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高江ヘリパッド建設 防衛局が工事を強行――24時間体制で監視する住民

2月7日、沖縄防衛局員によって女性(中央奥)が倒された。(撮影/尾崎孝史)

「今、高江が大変です。今日から毎日五〇人以上の体制で、工事が進められようとしています」

 二月上旬、沖縄の知人から届いたメールは緊張感に満ちていた。

 沖縄本島北部に広がる自然豊かなやんばるの森。そこに六カ所のヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)の建設計画が持ち上がったのは五年前。米軍北部訓練場の一部返還を名目とした、新たな基地建設計画だった。

「米軍ヘリによるさらなる恐怖には耐えられない」

 建設予定地に取り囲まれる東村高江区の住民たちは、区民総会で反対決議をあげた。しかし、二〇〇七年七月、防衛局は工事を決行。以来、住民による工事用ゲートの監視活動が続けられてきた。

 昨年一二月二二日早朝、その現場で工事が強行された。沖縄防衛局の職員と工事業者、数十人を動員しての抜き打ち工事だった。ゲートからは重機や砂利が搬入され、木々をなぎ倒すチェーンソーやユンボの音がいまも断続的に響く。

 住民は非暴力の座り込みで対抗している。支援の輪は広がり、連日数十人の市民が手弁当で集まる。一方、防衛局は工事業者を日替わりでかきあつめ、さまざまな時間帯に出没しては工事を強行しようとする。そんな中、防衛局の職員によって女性が倒される事件も起きた。

 ヘリパッド計画について住民が最も危惧するのは、来年、普天間基地に配備される予定の垂直離着陸輸送機MV-22オスプレイの存在だ。防衛局作成の工事図面では、高江周辺でヘリパッドが二つ接している地区が二カ所ある。その広さから、既存のヘリよりも離発着にスペースが必要なオスプレイの訓練を前提としたものに違いないと指摘されている。

 米国製のオスプレイは、試作段階から墜落事故が相次いでいる。昨年四月には、アフガニスタンで着陸に失敗。乗組員四名が死亡した。また、中型ヘリの三倍の積載量、二倍の飛行速度を備えている分、騒音や風圧も大きい。米本土では住民の苦情を受け、軍が訓練を中止する事態に至っている(『琉球新報』今年二月七日付)。

「米国でだめなものが、沖縄で許されるのか。米国人と沖縄人の命の重さは違うのか!」

 高江区の伊佐真次さんは怒りをこめて訴える。

 工事強行から二カ月近く。沖縄防衛局は、現場での混乱について「私たちにも非はある」としながらも、工事の続行を明言する。住民との話し合いについては、「全くしないつもりはない」と回答。しかし、東村長や高江区長が工事を容認していることを理由に、「地元の了解は得ている」との認識を変えていない。

 東村の伊集盛久村長がインタビューに答えた。

「私はヘリパッド容認だ。しかし、あくまで安全に作業が進められることが前提。ぜひ、住民を含めた対話の場を作ってほしい」

 肌寒さを感じる夕暮れ時、子どもを背負った母親が私に語りかけた。「いったいどうすれば工事をやめてくれるのですか。どうすれば」。やんばるの森に抱かれて暮らしてきた高江の人々。心休まる日はいつ来るのか。

 さまざまな負担を強いられながら、二四時間体制の監視活動は今日も続いている。

(尾崎孝史・写真家、2月18日号)

農業用水の確保は可能――開門反対派論拠に疑問符

 諫早湾干拓事業の潮受堤防開門問題で菅直人首相は一月三一日、中村法道・長崎県知事らが出していた公開質問状(二三項目)に文書で回答した。しかし中村知事は「具体的な回答がほとんどない」「農業用水の代替水源も検討課題としていた」などと反発。地元の開門反対派は「水門開門をすると農業が続けられなくなる」と訴訟の構えもみせている。

 一方、一月二三日に同市を訪れた鹿野道彦農水大臣は意見交換会で「下水処理場の再生水を代替水源として検討」と発言。これに対し中村知事は「既に検討して使用困難という結論を出した」と反論した。公開質問状にはその理由を「全窒素(濃度)が農業用水の基準の八倍高い」と記していた。

 しかし下水処理の行政担当者はこう話す。

「国交省は下水処理場の再生水の利用を推奨し、すでに六・九%が農業用水として使用されています。『窒素濃度が基準の八倍』と言っても、薄めて使えばいいだけの話。実際、長崎県内でも川の上流で再生水を注ぎ込み、下流で薄まった河川水を取水している地区もあります」(行政担当者)

 国交省下水道部の資料「我が国における下水処理水の再利用状況」には、「下水処理水年間一三九・三億立方メートルのうち、再利用量は約二・〇億立方メートル(再利用率一・五%)」のデータとともに、「農業用水等の再生水利用事例(香川県多度津町)」も紹介されていた。

 その説明図には、下水処理場から再生水プラントを経て再生水が河川放流されたり、農業用溜め池に注ぎ込まれたりする様子が描かれている。

 この国交省の資料を中村知事らが見ていないのなら情報収集不足も甚だしく、見た上で「使用困難」と主張していたのなら、詐欺師紛いと言われても仕方がないだろう。

(横田一・フリージャーナリスト、2月11日号)

なりふりかまわぬ防衛局――高江ヘリパッド建設作業強行

 二月三日の旧正月。旧暦の風習の残る沖縄では大切な日だ。こともあろうにその日の朝、「沖縄防衛局の車一五台が高江に向かっている」との情報が入ってきた。

 駆けつけた住民や支援者らの厳しい抗議で、防衛局は米軍ヘリパッド建設に向けたこの日の作業を断念せざるを得なかったが、翌日は倍数の職員に、ダンプ二台を動員し、住民との対峙が終日続いた。

 三月から六月までは国の天然記念物・ノグチゲラの繁殖期に当たるため工事ができない。そのため何が何でも二月中に工事を進めようと、防衛局はなりふりかまわぬ強硬姿勢だ。

 一月二六日には、高江住民の抗議と監視の座り込みを国が「通行妨害」で訴えたスラップ訴訟(大企業や国、自治体など経済的に力のある団体が対抗勢力に対する嫌がらせを主な目的として起こす訴訟)の公判が那覇地裁で行なわれた。その最中、沖縄防衛局は高江の現場に約三〇人の作業員や職員、作業トラックを動員して工事(砂利の搬入)を強行した。年末年始や早朝を狙って作業を強行してくる防衛局に対し、現場では二四時間の監視体制を強いられているが、この日は公判への出席や傍聴のため、住民や支援者の多くが車で三時間以上を要する那覇へと出かけ、現場は手薄になっていた。

 裁判の途中で知らせを受けた住民側弁護士は、法廷で工事強行を裁判長に報告し、原告側に座っている防衛局職員に強く抗議。傍聴席からも、「空き巣狙い」のようなやり方に怒りの声が上がった。

 裁判所から「対話」を勧告されているにもかかわらず、国は裁判を故意に長引かせて住民を苦しめつつ、現場においては国家権力を使って力で押しつぶそうとする考えのようだが、酒井良介裁判長は、裁判の迅速な進行のために集中審理を提案。裁判長の提案通り、国が「妨害行為」としているものの一つひとつについて審理すれば、国の訴えに正当性がないことが明白になるだろう。

 一月一四日に発足した菅直人再改造内閣を『琉球新報』は「『沖縄切り』の表れ」と表現したが、エスカレートする住民への攻撃は、沖縄への「宣戦布告」としか言いようがない。

(浦島悦子・ライター、2月11日号)

刑事告発された「人体の不思議展」――日医・懇談会でも問題視

 一月三一日に開かれた日本医師会・生命倫理懇談会では「人体の不思議展」が議題となり、「『人体の不思議展』に疑問をもつ会」の末永恵子・福島県立医科大学講師が講演。討議も行なわれた。

 かつて同展を後援していた日本医師会だが、会員内で疑問を持つ声が高まっていた。

 日医理事の小森貴・石川県医師会長は昨年八月二四日、理事会に対し、同展に関する議題を提出。「実際のご遺体を商業ベースで展示されることは容認できるものではない」、「日本医師会が主体性を持って、人体の不思議展に対する公式見解を表明すべきと考えるが如何か」と提言。

 今回の懇談会は、そのような状況下で行なわれた。末永さんは医科大学教員として解剖慰霊祭の風景に毎年接し、歴史研究者として植民地医学の歴史を踏まえ、現在の人体利用について考えることから同展の問題点に取り組むようになったと話した。

 当日は高久史麿座長などの懇談会メンバーだけではなく原中勝征・日本医師会会長も出席した。

 末永さんは「ほとんどの参加者は人体展に倫理的な問題点があると言い、死体の商業利用についての法規制を求める意見が多かった」と述べた。また、医師会が過去に後援・賛同していたことについては「検証が必要だ」と話した。

 なお、京都工芸繊維大学の宗川吉汪名誉教授らが同展に対して行なった刑事告発について、京都府警は二月一日、正式に受理した。

(小林拓矢・ジャーナリスト、2月11日号)

護衛艦「たちかぜ」国賠訴訟判決――いじめは認めるも責任は不問に

息子の自殺に対する自衛隊の責任を否定した横浜地裁判決後、取材を受ける原告。(撮影/三宅勝久)

 殴る蹴る。金を巻き上げる――。古参隊員の”新兵”イジメは連日のように行なわれ、上官たちは見て見ぬふり。法廷で暴かれたのは、密室化した自衛隊内の無法ぶりだった。

 海上自衛隊横須賀基地に所属する護衛艦「たちかぜ」(艦長・落修司1佐=当時・現在は廃艦)の新人乗組員だったAさん(享年二一)が自殺した事件をめぐり遺族が起こした国賠訴訟で、横浜地裁(水野邦夫裁判長)は一月二六日、「自殺は先輩隊員S2曹(懲戒免職)の暴力・恐喝と、上司の安全配慮義務違反が原因」(趣旨)として、四四〇万円の賠償を国とS元2曹に命じる判決を言い渡した。

「いじめについては、こちらの主張が九分九厘認められた」

 弁護団(岡田尚団長)は、事実認定に限ってのみ判決を評価する。判決が認めた事実はおよそ次のとおりである。

〈S2曹は「たちかぜ」在籍七年で艦の「主」的存在だった。逆らえない空気ができていった。S2曹は後輩が仕事でミスをしたり、単に自分が不機嫌なときには、怒鳴りつけたり平手や拳で頭をなぐった。足蹴にした。鉄製の懐中電灯で殴ることもあった。

 艦内の職場に工具を持ち込みナイフ作りをするようになった。さらに市販のガスガン三丁を買って無断で艦内に持ち込んだ。うち一丁は二メートルの距離からアルミ缶を撃ち抜く威力があった。これらのガスガンで後輩隊員を頻繁に撃った。Aさんも頻繁に撃たれていた。また、アダルトビデオやわいせつな画像を記録したCDを多数艦内に持ち込んでいたが、これをAさんら複数の後輩隊員に無理やり売りつけた。「ビデオ業者の名簿に載ったから抹消してやる」とウソをいってAさんから五〇〇〇円を巻き上げたこともある。さらにS2曹はCIC(戦闘指揮所)という艦の中枢部に後輩を集め、「サバイバルゲーム」と称してガスガンを撃ち合った〉

 やりたい放題の古参隊員S2曹の行動に、上司らはどう対応したのか。引き続き判決から趣旨を引用する。

〈第二分隊長はAさんと面接した結果、S2曹からガスガンで撃たれていることを知った。だが上司に報告せず放置した。先任海曹は、通信機器室にガスガンが置かれていることに気がついた。またBB弾(石油樹脂製の玩具用弾丸)がCICの床に転がっているのも知っていた。艦内でS2曹がガスガンを撃つ様子を目撃したこともあった。だが何もしなかった。後に、後輩を撃ったとの話を聞き、送別会の会場でS2曹を注意した。S2曹はガスガンを持ち帰ることはせず引き続き後輩を撃ったりサバイバルゲームをした。また班長もS2曹の暴行を知っていたが何もしなかった〉

 これらの事実をふまえて水野裁判長は、S2曹の虐待と上司らの怠慢がAさんを自殺に追いやったことを認めた。

 だが判決が評価できるのはそこまでだと原告弁護団はいう。

〈S2曹や上司らはAさんが自殺することまでは予見できなかった、『予見可能性』はなかったと判決はいっています。自殺を招いたことの責任を否定した不当判決、控訴して争います」(岡田弁護士)

 自殺で死亡するという重大な結果に対して賠償額は四四〇万円。交通死亡事故に比べてもケタ違いの少なさである。つまり国やS元2曹が賠償すべきなのはAさんが生前に受けた苦痛に対してのみ。死亡したことについては償わなくていい。だから四四〇万円なのだ。

 上司の責任を認めたとはいえ下級幹部どまり。艦長・落修司1佐の責任は不問にされた。遺族は後に知るのだが、Aさんが自殺した直後、横須賀市内のアパートを隊員が訪れて部屋を調べている。海自は、部屋からサラ金の領収書がみつかったとして「自殺は風俗店通いによるサラ金苦が原因」という調査結果を出す。だが領収書の所在はいまも不明。身内の不祥事を隠すために「風俗・サラ金説」をでっち上げた疑いは拭いきれない。

「これでは息子が浮かばれません」と、判決後の支援集会でAさんの母親は涙ながらに語った。

(三宅勝久・ジャーナリスト、2月11日号)

「君が代は慣習法だった」との判決――予防訴訟、高裁で逆転敗訴

「卒業式等の君が代強制を強化する都教育委員会の一〇・二三通達と校長の起立・伴奏命令に従う義務はなく、不起立等への処分は違憲・違法」との、都立学校教職員側全面勝訴の一審判決(二〇〇六年九月)に対し、都教委側が控訴していた「日の丸・君が代」予防訴訟で、東京高裁(都築弘裁判長が定年。三輪和雄裁判長代読)は一月二八日、教職員側逆転敗訴の判決を出した。

 判決はまず、通達発出の経緯を「教職員の不起立等の状況を、都教委が不適正と考えた」からだと、都教委の主張を事実認定。だが別件訴訟では、都教委側校長すら「通達前は不起立等を問題視していなかった」との趣旨で証言していることから(昨年一二月二四日号本欄)、通達は横山洋吉教育長(当時)が、一部右翼都議や教育委員と実質合体して発した政治的産物、というのが真相なのだ。

 判決はまた、訴訟要件に関し「起立等の義務不存在確認と処分差し止めは、校長の職務命令でなく通達の取消又は無効確認の訴訟を提起するのが適切だ」とし、門前払いで訴えを却下した。

 他方、「損害賠償請求」については、最高裁ピアノ判決(〇七年)を丸写しし「全国の公立高の卒業式等で国旗掲揚・国歌斉唱・ピアノ伴奏は従来から広く実施され、スポーツ観戦でも観衆等の起立は一般に行なわれている」などと理由を付け、「式典出席者に対し一律の行為を求めること自体に合理性あり」とし、「憲法一九条の思想・良心の自由を侵害しない」と棄却した。その際、「君が代が国歌であることは、国旗国歌法制定前から国民の法的確信が成立し、慣習法になっていた」との踏み込んだ見解も提示。「君が代は宗教的、政治的に国民の間で価値中立的と認められるには至っていない」と判じた一審判決を取り消した。

 閉廷後の会見等で、教員側の加藤文也弁護士や原告教諭は「生徒の人権や自由を守るためにも上告し、最高裁で大法廷を開かせピアノ判決を変えさせたい」と述べた。

 なお枝野幸男官房長官は一月二八日の記者会見で、この判決に関連し「国旗・国歌の指導は各学校で適切に行なわれる必要がある」と述べており、文科省対策も重要だ。

(永野厚男・教育ライター、2月4日号)

「水俣条約」という名に異論も――千葉・幕張で水銀条約交渉

 二〇一三年の水銀規制条約成立をめざし、国連環境計画(UNEP)が主催する政府間交渉委員会の第二回会議が、一月二四日から二八日まで千葉・幕張で開かれ、約一三〇カ国からおよそ六〇〇人の各国代表、NGO関係者らが参加した。

 日本政府が水銀条約を「水俣条約」と命名することを提案したのに対し、同会議に参加した胎児性水俣病患者の坂本しのぶさんらは、「本質的な水俣病の解決がされないかぎり、条約名に水俣の名を使うべきでない」とアピール。これに、七〇〇以上のNGOが所属するネットワーク組織「IPEN」や、インドやフィリピンなど各国の政府関係者が賛同した。

 フェルナンド・ルグリス議長は、「しのぶさんのためにも、世界のため、将来世代のためにも、頑張って良い条約をつくります」と語り、握手を交わした。

 日本政府は「水銀規制に関する条約推進事業」を新設し、六三〇〇万円を一一年度予算に計上。交渉を円滑に進めるため、UNEPに資金拠出を行ない、途上国への水銀管理技術の普及を強化していくという。

 しかし、水銀輸出禁止の姿勢を打ち出したEU(欧州連合)や米国に比べて日本政府の取組みは遅れており、アジアで水銀を輸出している国はキルギスと日本だけになった。「日本からシンガポールや香港などに輸出後の水銀の行方を確かめるシステムがなく、途上国の小規模金採鉱に使用され、労働者や環境に悪影響を与えている可能性が十分ある」と、会議に参加した化学物質問題市民研究会・安間武さんは指摘する。

 水俣湾では、有機水銀を含むヘドロが一九九〇年に設置された耐用年数五〇年ともいわれる鉄板で水俣湾と区切られ、埋め立て地の下に閉じ込められている。また、水俣病被害の全容把握に不可欠な住民調査が実施されていない段階で「水俣病の教訓」と、問題を総括してしまう政府のやり方には疑問が残る。

 環境省の南川秀樹事務次官は「水俣条約」という名に反対の意見があることは承知しているとした上で、「条約の内容は、検討が始まったばかり。条約交渉の進展をふまえながら、水俣で意見交換会を開いていきたい」とコメントした。

(奥田みのり・フリーライター、2月4日号)

笹川財団の名誉毀損提訴――仏政治学者の勝訴確定

 A級戦犯容疑者であった笹川良一氏が設立した笹川日仏財団が、フランスの政治学者カロリーヌ・ポステル=ヴィネイ氏を名誉毀損で訴えていた裁判で、笹川財団が二〇一〇年九月の敗訴後、控訴期限であった同年一二月二二日までに不服申立てをしなかったことで、財団側の敗訴が確定した。

 訴訟の発端は〇八年一二月、フランス国際関係研究所(IFRI)が笹川日仏財団の資金援助によって行なった日仏外交一五〇周年を記念する学術会議だった。この会議について、日本および東アジアを専門とする学者五〇人余りが、「かつてA級戦犯として逮捕された笹川良一が関係する団体が後援する会議に、(フランス)外務省が関与すべきでない」と、嘆願書を発表。それを受けて同省は独自に笹川日仏財団を調査し、後援を取り消した。

 ところが同財団は〇九年三月、署名運動を進めた学者の一人であるポステル = ヴィネイ研究員を名誉毀損で提訴し、巨額の損害賠償を請求した。こうした財団の反応に対し、フランス国内の学術研究団体らはいっせいに批判の声をあげ、彼女を支援する国際的な支援運動を展開。その結果、五八〇人の署名が集まった。

 翌一〇年九月、パリ裁判所は財団の全ての請求を却下し、訴訟手続き費用と弁護費用の支払いを命じた。同財団について判決文には「アジアを専門とする国際関係の研究指導者が他の人々に働きかけて、(中略)当シンポジウムの主要賛助団体が日本の歴史において特に論争の的となっている人物の名を冠した財団であることに注意を促すことは正当なことであり、フランスでは一般にあまり知られているとは言えない当財団とその人物について情報を提供することが同様に正当であった」と明記されている。

 この判決を認めたくない財団側は、「危機管理コミュニケーション」を専門とするコンサルタント事務所を通して、訴訟が財団の勝利で終わったという(判決文の内容とまったく異なる)声明を流したが、財団は結局、控訴申し立てを諦めた。

(本誌編集部、2月4日号)

与党の頭越しに進むTPP交渉への参加準備――開き直る外務省経済局長

「TPP交渉参加になぜ米国議会の承認が必要なんだ。これでは外交権の放棄ではないか!」

 一月二七日朝、東京・永田町の衆議院第二議員会館において民主党の「APEC(アジア太平洋経済協力)・EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)対応検討プロジェクトチーム(PT)総会」が開かれた。PTの民主党議員に説明するため外務省、内閣官房、経済産業省、農林水産省の説明官が出席したが、民主党の国会議員の間では冒頭の発言を始めとする怒りが次々に噴出したという。

 菅直人政権が掲げる「平成の開国」。その中核政策になっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。四月に統一地方選を控え農村部を抱える地方の反発が強いこともあって、日本政府はいまだにその交渉会合に正式に参加していない。しかし、外務官僚らは米国を始めとする交渉参加国と情報収集と称する協議を水面下で実施しており、いつでもTPP交渉に参加できるようにエンジンを暖めている。昨年一二月一三日~一五日にはニュージーランド、豪州、シンガポール、今年一月一三日及び一四日には米国(日米貿易フォーラム)、一四日~一七日にはチリやペルーと協議している。

 TPPの交渉会合は直近では二月にチリで行なわれる第五回交渉会合を始め今後も毎月のように行なわれる予定だ。最終的に今年一一月のハワイAPEC首脳会議において交渉参加国の間で合意が目指される方向である。

 PT総会出席者への取材や民主党議員に配られた当日の議事メモによれば、冒頭の発言内容を始めとして外務省担当官から今回初めて説明されたことが多かったという。

 ちなみに冒頭の質問に対し外務省の八木毅経済局長は「米国議会の承認は日本に対してだけでなく、他の国についても同様」と答弁している。そもそもTPPは多国間協議だ。にもかかわらず交渉参加希望国に対しては米国議会の承認が必要なのである。まさにTPPが米国主導の多国間自由貿易協定だという実態が浮かび上がってくる。

 八木経済局長らは一月一三日にTPPの情報収集として日米貿易フォーラムに出席しているが、そこでは牛肉輸入問題、郵政関連問題、自動車の技術基準ガイドラインについて米国側から提案がなされたという。ここでいう「郵政関連」とは米国が年来要求している郵貯・簡保の、「自動車」は車検基準の規制緩和を意味する。いずれも日米交渉では実現してこなかった米国側の要望だが、TPPという多国間協定に一括して混ぜてしまえば日本で受け容れやすくなるからだとは、うがった見方か。

 さらにTPPの交渉会合において農業、金融、労働、紛争解決など二四の作業部会(左図表)が存在するが、規制緩和の具体的な議論が交渉参加国で進んでいることも当日は明らかになり、これにも批判が噴出した。

「ここまで分野が広がれば全省庁としての取り組みになるはず。外務省の経済局長ではなく、まずは前原誠司外相が説明をするのが筋だ。TPPは外務省経済局が振り回しているよ」(出席者)

 決定的に外務省が民主党国会議員たちを逆撫でしたのは、民主党PTへの説明会以前に八木経済局長らが自民党の部会に対して二四分野について詳しい説明を実施していたことだ。このことを問い質されると八木局長は開き直ったように「(自民党には)二四部会について具体的に説明した」と答弁。民主党は正面から面子を潰された格好になったという。

「今外務省とつながっているのは親米派の前原外相周辺ぐらい。外務省が政権与党の民主党ではなく野党である自民党にまず話をするとは、なめられたものだ」(出席者)。二月一日にあらためて民主党PTへの説明会は開かれたものの、質問がTPPの中身に及ぶと、外務省は「交渉に参加しなければ詳しいことはわからない」と繰り返し、突っぱねたという。かように民主党議員と外務省の関係は冷え切っているらしい。

(平井康嗣・編集部、2月4日号)

JR西日本で起きた性暴力事件――障がいを持つ女性が訴える

 JR西日本社内で起きた、障がいを持った女性社員に対する性暴力事件(レイプ事件)が裁判になっている。

 一月二一日、その控訴審第二回口頭弁論が開かれ、被害者の里美さん(下の名前のみ公開)の意見陳述が行なわれた。

 訴状などによれば、里美さんは「脳性まひ・障害1級」の重度障がい者。二〇〇六年に障害者雇用促進法によってJR西日本に一年単位の契約社員として採用された。

 事件が発生したのは、〇七年の一一月二二日、社員旅行の帰りだった。上司であるAによってホテルに連れ込まれ関係を強要された。Aは事件後「しゃべったら次の契約はないぞ」と口止めしながら、関係を継続することを強要したという。里美さんが、障がいを持った契約社員だという弱い立場に付け込んだ卑劣な行為だった。それから数カ月、里美さんは一人で苦しみ続けたが、意を決して会社のセクハラ相談室に相談した。ところが、セクハラ相談とは名ばかりで、里美さんの要求した証人からは聴取せず、性暴力はなかったと結論づけた。逆に、それを契機に職場で組織的ないじめが始まったという。

 里美さんはAだけでなく会社も裁判所に訴えた。神戸地裁龍野支部は一〇年六月、性暴力はなかったという判決を下した。事件後、里美さんとAとの間で交わされたメールが一見親しげに見えることから、二人は恋愛関係にあり、強制はないと結論づけたのだ。

 多くの障がい者と同様、里美さんも養護学校で「健常者に可愛がられる障がい者になれ」という処世術を教え込まれており、Aに対して一見親しげに見えるメールを送ったのも、その方が自分の身を守れると判断したからである。契約更新の保証がない不安な状況の中での行為だったと反論した。

 加害側の再反論は、学者意見書等で、メールに証拠価値があるとするものだ。

 里美さんは大阪高裁に控訴するとともに、市民に対しても支援を訴えた。次回期日は四月二七日で結審予定とされている。

 尚、里美さんの支援者は署名運動を呼び掛けている。問い合わせはメールアドレス gen1951@nifty.com高見まで。

(高見元博・ライター、1月28日号)