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辞職勧告決議を受けた市議が国賠提訴 
埼玉県日高市

本田雅和|2021年5月10日7:11PM

4月15日、埼玉県庁での記者会見終了後も記者らの質問に答える田中まどか議員(中央)。(撮影/本田雅和)

「気に入らない者を排除しようとする不当を放置し我慢することは、多数派による議会の恣意的支配を許し、今後議員になろうとする人たちの意欲を削ぎ、女性議員増への悪影響も懸念される」

埼玉県日高市の田中まどか市議会議員(61歳)は、同僚議員や市への批判をインターネットで発信したことを理由に議員辞職勧告を決議されていたが、4月13日、決議により「議員活動や表現の自由を侵害された」として市を相手に慰謝料220万円の国家賠償請求訴訟をさいたま地裁川越支部に提起し、埼玉県庁での記者会見で提訴に至った「胸の内」を吐露した。

訴状などによると、田中議員は昨年3月17日、本会議の多数決で議員辞職勧告決議を受けたが、決議の内容は(1)市民の声を市に届ける必要性を訴えた4コマ漫画を議員活動報告に載せたことは市職員への名誉毀損にあたる、(2)予算案への意見や他議員の議会に臨む姿勢をフェイスブックで批判したことは侮辱や信頼失墜行為にあたる、(3)上記を含めた田中議員のネットでの発信は「事実に反し」「誤解を招く」「誹謗中傷」などと認定した、というものだった。

これに対し、田中議員はいずれも「憲法で保障された表現の自由」や「論評」の範囲内で、決議で指摘された「事実」も、田中議員本人の投稿ではなかったなど事実無根や誤認だと反論。現在4期目の田中議員が1期目の時から、活発な質疑や議員活動、議会内部の問題点を積極的に暴露・発信していく姿勢が「多数派には疎ましいのか目をつけられ、いじめの傾向は2012年の市長選に立候補(落選)した時からより顕著になり、発言の削除を強要されたこともある」と目を赤くして憤った。

【司法の審査対象も変化】

地方議会での少数派議員の言論活動を理由にした不利益処分は全国各地で相次いでいるが、議員辞職勧告決議は法的拘束力のない「議会の意見表明」にすぎず、「議会の自律性」を尊重する司法の審査対象にはなりにくいとされてきた。しかし、昨年8月の札幌高裁判決で、「違法・不当な目的による議案提案」や「虚偽内容を含む議案提出」の場合は裁判の対象となることが判示されている。

弁護団の水野英樹弁護士は、田中議員への議員辞職勧告決議が(1)原告の議員活動への威圧を意図している、(2)虚偽の事実に基づいている、(3)議員活動報告の記事を歪曲している、(4)決議に際し原告に弁明の機会を与えていない――などの理由から、「司法審査が及ぶべき場合にあたる」と指摘する。

原告側は辞職勧告決議が「議会の権限を濫用したもので違法」とするが、公務員の不法行為の賠償責任を負うのは国賠法上、被告は当該地方公共団体たる日高市となる。決議に賛同した多数派議員を直接相手取った名誉毀損訴訟にしなかった理由について、水野弁護士は「田中議員の意向が多数派議員への報復ではなく、議会を本来の議論の場に変えたいという問題提起だったから(賠償額も象徴的な)この形になった」と説明した。

決議から1年以上が経ち、本誌では昨年10月2日号での初報以来、市と議会多数派代表に取材を重ねて議論を尽くしているにもかかわらず、谷ケ崎照雄市長、山田一繁議長とも提訴を受けての取材申し入れに対し、「訴状を見ていないのでコメントできない」と回答している。

【訴訟の支援組織も発足】

田中議員への辞職勧告決議以来、全国の類似事例を集めながら勉強会を開いてきた関東や東海、中部地方の市民らは今年2月に「地方自治体に民主主義を確立する会」を発足、今回の提訴を受けて訴訟を支援していく方針も決めた。連絡先は武市徹事務局長(070・1591・5072)。

(本田雅和・編集部、2021年4月23日号)

 

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