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自由社教科書「不合格」も問題は単純にあらず

能川元一|2020年3月25日10:18AM

【政権への忖度強まる恐れ】

つくる会が問題視することの一つは、欠陥箇所のうち7割以上を占める292件が「生徒に理解しがたい表現」「生徒が誤解するおそれのある表現」との項目に分類される意見だという点だ。これは当該箇所が直ちに誤りとは言えないことを意味する。生徒の「理解」を盾にとって教科書調査官の主観による恣意的な意見をつけ不合格にしたのではないか、というのだ。

292箇所の中には調査官の指摘に理があるケースも当然あるだろう。ただ、そのうち約1割で調査官が異なる判断をしていれば再申請が可能だったわけだ。つくる会が挙げた事例の一つに毛利輝元を関ヶ原の戦いでの西軍「大将格」とした箇所についた「輝元が関ヶ原で実際に戦闘に参加したかのように誤解する」との意見がある。これを不当だとするつくる会の主張に一理もないとは言い難い。

不合格が報じられるとSNSではこれを歓迎する反応が見られた。新型肺炎対策の不手際や予定される習近平国家主席の訪日をめぐって右派の一部から安倍首相への批判が出ていたこともあり、まるで政治の潮目が変わったかのように受け取った人もいたようだ。

しかし筆者はこのような反応に危惧を感じている。15年に自由社教科書とともにいったん不合格となった後に再申請で合格したのが、中学校歴史教科書で唯一、日本軍「慰安婦」問題について記述するなど個性的な教科書づくりを行おうとした学び舎の教科書だったからだ。16年のルール変更は両社の教科書に多数の検定意見がついたことがきっかけだと見られている。

不合格となるリスクを避けようと思えば、各社はこれまで以上に文科省の意向を忖度した執筆方針をとらざるを得ない。安倍政権は14年にも政府見解がある事柄についてはそれに基づく記述とすることといった検定基準改定を行ない、教科書への統制を強めてきた。日本軍「慰安婦」問題や領土問題などについて政権の意に沿う記述をさせることが狙いだ。新制度は個性的な教科書をつくる試みをさらに困難にするものだ。

不合格は「政権に対するクーデターというべき性格」(25日の会見における藤岡信勝副会長の発言)を帯びているとするような、つくる会関係者の主張を真面目にとりあう必要はない。だが現行の検定制度の危険性についてはこれを機会に改めて考えねばなるまい。問題のある教科書を教育現場から退場させるのは専門知と市民の良識によってであるべきで、検閲によるべきではない。

(能川元一・神戸学院大学非常勤講師、2020年3月6日号)

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