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スタジアム建設予定地で旧陸軍の被爆遺構が出土 
広島市の「切り取り保存」方針に抗議の声

金井良樹|2021年9月28日1:10PM

 

広島市内の中央公園で発掘された旧日本陸軍「輜重兵補充隊」遺構。(撮影/金井良樹)

「国際平和文化都市」を掲げる広島市が、市中心部の中央公園で建設計画を進めるサッカースタジアム――その建設予定地の現場で、約6000平方メートルにもわたり、旧日本陸軍「中国軍管区輜重兵補充隊」(以下、輜重隊)の遺構が発掘されたが、市が示した「遺構の一部の切り取り保存」方針に対し、厳しい批判や抗議の声があがっている。

輜重隊とは戦地で馬や自動車を使って武器や食料等を前線に運んだ部隊のこと。この輜重隊遺構が出土していることを市民が初めて知ったのは、今年6月の地元紙『中国新聞』によってだった。報道によると(1)市は遺構の存在を昨年から認識していた、(2)すでに大規模な発掘調査を開始していた、(3)調査は「建設工事で地下遺構が失われる前に現存状況を調べ、記録を残すため」のものだった、ことなどが明らかになった。

近くには、地下室から広島壊滅の一報を報じた「中国軍管区司令部跡」の遺構もあり、現場は「軍都・広島」を象徴する軍事施設集中地域。原爆投下によって大きく破壊された爆心地周辺だが、中でも輜重隊遺構では多くの兵士が爆死し、遺構そのものも市内の被爆遺構の発掘例としては過去最大級のものになるという。

現場からは軍刀や鉄兜、軍用茶碗などの遺物も見つかっており、市は将来展示したいという。また、「遺構の一部を切り取って保存活用する」との方針のもと、すでに石畳数十枚などを取り外し、移設・展示場所は「中央公園内を有力候補に軍馬の飼育場所などを再現したい」(文化スポーツ部)とする。

しかし、筆者はこれを「市民の共有財産である文化財の破壊」と考えている。被爆者団体を含む各市民団体も市に対して説明と現地保存を求めて要望書を提出、遺構の専門家からも反対意見が続出した。

日本考古学協会は「学術上きわめて重要」な遺構だとして現地保存と計画の見直しを求める要望書を市に提出。考古学者で広島大学名誉教授の藤野次史氏も「厩舎などの大規模な施設の遺存状態は『極めて良好』で、全国にも現存例がほとんどない」と言い、国内外の事例を基に「遺構を保存しながらその上にスタジアムを建てることは可能である」と提言している。

それにもかかわらず市は撤去の方針を変更、再検討しようとさえしなかった。筆者らに言わせれば、市は一方で発掘作業を進めながら遺構の存在を長らく隠蔽し、市民や専門家の意見に耳を貸さず、反対の声が大きくなる前に取り壊そうとしているようにしか見えない。

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