雷蔵の『破壊』
小室等|2020年1月1日12:00PM
有楽町の映画館で八月の終わりから九月にかけ、四〇作品一挙上映「市川雷蔵祭」なるものが催され、雷蔵ファンを任ずるパーカッショニスト高良久美子さんはもちろん日参。昨日は『破戒』。すごくよかった、監督も音楽も俳優も。
そこまで言われたら遅ればせながらDVD入手。観た、『破戒』。いい映画だ(余談だが脚本の和田夏十さんはテレビドラマ「木枯らし紋次郎」で、僕が作曲の主題歌「だれかが風の中で」の作詞者)。
市川崑監督とコンビを組む夏十さんの脚本は全編通して「部落民」という語が頻出。夏目漱石をして「明治の小説として後世に伝うべき名篇也」と言わしめた島崎藤村の原作にある語なのだから、夏十さんの脚本にあって当然なのだが、部落差別問題に深入りせず恋物語として抒情的に仕上げた木下惠介作品(一九四八年)と異なり、この市川作品(六二年)は被差別地域の問題に真っ向から取り組んでいてすごい。映画会社もすごい。
〈市川崑が鮮烈に描く 感動の芸術大作/大映が総力をあげて製作する芸術大作/映画は大映 近日公開〉と当時の予告編。大映の社長、永田雅一は大言壮語で“永田ラッパ”と呼ばれたが、この予告編はラッパじゃない。映画会社の魂胆はいざ知らず、差別問題に向き合った映画をこのように謳う映画会社があった時代がすごい。