我々は99%」では人々の叫びが伝わってくる。フルタイムで働きながらも十分な食事を子どもに与えられないシングルマザー。学費ローン返済があるのに職が得られない若者など。

 一部メディアはこの市民抗議を、指導者のない・明確な目標のない・連帯もない運動と批判的で、その内に沈静化するだろうと予想していた。だが勢いは止まらず、15日には全米・海外15カ国の都市で「我ら人民が力を取り返そう」と連帯占拠デモが予定されている。

(マクレーン末子・在米ジャーナリスト、10月14日号)

「被害者なのに加害者扱いだ」――福島の農家らが農相に訴え

 東京電力の福島第一原発事故によって壊滅的な打撃を受けた福島の農家。一〇月三日、福島県原木椎茸生産者の会の農家や県議会議員、JA職員らが上京し、鹿野道彦農林水産相や地元選出国会議員、東京電力に損害、被害額の早期完全実施や風評被害対策を求める緊急要請書を手渡した。

 生産者の会会長の国分進さんは「福島県阿武隈の原木は日本最大の原木地帯。昔から日本の里山を守ってきた。現在は椎茸生産者農家は収入が絶たれ、日々の生活に困窮している。この状態が長期化すれば、これまで培ってきた本県の原木椎茸生産が途絶え、ひいては中山間地の維持や森林の保全に大きな支障をきたすと言っても過言ではない」と状況を訴えた。

 同会副会長の添田政光さんは「農家は被害者なのに、まるで加害者のような扱いを受けている」。また、同じく農家の遠藤しのぶさんは「収入がない中、明日何を食べるか(考えるのが)苦痛。除染作業に若い子を雇っているが、(若い人は健康被害を受けやすいので)雇っていいのか分からない」と心情を吐露した。

 国分さんは「東電と国がばらまいた放射能なのに、なんでわれわれ農家が悪者にならなくてはいけないのか」と指摘し、「東北に農作物もエネルギーも頼ってきた巨大都市は、自分の胃袋ばかり考えている」と憤る。

 一〇月一六日には「土と平和の祭典2011」が東京都立日比谷公園で開催される。会場では歌手の加藤登紀子さんらが東北の農家や子どもたちを応援するトークやイベントを多種繰り広げる。生産者と消費者が向き合い、ともに出口に向かう一歩になる。

(魚住葉子・ライター、10月14日号)

震災関連死を防ぐために――歯科医師らが予防呼びかけ

 歯磨きなど口の衛生を保つことで肺炎、心臓疾患などを予防しようと市民講座「いい歯と健康」が一〇月八日、仙台市で開かれ市民ら一七〇人が参加した。神戸常盤大学の足立了平教授らが「今も震災関連死で亡くなる人が増えており、救える命を救おう」と呼びかけた。「保険で良い歯科医療を」全国連絡会が主催した。

 大震災で被災者の歯科診療に奔走した足立教授は「健康は健口から~口と全身との意外な関係~」と題し講演。「よく咬むと脳の血流量が増え、脳の働きを高めることが分かった。歯が失われ義歯も使用しない高齢者は寝たきりが多い。毎食の歯磨きと正しい食生活、歯科医院での定期検診が重要」と指摘した。また、「震災がなければ助かったかもしれない震災関連死は、阪神・淡路大震災では九二二人で多くは被災後二カ月以内だった。東日本大震災では八五〇人との報道があるが、半年たった今も増え続けている。夜、寝ている間に唾液などを飲み込み、細菌などが気管に入り込んで起こる誤嚥性肺炎は口腔ケアによりかなり予防できる」と強調した。

 足立教授はまた、阪神・淡路大震災で、口腔ケアは命を守るための総合的なケアの一環として行なわれたことを紹介した上で、徹底した口腔ケアで肺炎発生率を四〇%、死亡率を五〇%減らせるとのデータを示した。

 宮城県で自らも被災し、避難所や仮設住宅などで歯科診療に当たっている井上博之・歯科医師が「震災直後は気付かなかったが、一週間も歯を磨かないと歯ブラシが欲しいとの声が多く上がった。口の中が汚れたままだと全身の状態がおかしくなる人も多かった。歯肉が痛いとの訴えや、義歯がなく食べられない人もかなりいた。全国から多くの歯科医師が駆けつけてくれ助かったが、問題はこれからどう地域医療を立て直すかだ」と述べた。

 医療支援に参加した歯科医師や歯科衛生士からの報告もあった。市民からは歯科に関する相談が一〇件あり、「被災後、合う歯ブラシがなかなか手に入らず困った。非常持ち出し袋に歯ブラシを入れるべき」などの意見も出された。

(杉山正隆・ジャーナリスト、10月14日号)

結論は来年度予算に反映――前田国交相が初視察

 前田武志国土交通相は一〇月八日、八ッ場ダム建設予定地(群馬県・長野原町)を初視察した。移転済み代替地と不動大橋近くの高台にて、八ッ場ダム工事事務所長らの説明を受け、群馬県庁内では大澤正明県知事や高山欣也長野原町長らとの会談に臨んだ。

 政権交代以来、現地視察に訪れた国交相は四人目。前田国交相は「責任者が次々と代わり迷惑をかけている」などと謝罪した。

 今回の最大の焦点は、就任直後の大臣会見や民主党の動きで「建設継続か中止かの最終判断時期を今秋までに出す」と歴代国交相が約束した時期が先延ばしになるのではないかとの懸念に対し、国交相がどう答えるかだった。

 大澤知事がこの点を尋ねると、前田国交相は馬淵澄夫元国交相の発言を踏襲し、「具体的にいつとは申しあげられないが、一二年度予算に反映できるよう目標を守る」と述べた。この回答について、知事側は視察終了後の会見で、一定度の評価を示した。

 続いて高山町長が、最終決定権限が国交相にあるのか政府・民主三役会議にあるのかを質したところ、前田国交相は「秋までに」という前任者の見解は「来年度予算に反映させるという意味」であると述べ、「検証スキームでは大臣が最終決定することになっている」と断言した。

 前田国交相はまた、「激烈な大災害、自然の猛威を検証に反映させる必要がある」と言及。大災害時にダムがもたらす影響などに関する資料や調査結果を集め、河川局の意向なしの、事務次官直属の検証機関を設置する方針も明らかにした。

 ただ、川原湯温泉街は車窓からの視察のみとなり、事前に「お会いできる方ならどなたにでも」との意向を示していた大臣の言葉に期待していた住民は誰一人、苦境を訴えられなかった。

 前田国交相は会談後の記者会見で、「現地は推進一色ではなく、震災復興費に回すべきとの意見もある。車座集会のようなことへのお考えは?」との質問に対し、「できればそういう機会が得られればいい」と前向きな取り組み姿勢を示した。

 八ッ場問題は当分続きそうだ。

(鈴木郁子・ライター、10月14日号)

政府・民主党関係者が相次ぎ訪沖――民・自・公の連携で臨む辺野古移設

 沖縄・普天間飛行場の移設問題を進展させるためか、政府・民主党の動きが活発化してきた。

 民主党の北澤俊美前防衛相が一〇月一二日から沖縄入りし、前原誠司政調会長も一一月三日からの日程で調整している。移設容認派の市関係者や議員、仲井眞弘多知事らと面談する模様だ。

 一方、注目されるのは今月二六日に名護市で開かれる北部振興の継続を求める事実上の「容認派決起集会」だ。主催は「礎の会」(名護市議会野党・移設容認派)と「北部地域振興協議会」が中心である。

 関係者によると、大会では沖縄本島北部の企業関係者や住民ら一五〇〇人が集い、「北部振興の継続を求める決議」の採択を予定している。一〇月一〇日付『読売新聞』(西部本社版)は、街頭で稲嶺進名護市政を批判する名護市議を写真入りで取り上げ、「辺野古移設動き加速」と報じた。記事には容認派市議や島袋吉和前市長も登場。島袋前市長は「移設実現への決起集会だ」と息巻き、「一一月には民主党前原誠司政調会長を招き、辺野古住民との対話を通じて“地元は容認”とのメッセージを伝える」と話している。

 しかし、移設容認派の内情を知る関係者によると、集会の決議文に「辺野古移設」という文言を加えるか否かでもめている。昨年の市長選以降、移設に反対する「名護の民意」は重く、これまでのような支援では移設容認で活動することは到底不可能な状況。政府・民主党だけではなく、自公も含めた“連携が鍵”だと明かした。

 地元二紙によると、政府関係者は「政府・与党幹部の相次ぐ沖縄入りと名護市の大会は連動しており、日米共同声明の実現に向けた流れをつくる狙いがある」と話している。加えて民主党の長島昭久首相補佐官、自民党の中谷元元防衛庁長官も来県する方向で調整しているとも。

 昨年八月から政府内で重要閣僚として普天間移設の二面交渉役を担ってきた前原誠司政調会長。移設に反対する「名護の民意」をどこまで踏みにじるのか。移設容認派との“密会や交渉”は、「振興策と基地問題は別だ」と言い放ってきた政府・民主党の沖縄政策そのもの自体を根底から覆すことを意味する。

(本誌取材班、10月14日号)

【石坂啓の風速計】 フィクションのネタばらし

『犬神家の一族』の封切りを映画館で観ていたときのこと、始まってまだ間もないというのにスクリーンの登場人物に向かって、「こいつが犯人だよね」とささやく後ろの客の声が聞こえてしまった。

 ……殴ってやりたかった。今でこそ何度もテレビで再放送され「スケキヨ~」がギャグにもされみんなが知っているお話ではあるが、当時は横溝正史ブームに火がつきかけたところ、私は角川書店の映画戦略に素直に従って「映画を先に観る」のを楽しみにしていた派だったのだ。ブチ壊しにされたあの悔しさを今でも忘れられない。

 ミステリーや謎解きのネタばらしは言語道断であるが、普通の映画紹介でも気をつけていないと台無しにされる恐れがある。やはり学生時代のころ、話題作の『カッコーの巣の上で』を楽しみにしていたのに、ふと目にした雑誌のコラムにこのラストシーンが延々と描写されていたのだ。

「○○が○○して○○に向かって○○する映像は感動的である」……とかなんとか……(まだ観たことのない読者のためにアイマイにさせていただきます)。読みかけてイカン/と気づいたときにはもうバッチリ頭に焼きついてしまい、おかげで映画館に足を運んだときには「ああ、○○が○○しちゃうんだなァ」と最初から最後までどっチラケ。思い出しても腹が立つ。

 最近ではシナリオ教室に通う友人から、講義の時間に映画『アフタースクール』の最初と最後を観せられたーときいて、笑ってしまった。いかんだろ、それはァ~。堺雅人くん出演のこの作品は近年イチオシと言ってもいいくらいおもしろいデキで、「やられました~」という気もちにさせられる完成度の高い脚本。教師が教材に使いたい気もちはよーくわかるが、友人にとってはもうコンリンザイこの映画を白紙で楽しむことはできない訳で、なんだか気の毒である。

 フィクションの世界でのネタばらしはご法度だが、現実社会では逆。菅さんの頭の中のシナリオをききたい。迷走劇に終息はあるのか、民主党は脚本を練っているのか、原発事故のいちばんの犯人は誰なのか。

 日常生活に終わりはない。日々の営みに山や谷の起伏はあっても、物語はいまも進行中。でも原発問題にはラストシーンが必要だ。ここで終わり、さよなら、拍手なし。こんなに長い恐怖映画は要らない。

(7月8日号)

無断・電子書籍化事件の舞台裏――旧三一書房社長を唆したサンブック

 老舗出版社・三一書房の書籍二〇〇点以上が、著作権者に無断で電子書籍化されていた事件に、倉庫管理会社サンブック(西浦善彦社長)が関与した疑いが浮かんだ。

 日本で電子書籍ビジネスが始まって以来最大のこの不祥事は、『朝日新聞』のスクープで発覚し電子書籍業界に衝撃を与えたが、問題の電子書籍を配信していたデジブックジャパンの林陸奥広社長が、本誌に「サンブックの西浦社長らが岡部(清)さん(旧三一書房社長)に電子化を持ちかけ、話が始まった」とサンブックの関与を証言した。「紙の本を電子化する業務」も、サンブックと関わりの深い会社が行なったという。

 取材に対してサンブックは「弁護士に訊いて下さい」と回答。同社の代理人弁護士は「守秘義務があるので何も言えない」とした。

 サンブックは「ただの倉庫会社」ではない。三一労組関係者はこう話す。「組合執行部解雇などをめぐる第一次争議中の深夜、岡部氏や警備会社社員らが、組合が管理していた朝霞倉庫を襲撃。組合員を監禁し、在庫書籍を持ち去った。このとき、他の倉庫会社が断るなか『スト破り業務』を引き受け、襲撃にも関わり、その代わりに高い料金をふっかけてきたのがサンブックです」。

 三一書房のサンブックへの債務は急膨張し、岡部氏は個人保証までしていた。事件の背後には、「スト破り」以来の闇があったのか?

 岡部氏が、盗品販売にも似た「無断電子化」に手を染めたのは、第二次争議が起き、岡部氏が会社に姿を見せなくなって久しい頃で、従業員も蚊帳の外だった。

 三一書房は長く労使争議が続いていたが、現在は、組合側が立ち上げた新社が商号と事業を引き継いでいる(八月二六日号本欄)。新社の小番伊佐夫社長は、「事実を知り、直ちに配信停止を求めた。著作権者に説明し、信頼回復に努めていく」と話している。

(北健一・ジャーナリスト、10月14日号)

首相と外相の名前すら覚えていない米国務次官補――情報操作するキャンベル氏の正体

キャンベル米国務次官補は信用に足人物なのか。(提供/AP・AFLO)

 

日米首脳会談でオバマ大統領の発言を捏造した疑いがあるキャンベル米国務次官補(九月三〇日号本欄参照)は、日本の首相と外相の名前すら覚えていない。〈キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は日本訪問に出発する前、ワシントン郊外のダレス国際空港で「野田首相の年内訪米の招待状を持って行く」と発言。実際に招請するのは玄葉光一郎外相だったが、言い間違えてしまった。六日午後に成田空港に到着したキャンベル氏は、到着早々記者団に「私が間違えて話してしまった。ごめんなさい」と頭を下げた〉(一〇月七日付『毎日新聞』)

 キャンベル氏はどういった人物か。『同盟漂流』(船橋洋一著、岩波書店)などによると、一九五七年生まれ。カリフォルニア大学からオックスフォード大学に進んで国際関係論を専攻、南アフリカをテーマに博士号を取得した。財務長官の特別補佐官(国際問題担当)での仕事を認められ、あとはトントン拍子。国家安全保障会議をへて国防総省に移り、ジョセフ・ナイ国防次官補のもとで、九五年五月、三七歳の若さで国防次官補代理(アジア太平洋問題担当)に就任する。〈キャンベルのことを攻撃的すぎると警戒する向きもあった。/国務省にも、ホワイトハウスにも、軍部にも、肝心の国防総省にも、そうした警戒感はあった〉(前出書二一ページ)。現在の立場を日本風に表現すれば、外務省アジア大洋州局長にあたる。

 キャンベル氏はかつてこう語っている。〈同盟国である日本に対して米国はどのような問題であれ、あからさまに圧力をかけているような印象を与えてはならないということです。私はそういうことに非常に神経を使っています〉(『論座』二〇〇六年九月号)

 笑止千万ではないか。米国のオバマ大統領が野田佳彦首相に対し、普天間問題について述べたとされる「結果を出す時期に近づいている」との発言が、実際は存在しなかったことが明らかになったが、そのブリーフ(説明)をしたのがキャンベル氏だからだ。

 ある防衛省関係者は「二〇〇九年七月、『核の傘をめぐり、日米が定期協議を開始』との新聞記事に驚いた。調べるとキャンベル氏が情報源。議論すら出ていないのに、持論を合意事項のように話すから混乱する」と打ち明ける。

 元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう分析する。

「橋本龍太郎首相・クリントン大統領(当時)の合意は、沖縄の基地負担軽減だ。だから辺野古移設が無理でも、本来、米側には基地負担軽減の義務がある。だが、日本側が辺野古移設を主張している限り、基地負担が軽減できないのは日本側の努力不足が原因だという物語を米側は作ることができる。米側の責任を回避できるので、辺野古移設を言い続けるのだろう。

 沖縄の民意をみれば、辺野古移設が無理だとオバマ大統領はわかっている。だから不可能なこと、つまり“嘘”を言う日本の首相と一緒になにかを達成しようとする気にならないのは当然だ。オバマ大統領が最重要視しているのは、中国との関係とアフガニスタン戦争。普天間移設問題の優先度は低いため、キャンベル氏などタカ派に好きなようにやらせている」

 一方、民主党上層部の関係者はこう話す。「キャンベル氏は昨年二月、小沢一郎幹事長(当時)と会談。『中国は俺が野党の時も会いに来たが、米国は与党になってからか』と小沢さんに言われ、びびっていた。その場しのぎで汲々となるタイプ。たかが局長クラスなのに官邸が大切にしすぎた」

 一方、キャンベル氏のブリーフについて玄葉光一郎外相は九月三〇日の会見で「ブリーフの内容を読みましたけれども、そんなに大きく違っているように、私(大臣)にはあまり見えません」と答えた。が、翌日の『琉球新報』は社説で〈自国の国民の目から真実を遠ざけようとすることといい、日米の交渉当事者たちの言動は目に余ります〉と強烈に批判した。地方紙の論説と、地方政界・財界・人々の意識が大きくずれることは一般的にはない。日米は辺野古移設以外の基地負担軽減策を検討すべきだ。

(伊田浩之・編集部、10月14日号)